BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
「亜季姉、菜ノ葉……話があるって聞いたけど、何かな?」
甲は営業終了後の菜ノ葉の農家レストラン、『ガーデン』の前で自分を呼び出した者達……亜季と菜ノ葉の二人と、向かい合っていた。
今日、いつも通り仕事を終えるなりクリスから「亜季と菜ノ葉の二人が呼んでいる」とだけ聞かされ、この場所にやって来たのだ。
一体何の用事だろうと不思議に思いながら指定時間前に余裕を持ってやって来た甲だったが、既に二人はその場所で待機しており、揃って顔を赤くしている。
菜ノ葉がいるのは彼女の店の前なのだからおかしくはないとしても、出不精な亜季がこんなに時間に余裕を持って待ち合わせ場所にいるのは、少し妙だ。
或いは、それだけ大事な用事である為なのかもしれないが。
「う、うん。その、その、ね、甲……」
「わた、私達ね……」
菜ノ葉と亜季の二人は常ならぬ動揺を見せ、顔を紅潮させたまま何かを言い出そうとして躊躇い、迷いに迷っていた。
その様子は大変微笑ましいのだが、いつまでもこれでは話が進まない。
だとしても何の用件が見当がつかない甲としては、話の進めようがないのだが……。
《──本当にそうですか? 本当に、心当たりがないんですか? 甲さん》
「え……?」
何処からともなく真の声が聞こえ、周囲を軽く見回す。
すると視界の隅に、デフォルメされた可愛らしい真の分身……『コネクトアバター』が映っていた。
どうやら、真はいつの間にか甲の脳内チップの中にやって来て、直接甲に語り掛けているらしい。
今まで脳内チップを好きに占拠させていた為か、真は現在では甲の許可がなくとも自由に甲の脳内チップに出入り出来るようになっていた。
事実上生殺与奪を握られている状態だが、真に限って危険などある筈もなく甲も現状を放置していたのだが……いきなりこうしてやって来るのは、最近では珍しい。
少なくとも、結婚してからは初めてだ。
《あのですね、甲さんがにぶちんさんなのは今に始まった事じゃないですけど、甲さんに恋心を抱いている女性が……本当に、私達や千夏先輩、レインさんだけだと思ってたんですか?》
『それ、は……』
甲は真との会話を直接通話に切り替えつつ、自問する。
……自分は、他人の好意については割と鈍感な方だ。
直接告白して来た真やクリス、千夏は別として、レインの好意にはまるで気付いていなかった。
まあ、レインに関しては学生時代の空の行動が結果的に告白を邪魔していた部分もあったのではあるが。
《……
『……っ!』
──自分を敢えて昔の呼称……
甲はハッとなった様子で、向かい合う二人を見据える。
……亜季は、甲にとって姉のような存在だった。
日常生活はだらしないものの、幼い頃から心の支えとなってくれた、大切な姉貴分……甲はそんな亜季の事を慕っていたし、亜季もまた甲を溺愛と言っていい程目をかけてくれた。
……菜ノ葉は、どちらかというと妹のような存在だった。
幼い頃の知り合いであり、色々あって落ち込んでいた甲を支えてくれた大切な存在。
泣き虫ではあるが、不思議な包容力のある妹分……それが、菜ノ葉だった。
そんな二人が、自分に男女としての好意を抱いているなど……今まで、考えた事もなかった。
しかし、今目の前にいる二人の顔は自分にプロポーズして来た時の千夏とレインにそっくりだった。
その瞳には明確な熱が宿っており、その熱は紛れもなく甲に向けられたものだった。
《もう、理解するのが遅過ぎますよ甲さん。さあ、ならどうすればいいかは分かりますよね? 私はこれで退散するので、後は頑張って下さい。あ、埋め合わせは忘れないで下さいね。甲さん》
その言葉を最後に、脳内チップの中から真の気配が消えた。
そして、言われるまでもなく今何をするべきかは理解している。
「あ……」
「こ、甲……」
甲は自ら前へ踏み出し、二人に近付いた。
二人は突然近寄って来た甲を見て、驚いたようにその顔を見詰めている。
「亜季姉、菜ノ葉……もし、もし俺の自惚れじゃなければ……亜季姉達の用事は、この前の千夏達と
「……っ!」
「……う、うん。そう、だよ……」
甲の質問に菜ノ葉は絶句し、亜季はおずおずと肯定した。
三人共顔は真っ赤になっており、誰かが口火を切らないと話は進みそうにない。
そんな中、最初に口を開いたのは……亜季、であった。
「……あのね、甲。甲は気付いてなかったかもしれないけど……私、甲の事が好きなんだ。勿論、一人の女性として……でも、最初は身を引こうと思ってたんだ。真やクリスさんは甲とお似合いだし、勝てる気はしなかったから……」
