BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
「ふぅん、結局親友を袖にして来たワケね。折角協力的だったんだから、そのまま取り込んじゃえば良かったじゃないの」
クリスは宿泊場所に選んだ宿の一室で甲から雅との話の顛末を聞き、呆れたようにそう口にした。
甲はそんなクリスに対し、ジト目で睨みつけている。
「……あのな、昔の友達を巻き込みたくはないんだよ。真ちゃんの事はもう腹を括ったけど、可能な限り如月寮の面子は荒事に関わらせたくはないんだよ。それに、結婚して家庭を持ってる奴をこっちの世界に引き込めるワケがないだろう」
甲のそんな言葉に、クリスは「そうね」と応じた。
「確かにね。私も貴方もこの仕事が死と隣り合わせっていうのは充分理解してるけど、それを他人に押し付けるのは酷よね。それに、家族がいて尚且つ特に後ろ盾があるワケじゃないんでしょう? 貴方のお姉さんや幼馴染はアークの保護下にあるからある程度安全が確保されてるけど、彼にはそういった『保険』がない。もし彼の家族が人質にでも取られたら、抵抗の余地はないものね」
「……分かってるなら言うなよな」
甲はクリスの話を聞き終え、盛大に溜め息を吐いた。
確かに、雅の申し出は嬉しかった。自分の我儘の為に動こうとしてくれた事は未だ彼との間に確かな友情があると感じさせてくれる出来事だったが────────手放しで歓迎出来るものかと言えば、否だった。
これが例えば甲の姉貴分である西野亜季であれば、アークという大企業の後ろ盾があり、身内と言えるのはそのアーク社長の橘聖良だけだ。
アークは自前で武装もしており、その身柄を抑えるのは容易ではない。
しかし、雅が所属しているのは
都市の治安維持組織ではあるが、市長である阿南よしおの影響力が大きく────────武装の程も、他の組織と比べれば充分とは言えない。
彼が何か不審な動きを見せれば、雅の家族が
幸せな家庭を持つ友人を、そんな目に遭わせたくはなかったのだ。
それを分かっていながらクリスは甲を詰っていたのだが、その事を追求されても彼女は平然としている。
いい加減、甲とは肝っ玉の据わり具合が違うようだ。
「まあいいわ、それより────────喜びなさい、朗報よ。ドレクスラー機関の潜伏先と思われる場所が発見されたわ」
「……っ! 本当か……っ!?」
……だが、次にクリスが放った言葉に甲は目を見開いた。
ウイルスを放っていた事は知っていたが、こんなに早く目的の情報が掴めるとは思っていなかったのだ。
驚愕に顔を歪める甲に、二人は傍受した通信データを送り付けて来る。
「ほら、とにかく見てみなさい」
『はい先輩、こちらもどうぞ』
甲はそう言って二人から送られたデータを見て、その内容を反芻する。
……このデータに依れば、ドレクスラー機関は通信の送り主の庇護の下で違法なナノプラントを建造し、今も尚ナノマシンの研究を行っているようだ。
作っているナノマシン次第では、再びあの惨劇が再現されかねない。
「巡回させていた、潜伏型ウイルスが拾った情報よ。彼等宛ての通信が、市庁舎から発されたようね」
『私の方でも同様の情報をキャッチしました。発信者までは分かりませんでしたが、市長室の近辺から発信されたようですね』
クリスと真の報告を受け、甲の脳裏に清城市の現市長……阿南よしおの名前が浮かび上がる。
阿南は黒い噂が常に絶えない政治家であり、繰り返し告発を受けながらも未だに市長の座に留まり続けている曰くつきの人物だ。
彼がもしドレクスラー機関を匿っている政治家当人なのだとしたら、今度こそ明確にドレクスラー機関の尻尾を掴んだ事になる。
「よし! すぐに向かうぞ……っ! 本当なら、物理的に抑えるだけの戦力を確保したい所だが……」
「今までの経験上、ドレクスラー機関の当人達は逃げ出した後の可能性が高いわね。これまで私達が居場所を嗅ぎ付けると、まるで最初からそれが分かっていたかのように見事に姿を晦ましているし……『ドミニオンの神子』の噂も、ただのガセじゃなさそうね」
クリスの言葉に、甲は眉を顰める。
「ああ、本物の預言者ってのは信じ難いが、とんでもない情報処理能力を持ってるのは確かだろうな。少なくとも、そいつが味方している限り奴らを捕まえるのは難しいぞ」
