※この作品はR-18です。

BALDR SKY Another World /世界X+Ω   作:デスイーター

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結末ーSilent Sky Ⅱー

 レヴィアタンの崩壊と同時に砕け散った巨体から無数の光が出現し、各地へ飛び去って行く。

 

 レヴィアタンに囚われていた電子体が解放され、あるべき場所へと帰って行くのだ。

 

 生者の電子体は実体の下へ、死者の電子体は無意識の海へと戻って行く。

 

 それはまるで空を駆ける流星のようで、構造体の上空を光の流星が埋め尽くしていく。

 

 そして、レヴィアタンの崩壊した事により────────刹那の命を得ていた者達の時間もまた、終わろうとしていた。

 

 

「……フン、終わったか。忌々しいが、奴の腕だけは一流と認めざる負えんようだな……」

 

 ジルベルトは無数のパプティゼインの残骸の中、電子体に戻って空を流れる光の群れを眺めていた。

 

 彼は全身に裂傷を負い、至る所から血が滴り満身創痍の姿だった。

 

 だがその表情は何処か満足気で、笑みすら浮かべる余裕があった。

 

「全く、思い返してみれば散々な結果だ。奴への復讐は叶わず、俺様の実体は死亡した────────だがまあ、あの女へ一矢報いる事が出来たのだ。今回はそれでよしとするしかあるまい」

 

 ジルベルトの電子体は、既に足元から消滅が始まっている。

 

 彼を現世に繋ぎとめていたレヴィアタンが機能停止した事で、彼の電子体もまた無意識の海へ戻ろうとしているのだ。

 

 しかし、死の淵にあってもジルベルトは恐怖を露わにしたりはしなかった。

 

 彼にとって、実体が死亡した時点で自分は死んだも同然なのだ。

 

 実体の死をその目で見ていなかったのであればこうまで潔く諦める事はなかったのだろうが、幸か不幸か彼は自分の実体の死を目撃している。

 

 だからこそ、今更電子体が消えた所で走馬灯を見終わった、くらいにしか感じていないのだろう。

 

 

「俺様のいなくなった後の世界など興味もないが、精々守り抜いた世界でみっともなく生き足掻き続けるがいい……っ! 貴様との決着は、貴様が死ぬまで預けておいてやろう……っ! 覚えていろよ門倉甲……っ! 俺様はジルベール=ジルベルト……ッ! あの世で貴様を待つ、貴様の生涯の宿敵だ……っ! クク、ハハ、クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……ッ!」 

 

 

 そして、その言葉を最後にジルベルトの電子体は消滅し、後には何も残らない。

 

 こうして、ジルベルトの生涯は終わりを迎えた。

 

 意識は無意識と同化し、彼という個は消え去った。

 

 しかし、彼はいつまでも待ち続けているだろう。彼の宿敵との、決着の時を。

 

 

「やり遂げたか、甲君………………君は、いつも私を驚かせてくれるな」

 

 斬り刻まれたパプティゼインの残骸の中、久利原は空を舞う流星を見て表情を綻ばせた。

 

 ジルベルトと違い彼に目立った傷は見当たらず、膨大な数の敵をほぼ無傷で倒し尽くした事が伺える。

 

 敵の性能が著しく劣化していた事もあるが、神父の打倒という目的は神父に苦しめられた久利原にとって、全霊で挑むに相応しいものだったのだろう。

 

 本懐を果たし、久利原の顔には清々しい笑みが浮かんでいる。

 

「私が遺した希望の鍵を、君はしっかりと手に取り形にしてくれた………………ならば我々過去の亡霊は、後を濁さず立ち去るのみ。我が生涯に後悔はあれど、この結末に悔いはない。私は、誇らしき生徒達に後を託す事が出来たのだから」

 

 レヴィアタンの機能停止により、久利原の電子体もまた消滅を始めている。

 

 だが久利原の顔に恐れはなく、満足気な笑みを浮かべていた。

 

 彼にとっての自身の生涯は、神父に身体を乗っ取られた時に終わったのである。

 

 最大の懸念事項だったアセンブラの問題も解決出来た今、久利原に悔いなどあろう筈もなかったのだ。

 

 

「──さらばだ、甲君。浄化された世界で、健やかに生きるがいい………………他の皆も、達者でな」

 

 

 久利原は笑みと共にそう呟き、彼の電子体は消滅する。 波乱に満ちた彼の人生は、今この瞬間終わりを告げた。

 

