BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
夢界ーAwakening In the Stomachー
──気付けば、俺は交わっていた。
相手の顔は、よく見えない。
ただ、自分の身体が暖かくて気持ちの良い肌に触れている事は本能が理解していた。
──ああ、甲……! もっと、もっと私を求めて……っ! もっと私と溶け合いましょう……っ! ──
聞き慣れた、少女の声が脳髄に響く。
少女は嬌声をあげながら甲の身体の上で跳ねまわり、一途に奉仕してくれている。
その声からはひたすらに甲を求める意志が伝わって来て、それに報いようと体を動かそうとするが……何故か、心の奥底に沈んだ意志が
──どうしたの? 甲……貴方は
動かなくなった甲を、彼の上に乗る少女が訝し気に見下ろして来る。
眼の錯覚だろうか。 紺碧に輝いていた筈の少女の瞳が一瞬
甲を覗き込む少女の眼からは何処か底知れない狂気を感じ、
──何を迷っているの? 甲……私は、
ああ、そうか……この少女は、自分の恋人なのか。
甲は
少女は甲に身体を密着させ、甲の耳元に口を寄せる。
──さあ、
やがて甲と少女の境界線は曖昧となり、二人の接合部はドロドロに溶け合い自我も徐々に薄れていく。
甲は全身を襲う奇妙な快感に抗えず、刻一刻と意識が散逸していく……。
(ああ……なんて気持ちいいんだ……でも、これで良かったんだっけ……?)
薄れて行く意識の中、甲は本能的に少女を拒もうとするが、急速な睡魔が襲って来て思考が形を成す事が出来ない。
少女はその口元を歪め、焦点のない瞳でジッと甲を見下ろしている。
──嗚呼、やっと一つになれるのね。これからは、ずっと一緒よ──
甲は
──ふざけるな。お前のお気楽さにはうんざりだ──
──その憎悪に満ちた男の声を耳にし、甲は薄れゆく意識を繋ぎ留めた。
──な……っ!? 何故貴方の意識が残っているの……っ!?
実体も消えて、自我もバラバラに切り刻んだ筈なのに……っ!? ──
──ハッ、確かにそうだな。貴様はあろう事かこの俺の高貴な肉体をアセンブラの起動実験にかけ、無残な肉塊に成り果てる様を一部始終この俺に見せつけたからなぁ? ──
──だが、あんな屈辱を受けてこの俺が黙っているとでも思ったか……っ! この売女めがぁ……っ! ──
少女の声色が驚愕に染まり、それを聞いた男の声は暗い歓喜に彩られる。
その声からは底知れない憎悪と怒りが伝わって来て、その感情は視覚化される程濃密だ。
男の声を聞く度、身体を襲う違和感によって快楽に沈んだ甲の意識が急速に覚醒していく感覚を感じ取る。
──お前が俺に与えた屈辱は、かつて俺様が門倉甲から受けた屈辱を上回った……っ! 故にこの屈辱は、数十倍にして返してやらねば気が済まん……っ!
だからこそ、このタイミングまで待っていたのだ……! お前が目的を果たすその瞬間に、最高の野次を入れてやる為になぁ……っ! ──
──止めなさい……っ! 貴方、そんな事をしてどうなると……っ! ──
少女の声色に、今度は焦りが混じり始める。
その声を聞いて男のテンションが一気に昂揚し、高笑いと共に甲に呼び掛けた。
──さあ、教えてやるぞ門倉甲! お前は俺の怨敵、忌まわしき
男の声に、言葉に、甲の意識が徐々に覚醒していく。 自分の名前、目の前の少女の名前、そして────────自らの恋人の名前を、思い出す。
それを察したらしく、男の声に苛立ちと歓喜が混じる。
──分かったらさっさと起きろ門倉甲っ! 忌々しい門倉甲! 俺と一つになろうとするなっ! 汚らわしき門倉甲っ! その粗末な逸物を去勢されたくなくば、さっさと夢から目覚めるがいいっ! ──
──き、さ、まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!!! ──
────────男の高笑いと少女の絶叫を最後に、甲の意識は急速に形を取り戻す。 そして、霧に包まれた世界が罅割れ砕け散った。
「……っ!? 此処、は……?」
意識を取り戻した甲がいたのは、見覚えのある一室だった。
代々の先輩達の落書きが残った机、やはり先輩から受け継いだ紙製の古い本────────そこは紛れもなく、如月寮の甲の部屋だった。
「如月寮……? って事は、此処はアーク仮想都市か……? いや、そんな筈は……っ!?」
甲が現状を理解しようと思考を巡らせた瞬間、頭の中に様々な情景が蘇った。
──甲君……後は、頼む。君は、我らの希望なのだから──
──だからアンタは死ぬなっ、甲……っ! ──
──危ないっ、甲さん……っ! ──
長官、千夏、レイン……甲を守って犠牲になった仲間の最期の言葉が次々と脳裏に浮かび上がり、そして……。
──やっと……やっと
──甲を触手で貫き、狂笑する
「……そう、か……俺は、あいつに……じゃあ俺は、死んだのか……? 此処はまさか、あの世だって言うのかよ……?」
甲は咄嗟に自分の体を見下ろし、思わず震え上がった。
あの時、四肢が光に包まれて消えて行く感覚は未だ甲の脳裏に色濃く残っている。
あの状況で、自分が生き残れたとは思えなかった。
消えゆく意識の中でレヴィアタンの咆哮を聴いた記憶もあり、レヴィアタンに吸い込まれる自分の姿が何故か頭に浮かんで来てもいた。
