BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
最初に動いたのは、ノインツェーンだった。
ノインツェーンは機体側部のウイングを展開し、極小の光弾を全方位に打ち出した。
光弾は一定の距離に到達すると瞬時に爆発し、周囲一帯に光の爆発が巻き起こる。
「なんの……っ!」
甲はそれを危なげなく回避するが、その爆発の隙間を縫うようにして、ノインツェーンは機体のウイングブレードを回転させながら甲目掛けて突進して来た。
ブレードの回転によって砂浜の砂が撒き上げられ、ノインツェーンの姿を覆い隠した。
周囲が砂に覆われ、ノインツェーンの正確な位置を図る事が不可能になる。
「なら……っ!」
甲は先程の機体の動きからノインツェーンがいるであろうと推測した場所に、向かったミサイルランチャーを発射した。
無数のミサイルが砂浜に着弾し、次から次へと爆発音が響き渡る。
「……っ!? いない……っ!?」
……だが、爆炎が途切れた後、そこにノインツェーンの姿はなかった。
そして次の瞬間、甲の背後の地面の砂が吹き飛び、砂の下からノインツェーンがその姿を現した……!
『……喰ラエ』
ノインツェーンは機体から伸びる触手を槍状に変化させ、甲目掛けて無数の触手槍を突き出した。
甲は間一髪で回避するが、槍の一つが脇腹に掠り、鈍い痛みが迸った。
大した損傷ではないが、一瞬回避が遅れていればまともに胴体を貫かれていただろう。
「く……っ! こいつ……っ!」
甲は反撃とばかりに炸裂弾を発射するが、ノインツェーンはウイングブレードを回転させてその余波で炸裂弾を弾き飛ばし、弾丸はあらぬ方向へと逸れ、砂浜に触れると同時に爆発し空気を震わせた。
「チッ、単発の実弾系の武器は効果が薄いか……っ!」
今の防御を考えれば、ライフルやミサイル等の実弾系の武器は、使用しても弾き飛ばされてしまうのが関の山だろう。
甲は瞬時にそう判断して武装スロットを光学兵器系に切り替え、ノインツェーンと距離を取って仕切り直した。
甲のシュミクラム、カゲロウの最大の強みはその武器種別の多様さだ。
通常シュミクラムの武装は各部位に一つずつが限度だが、
武装スロットの切り替えには若干のタイム・ラグがあるものの、その対応力の高さは他のシュミクラムの追随を許さない。
この応用性こそ、自己進化ロジックによって進化したカゲロウが獲得した特性だった。
一点特化ではなく、可変万能型。
それが、甲だけのワン・オフ機体。 亜季が作り出し甲が成長させた、カゲロウの性質なのだ。
「行けっ……!」
甲の機体からレーザービットが放出され、二機のレーザービットがノインツェーンを狙い撃つ。
流石にレーザー攻撃は弾き飛ばす事が出来ない為か、ノインツェーンはその巨体に似合わぬスピードでレーザーを回避し、お返しとばかりにレーザービットにレーザーを撃ち込む事で二機のレーザービットを破壊した。
「喰らえ……っ!」
だが、そこまでは甲も想定内。
甲はノインツェーン目掛けて波動砲を発射し、レーザー発射後の硬直で動きが鈍ったノインツェーンに波動砲が直撃し紫電が弾けた。
『コノ……テイド……ッ!』
「な……っ!」
だが、波動砲の直撃によって腹部に損傷を負ったノインツェーンは機体の破損に構う事なく、ウイングブレードを回転させ甲目掛けて突進して来た。
甲は対処が一瞬遅れてノインツェーンの機体と接触し、その衝撃で弾き飛ばされた……!
