※この作品はR-18です。

BALDR SKY Another World /世界X+Ω   作:デスイーター

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終焉ーWorld Endー

 

『先輩……っ!!??』

 

 甲が神子の触手に貫かれ、光に包まれて消えて行く一部始終を見た真の口から悲鳴じみた叫び声が上がる。

 

 真と神子は特に執拗にパプティゼインに追い回され、戦闘を行っているうちに甲とはかなり距離が離れてしまっていた為、救援に向かう事は出来ず歯痒い思いをしていた。

 

 その為真の動きは精彩を欠き、所々危うい場面も見受けられた。

 

 一方、機体の片腕を失ったクリスは先程のレヴィアタンの砲撃の時からずっと無言のまま、素早い動きで無造作にパプティゼインを迎撃していた。

 

 何(・)故(・)か(・)砲(・)撃(・)は(・)ク(・)リ(・)ス(・)達(・)の(・)方(・)に(・)は(・)飛(・)ん(・)で(・)こ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)為、クリス達にとって以前と比べて性能の落ちたパプティゼインは数が多い為鬱陶しくはあるが、なんとか対応出来る相手である。

 

 その為、数の不利に押されながらも真もクリスも機体に目立った損傷は見られずにいた。

 

 以前の久利原が変じた神父であればいざ知らず、大した腕も持っていない信者が変じている今の神父相手であれば光学迷彩を施しつつ大量展開した真のレーザービットの斉射で充分動きを止める事が出来ており、その隙にクリスが機体の首を刈り取る事で各個撃破可能だった。

 

 だが、囲いを突破するにはパプティゼインの数が多過ぎる為、甲を助けに行く事は出来なかったのだ。

 

『……あは……あは、あは、あははははははははははははははは! 嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼……っ! ようやく、ようやく貴方を取り込む(手に入れる)事が出来た……円っ! この日をどれ程、どれ程待ち侘びた事か……っ! やっと、やっと貴方と愛し合う(一つになる)事が出来る……っ! 今日はなんて、喜ばしい日なんでしょう……っ!!』

 

 神子は歓喜のあまり哄笑をあげ続け、その声からはまるでレヴィアタンの咆哮と同じような不協和音が聴こえて来る。

 

 今の神子は実質、レヴィアタンと同(・)化(・)している状態に等しい。

 

 レヴィアタンの意志を代弁する、ヒト型の端末────────それが、今の神子なのだ。

 

 彼女の言葉は少女達の怨嗟(レヴィアタン)の意志そのものであり、彼女の声は怪物(レヴィアタン)の咆哮と同義である。

 

 最早人である事を捨てた怪物(クリス)は、触手の翼を広げ音もなく上空へ浮かび高度を上げていく。

 

 それと同時に中空に無数のスクリーンが投射され、様々な軍事基地のものらしき映像を映し出した。

 

『彼を取り込んだ(手に入れた)以上、もう現実を残しておく意味はない……っ! さあ、終末の喇叭は吹き鳴らされた……っ! 地表(現実)に残る人間(有象無象)達よ、その活動(命)を終わらせる時だわ……っ! 審判の日を、その眼で見届けるがいい……っ!』

 

 神子の声に呼応するようにレヴィアタンが咆哮をあげ、無意識の海から凄まじい不協和音が鳴り響く。

 

 そして遂に、神子は引き金を引いた(その命令を下した)。

 

『──降り注げっ、裁きの槍(グングニール)……っ!!』

 

──オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン──

 

 ──瞬間、レヴィアタンの咆哮と共に映像に映し出された全ての施設が天(・)よ(・)り(・)降(・)り(・)注(・)い(・)だ(・)光(・)条(・)によって破壊され、跡形もなく消え去った。

 

 スクリーンに映し出される景色は大穴の空いたクレーターに変貌しており、そこに人工物があった痕跡は既に存在しない。

 

 まさしく、神の裁きでも降りたかのような光景だった。

 

『……これは……っ!?』

『……っ!? 信じられない……対地射撃衛星群が制御を奪われ、各地の統合軍基地へ一斉掃射を実行────────結果、統合軍主力部隊は壊滅……現存する核兵器は、今の照射で全て焼き払われたわ……』

 

 いつの間にか通信を繋いで来た聖良の言葉に、皆が一様に戦慄する。

 

 神子はあろう事か対地射撃衛星群の制御を奪い、躊躇いなくそれを使用してしまったのだ。

 

 最強の衛星兵器(ピースメイカー)が、渡ってはいけない者の手に渡ってしまった。

 

