BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
『……まさか、あのジルベルト君に助けられる事になるとはね。世も末とはこの事だわ』
クリスはそう呟き、溜め息を吐いた。
鳳翔の学生会長としてジルベルトの歪み切った性根を知っていた彼女から見ても、彼が自分達を助けるなど考えもしなかったのだ。
甲自身、今でも信じられない思いがあるが……それでも、彼のお陰で先に進めた事は事実なのだ。
抵抗はあるが、感謝するしかないだろう。
『甲……っ! 無事……っ!?』
「亜季姉ぇ……っ!? ああ、俺は無事だよ……っ! そっちは、どうなってるんだ……!?」
そんな中、不意に亜季からの通信が入り、表情画面に心配そうにこちらを見る亜季の顔が映し出される。
レヴィアタンに取り込まれた後、亜季達の安否が分からず甲も気になっていた為にこうして無事な姿を見ると安心出来た。
だが、亜季達の現状がまだ分からない不安がある為甲が尋ねると亜季は焦った声で応答した。
『
「いや、こっちはイヴがサポートしてくれるらしいから大丈夫だ。それより亜季姉、アセンブラを書き換えるならこれを使ってくれ……先生の遺した、切り札だ」
甲はそう告げると、真の脳内チップから取り出したデータを亜季に送った。
亜季は最初は訝し気な眼をしていたが、やがて眼を見開き驚愕を露わにした。
『なに、これ……? え……っ!? 作者は、久利原先生……っ!?』
「ああ、それを使えばアセンブラはどうにかなる筈だ。先生の願いを叶える為にも、頼む」
『……っ! 分かった……っ! 必ず、アセンブラを正常な姿に戻して見せる……っ!』
亜季はそう告げると通信を切り、すぐさま別の通信が開き表情画面に聖良の顔が映し出された。
『甲さん、無事なようで何よりよ。それにしても、まさかイヴが直接貴方に協力するなんて……前代未聞だわ。それだけ、AIにとってもレヴィアタンが脅威として認識されたという事なのでしょうけど』
「どうやらそのようです。叔母さん達は、社長室にいるんですか……? よく、レヴィアタンをやり過ごせましたね」
確かに、レヴィアタンがあれだけの暴威を振るっている以上、聖良達が無事なのは奇跡としか言い様がない。
その疑問に、聖良は軽く微笑みながら答えた。
『イヴの協力で、一時的にこの部屋の
聖良の言葉を聞き、イヴに眼を向けた。
イヴはコクリと頷き、聖良の言葉を肯定した。
『西野亜季と橘聖良もまた現状を覆す為に必要な存在だと判断された為、当然の処置です。また、貴方との共闘を円滑に進める為にも必要な措置だと結論しました』
「ああ、ありがとう……っ! これで後顧の憂いなく、レヴィアタンを追う事が出来る……っ!」
亜季達の心配をしなくて良くなった事は、喜ばしい事だ。
これで後は、レヴィアタンに追いつき決着を着ければそれで全てにケリがつく。
『私も彼女から対地射撃衛星群の制御権を取り戻さなきゃいけないから、甲さんのサポートには回れません……イヴ、頼みましたよ』
『我々は既に彼に協力する事を決議しました。その判断が覆る事はありません』
聖良の言葉にイヴは淡々とした声でそう答え、その言葉を聞き聖良の頬が若干緩んだ気がした。
聖良とて、甲の事は心配なのだ。今はただ、やるべき事を優先する為その感情を押し殺しているだけなのである。
「心配しないで下さい、叔母さん。必ず、生きて帰って来ます」
『頼んだわよ、甲さん。貴方を失う事は、私達の誰も望んでいないのだからね』
「
甲の返事を聞き届けると聖良は通信を切り、甲は知らず笑みを浮かべた。
レヴィアタンに取り込まれた時、もう亜季達とは会えないのかと覚悟したものだが────────こうして再会出来た事は、素直に喜ばしい。
