※この作品はR-18です。

BALDR SKY Another World /世界X+Ω   作:デスイーター

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 まずはクリスと真が甲との重婚に至った経緯を書きます。ではどうぞ


特別編/After Story's
After Story Ⅰ/六条クリス・水無月真~三人の結婚・序~


「……はぁぁぁぁぁぁ……」

 

 晴天の青空の下、甲は一人溜め息を吐いていた。

 

 此処は復興中の新清城市の都市自警軍(CDF)の本部の中庭である。

 

 ガラス張りの通路を経た先にあるこの中庭は中央に噴水が設置され、各所に設置されたベンチには身体を休める隊員の姿がまばらに見える。

 

 今の都市自警軍は統合軍から委託を受け、清城市の治安維持と復興の助力を行う警邏組織であり、以前のように議会から干渉される立場からは解放されている。

 

 故に彼等が従うべきは統合軍とアークが敷いた条例であり、統合軍のトップに立った桐島勲長官の庇護の下で清く正しい警官として業務に従事する事が出来ている為に、新清城市民からの評判も良好である。

 

 そんな都市自警軍の本部に甲がいるのは、定期的に行われる都市自警軍隊員の戦闘教習を行う為である。

 

 都市自警軍は治安維持を務める警察組織でありながら資金が乏しく、以前の無数の組織がひしめき合っていた旧清城市の暗部には実力不足で対処出来ず、結果としてまともな戦闘の経験を積む事が出来ていなかった為、サポート要員も含めて練度が充分とは言い難かった。

 

 そこで白羽の矢が立ったのが、今や清城市どころか世界を救った英雄である甲である。

 

 甲はあの事件が収束した後、ミッドスパイアでの一件で結果的に突き放してしまった雅の下に謝罪の為に訪れた。それが、そもそもの発端である。

 

 雅はあの一件の最中、彼なりの方法で清城市の治安維持に従事していたらしい。

 

 実は、ドミニオンによってミッドスパイアが事実上機能停止した事で、ミッドスパイアに入る事を望んでいた難民達が自棄になって犯罪行為に走り、清城市全体の治安が一気に悪化していたのである。

 

 対AI対策班も都市自警軍もレヴィアタンによって甚大な被害を受けていた為、現実の混乱に対処するには対AI対策班だけではとても足りず、都市自警軍も総力を以て清城市内の治安維持に当たっていたのである。

 

 犯罪行為に走る難民達の数が多過ぎた為に全てに対処出来たワケではないが、雅なりに清城市の為に奮闘していた事に違いはない。

 

 幸い、都市自警軍は本来は警察組織である為暴徒鎮圧の技術はそれなりに心得ており、基本的に軍人である為手段が乱暴になりがちな対AI対策班と比べ怪我人をあまり出す事なく暴徒を捕縛する事が出来ていた。

 

 警官の仕事は軍人と違い、()()()()()()()()()のだ。

 

 警官の本分とは、都市の治安を守り、善良な市民の生活が脅かされないよう保護する事である。

 

 故に甲達が戦場で容赦なく敵を殺す様を見て戸惑っていた雅の感情は()()()()()()()()()()()()ものであり、彼の活躍の場は傭兵のような戦場ではなく、守るべき日常の守護なのだ。

 

 その事を今回の件で痛感したらしく、甲が会いに行った時に雅は戦場に手を出そうとした自分を止めてくれた事にひたすら感謝していた。

 

 しかしそれはそれとして自分達の力不足は痛感したらしく、甲に都市自警軍の戦闘教練を行えないかと打診し、聖良とも相談した結果正式な都市自警軍の嘱託教導官として配属される事になったのだ。

 

 甲達は傭兵からは足を洗っており、現在は3人共名目上はアークの社員として仕事をこなす事で生計を立てていた。

 

 勿論傭兵時代に稼いだ金は貯蓄してあるが、だからと言って働かない理由にはならない為、3人はそれぞれの性質を活かした仕事を行っていた。

 

 真はアークの上級職員と同じ待遇を受け、仮想関連の業務に携わっている。

 