「ぐ……っ!」
機体にダメージを負いながらも甲はなんとか砂地に着地するが、それを待っていたかのようにノインツェーンから容赦なく二条のレーザーが発射される。
甲は砂浜を転がってそれを回避し、牽制の為にスプレッドボムを発射する。
だが、ノインツェーンはまたもや機体の損傷を度外視してそのままスプレッドボムに突っ込み、ウイングブレードの回転による風圧によって被害を最小限に抑えながら甲に追い縋って来た。
「く……っ!」
甲は咄嗟に疑似光体翼を展開し、空中に飛翔する事でノインツェーンの突撃を回避した。
周囲には再びノインツェーンの突撃によって巻き上げられた砂が舞い上がって視界が封じられており、甲はレーダーを駆使してノインツェーンの位置を探る。
「……っ!?」
──次の瞬間、甲が嫌な予感を感じて反射的に機体を前方に飛翔させた直後に地上から二条のレーザーが発射され、甲のいた場所を二つの光条が射抜く。
急加速でどうにかそれを回避し、甲は間一髪直撃を逃れた。
『……墜チロ……ッ!』
「……っ!」
──だが、それは囮だった。
今度は別の位置から極太のレーザーが発射され、反射的な回避によって体勢を崩していた甲の機体をレーザーが襲い、レーザーの照射によって疑似光体翼が破壊されて甲は地面へと落下した……!
『砕ケ散レ……ッ!』
落下した甲目掛けて、ノインツェーンは再びウイングブレードを回転させ突撃して来る。
甲は咄嗟にブレードでノインツェーンを迎撃するが、機体の対格差によって力負けしてしまう。
機体のパワーで強引に押し切られた甲は、そのまま波打ち際近くまで吹き飛ばされた。
「ぐぅぅ……っ!」
甲は碌に受け身も取れず、砂地に機体を打ち付けた。
ノインツェーンは容赦なく、倒れ伏した甲にトドメを刺す為そのままの勢いで特攻を仕掛けて来る……!
「舐めんじゃ……ねぇ……っ!」
『……ッ!?』
……だが、やられっぱなしで終わる甲ではない。
甲は密かに展開していたレーザービットからのレーザー照射と共に波動砲を放ち、ノインツェーンの機体を吹き飛ばした。
波動砲によって吹き飛ばされたノインツェーンは砂浜に墜落し、轟音と共に砂煙が舞った。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ! しかし、このままダメージレースが続けばキツイな……」
荒い息を吐く甲の視線の先では、波動砲の直撃を受け墜落したにも関わらず、すぐに体勢を立て直しこちらに向き直ったノインツェーンの姿がある。
機体の体格差もそうだが、そもそもの問題として装甲の厚さが違う。
甲の機体はどちらかというとヒット&アウェイを繰り返す高機動型だが、ノインツェーンの機体は見た目通りの重装甲・重武装型であり、殴り合いに付き合っていては先に体力が尽きるのはどちらなのかは明白だ。
ノインツェーンもそれは重々承知している様子で、装甲の厚さを利用してある程度の被弾を敢えて許容しつつ、甲に攻撃を当てる事を重視した戦術を取っている。
それでも甲が戦えているのは、単純に戦闘経験の差だ。
そもそもノインツェーンは戦闘については、
まともにシュミクラム戦をしたのもあの記憶の中の世界での甲との戦いが初めての筈であり、どれだけ機体の
厄介なのは、記憶で見た世界の時とは違い、ノインツェーンが
記憶の世界では機体の性能に任せて強力な攻撃を振るい続けるだけだったが、今のノインツェーンは砂を巻き上げる事での視界封鎖やフェイントを交えて本命の攻撃を当てようとする等、きちんと
恐らく、甲との戦闘データを何度も見返し戦術を
ノインツェーン自身気付いていないが、彼はこの甲との戦いを
それが、戦闘経験を軽視していたノインツェーンが
「ん……?」
そこでふと、甲はノインツェーンのウイングブレードの一つに目を向けた。
損傷を無視して繰り返し突貫した為か、ウイングブレードの所々には破損が見られ、先端が折れている部分もあった。
そして、その断面からは不可思議な燐光が迸っており、その燐光はまるでノインツェーンの武装を浸蝕するように少しずつ広がっていた。
その燐光を放つ部分の武装は、徐々にだが半透明になりつつあった。