「で、でも……甲が真ちゃん達だけじゃなくて、千夏先輩達とも結婚しちゃって、蓋をした想いが出て来ちゃったの。重婚が出来るなら、私達だってその権利はあるんじゃないか、って」
亜季の言葉に触発されたのか、亜季に続いて菜ノ葉も自分の想いを甲に吐露する。
一端言葉にした事で勢いが付いたのか、二人は更に捲し立てる。
「甲、どうかな? お姉ちゃんが相手じゃ、嫌……かな? 私の事、そういう対象として……見れない?」
「私も、もうただの幼馴染じゃ……円嫌だよ。出来るなら、私だって甲のお嫁さんになりたい……甲、どう? 私じゃ、嫌?」
二人は思い思いの言葉で、自分の想いを甲にぶつけて来る。
その様子はたどたどしくはあったが、その言葉に込められた想いは……とても、真摯だった。
「…………」
二人の告白を受け、甲は一度目を閉じる。
そして、意を決して瞼を開けた。
自分に告白してくれた亜季達に……自分の想いを、告げる為に。
「……そんな事ないよ、亜季姉、菜ノ葉。もし、俺でよければ……お嫁さんに、なって下さい」
「「……甲……っ!」」
甲の返事を聞いた二人は、感極まって甲に抱き着いた。
甲はそんな二人をあやしながら、この状況をお膳立てしたくれた者達の事を考え、密かに苦笑していた。
「──全く、ようやく観念したのね。甲も亜季さんも菜ノ葉さんも、少し度胸が足りないんじゃないかしら?」
『まあまあ、結果的に上手く行ったんだし、これでよしとしましょうよ。クリスさん』
同時刻、甲の自宅ではクリスが真と繋げた視界で甲達の姿をスクリーン越しに見つめ、溜め息を吐いていた。
あの後、真は退散したように見せかけて『ガーデン』にあるカメラをジャックし、甲達の様子を伺っていたのだ。
その映像はこうしてクリスにも共有されており、どうしても上手くいかないようであればいつでも口出しする心づもりだったのだ。
「……まあ、真に免じてそれで良しとしましょう。最初に煽ったのは私なのだし、最後まで面倒を見る事にしますか」
「あ、勿論この映像は聖良叔母様にも共有済みなので、結婚式の準備とかはあっちでやってくれると思いますよ。ね? 聖良叔母さん」
『……ええ、勿論よ。亜季さんがようやく素直になったのだもの……私に、協力を惜しむ理由はないわね』
真の言葉に呼応するかのように画面に聖良の姿が映し出され、それを見てクリスはくすり、と笑った。
「協力感謝します、叔母様。甲を独占したい気持ちがないワケでは勿論ありませんが、彼女達功労者の労を労うくらいの寛容さは、持っているつもりですので」
『……貴方も、大概お人好しね。あんな可能性があるなんて、信じられないくらいに』
聖良の言葉に、クリスは苦笑した。
「あれは私にとって最大の黒歴史のようなものですので、あまり追及しないで下さると助かります。甲は許したみたいだけど、私は今でも
クリスはもういない
『完璧そうに見える貴方も、やっぱりそういう人間らしい所があるのね……いえ、だからこそ、そこまで情が深いのかしら』
「情深さでは叔母様も相当でしょう? 甲や亜季さんに
『……参ったわね。返す言葉もないわ』
クリスは普段の鉄面媚を少しだけ崩した聖良を見て、留飲を下げた。
幾ら属性が善に寄っていても、この嗜虐趣味だけはなくならない。
人を弄び屈服させる事で興奮する性癖は、依然として健在だった。
「とにかく、準備はお任せしますね。あの二人も叔母様の手なら、取る以外の選択はしないでしょうから」
『そうするわ。ありがとう、亜季さん達の事を考えてくれて……何か困った事があったら、なんでも言って頂戴ね。私の出来る事なら、可能な範囲でやってあげるから』
「叔母様の場合、その
真の言葉にクリスは「そうね」と呟き、画面越しに聖良は満面の笑みを浮かべた。
こうして亜季と菜ノ葉の結婚が決まり、結婚式は粛々と行われる事になったのだった。
というわけで亜季・菜ノ葉編その2でした。この二人は甲と他の誰かがくっついてると自然と身を引こうとするので、此処までお膳立てしなきゃあそこからの逆転は無理だと思うんですよね。
正妻から直接許可を貰わない限り、なんだかんだで遠慮しちゃいそうですから。
アフターストーリーは後は亜季・菜ノ葉の濡れ場を書いて、ノイ先生編を書いたら終わりにします。
『思いつくままエロパロ』の後書きや活動報告でも書いてますが、近々バルドの新作小説といった呈で『BALDR GENESIS~Revive of Future World~』というタイトルで連載を開始したいと思います。
バルドのとある世界観の話ですが、原作キャラは基本的にそのまま登場したりはしないので、一見どの世界観なのかは分からないと思います。
プロットがほぼ完成したので、連載開始を決めました。よろしくお願いします。