BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
前日譚ーHired soldier Daysー
「さて、と……」
シュミクラムに
その隣には禍々しいチェーンソーの両腕を備えたスリムな機体、
『じゃあ、予定通り私は雑魚を片付けるわ。中枢への侵入は任せるわよ』
「ああ、頼んだ! 行くぞ! 真ちゃん……っ!」
『はいっ! 先輩っ!』
クリスの機体が視界の隅から湧いて来たウイルスに向かって行った事を確認すると甲も何処からともなく聞こえて来た真の声に応答し、シュミクラムを構造体の奥へと走らせた。
そして、甲の視界の端には、デフォルメされた真の人形のようなものが浮かんでいる。
────────これは名称を『コネクトアバター』と呼び、これは甲の脳内チップに間借りしている真が独自に甲をサポートする為に作り出した特殊なアバターである。
あの日の誓い通り、甲とクリスは傭兵訓練校に通った後、正式な傭兵となってドレクスラー機関を追い、世界を駆け巡った。
二人だけであれば統合軍に入るという選択肢もあったが、真を狙った者が何者なのか分からない以上、組織に属するのは危険と判断して最初からフリーランスの報酬度外視の傭兵として動いていたのだ。
電脳世界で過剰な程のスペックを持つ真ではあるが、実体がない以上傭兵訓練校で傭兵になる事は出来ない。
……しかし、真は持ち前の行動力を活かし、自分の特性を利用した他者には真似出来ないサポート方法を編み出したのだ。
それが、この『コネクトアバター』────────
当然の事ながら、戦闘中は戦闘行為にかかりきりで周囲の索敵が疎かになる場合が多い。これは、仕方のない事だった。
だが、このコネクトアバターを用いる事で戦闘中リアルタイムで周囲の索敵を行い、奇襲を防ぐ事が出来る。
更には敵拠点で吸い出したデータを甲の代わりに解析する等、正に痒い所に手が届くサポート能力と言えた。
名称こそ『アバター』と付くが、その本質は甲の視覚野に直接情報を伝えるホログラムのようなものだ。
見た目が可愛らしいのは真の趣味だが、実用性は抜群である為甲も異論を唱えるつもりはない。
しかしながら、この『コネクトアバター』も万能ではない。
甲のサポートが出来るとはいえ、真のようにセキュリティをすり抜ける特性を付加出来るワケではなく、真の精神が何らかの原因で乱れれば、当然甲にもフィードバックがある。
真の電脳症の症状を考えれば、直接繋がっているに等しい甲にも、何らかの悪影響を与えかねない。
例えるなら二人乗りでシュミクラムを操っている感覚に近い為、この力を用いて十全なサポートを行うには真本人が自身の能力を磨かねばならなかったのだ。
事実、当初は並程度だった真の情報解析能力は彼女の血の滲む努力によって並の電脳将校を凌駕する程のものに成長していた。
また、彼女は電脳症の症状故にセキュリティがそもそも
コネクトアバター自体も真の試行錯誤の末の産物であり、決してお手軽なチート能力などではないのだ。
そんな彼らは現在、サウジアラビアの廃棄された研究施設の構造体に
この構造体でドレクスラー機関の反応を検知した為、州政府の作戦に便乗する形で潜入したのである。
『先輩! 前方にシュミクラム2機とウイルス3機! 迂回路には大量のウイルスが跋扈しています……っ!』
「わかった! 迂回路はなしだ……っ! このまま進み、手早く殲滅する……っ!」
真の報告を受け、甲は扉を抜けて敵シュミクラムを視認した瞬間、ミサイルランチャーを発射して敵が反応する前に3機のウイルスを吹き飛ばした……!
そしてその爆炎に紛れ、甲の腕から鉤付きのワイヤーが伸び、敵シュミクラム一機を捉えて引き寄せる……!
「喰らえ!」
甲はそのままの勢いで相手の頭部にパイルバンカーを叩き込み、頭部を破壊された敵のシュミクラムは何の抵抗も許されず爆散した……!