いや、そこだけではない。 ノインツェーンの武装の至る所が、緑色の燐光を放ちながら徐々に現実感を失っていた。
まるでそれは、無理やり拡大した為に細部がぼやけた画像のようにも見える。
──ワタシハアノ世界デオ前ト戦イ、敗北シタ……今ノワタシハ、嘗テ存在シタノインツェーンノ残滓ニ過ギナイ……──
不意に、甲の脳裏に先ほどノインツェーンが語った言葉が蘇った。
そう、今のノインツェーンはいわばかつて存在していたノインツェーンの
それが無理やりかつての力を再現しようとすれば、自己崩壊を引き起こすのは至極当然の事だったのだ。
今のノインツェーンは死に体の身体に鞭打って、自身の命を削りながらも出し切れる力を全て使って甲との戦いに臨んでいたのだ。
故にこのままノインツェーンの猛攻を凌ぎ切れば、彼はそれだけで自滅するだろう。
(けど……それは……)
……だが、甲はそれを
過程はどうあれ、今のノインツェーンは
そんな彼に対し、弱みに付け込むような形で勝利を掠め取るのは甲のプライドが許せなかった。
「ノインツェーン……お互い、時間はない……そろそろ、決着を着けよう」
『……イイダロウ』
ノインツェーンがそんな甲の想いを察したのかどうかは、分からない。
だが、ノインツェーンから感じるプレッシャーは目に見えて増加していく。
覚悟を決めた、何も言わずともそう伝わって来た。
甲はノインツェーンの機体を真っ直ぐ見据え、その動きに注視する。
しばし、戦場に沈黙が訪れた。
極限の緊張の中、不意に────────周囲一帯が、暗闇に包まれた。
「……っ!?」
──次の瞬間、地面の至る所で大規模な爆発が巻き起こった。
甲の機体はその爆発の余波で吹き飛ばされ、叩みかけるように無数の爆発が甲に向かって追い縋って来る。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……っ!」
甲はバーニアを全力で噴射し、その爆発の連鎖から逃れ続ける。
だが、爆発の規模は徐々に大きくなり、やがて砂浜を爆発が埋め尽くして行き、甲は次第に逃げ道を失っていく。
「なら……っ!」
最早地上に逃げ場はないと悟った甲はスライドボムを投下し、至近でそれを爆破し、その爆風を利用する事で一気に高度を上げ、バーニアを全力で噴射し上空に退避した。
『終ワリ、ダ……ッ!』
……だが、ノインツェーンもまた爆風に敢えて身を晒す事で高度を上昇させ、ウイングブレードを回転させながら甲に突撃して来た。
爆風の規模の違いか、追い縋るスピードは僅かにノインツェーンの方が早い。
このままノインツェーンの特攻を受ければ甲は未だに地上を覆い尽くす爆発の連鎖の中に墜落し、機体は跡形もなく消し飛ぶ事になるだろう。
「──それは、こっちの台詞だぜ」
『……ッ!? アァァァァァァァァァァァァァ……ッ!』
──しかし、その予測は次の瞬間覆った。
上空から無数のレーザーが照射され、ノインツェーンの機体に次々と直撃したからだ。
……甲は逃げ回っている間にサテライトレーザーを予め準備しておき、ノインツェーンが上空に逃げた甲を追いかけて来たタイミングで、一斉にレーザーを照射したのだ。
サテライトレーザーは上空から発射される関係上、高度が上であればある程回避は難しくなる。
甲はそれを利用し、自分自身を囮として上空に逃げるように見せかけ、ノインツェーンにレーザーを当てる事に成功したのだ。
「これで、終わりだぁぁぁ……っ!」
『グッ、ウゥ、オォォォォォォォォォォォォォォォ……ッ!!』
無論、甲はそこで手を緩める事はしない。
レーザーの照射を受け動きが止まったノインツェーンに向け、甲はその手に出現させたゴライアスハンマーを思い切り振り抜いた。
ゴライアスハンマーはノインツェーンの機体を確実に捉え、轟音と共にそのまま地面へと叩き落とす……!
『……ワタシノ、負ケカ……アァ、悔シイ、ナァ……』
──そして、その言葉を最後にノインツェーンの機体は地上を覆う爆発に巻き込まれ、凄まじい轟音と共にバラバラに砕け散った。
こうして、運命の
地上を覆う爆発はFCのイェヒー・オールの発動時間を拡大して地面全体を一定時間覆うようにした対地使用のオリジナル改造FCです。