BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
次第に遠くなっていく爆音を耳にしながら、甲達は構造体を疾駆する。
永二と勲の二人は凄まじいスピードでパプティゼインの軍勢を駆逐しているが、それでも戦闘音が途切れる事はない。
こうなると一体何機のパプティゼインが集まっているのか、分かったものではない。
『構造体に展開されたパプティゼインのうち約半数が、彼等二人の下へ向かっています。レヴィアタンは彼等を自由にする事を警戒し、犠牲を前提に戦力を送り込んでいるようです。尚、久利原直樹の下へもかなりの数のパプティゼインが送り込まれ、それを全て撃退しています』
「流石のレヴィアタンも、あの三人を放置したらマズイと考えたのか………………それで、犠牲覚悟で時間稼ぎを始めたワケだな」
イヴが表示した構造体内のパプティゼインの現在位置を見る限り、永二と勲に全体の2/4、久利原に全体の1/4のパプティゼインが送り込まれている。
未だ接敵していないパプティゼインは全体の1/4程だが、それでも30機を超える数が残っている。
久利原の撃破数が永二達に劣るのは、広域殲滅に向いた武装を持つ永二達に対し、久利原の戦闘形態が斬機刀による近接戦闘のみであるいという違いに依るものだろう。
しかし、それでも尚此処までの数の敵を短時間で撃破して見せた久利原の腕は驚嘆する他ない。
彼も充分に、永二達に匹敵する凄腕だ。
『……凄まじいわね。あの二人は兎も角として、久利原は本業は学者でしょう? プロの電脳将校でも、あそこまでの使い手は他に見た事がないわ』
「武器も斬機刀だしな。先生は現実の剣術の腕も凄くて、居合いをマジでやれるんだ。聞く所によると、銃器を持った集団を日本刀だけで制圧した事もあったらしい」
『……何で一介の学者が、そんな真似が出来るのかしらね。被造子でもあるまいし、戦国時代からタイムスリップして来た侍か何かかしらね』
クリスは自分自身が被造子であり、自分の身体の性能が常人とは違う事を理解している。
だからこそ、被造子でもないのに現実と仮想双方で常識外れな戦闘能力を持つ久利原の実力は信じ難かった。
しかし、あの刀捌きを見る限りあながち冗談でもなさそうなのが恐ろしい所である。
『前方にパプティゼイン出現。数は20』
『……っ!? そんな……っ!? だってマップには何も……っ!?』
イヴの報告に真が悲鳴じみた声をあげるが、無情にも前方には無数のパプティゼインの軍勢が瓦礫の影から現れた。
直前までイヴの表示したマップには敵影は一切映っておらず、どう考えてもこれはおかしい。
「……そういう事か……っ! 、イヴ……ッ! 転送門の反応はあるか……っ!?」
『パプティゼインの後方の
イヴの報告に、甲はパプティゼインの軍勢の向こう側の床面を見据える。
するとその床面がまるで
『……っ!? 成る程、あの女が直接出てきたか……っ! 真……っ! パプティゼインの群れの向こうに有りっ丈のレーザービットを射出しなさい……っ!』
『
クリスの言葉を受け、真は光学迷彩を施したレーザービットを迫り来るパプティゼインを無視してその後方に展開した。
すると、地面から浮上した高速回転する機影が宙を舞い、レーザービットを次から次へと切り刻んだ。
レーザービットも無論レーザーを照射するがスピードが速過ぎて捉え切れず、遂に全てのレーザービットが破壊される。
そして、回転する機影が形を変えながら地面に降り立ちその漆黒の機体の姿が露わになる。
四本のチェーンソーブレードを展開する禍々しいフォルムは紛れもなく、神子のシュミクラム────────リリスバフォメットだった。
「神子……っ! レヴィアタンから出てきたのか……っ!?」
『いいえ、あれはレヴィアタンの
『自我の分裂………………そんなの、人間に耐えられる筈ないのに……』