矢張り、自分にはあの楽園は性に合わない。この現実世界こそが、自分の生きる場所なのだ。
『先輩……っ! 前方にパプティゼインを20機確認しました……っ! 迂回路もありません……っ!』
「チッ、また来やがったか……っ!」
甲が真の言葉に前方の映像を拡大すれば、そこにはこちらに迫り来る20機程のパプティゼインが立ち並んでいた。
タラスクがもういないのはありがたいが、これだけの数のパプティゼインを相手にすれば相応の時間を浪費してしまう事は間違いない。
『──問題ありません。このまま、進んで下さい』
「……? それは、どういう……まさか……っ!」
イヴの言葉に甲は疑問符を浮かべるが……先ほどのジルベルトの一件を思い出し、ハッとなって前方を見据えた。
『──そうとも。此処は私に任せてくれたまえ』
──そこには二本の
表情画面には久利原の顔が映し出され、久利原は不敵な笑みを浮かべて見せた。
「先生……っ! 先生も戻って来れたんですね……っ!」
『戻って来れた、というのは些か違う。私の肉体は、既に死亡している。あの少女は万が一にも私が蘇る事がないよう、予め箱舟計画の技術を用い私の実体に死亡処理を施していた』
故に、と久利原は続ける。
『今の私は、既に肉体を失った亡霊────────電子体幽霊に過ぎない。レヴィアタンが崩壊すれば運命を共にする、一時の帰還に過ぎないよ』
「そんな……」
甲は久利原の言葉を聞き、思わず落胆の声を漏らした。
レヴィアタンに取り込まれた自分達が帰還出来たのだから、久利原も生きて帰る事が出来るのではないか────────そんな淡い希望が、たった今打ち砕かれたのだから。
だが、そんな甲に対し久利原はさっぱりした顔で笑いかけた。
『悲嘆する事はない。どう言い繕おうと、私はあの惨劇を引き起こした大罪人だ。その私が、のうのうと生き延びるワケにはいかない………………しかし、永久の眠りに就く前に一時の贖罪の機会が巡って来たのだ。この機会を逃せば、私は後悔したまま無念の死を迎える事になるだろう』
久利原はそう告げると、真剣な表情で甲を見据えた。
『故に私はイヴの誘いに乗り、こうして此処にやって来たのだ。だから今は、ただ君達の力になりたい……それが私の、最後の願いなのだから』
「先生……」
甲は久利原のその言葉から、彼の覚悟の程を感じ取る。
彼は残り少ない生の時間を、甲達の為に使いきるべくこの場所にやって来たのだ。
此処で甲が出来る事は、彼の厚意を受け入れ先に進む事だけだ。
「……分かりました。今までありがとうございました、先生……っ!」
『私達、先生に教わった事は一生忘れません……っ! さようなら、先生……っ!』
『ああ……君達という生徒を持って、私は幸せだった……っ! 行って来い、甲君、真ちゃん……っ!』
甲と真は久利原に一礼しつつ、パプティゼインの横を駆け抜けた。
クリスもそれに倣って久利原に一礼しつつ、無言で二人の後を追った。
当然パプティゼインの一部がそれを追おうとするが、久利原が斬機刀を一閃し、瞬く間に甲達に近付こうとした3機のパプティゼインを両断した。
『悪いが、大切な生徒の邪魔はさせない。それに、君達には個人的にも恨みがある。私の身体を乗っ取った相手とこうして斬り結ぶ事が出来るとは、望外の幸運だ。私の身体を奪い、生徒達を苦しめた罪……その身でしかと、味遭って貰おう……っ!』
久利原は戦意を高揚させ、斬機刀を構えてパプティゼインと対峙する。
量産化した影響かパプティゼインは一言も発さず、久利原の気迫に怯むように固まっている。
『私も君達も、共に大罪人である事に変わりはない。故に、同じ亡霊として、私が君達を地獄に送り返してやろう……っ!』
久利原はそう叫ぶと斬機刀を構え直し、パプティゼインに突き付けた。