 今や神子の意向一つで、破滅の光条が地上に落とされる状況に陥ってしまったのだ。

 

 これを、最悪と言わずなんと言うべきだろうか。

 

『あははははははははははははは……っ! バルドルを制御下に置いている今、AI抑圧兵器(トランキライザー)の力を取り込んだレヴィアタンと無意識(E's)の知識を刻み込んだ本体(わたし)が接続すれば対地射撃衛星群(グングニール)の制御なんて簡単に奪い取れる……っ!』

 

 神子は高らかにそう謳いあげ、続ける。

 

『対地射撃衛星群の制御はAIが行っているのだもの……ノインツェーンの玩具(トランキライザー)から得たAI抑圧能力をレヴィアタンの負荷能力で後押しすれば、出来ない事なんて何もないのよっ!』

 

 神子は高笑いをあげながら、レヴィアタンと同じ高度まで上昇する。

 

 そして、今の映像を世界中に送り付けながら全世界の放送コードをハッキングし、音声通信を開いてみせた。

 

『地上で生き足掻く人類よ、終末の時は来た……っ! 今から6時間後、ア(・)セ(・)ン(・)ブ(・)ラ(・)が(・)増(・)殖(・)を(・)開(・)始(・)す(・)る(・)……っ! アセンブラを焼き払える対地射撃衛星群の制御は既に私の手の中にあり、統合軍の主力部隊は裁きの槍(グングニール)によって消滅したっ!』

 

 故に、と神子は最後通牒(神託)を送る。

 

『お前達に出来るのは、来るべき終末の時をただ震えて待つ事だけだ……っ! 精々残りの時を、死の恐怖に怯えながら浪費するがいいっ! あは、はは、あははははははははははははははははははっ!!』

 

 世界中に終焉の宣告を告げた神子は、レヴィアタンを背に高笑いをあげ続けている。

 

 世界各地では今の宣言を聞き、大混乱が巻き起こっていた。

 

 各地の統合軍基地が対地射撃衛星群によって壊滅したのは紛れもない事実であり、対地射撃衛星群が照射される瞬間も多くの人々に目撃されてしまっている。

 

 統合軍の主力部隊も壊滅した今、この事態に対応出来る勢力など何処にも残されてはいなかった。

 

『……貴方、現実のアセンブラまで開発していたの……?』

『ええそうよっ! 既に元市長の阿南(豚野郎)や久利原直樹の遺(・)体(・)、神父(ウイルス)の媒体となった信者達の身体にアセンブラの生体(バイオ)プラントを埋め込んであるわ……っ! 後は久利原の生体プラント(メインプラント)が起動すれば、他のサブプラントが一斉に起動して一気に地表をアセンブラが覆い尽くすわ……っ!』

 

 くすり、と神子は凶悪な笑みを浮かべる。

 

『久利原直樹も本望でしょう(良い気味だわ)……自分の身体を起点にして自分の夢(あくむ)が実現されるのだからね……っ! むしろ、感謝して欲しいくらいよ(その罪科、その身で味わえ)……っ!!』

 

 神子は歓喜(怨嗟)の声をあげながら、スクリーンに生体プラントの稼働状況が描かれた映像を映し出した。

 

 それを通信越しに見ていた亜季は、思わず息を呑んだ。

 

『……先生の身体の生体プラントが起動すると同時に、他の生体プラントが連鎖的に起動してアセンブラの自己増殖を早めるようになってる……これじゃあ、増殖を開始したらもう止める暇もなく世界中にアセンブラが拡散しちゃう……っ!』

『……くっ、かといって仮想(こちら)に逃げ込んでも遠からずレヴィアタンにやられるだけだ。くそっ、万事休すか……っ!』

 

 亜季の言葉に、ノイは諦めの混じった声でそう吐き捨てた。

 

 ……現状は既に、詰んでいると言っていい。

 

 こちら側の戦力は、旗印に等しかった甲も含め壊滅────────アーク構造体はその殆どが瓦礫と化しており、至る所にタラスクが蠢いている。

 

 タラスクは何故か構造体中枢に近付こうとしていない為社長室に踏み込まれる事態には陥っていないが、アセンブラが増殖を開始すれば世界そのものが終わる。

 

 クリスと真が幾ら凄腕とはいえ、こんな状況を覆せるワケがない。

 

 誰もがそう思い、悲嘆に暮れていた。

 

『──いいえ、そんな事はないわ」

 

 ──ただ一人、不敵な笑みを浮かべるクリス以外は。

 

