BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
「なぁー、いいだろう? もう三回も重婚してるんだから、私一人愛人に加えるくらいいいではないか?」
「駄目よ。全く、何度言ったら分かるのかしら? 私は、貴方を
甲の自宅でクリス相手ににべもなく断られているのは、どう見ても少女の姿形ながらその実は成人もしている合法ロ……大人の女性、ノイである。
ゴスロリドレス姿のノイはクリスの服の裾を引きながら自分を甲の愛人にするよう頼み込んでいるが、クリスはそれを一顧だにせず拒絶している。
傍から見れば、玩具をねだって親に断られる子供のような有り様だった。
「……あはは、ノイ先生も懲りないよね」
「あ、ああ……」
その光景を見ている真と甲は、何処か呆れたような様子だった。
今回のような事は、これが初めてではない。
ノイは最近はほぼ毎日のように家にやって来ては、クリスにああやって愛人入りを認めさせようとしているのだ。
その度にクリスは今のように拒絶している為、最早ノイは意地になっている様子で益々ヒートアップしているという有り様だった。
此処までしつこく言い寄られてはクリスの堪忍袋の切れる日もそう遠くないと思われたが、クリスはそんなノイの事を何故か哀し気な眼で見詰めていた。
苛ついているというよりは……何処か、憐れんでいる様子があった。
甲が思うに、クリスがああやってノイを拒絶し続けているのは何か明確な理由があるのだろう。
しかし、恐らくクリスはそれをノイ自身に気付いて欲しい筈であり、こちらから指摘するのは躊躇われた。
「む……? なんだね甲くん。その顔、何か彼女の態度に心当たりがあるといった風だが?」
「あ……」
……だが、ノイはそんな甲の心境をいとも容易く見破り、ターゲットを甲に変えて詰め寄って来る。
ノイの瞳は拒否を許さない強い意志が満ちており、女性に対する隠し事が苦手な甲では、気付いた事を隠し通す事など無理なように思えた。
「……はぁ……仕方ないわね……」
「お、おい何をするクリス……っ!?」
そんな空気を察したのだろう。クリスは溜め息をつきながらノイに近付くと、がしりとその小柄な身体を掴み上げた。
宙に吊り上げられたノイはバタバタと手足を動かして抵抗するが、被造子のクリスに敵うはずもなく、宙吊りのままクリスの手元に引き寄せられる。
クリスは呆れたような表情で、ノイに語り掛ける。
「……あのね、まだ分からないの? 何でノイの申し出を、私が断り続けているのかを」
「なんでって……君としても、これ以上彼の女が増えるのが嫌だからじゃないのか……?」
「……やっぱり、分かってなかったワケね……」
半ば予想していたのだろう。クリスは再度大きな溜め息を吐くと、子供に言い聞かせるようにノイに語った。
「それが嫌なら、そもそも重婚なんて認めないわよ。私と真が一番であれば、あとは何人増えようが同じよ。私が問題視しているのは、別のところなの。分からない?」
「わ、分からないからこうして聞いているのではないかっ!? 少々いじわるが過ぎるのではないかね? そりゃあ、こんな女を愛人にするなど抵抗があるのは分かるが……」
ノイは若干しどろもどろになりながら、狼狽えながらそう答えた。
その様子を見て埒が明かないと悟ったのか、有栖がノイに囁くようにその
「私はね、
「……あ……」
ノイは、クリスのそんな言葉を聞いてぎくりと硬直した。
思えば、確かにノイはその飄々とした言動とは裏腹に、
正しくは、
漏れ聞いた彼女の経歴を考えても、そんな被害妄想に取り付かれるのも致し方ないと言えた。
……先日ノイ自身の口から明かされた事だが、ノイはどうやらあのノインツェーンの娘……正確に言えば、クローンなのだという。
彼女はとある女性の卵子にノインツェーンの遺伝子情報を人為的に書き込まれた被造子であり、成人を超えても成長しないその肉体も誕生に際しノインツェーンが何らかの処置を施したのだろうと語っていた。
そして、彼女は今まで様々な男性と肉体関係を結んで来た。
