BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
(こいつが……ドミニオンの、神子……)
甲は
『ドミニオンの神子』────────それは、甲達が散々苦渋を呑まされた元凶とも言える相手だった。
これまでドレクスラー機関を追う中、甲達が機関の居場所を突き止めても『神子』を名乗る謎の人物の助言によって、まるで自分達の行動が予め分かってでもいたかのように目的地に到着する頃にはそこはもぬけの殻となっており、『神子の預言』というタイトルの怪しげなメッセージだけが見せつけるように残されていた、という事が毎度の如く繰り返されていたのだ。
ドレクスラー機関の逃亡に助力する、ドミニオンの人間……しかも、得体のしれない能力を持つとなれば幾ら警戒しても足りないだろう。
「毎度毎度俺達の邪魔をしてマッドサイエンティスト連中を逃がしてる神子サマがわざわざ姿を見せるとは、何のつもりだ? しかも、必要なデータを渡すから逃げろ……? そんな話、信じられると思ってるのか?」
『私は、神子として、彼等に、必要な預言を、授けているだけ……貴方と敵対する、つもりは、ないの……これは、その、誠意の、つもり……貴方が、欲しがる情報は、きっと、その中、に入って、るから……』
甲の敵意に満ちた眼光をものともせず、神子は穏やかな笑みを浮かべたまま甲に一つのデータを送り付けてくる。
甲が訝し気にそのデータを見つめる中、神子の声に懇願するような響きが混じる。
『お願い、信じて……私は、此処で……貴方を、死なせたく、はないだけ、だから……』
神子は元は見事な銀髪だったであろう色素の抜けた白髪を揺らしながら、祈るように手を合わせてそう告げて来る。
画面越しの神子の声は繰り返し雑音が入って聞き取り難く、声自体も枯れているようで弱弱しい。
まるで混線した回線から聞こえて来るノイズのような、妙な違和感のある声だった。
……その姿はいっそ痛々しいと言える程で、その姿を見ているだけで底知れない不安に陥りそうな、そんな寒々しい感覚を覚えた。
『先輩! その人の言う通り、施設内で
「……っ! くそ……っ!」
甲は悪態を付きながら差し出されたデータを回収すると、シュミクラムを転身させ構造体の出口に向けて疾駆する。
その後ろ姿を、表情画面に映る少女は名残を惜しむかのようにいつまでも見つめ続けていた。
『警告、警告。後方より大規模のエネルギー反応感知。衝撃波の到達まで10……9……』
「くっ、間に合え……っ!」
機械音声の警告を聞きながら、甲はシュミクラムを全力で出口に向かって駆動させていた。
今はとにかく背後に迫る致死の光から逃げ切ろうと、真が展開した
オリジナルより精密性に欠け戦闘中使うには小回りが利かないが、単なる移動用として考えれば破格の装備と言えた。
逆に言えば、これを使うしかない程に今の甲は切羽詰まっていたとも言える。
「……っ! 見えた……っ!」
真の翼を借り受けた甲は刻一刻と迫る死の光から逃れるべく、ようやく見えた出口へ身を投げるようにして飛び込んだ。
そして────────次の瞬間、施設内部は白色の閃光に包まれた。
「……間一髪だったな……」
甲は床に投げ出された機体を起き上がらせながら、溜め息と共にそう呟いた。
もし真の力を借りていなければ、もしデータベースでデータを抽出する事に拘っていたら、確実にあの爆発に巻き込まれ
真は元より、あの神子にも命を助けられた事になる。
(一体、あいつは何が目的だったんだ……? 今回もドレクスラー機関の連中が見つからなかったのはまたあいつの『預言』とやらで脱出していたからだろうし、その割に俺にこんなデータを送り付けて施設から逃げるよう促して……何がしたいのか、イマイチ見えて来ないな)
普通に考えて、ドレクスラー機関の逃走を助けている側からしてみれば、甲達は邪魔者以外の何者でもない。
故にあそこで時間を稼いで論理爆弾に巻き込ませようとしたのなら分かるが、わざわざデータまで渡して逃走を促す等意味が分からない。
正直、あそこであのデータを受け取っていなければ、甲はデータベースからデータを取り出す事に拘っていただろう。
内容はどうあれ例の『ドミニオンの神子』から渡されたデータならば、たとえ罠でもなんらかの情報があると考えたからこそ、甲はあそこで撤退を決断する事が出来たのだ。
『先輩、念の為軽く電子体にスキャンをかけましたが特に異常は見られていません。また、例のデータにもウイルス等の危険なデータの混入はありません』
真からの報告に、甲の疑念は益々深まった。
データ自体にトラップもないのだとすると、神子は本当に甲を助力しただけにも思える。
『……どうやら無事に逃げ切れたみたいね。全く、冷や冷やしたわ。貴方の事だから、データを取り出すのに拘って逃げ遅れる、なんて事になってもおかしくないもの。まあ、真が一緒にいるのだからそんな無茶をさせる筈もないか』
そんな中、背後より聞こえた声に反応し振り向くと、そこにはしなやかな蟷螂のような形状のクリスのシュミクラム、グリムバフォメットが佇んでいた。
すぐさま表示された表情画面には、ジト目のクリスが映し出されている。
「いや、その……」
『……ふぅん、何かあったのね。いいわ、詳細は後で聞く事にしましょう。此処はまだ戦場よ、もう用はないのだから長居は無用────────さっさと妨害を抜けて、離脱するわよ』
クリスは甲の態度から何か予想外の出来事があったのだと瞬時に察したが、戦場で立ち止まる事の愚かさを理解しているが故に脱出を最優先とし追及を一時取りやめた。
無論拠点に帰ってからきっちり問い詰めるのだろうが、この辺りのシビアな判断が的確に出来るからこそ甲達が今まで傭兵の世界で生きて来られたのである。
本当にクリスには真共々頭が上がらないと、甲は溜め息を吐いた。
『……っ! 先輩!