『あはははははははははっ! 貴方、馬鹿なの……っ!? 一体どうやったら、この状況を打破出来ると言うのかしら? そんなに死に急がなくても、今から捕まえて念入りに甚振ってあげるわ……っ! その口から『殺して下さい』って言葉が出るまで、存分にね……っ!』

『……ふぅん……でも、殺(・)す(・)とは言わないのね貴方』

『……っ!?』

 

 クリスの言葉に、不意に神子は動きを止めた。

 

 ……その表情は、単なる動揺ではない。

 

 まるで、今の彼女は焦(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)ように見える。

 

『真、私(・)を(・)撃(・)ち(・)な(・)さ(・)い(・)』

『……え……っ!? そう、か……っ! 分かりました! 撃ちますっ!』

 

 クリスは突然信じ難い事を言い出し、その言葉を聞いた真はあろう事か何(・)か(・)を(・)察(・)し(・)た(・)様(・)子(・)で(・)躊躇なくクリスの機体の頭部に銃口を向け、レーザーを発射した。

 

 クリスはそのレーザーを避ける素振りはなく、そのまま照射を浴びる事になるかと思われた。

 

『……っ!!』

 

 ──横合いから射線上に飛んで来て身代わりとなった、神子(クリス)の触手が現れなければ。

 

 事実上、神子の手によってクリスが救われた形になる。

 

 しかし、神子にとってクリスはどうしても許容出来ない怨(・)敵(・)である筈だ。

 

 そのクリスの死を助長するのではなく回避しようとするのは、どう考えてもおかしかった。

 

 だが、とうのクリスはこの結果を予想していたらしく、ニヤリと口元を歪めている。

 

『……へぇ、やっぱり方(・)法(・)は(・)問(・)わ(・)ず(・)自(・)動(・)的(・)なのね。何を取り込むかの取捨選択は、予想通り出来ないワケか』

『……っ!? おま、え……まさか、それを確かめる為に……っ!』

 

 動揺する神子を見て、クリスは唇を吊り上げた。

 

『ええ、そうよ。そして、予想は的中したわ。あなたは、此(・)処(・)で(・)私(・)達(・)に(・)死(・)ん(・)で(・)貰(・)っ(・)て(・)は(・)困(・)る(・)のね。だから甚振る事は出来ても、私(・)達(・)だ(・)け(・)は(・)殺(・)す(・)ワ(・)ケ(・)に(・)は(・)い(・)か(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)────────それはつまり、私(・)達(・)を(・)取(・)り(・)込(・)む(・)と(・)何(・)か(・)不(・)都(・)合(・)が(・)あ(・)る(・)のよね』

『……っ!!??』

 

 クリスの言葉に、神子は明確に動揺を露わにしている。それは、クリスの言葉を肯定しているのと同義だ。

 

 ……確かに、考えてみればおかしい点は幾つもあった。

 

 神子にとって、クリスと真の二人は現(・)在(・)甲(・)の(・)愛(・)を(・)勝(・)ち(・)取(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)者(・)達(・)であり、神子にとっては何が何でも殺したい相手の筈だ。

 

 だが、これまで何度もそのチャンスがあったにも関わらず、神子(クリス)は一度たりともク(・)リ(・)ス(・)を(・)直(・)接(・)レ(・)ヴ(・)ィ(・)ア(・)タ(・)ン(・)の(・)主(・)砲(・)で(・)狙(・)う(・)事(・)は(・)し(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

 先ほどの砲撃の際も、クリスと真だけは過剰な程にレヴィアタンの砲撃範囲から離れた場所に誘導されていた。

 

 此処まで来れば、その意図が何処にあるかは明白だった。

 

『それに、貴方は今まで一度もレ(・)ヴ(・)ィ(・)ア(・)タ(・)ン(・)の(・)広(・)域(・)D(・)O(・)S(・)攻(・)撃(・)を(・)私(・)が(・)い(・)る(・)状(・)況(・)で(・)使(・)わ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)しね。レヴィアタンの一番の武器は、周囲に振りまく致死のラグよ。だから過負荷をバラ撒きつつレヴィアタンを移動させるだけで、周囲の電子体は瞬く間に死に絶える』

 

 けれど、とクリスは続けた。

 