 今のアークは亜季と真の二枚看板で、その実務能力の高さは()()()()()()()()()()()()()とまで言われる程だ。

 

 現在のアークに情報戦を仕掛けるような馬鹿は、最早何も知らない外様くらいだろう。

 

 クリスの場合はその身体能力と真の為に習得したリハビリテーションの技能を用いて、都市の警邏と都市のリハビリテーション施設での業務に携わっている。

 

 被造子であり身体を極限まで鍛えたクリスであれば、武器を持たずとも大抵の相手は楽に制圧出来る為、あの事件以降都市内で喧嘩を含む荒事が起きる度に派手に騒動を鎮圧して回っていた。

 

 今では彼女が都市を歩き回るだけで彼女の暴威を知る者達は大人しくなり、結果として治安が向上するのだ。

 

 その為、彼女は定期的に都市巡回の警邏業務を請け負っている。

 

 彼女の折檻によって妙な趣味に目覚めてしまった変態(ファン)も時折出て来るが、そういった輩は知り合いの強面の警邏に任せるようにしていた。

 

 元は真のリハビリの為にリハビリテーションの技術を習得したクリスだが、そのまま技術を腐らせるのは勿体ないと考え、都市内に出来たリハビリテーションの施設の従業員として働き始めたのだ。

 

 実は整体等の資格も取っていた為彼女の就職はアークのコネなしでも難なく決まり、今では日々リハビリテーションの業務に従事している。

 

 リハビリを行う者の中には、過剰に痛みを訴えて中断しようとしたり、『どうせ治らないだろう』と思い込んで真剣にリハビリに打ち込もうとしない者がどうしても出て来る。

 

 そういった者には時には厳しく言い聞かせる必要もあるのだが、クリスはそれを()()()()()()()()で行ったのだ。

 

 当然、暴力を振るったワケではない。ただ理路整然と現在の状態とこれからどういう風に身体機能を治していくのかを言い聞かせ、その人物の性格を見抜いて突き放したりリハビリの方法を工夫したりする事で、リハビリに取り組もうとしない利用者達を説き伏せたのだ。

 

 リハビリテーションを利用する人々は何らかの障害で身体機能が損なわれている為、弱気になり易い傾向がある。

 

 そして、その不安をどういう形で発露するかは個人個人で違いがある為、その人物を観察しどういった性格の人物なのかを見極める観察眼も必要になるのだ。

 

 例えば、リハビリの時にすぐに痛がって中断しようとする人は()()()()()()()()()()()()()()というタイプや()()()姿()()()()()()()()()()()()()()という甘えたがりなタイプが多い。

 

 そういうタイプの人物には過度に寛容な姿勢は逆効果である事が多く、ある程度厳しく、()()()()()()()()()言い聞かせる必要がある。

 

 逆に、『どうせ治らない』等の諦めの言葉を連呼するタイプは、気が弱くコミュニケーション下手なタイプが多い。

 

 前者のタイプとは真逆で人の注目を集める事を好まない為、突き放した態度を取る事が多いのだ。

 

 また、出来ない事があるとすぐに投げ出してしまう為、集中力もそう高くはない。

 

 このタイプの場合は下手に『頑張れ』などという励ましの言葉を告げるのは当然逆効果である。

 

 理由も説明されずに『頑張れ』と言われても、無茶ぶりをされたとしか思わず、ますます自分の殻に閉じこもってしまう為だ。

 

 その為、まずは当初想定していた内容よりも簡単な内容からリハビリを行い、少しずつリハビリの内容の難易度を上げていく事によって()()()()()()()()()()()()()を感じさせ、自信を付けさせる事が効果的である。

 

 このタイプの人間は一度()()()()()()()()()と感じさせる事が出来れば、そのまま勢いに乗ってリハビリをこなしていける事が多い。

 

 全ての人物にこの方法が役立つワケではないが、このように個人個人で行うべき対応が違う為、リハビリの業務に携わる為には優れた観察眼が必要となるのだ。

 

