BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
『坊主、聞こえるか……っ!』
甲はシュミクラムで構造体を進んでいる最中、永二から通信があり表情画面に永二と勲の姿が映し出された。
現在真とクリスは諸事情で
『こっちは粗方片付いた……っ! 残りを片付けたら、そっちに加勢に向かうぜ……っ!』
『無理をする必要はない。レヴィアタンの進行を止めてくれれば、全戦力総がかりで戦えるからな』
イヴの表示したデータによれば二人の機体はほぼ無傷で、敵はあと数体まで減っている。
分かってはいたが、呆れた殲滅力だ。
二人がそう告げ終わると同時、今度はレインと千夏から通信が入り二人の顔が表情画面に表示される。
『甲さん、こっちもあと少しで殲滅が完了します……っ! 敵の殲滅が完了し次第、そちらの援護に向かいます……っ!』
『長官のおっしゃった通り、無理すんじゃないよ甲……っ! 待ってな、すぐにこいつらを片付けてそっちに行くからさ……っ!』
そして二人が話し終えたタイミングで、今度はジルベルトと久利原の姿が表情画面に映し出される。
『フン、こっちもあと少しでカタが着く。俺様が殴る分は残しておけよ』
『私もあと数体で敵の殲滅が終わる。此処が片付き次第、助力に向かおう』
どうやらジルベルトは相手の数が他の場所程多くはなかった為か、機体数か所に損傷があるが、まだ戦えるレベルのようだ。
久利原は単騎で凄まじい数の敵を撃墜しており、損傷らしい損傷も見られない。
これで、構造体に蔓延るパプティゼインの軍勢は殆ど撃破出来た事になる。
『甲、アセンブラの書き換えももうすぐ完了する……っ! 起動自体は止められないけど、環境浄化ナノに戻せる筈だよ……っ!』
『こちらも対地射撃衛星群の制御を取り返す事に成功したわ………………最後は妙に、抵抗が少なかったけれどね』
続けて、亜季と聖良から通信が届く。
どうやら、懸念事項だったアセンブラと対地射撃衛星群もどうにか出来たらしい。
これで後顧の憂いはなくなり、万全の体勢でレヴィアタンに挑める事になる。
そして遂に、甲の前方に浮遊する見覚えのある黒い球状の巨体を発見した。
「追いついたぞ、レヴィアタン……っ!」
──その巨体、レヴィアタンは以前見た時よりサイズが一回り小さくなっていた。
外殻の隙間からは緑色の粘液が出血のように流れ出ており、粘液は地面に到達すると次から次へと霧散していく。
外殻自体も罅が入っており、周囲から取り込んだ構造物で外殻を補強しているようだが、それでも尚粘液の流出は止まっていない。
レヴィアタンは以前と比べ、見るからに満身創痍に見えた。
『嗚呼、甲……来てくれたのね……』
レヴィアタンは甲に気付くとその機体を旋回させ、カメラアイをこちらに向けた。
そのカメラアイに重なるように神子の影が浮かび上がっており、血走った眼で甲を見据えている。
「此処までだ、神子……っ! 既に、レヴィアタンの負荷発生能力は消えた……っ! 今ならそいつにも、攻撃が届く……っ! そして、アセンブラは書き換えられ、対地射撃衛星群の制御も取り戻した……っ! もう、後がないぞ……っ!」
甲の言う通り、レヴィアタンの内部で撃ち込んだプログラムの影響を受けたレヴィアタンは容量の増大と収縮を繰り返す事が出来なくなり、負荷発生能力を失っている。
故に今までレヴィアタンを守っていた無敵の負荷フィールドは最早存在せず、攻撃を届かせる事が可能となっている。
それでもその巨体と主砲の威力は脅威だが、これまでと違い
だが、追い詰められた筈の神子は口元を歪めて高笑いをあげた。
『フフ、アハハハハハハハハハハハハハハ……ッ! ええそうね、確かに私は追い詰められたわ………………アセンブラの書き換えはもう止められず、対地射撃衛星群の制御は