イヴの言葉に、真は憐みとも呆れとも取れる声を漏らした。
通常、自我の分裂────────即ち人格の二重化は、統合失調症という立派な
しかも、彼女は電子体幽霊。 その彼女が自我を分裂させるという事は、
幾らレヴィアタンと融合し分裂が可能になったからと言って、
こんな真似を今までに幾度も繰り返したからこそ、あの神子の精神は取り返しのつかない所まで堕ちてしまったのだろう。
『……まさか、こんな事になるなんて思いも依らなかった……っ! まさか、まさかまさかまさか……っ! あの
感情の侭に叫ぶ神子を、甲は険しい顔で睨みつけた。
「……だからだよ、神子。お前はあいつを、一つの
だって、と甲は続けた。
「あいつにも、ちゃんと心が、感情があったんだ。お前は、それを本当の意味で理解してはいなかった。だから、この結果に繋がったんだ」
甲はノインツェーンを侮蔑する神子に向け、憤りと憐みを込めてそう告げた。
奇しくも甲はレヴィアタンの中でノインツェーンと出会い、彼の願いを理解して一個の人格として真摯に向き合った。
その結果彼の協力を勝ち取る事が出来たのは、結果論だ。
そんな甲だからこそ、ノインツェーンは最期に力を貸したのかもしれない。
『あいつに、心があったですって……? フン、あんなものを人間扱いしたとでも言うのかしら? 呆れた話ね。所詮あれは、人間とは異なる知性体よ。AI以上におぞましい、思考する機械に過ぎないわ。それを、人格ある存在として扱え……? 虫唾が奔るわね』
神子は甲の話を心底理解出来ない、といった風にそう吐き捨てた。
彼女にとってノインツェーンは
今まで散々ノインツェーンを酷使して来たのは、彼女なりの
その
「……お前に何を言っても手遅れな事は、もう分かった。無駄話に付き合う気はない。此処を通して貰うぞ」
『嗚呼、ダメよ甲……っ! まだ、
神子の悲鳴とも歓喜ともつかない叫びと共に彼女の背後の地面が揺らぎ、新たに10機のパプティゼインが出現した。
その10機のパプティゼインは他のパプティゼインより一回り大きく、感じる威圧感も他のパプティゼインより上だ。
『こいつ等は、信者の電子体に死者の情報を混ぜ合わせた特別性よ。思考能力は失われたけど、性能は他の機体とは別物よ』
『──機体内部に複数の電子体反応があります。強制的に電子体を混ぜ合わせる事で容量を上げ、機体性能を向上させているようです』
「……まさに怨霊の集合体か、ゾンビって所か。相変わらず滅茶苦茶やりやがるな……」
甲は最早何度目か分からない神子の非道に言葉を失いつつ、銃器を構え戦闘態勢を取った。
これでパプティゼインの合計は30、今回は神子も出て来ている。 この戦闘は、避けられない。
此処で逃げても、神子を足止めしない限りあの突撃形態で何処まで追いかけて来るだろう。
故に神子だけはなんとしてでも、この場で対処する必要があった。
だが、それには30機ものパプティゼインが邪魔となる。
神子の事だからパプティゼインに足止めさせ、味方ごと攻撃するくらいは普通にやるだろう。
パプティゼインの武装は拘束脳力が高いものが多く、圧倒的な攻撃能力を持つ神子相手に足を止めれば一瞬で機体を切り刻まれてしまう事になりかねない。
『さあ、みんな斬り刻んであげる……っ! 今度こそ一緒になりましょう、甲……っ!』
神子の叫びに呼応するようにパプティゼインが動き出し、甲達に殺到する。
『──お断りです。甲さんは貴方なんかにあげません』
『──そうそう、負け犬は黙ってなってな……っ!』
──だが、次の瞬間視界を白い閃光が埋め尽くし、同時に飛び込んで来た赤い機影によって先頭のパプティゼイン二機が纏めて蹴り砕かれ爆散した。
『……っ!? な……っ!?』
閃光が晴れた後、甲の視界に見覚えのある二機のシュミクラムの姿が映る。
「レイン、千夏……っ! お前等も戻って来れたんだな……っ!」
そう、その二機は紛れもなく────────