 彼は無意識の向こう側で、安心して眠りに就く事だろう。 自分の生徒達の、幸福を信じて。

 

 

『レヴィアタンの停止を確認した………………甲君は、やり遂げたようだ』

『流石は俺の息子だ。俺も、父親として鼻が高いぜ』

 

 勲と永二の二人は、膨大な数の残骸の中でシュミクラムを纏ったまま、空を流れる光の流星を見つめている。

 

 機体に目立った傷はなく、ほぼ無傷でこの膨大な数の敵を駆逐し切った彼等には、まさしく凄腕の呼び名が相応しいだろう。

 

『しかし、制御を奪われた対地射撃衛星群の掃射によって統合軍の主力部隊は壊滅してしまった………………情報によれば、統合軍の中枢もその殆どが殉職したらしい。このまま放っておけば、各地の反統合勢力が活発化して世界は混乱の坩堝に飲み込まれるだろう』

 

 そう、神子は対地射撃衛星群の制御を奪い、各地の統合軍基地を攻撃した。

 

 彼女の目的はアセンブラを焼き払える核兵器の消去だったのだろうが、その攻撃に巻き込まれる形で統合軍の主要メンバーの殆どが死亡してしまった。

 

 統合の力が落ちた事が伝われば、各地の反統合ゲリラが動き出し数多の戦乱が巻き起こるだろう。

 

『──そうならない為の尽力は惜しまないわ。幸いと言っていいのか、生き残っている統合軍の将校で一番力があるのは勲さんよ。レヴィアタンを討伐した功績を鑑みれば、統合を纏めあげる事は不可能ではないわ』

 

 聖良は通信を開いてそう告げ、続けた。

 

『対外的には、勲さんが主導になって対地射撃衛星群の制御を奪い返した事にしておきましょう。そうなれば民衆からも英雄扱い………………悪いようにはならない筈よ』

 

 聖良から今後を見据えた打開策が提示され、その提案を聞き勲は渋い顔をする。

 

『……しかし、それでは甲君や君の功績を横取りした事になる。張りぼての英雄に、民衆は付いて来てくれるだろうか……?』

『オメェは難しく考え過ぎなんだよ。甲も聖良さんも、別に功績を誇ろうってタチじゃねぇ……平和の為に必要なら、甲だって否とは言わねぇ筈だぜ』

 

 それにだ、と永二は続ける。

 

『今必要なのは、統合を纏め上げるまともな人格を持った指導者だ。お前の組織を纏める手腕は確かなんだから、申し訳ないと思うなら結果で示すしかないだろう』

 

 勲の懸念を永二は鼻で笑い、それを聞いて勲は渋面を濃くしながらも溜め息を吐いた。

 

 色々思うところはあるが、今の永二の言葉が正しいのは確かだからだ。

 

『……そうだな。今は何よりも結果が必要だ……その為なら、恥でも何でも呑み込もう。お前にも手伝って貰うぞ、永二。時には力が必要な場合も出て来るからな』

『安心しな、テロリストの撲滅なんかには力を貸してやる。だが、フェンリル(俺達)は高いぜ? 代金は出世払いにしてやるから、さっさと成り上がれってんだ』

 

 勲と永二は、そう言って互いに笑みを交わした。

 

 過去の遺恨は、この戦いを以てその全てが取り払われた。もう、手を取り合う事に躊躇う必要など有りはしない。

 

 甲達が守った世界を維持していくのは、自分達大人の役目だ。

 

 彼等はそれを、十分に理解している。

 

『フン、お前も相変わらずだな……いいだろう、統合を纏めた暁には利子を付けて返してやる。代わりに、甲君の結婚式には必ず呼んでくれ。本妻以外の子達の式も、内々でやる分には構わないだろう……その為の出資は惜しまんからな』

『安心しろ、もしレインと渚の嬢ちゃんが甲とくっ付いた時には仲人をやらせてやる。本妻は多分真ちゃんかクリスの嬢ちゃんで決まりだろうが、それであの子達が諦めるとは到底思えないしな。ハーレム上等、甲なら全員受け止めてやれる筈だぜ。曲がりなりにも、俺の息子なんだしな』

 

 勲と永二は笑い合い、軽口を交わした。

 

 その言葉が何処まで本気かは分からないが、彼等はこれからも甲達にとって頼もしい大人でい続けてくれるだろう。

 

 

『イージー、オペレーション……ッ! このくらい、クリスと真(あの子達)を出し抜く事に比べたら簡単ね……っ!』

『そうですね……っ! あの二人を相手にするなら、このくらい出来なきゃ始まりませんよね……っ!』

 