けど、と神子は告げる。
『逆に言えば────────
『……っ!? 甲さん、早くレヴィアタンを倒して……っ! 彼女は現実への干渉を打ち切って、その莫大な干渉能力を手元に確保しているわ……っ!』
神子の発した言葉に通信を繋いでいた聖良はハッとなり、甲に対して悲鳴じみた声をあげた。
──だが、その判断は遅過ぎた。
オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……っ!」
──瞬間、レヴィアタンの咆哮が轟き、甲は凄まじい圧力を受けてその場から動けなくなった。
もう見る事はないと思っていた
そして、レヴィアタンは構造体中から吸い上げた情報を手当たり次第に取り込み、その姿を変えて行く。
『緊急事態発生……急いで下さい……レヴィアタンが残った干渉力を投入し、この空間の制御を●●▲■※▲……』
『イヴ……っ!?』
それと同時にイヴの姿が乱れ始め、言葉にもノイズが混じり始めた。
表示されたマップを見れば、倒された筈のパプティゼインが復活し戦線に復帰している。
各地ではパプティゼインとの戦闘が再開しており、今此処に向かえる者は誰もいない。
『このままでは……この空間が……●▲■※●▲……』
やがてイヴの言葉が聞き取れない程スローになり、その姿も消えてしまった。
そして────────レヴィアタンの変貌もまた、完了していた。
レヴィアタンの機体は元のサイズに近くなる程巨大化しており、粘液の流出も止まっている。
外殻の隙間からは9つの
像の胸部にはカメラアイが変化したと思われる生物的な眼球が埋め込まれており、不気味な紅い単眼が甲の姿を見つめている。
『もう、この世界に未練はないわ。甲、私は貴方を取り込んで一緒に別の世界に向かう事にするわ。アセンブラで滅んだ世界線にでも向かえば、今度こそ私達の邪魔をする者は誰もいない………………ずっと、二人だけで愛し合えるのよ』
神子の姿を模した女神像の口が動き、彼女の声が聞こえて来る。
『他の誰もがいない世界で、永遠に愛し合いましょう………………さあ甲、私の所に帰って来て……っ! 離さない、逃がさない、逃ガサナイ、逃ガサナイ……っ! 愛シテル、愛シテル、愛シテル、愛シテル、愛シテル、愛シテル、愛シテル、愛シテル、愛シテル、愛シテル、愛シテル、愛シテル、愛シテル、愛シテルノ……ッ!!』
歪んだ愛を叫びながら、
甲はその奥の深淵を垣間見て、焦燥と共に絶叫する。
『動け、動け動け動け動け動け動けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……っ!』
幾ら力を込めても、身体が鉛のように重く機体は一歩も動かない。
動きの取れない甲目掛け、レヴィアタンの腕が閉じられる。
──
『ぎっ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!?』
──その場に響いたイヴの声と共に、
伸ばされていた
『▲■●▽●◎▽▲■●※●◆■▲★▲……。……●■◎▽★▲……処理速度同調……完了……体感時間の速度、微調整しました』
イヴの声と共に機体を襲っていた負荷が消え、周囲の景色の歪みも元に戻って行く。
そして甲は、気付いた。
「これは……っ!」
────────上空に、黒い穴が開いている。
途方もない規模の何かが、その穴の向こうにはあった。
『特異点の助力で、レヴィアタンの負荷を処理しました。同時にレヴィアタンに無理な拡張に伴う反動が発生し、結果として攻撃は中断されました』
『ば、馬鹿ナ……っ! 特異点は、特異点は発生しないハズ……っ! だって、この世界にはもう、クゥはいない筈なのに……っ!』
黒い穴────────特異点を見て、神子は怯えるような声をあげている。
心底から混乱している神子に対し、その疑問に答える