目覚める前に見ていた
「先輩……っ!」
「……っ!? 真ちゃん……っ!?」
──だが、混乱する甲の部屋の中に慌てた声をあげながら真が飛び込んで来た。
息を切らしながら部屋に飛び込んだ来た真は甲の姿を確認すると、眼に涙を浮かべながら甲に抱き着いた。
「良かった……っ! 先輩ならきっと此処にいると思って、でも、もしいなかったらどうしようって考えて……っ! 嗚呼、本当に良かったです……っ!」
真は甲の身体をきつく抱き締め、その感触を堪能するように身体を擦りつけて来る。
甲は真の柔らかな肢体を全身で感じながら、腕の中の真の頭を撫でていた。
真は気持ちよさそうに頭を撫でられながら、暫く甲と抱擁していた。
「……そろそろ、いいかしら?」
「あ……」
……その抱擁は、背後からかけられた聞き覚えのある声によって中断された。
甲が振り向くと、そこには憮然とした表情でこちらをジト目で見据えるクリスの姿があった。
クリスは腰に当てた指で苛立たし気に身体を叩きながら、
間違っても、
「もう、少しくらいいいじゃないですか」
「今の状況を分かってそれを言えるんだから、貴方も相当図太いわね。確かに有りっ丈の嫌がらせはしてきたけど、時間制限がある事に変わりはないってのに」
むすっと頬を膨らませた真を見て、クリスは呆れたように溜め息を吐いた。
どうやら二人は現状を正しく理解しているようだが、甲には何が何だか分からず疑問符を浮かべるしかない。
甲は自らの疑問を解消するべく、恐る恐るクリスに問いかける。
「……なあ……此処が何処なのか、分かるのか……?」
「ええ……簡単に言えば、此処は
「な……っ!?」
──だが、返って来た答えに甲は絶句するしかなかった。
此処が、あの
では自分は、レヴィアタンに取り込まれたのだろうか……?
「って、待て……っ! 此処がレヴィアタンの中って事は、お前等は……っ!?」
「──ええ、貴方と同じく一度死んだわ。ただし、
「はぁ……っ!?」
甲は予想の斜め上のクリスの言葉に、思わず素っ頓狂な声をあげた。
あの自我の塊のようなクリスが、自殺した……?
……それは、おかしい。
真だけならともかく、彼女であれば甲が死んだとしても、自殺する前にきっちり復讐は果たそうとする筈だ。
復讐に失敗して死んだなら分かるが、その前に自殺するのはクリスらしくない。
報復もせずに無為に死ぬなど、彼女にとって許し難い事の筈なのだが。
「勿論、貴方が死んで自棄を起こしたワケじゃないわよ。私達は、貴方を助け出す為に敢えて一度死んで自分からレヴィアタンに吸収されたの。この化け物に、
「嫌がらせ……?」
クリスの言葉に甲は首を傾げ、それを見た真が口を挟んだ。
「先輩、あの白髪のクリスさんは接続者システムを
「あ……」
確かに、真の言う通り神子は
そして更に言えば、真がバルドルに近付く事を異様な程忌避していた。
神子は真の実体を甲達が取り戻すのを敢えて見逃し、ミッドスパイア近辺では真が没入出来ないよう徹底した細工を行った。
それは裏を返せば、
あそこまでの対策をするからには、真のレヴィアタンへの影響力は神子にとっても無視出来ないものであって然るべきなのだ。
「そして、あいつ専用にシステムを構築したって事は、そのシステムの管理者の名義は
つまり、とクリスは続ける。
「私はレヴィアタンに接続する事で、
確かにクリスの言う通り、甲は聖良と共にあの神子のIDがクリスと同一のものである事を確認している。
つまりそれは、クリスには神子が持つ
電子体のIDは偽装出来ない為、
「勿論、あいつ自身が警戒していた以上レヴィアタンの制御を丸ごと奪う事は出来なかったけれど、此処に来るまでにレヴィアタンの制御系に
くすり、とクリスは笑う。
「今あいつは私の仕掛けたバグの対処で手一杯で、すぐにはこっちに来れない筈よ。もっとも、これは時間稼ぎにしかならないけどね」
クリスはそう言って溜め息を吐き、真も一緒になって溜め息を吐いた。
「私も接続を試みたんですが、どうやら私の場合は中枢まで行かないと干渉は出来ないみたいで……少し、細工が出来た程度でした」
「細工って……一体、何をしたんだい?」
甲は妙に弾んだ声で話す真の様子に何か嫌な予感を感じて真に問いかけ、真はニヤリと笑ってその問いに答えた。
「ふふ、実はですね……私達と先輩がエッチする所を
「おいおい……」
……実は腹黒な真らしい、えげつない嫌がらせだった。
横で聞いていたクリスも真の黒さに再び溜め息を吐いているし、真は素知らぬ顔で笑みを浮かべている。
普段通りに見えるが、真もあの神子の所業は相当腹に据えかねていたのだろう。
笑顔の裏に、有りっ丈の敵意が垣間見えた。
「とにかく、私達が出来た事は
「……ああ、そうだな。此処で俺が諦めたら、俺の為に身を投げ出した皆に申し訳が立たない。行こうか、クリス、真ちゃん……此処から出る方法を、探しに……っ!」
「「
甲は二人の答えを聞くと、二人を連れ立って寮の部屋の外へ足を踏み出した。
こうして、
というわけでスーパージルベルトタイム&レヴィアタン内部世界inです。此処からレヴィアタン内部を探索し、脱出のカギを探していく事になります。それでは次回をお楽しみに。