自分から誘った事もあれば、強引に関係を持たれた事もある。
成長しない肉体で世間に放り出された彼女の艱難辛苦がどれ程のものか、測り切れるものではない。
その時はあっけらかんとその事を明かしていたノイだったが、心の奥底では成長出来ない己の幸せを諦観していたに違いないのだ。
だからこそ、結婚を申し込むのではなく愛人とするように頼むという
これが意識的か無意識的か分からないが、クリスはそんな彼女の諦観を見抜いていた為に、
クリスは甘えや妥協を嫌い、自身の我を通そうとする者を好む。
そんな彼女にとって今の諦観で妥協したノイの姿は、とてもではないが見ていられるものではなかったのだろう。
クリスは冷徹な性格に思えるが、一旦懐に入れた人間に対しては寛容で、世話好きな一面もある。
だからこそ、
即ち、
「……クリス、私は……」
「処女じゃない? 年齢が離れている? それ以上肉体が成長しない? そんなの、ただの
「違う……っ! いや、私は……っ!」
クリスの詰問に、ノイは外見通りの幼い少女のように身体を震わせ、怯えた眼でクリスと甲を見据えている。
それは、怯えているというよりも……ただただ、困惑しているように見えた。
……永遠に幼いままの肉体を持ち、今まで数多くの性経験を経て汚れた自分には、結婚などという幸せは分不相応だ。
それが、ノイが今まで抱いていた
だが、クリスはそんな諦観を許す程甘い女ではない。あくまで淡々と、理性的にノイの逃げ場を封じて行く。
「処女じゃないのが嫌なら、私にしてくれたように処女膜を再生すればいい。年齢が離れていても、肉体が成長しなくても甲は気にしない。この私が保証するわ。甲は
クリスはそう言って、甲に視線を向ける。甲はこくりと頷き、自らの意志を明確にした。
「……そうだな。クリスがいいって言うなら、俺に断る理由はない。だから、貴方の答えを聞かせて下さい。ノイ先生……いや、ノイ」
「……あ……」
クリスの言葉に甲が賛同の意を示し、ノイは呆然と……縋るような目で甲を見詰める。
その眼は潤み、今にも泣き出しそうな瞳で甲に熱い視線を向けていた。
「……私は、幸せになって……いいのか……? 愛人なんかじゃなく、ちゃんと甲くんと……好きな男と、結婚していいのか……?」
「勿論。ノイがいいなら、俺としては大歓迎ですよ」
甲の言葉に、ノイの目元に涙が溢れ出した。
「……あ、あぁ……! そうか、いいのか……私は、幸せを掴んで、いいのか……っ!」
ノイはそう呟きながらへなへなと崩れ落ち、その身体を甲が抱き留める。
ノイは甲の腕の中で顔を赤らめながら、恋する少女のような顔で甲に笑いかけた。
「……甲くん、私とも結婚してくれ。私も、君と一緒になりたいんだ」
「ええ、俺も同じ気持ちです。誰か一人を選べない最低な俺だけど、それでノイが幸せになれるなら……俺は幾らだって、泥を被ってやりますよ」
「……ああ、悪い女に捕まったと諦めてくれ。ふふ、これでは本当にロリコン認定証を進呈しなければな。こんな幼い肉体の女を嫁にできるとは、大した男だよ君は本当に」
ノイはそう言ってくすりと笑い、俺もつられて笑みを浮かべた。
その自然な笑みを見て、甲は自分の選択が間違っていなかった事を確信した。
「……そういう笑顔も、似合っていますよ。ノイ」
「お、大人をからかうものじゃないぞ……っ! だ、だがまあ……悪い気がしないのは、確かであるし……」
甲の言葉にしどろもどろになりながら、ノイは顔を真っ赤にして身体を震わせた。
その様子が可愛らしくて、甲はノイの額にキスを落とす。
「あぅ……馬鹿、場所が違うぞ」
「じゃあ、いいんですね?」
「……ああ、勿論だよ。旦那様」
──そして、甲はノイの身体を抱き寄せ唇を重ねた。
ノイも自分から唇を押し付け、互いの唇の感触を楽しんだ。
こうして甲は、ノイを7人目の妻として娶る事を決めたのだった。
今日は新作の方を一旦手を休めてこちらを書きました。ノイ先生の話は書こう書こうと思って後回しにしてきたので、ようやく書けました。話の内容は前々から考えてあったんですけどね。