残った一機のシュミクラムは味方機が倒れた事を知り今更ながらに迎撃態勢を取るが、甲の前ではその反応はあまりに遅すぎた。
「甘いんだよ……っ!」
この期に及んで爆煙で甲の位置が掴めていなかった敵機に、甲は一気に肉薄する。
足払いを仕掛けて転倒させそのままパイルバンカーを頭部に打ち込み、二機目のシュミクラムも即座に破壊した。
爆散したシュミクラムの破片が散らばり、周囲に静寂が満ちる。
『お疲れ様でした、先輩。もう中枢まで、目立った敵はいません。このまま進みましょう』
「……ああ、そうだな」
自分が
今の自分を学園生時代の自分が見たらどう思うだろうか、と約体もない事を考えながら……。
幾ら覚悟を決めたとはいえ、甲は灰色のクリスマスが起きるまでただの一度も殺人を経験した事などない。
口ではなんと言おうが、
その事が後々取り返しのつかない事態を招くと危惧したクリスは、甲の初陣で敵シュミクラムを殺すよう強要し、その後も戦場でシュミクラムに出会った際は積極的に相手を脳死に追い込むよう仕向け続けた。
無論虐殺の域にまでは至っていないが、クリスのそんな行動の影響か、気が付けば戦場では敵を容赦なく脳死させる悪鬼として悪名が轟いてしまっていた。
クリス当人は「傭兵の悪名なんて英名も同じよ。それに、有象無象が寄り付かなくてこっちの方が楽でしょう?」と開き直る始末だし、戦場で知り合った傭兵のマーカスなどには、「俺が忠告するまでもなかったな。おっかない嫁さんに感謝しろよ」などと言われてしまった事もあった。
この件に関して、甲はクリスにどうこう言うつもりはない。
傭兵として数多の戦場を駆け回った今となっては、クリスの危惧が極めて正しいものだったと理解しているからだ。
もしクリスが甲に相手を殺すよう強要していなければ、土壇場で迷いが生じ────────その結果、最悪の事態に至っていた可能性もあったのだ。
クリスは甲の性格から将来起き得るであろうリスクをシュミレートし、自身が汚名を被ってまで甲の為に行動してくれたのだ。
「甘やかすだけが愛じゃないのよ」と、ゾッとするような笑みを浮かべながら。
……そして、感覚を共有している以上敵を脳死させた感触は当然真にも伝わっている。
しかし真は泣き言一つ言う事なく、人を殺したという事実を受け入れた。
だが、真は予想外の事態にこそ弱いものの、一度覚悟が決まってしまえば極めて強靭な精神力を発揮する特性を持っていた。
真は持ち前の精神力で人殺しの業を受け入れ、甲に付いて来てくれた。
こんな自分に付いて来てくれた二人に、甲はほとほと頭が下がる思いであった。
『先輩! あの扉の向こうが中枢です……っ! 周囲に敵機、ありませんっ!』
「
甲は真の報告を受け、そのまま目の前のシュミクラム用の大型の扉を潜り抜けた。
クリスが敵を引き付けている影響か、中枢にシュミクラムやウイルスの姿はなく、無防備にデータベースが目前に晒されている。
……予想に反して、データベースにはドレクスラー機関の人間やそれに関わっているであろうドミニオンの姿は欠片も見えなかった。
此処でドミニオンの人間に遭遇したのならば、情報の信憑性も高まると思っていたのだが────────。
────────ドレクスラー機関を追う中で、甲はクリスが言った「ドレクスラー機関を追う事とドミニオンを追う事は同義」という言葉を身を以て実感する事になった。
ドレクスラー機関を追う中で必ずと言って良い程ドミニオンの名前がチラつき、挙句の果てにドミニオンの信者が直接の妨害行動に出てきた事もある。
久利原を追う中で何度もドミニオンと交戦するうち、甲の中では久利原こそが神父の正体である、というクリス達の推論が些か現実味を帯びて来ていたのは事実だった。
「ドミニオンの連中はいない、か。なら、早速データを引き抜こう。真ちゃん、周囲の警戒頼む」
『はいっ、お任せ下さい!』
甲は周囲の索敵を真に任せ、シュミクラム用の接続プラグから中枢のデータベースにアクセスし、データの引き抜きを開始した。
今度こそドレクスラー機関の尻尾を掴めるのではないかという想いが、データ引き抜き完了までの時間を妙に長く感じさせた。
『先輩……っ! 州政府の雇った傭兵部隊が没入して来ました……っ! このまま此処にいると厄介な事になります……っ!』
データ引き抜きが完了した直後、脳内に焦ったような真の声が響いた。
州政府の作戦を知りながら、自分達は無断でこの施設に没入している。
見つかれば、愉快な事にならないのは間違いない。
「分かった……っ! クリスっ! 聞いての通りだっ! 目的は果たした以上、此処にいる意味は無い……っ! ズラかるぞっ!」
『了解したわ。くれぐれも余計な面倒を抱え込むような真似はしないでよね』
通信越しに真の声を聞いていたクリスはいつも通りの棘のある言葉を告げながら、即座に
どうやら、予め周囲の
恐らく、こうなる事を見越して準備をしておいたのだろう。この要領の良さは、中々真似出来るものではない。
「さて、流石に此処から直接離脱は無理だな。真ちゃん、傭兵部隊がいるのは構造体入口近くだな?」
『はい、右のルートを通れば敵や傭兵部隊と遭遇する事なくログアウト可能エリアに出られます』
「了解。すぐに向かおう」
甲は真の指示に従い、シュミクラムを疾駆させた。風を切り、構造体の中を駆ける。
真のナビは正しく機能し、途中で妙な妨害に遭う事もなく、甲は何事もなく離脱を完了させたのであった。
「……しかし……まさか、な……」
その後、先にログアウトしていたクリスと合流した甲は引き抜いたデータを解析した。
その結果、ドレクスラー機関が現在潜伏している場所を突き止めた、その、場所は……。
「……よりにもよって清城市、ね。私達は別に、幸せの青い鳥を探していたワケではないのだけれど」
クリスはそう呟きながら、はぁ、と溜め息を吐いた。
それはそうだろう。今まで世界中を駆け巡ってドレクスラー機関を追いかけていたというのに、最後に辿り着く場所が自分達の出発点とは────────皮肉が効いているにも、程がある。
「とにかく、潜伏先が分かった以上無駄にする時間は一秒たりともないわ。既に手配はしてあるから、早速空港に向かうわよ」
『はい、私も先輩にお役に立てるよう今から現在の清城市についての情報を
「……全く、本当に頼もしいな。お前らは」
甲は頼りになる相棒二人の声を受け、苦笑しつつも荷物を纏め部屋を後にする。
しかし部屋を出た時にはその顔から笑みは消え、甲は鋭い眼光で虚空を睨みつけていた。
舞台は清城市。
甲達の原点とも言える、故郷の街だった。
ようやく更新が再開出来ました。過度に油っこいものの大量摂取は胃腸の天敵です、気を付けましょう。