 千夏とレインはシュミクラムのまま軽口を叩き合うが、膨大な数の敵を相手に奮闘した為機体の各所には傷が目立ち、疲労困憊の様子だった。

 

 それでも強がっているのは、彼女達の意地が成せる技だろうか。

 

『……ふぅ、あの戦いの後でそれだけ元気があるとは呆れたタフさだな────────或いは彼女達に此処までさせる、甲君の器に感心するべきか』

『甲は良い戦士だ。彼女達の誰を娶っても、必ず幸福に出来るだろう。それが一人か複数かまでは、分からんがな』

 

 そんな二人の姿を見て、シゼルは呆れた声を、モホークは何処かズレた言葉を口にする。

 

 彼女達も無傷とはいかず、機体の各所に損傷が見受けられるが────────それでもまだ戦闘続行が可能であるあたり、歴戦の勇士の貫禄を感じさせた。

 

『少佐、あの……』

 

 そんな中、レインが表情画面を開きシゼルに近付いて来た。

 

 その態度は控えめだが、彼女の瞳には確固たる意志を感じさせる。

 

『分かっている。甲君の下で向かいたいのだろう? 二人共戦線離脱を許可する────────精々、胸に飛び込んで困らせてやれ』

『『了解(ヤー)……っ!』』

 

 シゼルは笑いを堪えながらレイン達にそう告げ、レインと千夏は笑みを浮かべて返答すると一目散に甲のいる場所目掛けて駆けて行った。

 

 シゼルとモホークはそんな彼女達の後姿を見て溜め息を吐き、自分達も永二と合流するべく機体を疾駆させていった。

 

 

「終わった、か……」

 

 空は一人、地面に散らばったレヴィアタンの残骸を見て呟いた。

 

 既にその身体は殆ど半透明になっており、消滅まではあと僅かだろう。

 

「いいのか? このまま消えても?」

「ええ、甲との別れはもう済ませたわ………………立つ鳥後を濁さず。甲の事は、あの子達に任せれば大丈夫。私は甲が幸せなら、それでいいから」

 

 同じく消滅しようとしているコゥの言葉に、空は笑顔でそう応えた。

 

 そして、レヴィアタンの残骸の傍に降り立った甲を見つめて笑いかける。

 

 

「──バイバイ、甲………………いつまでも、幸せにね」

 

 

 その言葉を最後に空の身体は消滅し、コゥの身体も彼女の後を追うように消え去った。

 

 願わくば、彼女達の魂に安寧があらん事を。

 

 

『レヴィアタン、機能停止しました』

 

 イヴの言葉が仮想の大地に響き渡り、甲は周囲の安全が確認された事を知るとレヴィアタンの傍に降り立ち、電子体に戻った。

 

 それと同時に、甲の両隣にクリスと真の電子体も出現する。

 

「終わった……ようだな」

「はい、先輩」

「……そうね」

 

 甲の呟きに真は満面の笑みで、クリスは複雑な顔で相槌を打った。

 

 クリスとしては、この一連の事件の元凶が別の世界の自分である事もあり、複雑な面持ちであるのだろう。

 

 無論同一人物と言っても彼女と神子は別物である為、彼女に責任を追及する者はいないだろうが。

 

 

「……アァ……こ、ぅ……」

 

 

「……っ!? 今のは……」

 

 だがその時、レヴィアタンの残骸の中から掠れた声を聞き、甲は眼を見開いてその声の下へ向かった。

 

 ────────そこには、レヴィアタンの残骸に半身を押し潰され、瀕死の状態の神子の姿があった。

 

 神子は最早眼も見えないのか、声を頼りに虚ろな眼でこちらを見据えている。

 

「……大丈夫、その女はもう死ぬわ。元々無理を重ねて来たんだもの、当然の結果ね」

「先輩……」

「……クリス……」

 

 甲の呟いた名前は、果たしてどちらを指していたのだろうか。

 

 しばしその場で固まっていた甲は、複雑な表情で彼女の傍に歩み寄った。

 

 そして甲の存在に気付いているのかいないのか、クリスは溜め込んだ鬱憤と共に自らの想いを吐き出した。

 

「……どう、して……私には、愛される資格もないの……? 誰も、褒めてくれなかった……誰も、私を認めてくれなかった……っ! お爺様も、あの親戚達も、私が初めて愛した男でさえも……っ! どうして、どうして私はこんなに不幸でなきゃいけないの……っ!? 今まで不幸だった私が、幸福を求めて何が悪いと言うの……っ!?」