 その点、クリスは傭兵として世界を巡る中で多くの人々と関わり、他者の心胆を見抜く眼力にも長けている。

 

 戦場を生き抜く為に鍛えた観察眼は伊達ではなく、権謀術数に関わりのない一般人の性質を見抜く事などクリスにとっては容易い事だ。

 

 クリスはその観察眼を駆使して利用者の性質をすぐさま見抜き、その個人の性質に応じて時には厳しく、たまには優しく接する事で多くの利用者のリハビリを務め、同僚からも頼りにされていた。

 

 その有能さは都市中に広まり、その常人離れした美貌も相俟ってクリスの人気は留まる所を知らなかった。

 

 時折クリスの美貌に眼が眩んだ者がわざと怪我をしてやって来る事もあるが、そういう者はすぐにクリスの眼力で看破し、別の人物を割り当てる事で対応した為、そんな馬鹿はすぐにいなくなった。

 

 尚、以前にクリスのトレーニングウェア姿を盗撮した画像が出回りそうになった事があったが、その事を知った甲が笑顔で怒り狂い、真に依頼してその画像を撮影者の個人フォルダごと削除して匿名で都市自警軍に通報し、盗撮の犯人はすぐさま捕まった。

 

 その犯人を逮捕した雅曰く「あんなに甲が怒るのは初めて見た。さっさとしょっぴかないとこいつの命が危ない」と語っていた。それだけ、愛する女を盗撮された甲の怒りは凄まじかったのだ。

 

 ともかく、そんな経緯で仮想に籠っている真はともかく都市に積極的に関わっているクリスはとにかくモテるのだ。

 

 そして、度重なるナンパにいい加減堪忍袋の緒が切れかけているのも確かである。

 

 幾ら年若いとはいえ、クリスはもう結婚出来る年齢だ。容姿も能力も高水準な女性を放って置く程、世の男は枯れ果ててはいない。

 

 それもこれも、まだクリスが結婚していない為に収拾がつかなくなっている面があるのは確かである。

 

 そして、甲の溜め息もその辺りに理由がある。

 

(今更……どっちかを選ぶなんて……)

 

 ──そう、甲は傭兵生活を送る中で真とクリスという二人の女性と()()()()()()()といういわゆる()()と呼ばれる状態をずっと継続していたのだ。

 

 普通の浮気男と違って女性側の二人がその状態を双方納得済みであり、保護者代わりの聖良のお墨付きまで貰っているのだが、それはそれとして甲はこと事に至って()()を選ぶという難行に頭を悩ませていた。

 

 此処まで関係を続けた以上、甲としても片方を見捨てるつもりなど微塵もない。

 

 既にどちらか一人を正妻にしたとしても残る一人も愛人という形で一緒に暮らす事が決まっているが、いざ正妻を選ぶとなると甲にはどうしても決断を下す事が出来ずにいた。

 

 真は死別した甲の恋人の空の妹であり、甲の初体験も彼女が相手だ。幼い体型は変わらないものの、その献身的な姿勢や可愛らしい反応に甲はいつも癒されており、今では真のいない生活が考えられない程彼女の事を愛しく思っている。

 

 クリスは最初こそ逆レイプという形で甲と真の間柄に割り込んで来た相手だが、その深い愛と彼女なりの矜持によって甲を甘やかす事なく正道へ導き、傭兵時代から甲の背中を支え続けた今ではクリスがいる事が当たり前になっており、今更彼女を手放す事など出来そうもない。

 

 若干行き過ぎた狂気を感じて心胆が寒くなる事こそあるものの、彼女から感じる愛は本物であり、今では甲もクリスの事を深く愛するようになっていた。

 

 そんな二人に甲が抱く愛の強さは全くの同一であり、今更()()()()()()()など甲に出来る筈がなかったのだ。

 

 しかしその優柔不断さが甲の決断を待つ二人をいつまでも待たせている事にも気付いている為、甲は今日も答えの出ない煩悶を続けていたのだ。

 

