BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
甲と真は神子が直接戦場に呼び出した10機のパプティゼインとの戦闘に突入し、クリスは並行世界の自分自身と対峙し共にブレードを振り下ろす。
クリスの二本のチェーンソーブレードを神子は己の二本のチェーンソーブレードで受け止め、残る二本のチェーンソーブレードを振り抜いた。
『その手は、食わないわよ……っ!』
だが、クリスは予め展開していたチェーンソービットでその二本のチェーンソーブレードの追撃を防ぎ、弾丸を放ちながら後ろに飛んだ。
攻撃が不発に終わった神子は舌打ちしつつ銃弾を躱し、改めてクリスに向き直った。
『……そのビットは射撃形態じゃなきゃ使えなかった筈だけど、格闘形態でも使えるよう改造したのね……っ!』
『ええ、強くなってるのが自分の機体だけだと思ってるのだとしたら片腹痛いわ。それに何? その滅茶苦茶な改造は────────腕を四本にして手数を増やすのは結構だけど、そんな無理を通すから防御力がガタ落ちしてあんな銃弾も回避する必要がある時点で、欠陥品よ』
そもそも、とクリスは続けた。
『
確かにクリスの言う通り、神子の機体はグリムバフォメットと比べて武装が増加し、特攻形態という強力な形態変化も手に入れている。
だが、その代償なのか防御力は今までクリスが見て来たシュミクラムの中でもダントツで低い。
普通であれば多少の銃弾は被弾覚悟でも構わないが、リリスバフォメットはその程度の傷すら痛打と成り得てしまう。
攻撃に特化し過ぎて、防御面を極限まで軽視した結果だった。
故に、神子相手には
牽制程度の弾幕でも、回避しなければ神子の機体は容易く致命傷を受けてしまう。
以前はレヴィアタンからの
だからこそ、足止めの為に神子は自分の分身をこうして送り込んで来たのだから。
『舐めるな……っ! 要は、当たらなければいいだけじゃない……っ!』
だが、特攻形態になればそのスピードと遠心力によってその弱点はカバー出来る。
そう考え、神子は機体のシフトプロセスを起動する。
『──それは、こっちの台詞よ』
『……っ!? がぁぁ……っ!』
──だが、クリスはそのプロセスを終える前に一瞬にして神子の機体に肉薄し、ブレードを一閃する。
クリスの攻撃によって神子のチェーンソーブレードのうち二本は斬り落とされ、シフトプロセスは中断を余儀なくされた。
『これが、弱点その2。確かにその特攻形態は強力だけど、エネルギー消費が激しく長時間は持続出来ない上、シフトするまでに数秒のタイム・ラグがある』
そして、とクリスは告げる。
『ブレードを一本でも失えば、もう特攻形態にはシフト出来ない。私相手に、迂闊なシフトの判断は軽率だったわね。軍人を舐めんじゃないわよ、素人』
そう、これこそ神子の最大の弱点。 数多の戦場を渡り歩いて来たクリス達と違い、神子は戦場でのまともな戦闘など数回しか経験していない。
しかも、その殆どがレヴィアタンの能力に頼ったごり押しとあっては、戦術眼など鍛えようがないのだ。
確かに神子の得ている知識は膨大で、状況を俯瞰する能力にも優れている為、大局的な物の見方をする作戦面となると凄まじい頭の切れを発揮する。
しかし、事が局所的な戦闘になればその経験のなさが祟り────────咄嗟の判断の拙さが、露呈するのだ。
今まではレヴィアタンという規格外の兵器があったからこそ甲達を圧倒出来ていたが、それが使えない状況下では幾ら機体の性能が高くとも戦闘経験の差で遅れを取ってしまうのだ。
今までの神子の戦略は、過程に違いこそあれど結局は
レヴィアタンという超兵器が手元にある以上間違った戦略ではないが、神子はその戦果から己の実力を過信した。
慢心が敗北に繋がる猛毒である事は、かつてのジルベルトを見れば一目瞭然であるにも関わらず────────彼女は、レヴィアタンの性能に溺れるあまりその思考を曇らせた。
言い訳しようのない、自滅と言っても差し支えない状況だった。
『……この、程度で……勝ち誇るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!』
──だが、次の瞬間神子は予想外の行動に出た。
背部に装着された最後のプレートを展開し、蠍の尾を思わせる鉤爪を露わにするとそれをパプティゼイン目掛けて飛ばした。
そして次から次へとパプティゼインを串刺しにし、10機の大型パプティゼインを全てその鉤爪で貫く。
『
そして、まるで蠍が毒を注入するようにリリスバフォメットの尾が脈動し、それに合わせて貫かれた10機のパプティゼインの機体が波打ち、異なる姿に変貌していく。
『させると思う……っ!? 穿て……っ!』
無論、それを黙って見ているクリスではない。
クリスはすかさずチェーンソービットを射出し、神子の機体を直接狙う。
しかし割り込んで来た別のパプティゼインが盾となり、ブレードは神子に届かない。
そしてその隙に、機体の変貌は完了していた。
──それは、まるで巨大な百足だった。
胴体部分を司るパプティゼインは脚部を折り畳み、両腕のチェーンソーブレードが偽足のように伸びている。