『ドミニオンの神子』、その名を口に出した二人の声には畏怖すら浮かんでいた。この名には、それだけの意味があるのだ。
……『ドミニオンの神子』とは、ここ数年噂されるようになった存在で、曰く
しかし甲達は、少なくとも正体不明の『助言者』がドレクスラー機関の逃走を手助けしている痕跡を、今まで幾つか発見していた。
今まで甲達がドレクスラー機関の居場所を掴みそこへ向かった時には、ドレクスラー機関の人間は一人残らず消えており、残された通信データには
その後も繰り返し同様の事が起こり、機関の居場所を突き止めては敢えて消されていなかった
だが、だからと言って彼らを追い詰める事を諦めるつもりはなく……甲達は不毛ないたちごっこの末、この清城市に辿り着いたのだ。
此処でも同じように逃げられる危険はあるが、この清城市は他の場所とは事情が違う。
現市長の阿南よしおが積極的に
此処であれば例え居場所を掴まれたとしても、市街に出るリスクを負うよりは市内に留まりドミニオンや阿南の庇護を受ける事を選ぶ可能性が高いのだ。
正直に言ってしまえば、そちらこそ甲達の本命だった。ドミニオンがいる限り、ドレクスラー機関に手を出す事は難しい。
ならばドレクスラー機関を追いながら彼等の隠れられる場所を狭めて行き、彼等を匿いに現れるであろうドミニオンの尻尾を掴み、本拠地を探り当てて殲滅する事こそ甲達の本当の最終目標だった。
「それなら、時間をかけて数を集めるより私達だけで突入して少しでも多くの情報を持ち帰るべきね。その中途でドミニオンか阿南の私兵に出会えば、そちらに目標を切り替えるのも有りだしね」
クリスの提案した方針には甲も異論はなく、即座に頷いた。
「よし、作戦方針は決まったな! 真ちゃん、アクセスポイントは!?」
『発見しました! 廃棄された地下施設の通路、保守点検用の設備から構造体内部に
「ならすぐに向かいましょう。時間が惜しいわ。今回は私が派手に暴れるから、貴方は……」
クリスから作戦方針が伝えられ、甲とクリスと共に足早に部屋を後にした。熱い決意を秘めた目で、甲はクリスと共に清城の街を駆けた。
『さあ────────無様に踊り狂いなさい!』
シュミクラムに
四方八方に打ち出された回転刃で逃げ場を失っているウイルスの群体は成す術なくクリスのチェーンソーに切り裂かれ、凄まじい速度で数を減らしていく。
やがて数分もいないうちに周囲一帯のウイルスは殲滅され、周囲に静寂が戻った。
(このタイプのウイルスは、あの傭兵部隊が好んで使うタイプね。となると、近くに
『そろそろ出てきたらどう? それとも、まだかくれんぼを続ける気かしら?』
『……随分な挨拶ですね。鳳翔の六条クリス学生会長』
クリスの挑発に反応して出てきたのは、腕に鞭を装備したスリムな形状の機体────────ノーブルヴァーチェだ。
すぐさま
『こんな戦場で何をしておられるのですか、と言いたい所ですが……』
『貴方が奴とつるんでいるのは知っているぞ……っ! 鳳翔の学生会長ともあろう者が、あんな男に侍るような真似等断じて許し難い……っ! 貴方を、いや────────貴様を痛めつけ、あの男を炙り出してくれるわ……っ!』
男────────ジルベルトは端正な顔立ちを盛大に歪め、怒りも露わにしながら周囲に無数のシュミクラムを呼び寄せる。
10体のシュミクラムはいずれもジルベルトの部隊、『ダーインスレイヴ』のものだ。
『相変わらず、いつまで経っても性根は変わらないのね。そもそも、貴方が私をどうこう出来ると思っているなんて度し難いわ。ヘタレの癖に口だけは達者だこと』
クリスはジルベルトの言葉を鼻で笑い、その様子を見ていたジルベルトが顔を真っ赤にして激昂する。
『何ィ、言わせておけば貴様ァ! しかし! この数はどうしようもあるまい! さあ、覚悟を……』
「-────────決めるのはお前の方だ、ジルベルト」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……っ!?』
────────だが、不意に降り注いだ無数のミサイルの爆破に巻き込まれ、ジルベルト諸共クリスを包囲していたシュミクラムの約半数が吹き飛んだ!