『ええ、ただいま帰還しました。これより甲さんの
『後ろは気にするな。存分にやれ、甲……っ!』
甲は二人の機体を見て歓喜の声をあげ、表情画面に映ったレインと千夏は不敵な笑みでそれに応えた。
正直、二人は戻って来ないのでは、と思った事は否定出来ない。
あの世界で二人はもう会えなかった筈の大切な人達と出会い、傍目から見ても幸せそうだった。
だからあの世界に残る選択をしても仕方ない。そう思っていたのは、事実だ。
……けれど、二人は戻って来てくれた。
二人共何も言わないが、恐らくは甲の為に戻ってきれくれたのだろう。
二人は甲の力になる為に、あの幸せな世界に背を向けて現実に戻って来てくれたのだ。
甲は幸せな世界を捨ててまで戻って来た二人に、感謝の言葉しか浮かんで来ない。
「けど、二人でこの数を相手にするつもりか……っ!? 幾ら何でも……」
だが、それでも二人で30機のパプティゼインを相手にするのは荷が重い筈だ。
レインはサポート特化、千夏は近接戦特化のシュミクラムである。
少数精鋭での決戦ならばどうとでもなるだろうが、この数を相手にするのは、幾ら何でも二人への負担が大き過ぎる。
そう考えていた甲だったが、その考えは次の瞬間否定された。
『──訂正しろ。二人ではない、
甲に届いたのは、そんな声だった。そして、それに呼応するかのように新たな反応が現れる。
「え……っ!?」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……っ!』
──戦場に響く、シャーマンの
無骨なフォルムの重量級の機体の突進が、パプティゼインを薙ぎ払う。
タックルでパプティゼインを押し潰したその機体に続くように、スリムな形状のシュミクラムが姿を現した。
フェンリルの幹部、モホークの機体のメギンギョルドと、シゼルの機体のフレスベルクだ。
今度の助っ人は、どうやらこの二人らしかった。
「シゼルさん、モホーク……っ! 来てくれたんですね……っ!」
『大佐の命令だ。全く、いきなり大佐から通信を受けた時は何事かと思ったぞ────────しかし、よくぞ大佐を連れ戻してくれた。3人共礼を言う』
『ああ、誇れ。お前は、成すべき事を成したのだ』
二人から称賛の言葉を受け、甲は背筋がむず痒くなる感覚を覚えた。
真は素直に微笑み、クリスは無言で頷くに留めている。
これで、永二がレヴィアタンにやられた時の蟠りはなくなったと考えて違いあるまい。
『ありがとうございます。申し訳ありませんが、パプティゼインをお願いします』
『任せろ。散々煮え湯を呑まされた相手だ。今までの鬱憤を、存分に晴らさせて貰うとしよう』
『うむ。精々暴れてやるとしよう』
シゼルは指を鳴らしながら凄絶な笑みでそう告げ、モホークも好戦的な笑みでそう答えた。
そして二人は機体を疾駆させ、パプティゼインの軍勢を相手に攻撃を開始した。
戦場に爆音と破砕音が響き渡り、戦闘音が辺りに木霊する。
レインはチャフやビットでそれを援護し、千夏は戦場を縦横無尽に駆け回り一機一機パプティゼインを蹴り砕いて行く。
その光景を見た神子の表情に、明確な焦りが浮かび上がった。
『この……っ! どいつもこいつもどいつもこいつも邪魔ばっかり……っ! いい加減、鬱陶しいのよ……っ!』
『鬱陶しいのは果たしてどちらかしらね。さあ、いい加減年貢の収め時よ……っ! 忌々しいその面、今度こそズタズタにしてあげるわ』
クリスはチェーンソーブレードを構えて
二人のクリスは互いに敵意を向け合い、チェーンソーの回転音が響き渡った。
『『さあ、斬り刻んであげる……っ!』』
二人は同時にそう叫び、
二人の
本当は親父のトコでこの音楽鳴らしたかったけど、長官もいたのでシゼルとモホークにBGMは譲りました。
リリスバフォメットの機動力が高過ぎるので、今までと違って甲達も此処で戦う必要があり、次は