DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~ 作:カナト
加藤夫妻が悪魔特捜隊に連行された後、家に数人の見知った顔の者たちが姿を現した。
怪しいと思いながらも、美佐樹は玄関のドアを開けて数人を確認する。
そこに居たのは、明人に何度も挑んでは返り討ちに合っていた不良たちだった。
「あなたたち……どうして?」
「内海に謝りに来たんだ。あいつ……居るか?」
美佐樹は首を振りながらも、周りの目がないうちに不良たちを家の中に入れた。
「明人に謝りに来たって、どうしてこんな時に?戻ってくるかどうかもわからないわよ?」
不良3人組は俯いて思い詰めた顔をする。
中央に居た木刀の政が口を開いた。
「俺たちは内海のことがずっと気に入らなかった。それこそ、あいつに何度も勝負を挑んださ。そして、負ける度に俺たちはあいつのことを『化け物』だとか『怪物』だって罵ってしまった。あいつの心内も知らずによ」
ドス六が自嘲する笑いをしながら続く。
「さっきの放送を聴いてさ、内海も人間なんだって気づかされっちまったんだ。例えデビルマンになったとしても、その身体に宿っているのはちゃんとした人間の魂なんだってな」
「それに気づいたら、急に俺たちの今までのことがバカみたいに思えてよぉ。内海に今までのことを謝らなくちゃいけねぇって思っちまったんだ」
メリケン錠の言葉に、後の不良たちは頷く。
それを見て、美佐樹は安堵の息をつくと共に彼らに優しい目を向ける。
「明人は今更そんなことは気にしないと思う。だけど、ありがとう。その気持ちを聴いたら、彼も喜ぶと思うわ」
不良たちの目に覚悟が宿る。
「内海が戻ってこないなら、その間は俺たちが加藤を守らせてもらうぜ。それが俺たちの罪滅ぼしだ」
「あたしを守る?……一体、何か―――っ!!」
美佐樹はいきなり頭痛に襲われ、頭を押さえて壁に身体を預ける。
「お姉ちゃん!!」
孝ちゃんが姉に寄り添い、背中を支える。
美佐樹は強く目を瞑り、息が荒くなる。
身体から精神が離れ、全裸の精神体になる美佐樹。
彼女の精神は浮かんでおり、気づいた時には家を出ていた。
遠くから松明の行列が見える。
それに嫌な予感がした。
美佐樹は浮遊したまま行列に近づくと、狂った表情の人間たちが刃物や鈍器を持っているのが見えた。
そして、彼らはまっすぐに加藤家にゆっくりと近づいていく。
「加藤の家から悪魔が出たぞ」
「加藤の親父と女房は捕まった!」
「だが、娘とチビは残っている!」
「悪魔の娘だぞ!」
「悪魔の夫婦の子供らだ!悪魔の本性を現すぞ」
「特捜隊が連れて行かないのなら……俺たちの手で!」
「娘は魔女だ、悪魔の子だ!」
「そうだ、魔女に違いない!!」
加藤家に向かう大勢の暴徒は一斉に叫ぶ。
「「「魔女を殺せ!魔女を殺せ!魔女を殺せ!魔女を殺せ!魔女を殺せ!魔女を殺せ!魔女を殺せ!魔女を殺せ!魔女を殺せ!!」」」
狂気の凱旋を目の当たりにし、美佐樹は頭を押さえながら「きゃぁあああ!!!」と叫ぶ。
(夢と同じ……これはずっと見てきた夢と同じこと!!あたしは……あたしは!!)
思い出す、何度も殺され夢のことを。
足を切られた、腕を斬られた、最後に首を切り落とされた。
夢の中で何度も感じた、生々しい痛みを思い出す。
それと同時に、愛しい人の顔を。
何度も愛を確かめ合った思い出が頭に浮かぶ。
(あたしは加藤美佐樹……牧村美樹じゃない!!)
強い決意が芽生え、精神が身体に戻る。
美佐樹はすぐに意識を取り戻し、様子を見ていた孝ちゃんや不良たちを見渡して言った。
「みんな、すぐに家中のドアを閉めて武器になる物を集めて!!町の人たちがここに襲撃に来る!!」
もはや逃げている時間は無かった。
美佐樹たちはこの少数で暴徒を迎え撃つしかない。
「「お、おう!!」」
彼らは咄嗟に動き出した。
彼女がどうして襲撃を察知できたのかを気にしている余裕が無かったのだ。
ありえないという可能性は無かった。
政を筆頭に全てのドアや窓を閉め、包丁などの刃物や木製バット、ゴルフクラブ、父の持っていた狩猟用のショットガンなどを集める。
「武器になりそうなものはこれで全部だ。しかし、これだけで太刀打ちできるかどうか……」
「やるしかないの。使えるものは全て使うしかないわ。じゃないと……死ぬわよ!?」
美佐樹の表情には鬼気迫るものがあり、不良たちをも怯ませる。
孝太郎が不安な表情で窓から外を覗き見ると、石を投げつけられてパリンっと割れる。
「うわぁ!!」
「孝ちゃん、顔を出しちゃダメ!!」
政が外を確認すると、家はもう暴徒に囲まれていた。
「出てこい、魔女め!!」
「正体をあばいてやるぞ!」
「特捜隊の目は誤魔化せても、我々は騙されないぞ!」
暴徒は今にも加藤家に入ろうとし、刃物や鈍器を手に持ってドアに体当たりをしてくる。
「多勢に無勢も良いところだぜ。こりゃあ、腹をくくる必要がありそうだ」
政がショットガンを手に取り、玄関の前に立つ。
その後ろに不良全員が武器を持って控える。
「みんな、何をする気!!」
「加藤……生き残れよ。ここで死んじまったら、内海はまた……」
彼らは報道を見て知っている、白カラスの正体が明人だと言う事を。
「俺たちは加藤にろくな事をしてこなかった。別の形で会えたなら、気のいいダチになれたかもしれないのにそれは叶わなかった。だからよぉ……これはあいつに対する罪滅ぼしだ!!野郎ども、死んでも加藤家を死守するぞ!!」
「おぉおおおお!!!」
雄叫びを上げながら玄関のドアを開け、政が左肩をナイフで斬られると同時にショットガンの引き金を引いた。
それが開戦の合図となった。
「人を殺したぞ!!」
「やはり、悪魔だったんだ!!」
「殺せ!!悪魔は1人残らず殺せぇええ!!!」
不良と暴徒の戦争が始まった。
美佐樹は少し涙目になったが服の袖で涙をぬぐい、両手に包丁を持って構える。
(相手はあたしたちを悪魔だと思っている。少しでも躊躇したらこっちが殺されてしまうわ。人間としての倫理観を捨てなさい、美佐樹。もう明人と会えなくなるなんて……嫌っ!!)