『消えなさい……っ!』
「吹っ飛べ……っ!」
その混乱に乗じてクリスは無数の回転刃を射出して2機のシュミクラムの脚部を両断し、両腕のチェーンソーブレードを一閃して首を切り落とす……!
更に突如接近した甲が1体のシュミクラムを蹴り上げて胸部を殴りつけ、動けなくなったシュミクラムを機雷を張り付けた状態で残る二機に向かって蹴り飛ばす。
機体に無数に張り付けた機雷の爆発によって、3機のシュミクラムは一気に吹き飛んだ!
『こ、こんなバカな……っ!?』
あっという間に孤立無援になったジルベルトは呆然としながらも、戦場に現れた
『き、貴様! 門倉甲!』
「よう、ジルベルト。相変わらずのようで安心したぜ。南米であれだけぶちのめしてやっても、まだ懲りていないと見えるな」
甲は
そう、始めからこの状況は甲達の作戦通りだったのである。
……この構造体に現れる敵シュミクラムの使い手は、ドミニオンか阿南と繋がっている可能性が高い。
故にそれらしい標的を見つけたらまずはクリスが囮になって敵を誘き寄せ、隠れていた甲と共に一網打尽にする作戦だったのだ。
ジルベルトはそんな二人の作戦に、見事に引っかかった形になる。
『『ダーインスレイヴ』のウイルスがいた時点で貴方がいるであろう事は予測出来たからね。いつも通り数を頼みにすると思って網を張っていたのだけど、予測通りの行動しかしないから思わず笑っちゃったわ』
『く、き、き、貴様等ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!』
ジルベルトは怒りのあまり大げさにその機体の頭を抱え、そして────────。
『────────覚えていろぉ! 次こそ、次こそ俺様の本当の力を見せてやるぅぅぅ……っ!』
「な……っ!?」
────────ほんの一瞬の隙を付いて無数のチャフをバラ撒き、凄まじいスピードで構造体入口に向かって疾駆した。
あまりにも見事な逃げっぷりに一瞬呆然となりながらも、折角の標的を逃がしてなるものかとクリスが追跡を開始する。
『チッ、逃げ足だけは一級品ね……っ! いいわ、一人になった以上彼は私一人で充分よ……っ! 貴方はさっさとデータベースから必要なデータを抜いて来なさい……っ! あまり時間はかけないで……っ! どうにも、嫌な予感がするから……っ!』
「分かった! 気を付けろよ……っ!」
甲はジルベルトを追跡するクリスにそう告げ、もう間近になったデータベースへと駆ける。
ジルベルトと遭遇する前はうじゃうじゃとウイルスがたむろしていたものの、データベースへ向かう道には不自然な程敵の妨害はなく、甲はあっという間にデータベースへと辿り着いた。
「誰もいない、か。まあいい、予定通りデータを頂くとするか」
甲はデータベースの近辺に敵影がない事を確認しつつ、データベースにアクセスしてデータを吸い出そうと手を伸ばした。だが……。
『────────此処はもうすぐ爆破されるわ。命が惜しいなら、今すぐ逃げ出すべきでしょうね』
────────突然虚空に展開された大型の
目を向ければ、そのフェイスウインドウにはヴェールマスクのようなものを被った白髪の少女の姿が映し出されている。
『私は、ドミニオンの神子。門倉 、甲……貴方は、此処で死ぬべき人間ではないの。必要なデータは渡すから、早くお逃げなさい』
「ドミニオンの、神子だと……っ!?」
甲は少女の名乗りに目を見開き、
ウインドウ越しの仮面の少女はそんな甲の視線に憶する事なく、うっすらと笑みを浮かべてみせた。
というワケで原作で出てきたあの構造体にて、未知の相手と遭遇する話でした。当然の如く『遭遇』が指すのはジルベルトではなく神子の方です。