「チッ、早速かよ……っ!」
中空よりこちらに降り注ぐ弾頭を視認し、甲は
一瞬遅れて今まで甲達がいた場所にミサイルが着弾し、周囲を爆発で薙ぎ払った。
だが、無論それで攻勢は終わらない。視界の向こうからは無数のウイルスの群れが、甲達に向かって続々と進んで来る。
「数が多いな。ある程度吹き飛ばして先に進むぞ」
『ええ、その方が良さそうね。一々相手をしていたらキリがないわ』
「ああ、じゃあ行くぞ……っ!」
甲は勢い込んでミサイルランチャーを発射し、着弾。無数のミサイルに爆撃されたウイルスの群れはかなりの数がその攻撃で吹き飛ばされた。
些か異常とも言える火力だが、これにはあるカラクリがある。
甲のシュミクラム、カゲロウは自己進化ロジックが組み込んであるワンオフモデルだ。
この自己進化ロジックは持ち主に合わせて機体を常にアップデートしていくプログラムであり、甲の戦闘経験に合わせてシュミクラムも成長するという、他にはない特性を持ち合わせている。
そして、その『成長』は武装にも及ぶ。早い話が、
この特性を利用し、甲は多数の目標を一度に攻撃出来るミサイルランチャーや単純に貫通力の高いパイルバンカー、用途の広い機雷等の一部の傭兵として戦うに当たって特に有効だと思われる武装を意図的に多用し、その威力を高めていたのだ。
その結果、ミサイルランチャーは当たりさえすればウイルスや装甲の薄いシュミクラム等は一掃出来る程になり、パイルバンカーは殆どあらゆる装甲を貫通出来るまでになった。
無論他の武器も相応の成長をしており、カゲロウの性能は学園生時代と比較しても最早別物と化していた。
この特性上、甲は《戦えば戦う程強くなる》為、当初この仕様を聞いたクリスはあまりの常識外れぶりに暫く閉口したものだ。
だが、それで黙っていられる程クリスは大人しい性格ではない。
彼女は真とその主治医の女性の助けを借り、武装限定ではあるがこのプログラムを自分の機体に適用したのだ。
────────クリスの機体、グリムバフォメットは格闘形態と射撃形態の切り替えで遠近両方の戦闘をこなす変則型のシュミクラムだ。
武装の種類こそ甲に一歩譲るが、二つの形態を切り替える独自の能力は様々な戦況に対応出来、クリスに初見で対応出来る相手は今まで殆どいなかった。
だが、クリスの機体は両腕の派手なチェーンソーに眼を奪われがちだが、火力自体はそこまで高くはなかった。
故に手数で押していくのがクリスの基本戦法だったが、このプログラムの
彼女が最も多用している両腕のチェーンソーブレードはあらゆる装甲を切り裂く死神の鎌と化し、無数に射出される回転刃や射撃形態時の砲撃はウイルスの殲滅やシュミクラムの部位破壊等に大いに活用されている。
成長率は甲のものと比べれば劣るものの、元から相応の強さを持っていたクリスにとってはこの強化は鬼に金棒と言えた。
『吹き飛びなさい……っ!』
クリスは機体の砲塔からの掃射で行く手を阻むウイルスを瞬く間に殲滅し、チェーンソービットを射出して周囲のウイルスを切り刻むとそのまま甲と共に通路を駆け抜けた。
次から次へと襲い来るウイルスを必要最低限の動きで破壊しつつ、甲は周囲を探査していた真からの報告を受ける。
『先輩! この先に
「分かった! クリス、雑魚は俺が引き受ける! お前は敵の親玉を狙え……っ!」
『了解したわ。すぐに刻んで来るから、待ってなさい』
クリスと甲はそれぞれ回転刃とミサイルランチャーを射出し、ウイルスの群れを吹き飛ばす。
展開した回転刃によって無数のウイルスが切り刻まれていく中、クリスは射撃形態でウイルスの残骸の上を飛翔し奥の指揮官機へと狙いを定める。
無論それを阻もうとウイルスがクリスに殺到するが、甲の機体から放たれたフォトンブラスターに巻き込まれ、追撃は失敗に終わる。
そして遂に指揮型ウイルスに肉薄したクリスは上空から滑空しつつ格闘形態にシフトし、回転刃を射出しながらチェーンソーブレードを構えた。
『さあ、斬り刻んであげるわ!』
指揮型ウイルスは最後の抵抗とばかりにクリスに砲塔を向ける。
だが、その砲塔は甲が放ったライフルによって撃ち落とされ、そのまま振り降ろされたクリスのチェーンソーブレードによって指揮官機はその体を袈裟斬りにされ、一瞬後に爆散した!
『
真の言葉と共に二人の機体が離脱プログラムに従い、構造体から掻き消えた。
甲は離脱の最中、何者かの視線を感じながらもプログラムに身を任せ、現実へと帰還した。
分岐2。この構造体でクゥに出会わない。
分岐3.甲は論理爆弾に巻き込まれない。
クゥの扱いに関してどうなるかは、今後をお楽しみに。また、話の都合上甲の記憶を失わせる理由がないので、論理爆弾はきちんと逃げ切れた事にしました。
また、甲の武装の成長については、ゲーム内で同じ武装を使えばレベルアップする仕様を反映させたらこうなるかな、と思い作った設定です。原作でもカゲロウは自己進化プログラムがあるとだけ書かれているので、独自解釈でこうしました。