「おいおい、世界を救った英雄サマが出す声じゃねぇぞ。どうしたんだよ、甲」

 

 そんな時、呆れた声で甲に話しかけて来たのは都市自警軍の制服姿の雅だった。雅は甲に缶コーヒーを手渡すと甲の隣に腰掛け溜め息と共に口を開いた。

 

「一体、何を悩んでるんだよ? 俺で力になれるか分からないが、話すだけ話してみろよ」

「……その、な……クリスと真の、どっちを選ぶかでえっと、な……」

「……あー……成る程……」

 

 甲の返答を聞き、雅は思わず嘆息した。

 

 甲が二人と付き合っている事は雅も知っており、その一見まともとは言えない関係性も承知している。

 

 そして甲の性格上、どちらかを選ぶ事が出来ず悩み続けているのも察する事が出来た。

 

(此処で俺がどちらかを推しても、それで決められる程器用じゃねぇよなこいつは……となると、残る手段は……)

 

 そこでふと、雅の頭にとある()()()()()()()()が浮かんだ。

 

 普通であれば、()()()鹿()()と笑い飛ばす選択肢だが、色々な要因を含めて考えてみると実現性は高い気がして、取り敢えず提案する事に決めた。

 

「……なぁ甲、お前……社長さんにこの事を相談したか?」

「え……? いや、聖良叔母さんには何も……なんでだ?」

 

 甲はいきなりの雅の質問に面食らうが、甲の返答を聞いた雅はしばし迷った後おずおずと口を開いた。

 

「あのよ……もしかしたら、社長さんに頼めば重婚OKにしてくれるんじゃね? この都市の条例は事実上アークが作ってるんだし、桐島長官ともお前は親しいだろ? そのコネがあれば、案外どうにかなるんじゃないか?」

「あ……」

 

 雅の言葉を聞き、甲は思わず硬直した。

 

 雅が出来もしない事を言ったからではない……()()()()()()()()()()()()からこそ、絶句してしまったのだ。

 

 今の新清城市の条例は、統合軍の委託を受ける形でアーク社が制定している。

 

 勿論新たな条例を制定する為には統合軍の許可が必要であり、おいそれと条例を作れるワケではないが……逆に言えば、統合軍の許可さえあれば新たな条例は作れてしまうという事だ。

 

 ドミニオンから世界を救った功績により、聖良や桐島長官の影響力は非常に高い。

 

 甲が聖良に頼み込めば、重婚を認める条例を作り出す事は決して不可能というワケではないのだ。

 

 むしろ、聖良の甲への溺愛ぶりを考えると実現の可能性は非常に高いと言わざる負えない。

 

 桐島長官も甲の事は特別贔屓にしている為、重婚条例を通してしまう可能性は高いだろう。

 

 残る問題は、当人達の気持ちの問題だ。

 

 自分を好きになってくれた女性二人に対し、『重婚してくれ』と言うのはよく考えずとも暴挙の類いだ。

 

 相手が彼女達なので万が一にも甲が見限られる心配はないものの、普通であれば即座に三行半を突き付けられてもおかしくない蛮行だ。

 

 だが、今の事態をどうにかするにはこれが最善手である事も確かなのである。

 

 むしろ、今となってはこれ以外の方法はないようにも思える。甲は意を決し、その場から立ち上がった。

 

「……ありがとう、雅。どうなるか分からないけど、なんとかしてみるよ」

「おう、どういう事になっても応援してるから安心しな。ただ、結婚式にはちゃんと呼んでくれよ」

「ああ、勿論だ。じゃあ雅、行って来る」

 

 甲はそう言って正に別れを告げ、都市自警軍の本部を後にした。

 

 甲は移動しつつ二人にメールを送り、自身の選択を伝える為に歩き出す。

 

 向かう先は一つ……新清城市の一角にある旧清城市時代から存在する社屋、アーク本社である。




 というワケで最初は真とクリスが如何にして甲と重婚に至ったかのSSです。最初に誰を書くかは迷ったんですが、まずは正妻二人だろうとこの話にしました。次回もお楽しみに。
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