 

 彼女の叫びは、彼女の心の奥底に秘められていた慟哭そのものだった。

 

 あの世界のクリスはグレゴリー神父によって教団幹部として育てられていた為に神父が没した後は親戚中を盥回しにされ、ドミニオンの機械に接続して昏睡状態に陥った後は腫物扱いが悪化していた。

 

 ようやく自分を受け入れてくれた六条夫妻へ強過ぎる恩義を抱いた結果、夢から得た断片的な情報で暴走してしまい、最後には初恋の相手への感情を自分のものと認められず。

 

 結果として彼女は甲の手で倒され、実体もまた灰色のクリスマスで失われた。

 

 彼女の行動力の原点は、強過ぎる承認欲求だ。

 

 彼女は、()()()()()()()()()()()人間である。

 

 惰性で生きて行く事を許せず、自分の生きる意味を、自分の価値を誰かに認めて貰いたかった。

 

 神父は勿論の事、親戚達は彼女を厄介者としか見ておらず、六条夫妻は彼女を受け入れてくれたが……電脳症によって猜疑心が強まっていた彼女は無償の愛情を享受しきれず、結果として暴走してしまった。

 

 そして今は、甲に()()()()()()()()()()()()()此処までの凶行を引き起こしてしまったのだ。

 

 理性を失い、善悪の観念も消え果てた彼女にとっては、己の凶行も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という思い込みから始まったものに過ぎない。

 

 この世界のクリスと違い、電脳症によって猜疑心が肥大化した彼女にとって、他者の愛を勝ち取る為には明確な()()が必要だと考えてしまった為の悲劇だった。

 

「クリス……っ!」

「……え……?」

 

 その痛々しい姿を甲は見て居られず、衝動的に彼女の手を握り締めた。

 

 甲に手を握られた神子は驚いた表情で、ただ呆然としている。

 

「君が苦しんだ事は、充分分かった。けれど、だからと言って君のした事が許されるワケじゃない……だから、君を受け入れるワケにはいかないけれど……」

 

 甲は痛い程の力を込めてクリスの手を握り、告げる。

 

 

「──────それでも、俺を好きになってくれて………………ありがとう」

 

 

「────────! あぁ、そうか────────私は、ずっとそう言って欲しかったのね……」

 

 甲の言葉を聞き、クリスは安堵した表情を浮かべた。

 

 ただ、()()()()()という感謝の言葉が、彼女の心に染み渡っていく。

 

 自分の罪が許されたワケではない、甲から愛して貰えたワケでもない。

 

 けれど、甲は自分の愛を()()()()()()()────────それだけで、彼女の狂気は憑き物が落ちたかのように薄れていった。

 

 何故なら彼女にとって、それは初めて()()()()()()()()()()()だったのだから。

 

 あの世界で暴走している最中のクリスはどんな言葉を聞いても、自らの猜疑心がフィルターになってそれを素直に受け取る事が出来なかった。

 

 しかし、数多の世界を見てその猜疑心が間違っていた事を知った今のクリスだからこそ、甲の言葉を受け入れる事が出来たのだ。

 

 あの世界でクリスが暴走した原因も、元を正せば()()()()()()()()()()という想いが空回りした結果である。

 

 彼女はただ、己の正義を貫く方法を間違えてしまっただけなのだ。

 

「……私は、今まで、なんて事を……許されるとは、思ってないけど……でも……そんな、私に……優しい言葉を、かけてくれて、嬉しかった」

 

 クリスの身体から光が溢れ、電子体が現実感を失っていく。

 

 自身の半身たるレヴィアタンが機能停止した今、実体のない彼女が存在する事はもう出来ない。

 

 しかし、その顔は安らかで────────今まで彼女が纏っていた狂気は、既に消え去っていた。

 

 

「あり、がとう………………貴方を好きになって、良かった」

 

 

 ──────そして、クリスの身体は跡形もなく消え去った。 彼女がいた痕跡は、もう何処にも存在しない。

 

 だが、その最後の表情は────────安堵の笑みで、満たされていた。




 原作では特異点を通じて情報を送った各ルートのラストの結果が示されるシーンですが、こちらでは戦場で戦った仲間達と、ラスボスの最期を描写しました。Xクリスの表記が後半で神子(クリス)からクリスに変わっているのは仕様です。
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