『なに、心配は要らない……私も、すぐに後を追おう……っ! 君達が一生あの世から出られないよう、文字通り地獄の底まで追いかけてやるとも……っ! 死人は死人らしく、共に塵に還りたまえ……っ!』
久利原はその叫びと共に疾駆し、パプティゼインの軍勢を次から次へと斬り刻んで行く。
彼は自らの生徒の未来を守るべく、怨敵を相手に生涯最後の戦いを開始した。
そしてその場所にはいつまでも、剣閃と爆音が響き渡っていた。
「先生……」
甲はシュミクラムを疾駆させながら、先ほど別れた久利原の事を想い物憂げに呟く。
言葉でどう繕おうと、大事な恩師と今生の別れをして来た事に変わりはない。
甲の瞼にはいつまでも、パプティゼインを斬り捨てて行く久利原の姿が焼き付いていた。
『先輩、久利原先生は私達の為に残ってくれたんです。先生の想いに応える為にも、先に進みましょう』
「ああ、そうだな……それが、先生への手向けにもなる。ありがとう、真ちゃん」
甲は真の言葉に元気付けられ、力強くそう答えた。
クリスは空気を読み、二人の会話には入らなかったが……ふと、進行方向を見て声を張り上げた。
『二人共、前方で戦闘が発生してるわ……っ! けど、このIDは確か……っ!』
「……ああ、親父と長官だ……っ!」
クリスの言葉に甲が目を向けた先には、忘れる筈もない……二機のシュミクラムが、戦場で無双の限りを尽くしていた。
『おらおら、この程度か神父共……っ!』
『悪いが、お前達にかける慈悲はない……っ! 一人残らず、殲滅してやろう……っ!』
パプティゼインの軍勢を相手に戦っていたのは、重火器を無数に搭載した重量級シュミクラムと、雄々しい角とパイルバンカー、ランチャー等の火器で武装した無骨なシュミクラム────────
長官が無数の火器でパプティゼインを薙ぎ払い、永二はその弾幕を掻い潜りながら一機一機確実に敵機を仕留めて行く。
互いの呼吸が理解出来なければ不可能な、完璧なコンビネーションだった。
甲はシュミクラムを疾駆させ、二人に近付き声を張り上げる。
「親父、長官……っ!」
声をかけると、二人は表情画面を展開し甲に笑いかけた。
『おう、甲か……っ! 気が付いたらこうして目が覚めてよ、勲の野郎とあの神父共をぶちのめしてた所だ……っ!』
『言った筈だよ、甲君。何かあれば必ず助けになると……それに、君を守るという誓いに嘘偽りはない。君の奮闘に応えるべく、我々も全力を以て敵を駆逐しよう』
二人はそう言いながらもまるで流れ作業のようにパプティゼインを駆逐していく。
周囲はパプティゼインの残骸で溢れかえっており、その数は30は下らない。
どうやら彼等を脅威に感じて大量のパプティゼインを投入して来たようだが、歴戦の古強者二人の前では弱体化した神父の軍勢など────────全く、相手にもなっていなかった。
『さあ行け、甲……っ! あのデカブツは、頼んだぜ……っ!』
『心配は要らん……敵は我々が悉く打ち砕こう……っ! 頼んだぞ、甲君……っ!』
「
甲は二人に敬礼し、真とクリスと共にその場を後にした。
心配など、欠片もしていない。あの二人はこのまま、戦いが終わるまで敵を駆逐し続けるだろう。
甲を見送った二人は、凶悪な笑みを浮かべてパプティゼインに向き直る。
『さあ、糞神父共……今までの鬱憤、テメェ等で晴らさせて貰うぜ……っ! 俺達の前に立った事を、地獄で後悔しな……っ!』
『若者の未来を奪う事は、断じて許さん……業腹だが、こいつと組んで負けた戦いは一度もないのだ。君達には、戦場の錆となって貰おう……っ!』
そして、二機の猛者は再び敵の駆逐を開始した。
二人の英雄の雄叫びが響き渡り、戦場には延々と爆音が轟き続けていた。
というワケで今回は先生と親父二人です。久利原は一度死んだ事で神父の憑依は解除されたので、こうして参戦となりました。