『にも関わらず、貴方はレ(・)ヴ(・)ィ(・)ア(・)タ(・)ン(・)の(・)負(・)荷(・)発(・)生(・)能(・)力(・)を(・)積(・)極(・)的(・)に(・)攻(・)撃(・)利(・)用(・)し(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。しかも、解析したレヴィアタンの性質上甲の姿を見れば自動的に甲を追いかける筈なのに、その素振りも一切見られなかった。つまり、レ(・)ヴ(・)ィ(・)ア(・)タ(・)ン(・)を(・)好(・)き(・)に(・)行(・)動(・)さ(・)せ(・)て(・)私(・)が(・)死(・)ぬ(・)よ(・)う(・)な(・)事(・)態(・)は(・)避(・)け(・)た(・)か(・)っ(・)た(・)ワケね』

『…………』

 

 クリスの言葉に対し、神子は無言のまま反応しないよう努めているが、握り締める拳からは溢れ出る怒りを抑えているのが伝わって来ている。

 

 その唇は悔し気に引き絞られ、じっとクリスの姿を睨みつけている。

 

『貴方、甲に言ってたそうじゃない。私(・)に(・)記(・)憶(・)を(・)送(・)っ(・)て(・)世(・)界(・)に(・)干(・)渉(・)し(・)て(・)い(・)た(・)って。もしかして、手駒(神父)を動かす事は出来るけど、貴方がこの世界に干渉するには私が生きている必要があったんじゃない? 少なくとも、本(・)体(・)がこうして出て来るまではね』

 

 更に言えば、とクリスは告げる。

 

『レヴィアタンの周囲で死んだ電子体(人間)は自(・)動(・)的(・)に(・)レ(・)ヴ(・)ィ(・)ア(・)タ(・)ン(・)に(・)吸(・)収(・)さ(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)。だから本体(お前)が出て来た今となっても、私を殺すワケにはいかなかった。貴(・)方(・)に(・)従(・)う(・)よ(・)う(・)レ(・)ヴ(・)ィ(・)ア(・)タ(・)ン(・)を(・)プ(・)ロ(・)グ(・)ラ(・)ム(・)し(・)て(・)い(・)る(・)のなら、六条クリス(わたし)や接続者である真にもレ(・)ヴ(・)ィ(・)ア(・)タ(・)ン(・)に(・)何(・)ら(・)か(・)の(・)干(・)渉(・)が(・)出(・)来(・)る(・)可(・)能(・)性(・)が(・)あ(・)る(・)からね』

『……どうやらそのようですね。今、私も確信が持てました。ノイ先生、後はお願いします』

『お、おい真くん……っ!? 君、一体いつの間に実体とのリンクを切ったのだ……っ!? 君達は一体、何をするつもりだ……っ!?』

 

 クリスと真の覚悟の決まった声を聞き、通信の向こうでノイの慌てた声が聞こえる。

 

 そして、真が送信したメールを読んだノイの息を呑む声が聞こえた。

 

『じゃあ、ちょっと一回死んであの世を見て(先輩を連れ戻しに行って)来ます。心配せずに待っていて下さい』

『大丈夫、勝算はあるわ。間抜けな誰かさんのお陰で裏(・)付(・)け(・)は取れたし、覚悟はもう決まってるしね』

 

 二人は不敵な笑みすら浮かべ、通信越しにそう宣言した。その瞳に迷いはなく、恐れは微塵も感じ取れない。

 

『……っ! ま、待て……っ!』

 

 その様子を見て神子は二人が何をしようとしているのかを察し、触手を伸ばし始める。

 

『──遅い。じゃあ、行って(死んで)来るわね』

 

 ──しかし時既に遅く、クリスと真は共に頭部に自身の銃口を向け、躊躇なく引き金を引いた。

 

 銃弾とレーザーで二人の機体の頭部が破壊され、クリス達の電子体反応が消失する。

 

 頭部が破壊された事で二機のシュミクラムは爆散し、機体のあった場所に二人の電子体らしきものが現れた。

 

 しかし、今までのものと違い、二人の身体は燐光に包まれてはいるが、その眼には明確な意志が宿っている。

 

 二人は流れに身を任せるように、迷う事なくレヴィアタンの中に身体を潜り込ませて行った。

 

『……っ!!?? おのれ……っ!!』

 

 その光景を見た神子は焦った様子で身を翻し、同じようにレヴィアタンの中へと沈み込んで行った。

 

 同時に砂浜に残る神父達は活動を停止し、無意識の海岸は一時の静寂に包まれた。

 

──アセンブラ増殖開始まで、あと6時間──

 

 

 Page8/崩壊ーWorld FusionーEnd




 というワケでクリス達もレヴィアタンに突入しました。次回が一体何処で始まるか、もう予想は出来たと思います。
 では、第9節『レヴィアタンーDream Worldー』をお楽しみに
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