「──確かに、この世界にクゥはいない。けど、
「え……?」
甲は声のした方を向いて、気付く。
そこには、
その人物のIDを確認し、甲は眼を見開く。
彼のIDは────────ノインツェーンが見せてくれた記憶に出てきた、甲の模倣体と、全く同じものだった。
「お前は……俺の、模倣体なのか……?」
「ああ、亜季姉ぇがお前とあいつの話を聞いて、模倣体に特異点に繋がる何かがあると察したらしい。俺の凍結を解除して、後は俺の好きにさせてくれたんだ」
それに、と彼は続けた。
「今此処には、俺だけじゃなく空もいる────────だから後先を考えなければ、一度限り特異点を開く事が可能になったのさ」
甲の模倣体────────コゥは笑みを浮かべてそう告げるが、その身体は罅割れ消えかけている。
その命があと僅かしかないのは、誰の眼にも明白だった。
「お前は……」
その身を案ずる甲を見て、コゥはすっきりとした笑みを浮かべた。
「俺は消える。無理をして特異点を招いた代償としてな。この世界じゃ、門倉甲はお前なんだ。悲しむ事はない。俺は俺の役割を果たせれば満足さ」
「──ええ、貴方を送り出す事が出来れば────────私達は満足よ。だから、必ず生きて帰って来て。あの子達を、悲しませないようにね」
そして、同じく身体が半透明になり消えかけている空が現れ、甲に微笑みかけて来る。
彼女もまた、自身の身を賭して特異点を招いた為に電子体が消滅を始めているのだ。
しかし空はそれでも笑みを絶やさず、甲を激励してくれている。
「空……」
甲はそこで言葉をかけようとして、飲み込む。
此処で空にかけるべき言葉は、一つだけだ。
空は甲を真っ直ぐに見据え、意を決して口を開いた。
「さあ、貴方の正義────────貫いてみせてっ!」
「
──心の底から
そして、各地で戦っている仲間達に想いを馳せた。
『性懲りもなく復活しおって────────良い度胸だっ! 俺様の邪魔をするなら、纏めて嬲り殺しにしてくれるわぁぁぁぁぁ……っ!』
彼が悪行を成した事実は消えないが、今この瞬間だけは彼は共に闘う
『最後の足掻きか……いいだろう。ならば、一機残らず斬り捨てるだけだ……っ!』
だが彼は邪悪な意志に支配されながらも希望を残し、甲達が未来を切り開く一助となってくれた。
甲にとって彼は、掛け替えのない
『彼の戦いに直接助力出来ないのは残念だが、せめてこいつ等は全滅させよう……っ! これ以上、彼の邪魔はさせん……っ!』
『ああ、甲に心配をかけるワケにゃあいかねぇ……さっさと駆逐するぞ、勲……っ!』
過去の遺恨はなくなり、今は全力でその力を甲達の為に振るっている。 二人は甲にとって、頼もしい
『千夏さん、全力で生き残りますよ……っ! 此処で死んだら、甲さんに愛して貰えませんからね……っ!』
『それは勘弁……っ! じゃあ、全力で生き残りつつこいつらを全滅させなきゃね……っ!』
彼女達は甲の為に、今も戦ってくれている────────その想いに応える為にも、この戦いは決して負けられないのだ。
『さあ、行くわよ甲』
『──準備は出来ました。行きますよ、先輩……っ!
背中には光体翼とチェーンソーウイングが展開され、機体の各所に白と紫のラインが入り、脚部には純白のブースターが装着される。
その姿は甲の恋人である
そして二人の翼を背負った甲は、レヴィアタンと対峙する。
機体の変化に違和感はない。むしろこいつに乗り始めて、最高の一体感がやって来る。
「
──
──甲が飛翔し、レヴィアタンが鳴動する。
最後の戦いが、始まった。
原作では親父の掛け声でBGMが始まりますが、親父は別の場所で戦っており、代わりに掛け声をかけるのは空しかいないと考え、彼女に激励を担当して貰いました。
消えゆくかつての恋人からの、最後の激励…奮い立たなきゃ嘘ですよね。