頭部に相当するリリスバフォメットからは二本のチェーンソーブレードがまるで強靭な牙のように展開されており、合計11機のシュミクラムがまるで一個の巨大な怪物のように合成されていた。
『
神子は狂気に染まった声色で、高笑いをあげる。
甲達は変貌した敵機の姿に、唖然としていた。
「……おいおい、合体だと……」
『……成程、その手がありましたか……』
戦闘を行っていたパプティゼインが神子の機体に引き寄せられた為、それらとの戦闘を担っていた甲と真がクリスに合流した。
甲は眼の前で起きた光景に眼を疑い、真はその巨体を見据えながら何事かを思案している。
無論、神子への警戒は怠っていない。
故に、その初撃に反応出来た事は幸運だった。
『さあ、薙ぎ払ってあげる……っ!』
「……っ!?」
──次の瞬間、
飢餓王が通った後の床面は大きく抉れており、その災禍を目の見える形で曝け出した。
凄まじい巨体でありながら、その速度は
単純な巨大質量の暴力が、今は何より脅威だった。
「あの巨体で、あのスピードかよ……っ! チッ、厄介だな……っ!」
『先輩、クリスさん、あいつを別の場所に誘導しましょう……っ! 此処にいては、千夏先輩達を巻き込みます……っ!』
『その方が良さそうね。折角残りの敵を引き受けてくれたのだもの、こっちもこっちできっちりケリをつけましょう』
クリスと甲は真の提案に頷き、戦場を移す為シュミクラムを疾駆させる。
それを見た神子はチェーンソーブレードの顎を開き、喜色に浮かんだ声を漏らした。
『あははははは……っ! 逃がさない、逃がさないわよ……っ! 必ず、轢き潰してあげるわぁ……っ!』
神子は戦場で戦う他の機体には目もくれず、飢餓王を駆り甲達を追いかけた。
そして全身のバーニアを噴射し、3機のシュミクラム目掛けて特攻する。
『……来ました……!』
『……散開……っ!』
それを予想していた甲達は弾けるように三方向に飛びのき、その突進を回避した。
だが、飢餓王はそのまま機体を旋回させ、再びクリスを轢き潰さんと迫り来る。
『死、ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……っ!』
有りっ丈の殺意と共に飢餓王が疾駆し、轟音と共にクリス目掛けて突進して来る。
その威容を前に、クリスは────────笑みを、浮かべた。
『──軍人を舐めるなと言った筈よ、素人』
『……ぐ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!??』
──瞬間、飢餓王の進路に仕掛けられた膨大な数の地雷が一斉に起爆する。
そして同時に頭上からはサテライトレーザーが降り注ぎ、飢餓王を中心に爆音が戦場に轟いた。
『フン、ただ逃げただけと考えるなんて愚かだったわね。まあ、理性がないんだから愚かなのは当然か』
クリスは全身に傷を負い粉塵の中に倒れ伏す飢餓王を見据え、吐き捨てるようにそう呟いた。
クリス達は、ただ逃げていたのではない。
イヴの協力を経て大量の地雷を設置し、その設置場所まで飢餓王を誘い込んだのだ。
今の神子は冷静さを失い、周りがまるで見えていなかった。
故にこそ、こんな罠にまんまと引っかかったのだ。
飢餓王は突進中は凄まじい勢いで移動する為殆ど無敵に見えるが、唯一腹部に相当する部位だけは装甲が薄く、攻撃を当てる事さえ出来れば大きな損傷を与える事が出来る。
地面を滑るように移動する為シュミクラムで直接攻撃する事は難しかったが、地雷を設置すればこの通り。 結果として、有効な致命打を与える事が出来た。
だが。 粉塵の中で、何かが蠢く気配がある。
再び飢餓王が動き出したかと思い、気付く。
粉塵の向こうに見えるシルエットは飢餓王のそれではなく、それはまるで
──そして、その姿を確認出来た時には、その巨大兵器は砲塔を展開し主砲の発射準備を完了させていた。
『……
神子の叫びと共に、滅びの極光が甲達に迫る。
「く……っ! しま……っ!」
『先輩……っ!』
真とクリスは咄嗟に退避するが、甲だけが一歩足りなかった。
甲は迫り来る極光を前に覚悟を決め、そして────────。
『何してるの、甲。諦めちゃ、ダメじゃない』
────────何処からともなく二条の赤い閃光が撃ち出され、その閃光が主砲の発射装置を撃ち貫き、主砲の発射は寸での所で食い止められた。
「……え……?」
そして、その窮地を救った者の姿を見て甲は固まる。
それは、赤を基調としたカラーリングの、
その雰囲気からは何処か甲の機体と同種のものを感じさせ、そのフォルムからしても何らかの関係があるのは明白である。
だが、甲はその機体が誰のものなのかを
あれはノインツェーンに見せられた記憶の中、ノインツェーンに乗っ取られた
『──久しぶりね、甲』
「そ、ら……?」
────────灰色のクリスマスで死亡した、甲のかつての恋人。 水無月空に、他ならない。
甲は表情画面に映った空の顔を眺め、ただ呆然と彼女の姿を見つめていた。
次の話のBGMは彼女の名前を冠したアレです。次回をお楽しみに。