窓から入ってくる2人の男。
1人は常連だった行きつけの八百屋の親父。
もう1人は近所に住む散歩好きのお祖父さん。
2人は狂気に満ちた目をしてはゴルフクラブを持って美佐樹に迫ってきた。
「魔女めぇええ!!」
「本性をさらけ出してくれるわぁあ!!」
振るわれたゴルフクラブを両手の包丁で防ぎ、「はぁああ!!」と雄たけびをあげながら2人の首を切った。
返り血が顔や服にかかり、初めて人の命を奪ったことに動揺しそうになる美佐樹。
「あたしは……あたしは今っ……!!」
自責の念に囚われそうになる。
しかし、その前にある意志が先走る。
生きたい。
今度こそ生き残りたい。
そのためなら……明人と共に生きるためならと。
(そう……あたしは生きたい。今度こそ、明人と共に未来に進みたい。みんなが明人を悪魔と呼ぶなら、あたしも人間と思われなくても良いっ……!!そっちがそう呼ぶなら、喜んでそうなってあげるわ!!)
彼女は頬についた血を拭い、暴徒を睨みつけては自身を奮い立たせた。
「あたしは魔女よ、嘗めるな!!」
美佐樹はその後も2本の包丁を使って暴徒を何人も殺していく。
「お姉ちゃん、後ろ!!」
孝ちゃんが震えた声で叫べば、彼女は振り向いた包丁を投げて男の額に刃を刺した。
そして、その手に持っていた日本刀を持って武器を変える。
「孝ちゃん、トイレに隠れてて。あたしが良いって言うまで、絶対に出てきちゃダメよ!!」
「う、うん!!」
孝ちゃんはすぐにトイレに隠れて鍵を閉めた。
彼女の夢の中で、牧村美樹の弟は2階に行かせたがために死んでしまった。
美佐樹は別の選択肢を取ったのだ。
血塗れになりながらも、美佐樹は狂気に歪まずに人間の目をして暴徒を見渡した。
刀を両手で握り、腰を低くする。
「あたしは生きる……。おまえたちに殺されてやるものかぁー!!!」
何度も夢の中で死を経験し、その時々のパターンが頭の中に染みついている。
未来で起きる悲劇を予知している美佐樹の動きを、暴徒たちは抑えることができない。
「はぁああ!!!」
刀を振るい続ける美佐樹。
そして、そのまま玄関に向かおうとしたとき、それは起こった。
「あぁ……あぁあ~……あぁ~あぁあああ!!!」
美佐樹は知らなかった。
そして、暴徒たちも知らなかった。
暴徒の1人の身体が上から真っ二つに割れる。
「あがぁあああああ!!!」
悪魔が人間と合体する条件があることを。
悪魔は血を好むことを。
そして、理性が働かなくなった人間が何よりも悪魔が取りつきやすいのだと言う事を。
加藤家は多くの人間の血に塗れていた。
そして、多くの暴徒は恐怖で理性が働かなくなっていた。
その気を逃がすほど、悪魔は愚かではなかった。
暴徒の真っ二つに割れた身体から、触手の髪を持つ赤目のデーモンが出現した。
<……誠に人間とは愚かだな。これほどまでに愚かだと笑えてくるぞ。……自分たちで勝手に自滅してくれるとはなぁ!!>
悪魔が左腕を振るえば、数人の暴徒の身体が細切れになった。
斬撃波だ。
人間技ではない死体を見て、暴徒たちは恐怖で後退りしてしまう。
その中で立ち向かったのは、たった1人の気高い魂を持った女だけだった。
「たぁあああ!!!」
刀を両手で持って突撃する美佐樹だが、悪魔は一瞬でその首を掴んで持ち上げた。
「んぁああ!!」
<ほぉ……逃げずに、恐怖を抱かずに、このセーブルに向かってくるか、人間の女よ>
セーブルが目を細めて念じれば、無数の斬撃波が飛んで美佐樹の服を散り散りに切り裂いて全裸にさせる。
<美しい娘だ……その物怖じしない強い精神にも敬意を表する。しかし……>
セーブルの髪の触手が美佐樹の身体を這う。
触手は彼女の身体に巻き付き、四肢を大の字の形に引っ張る。
「いやぁあああ!!!」
<おぉ、おぉ、良いぞ、良いぞ!!その叫びをもっと聞かせろ!!気高き精神を壊すほど、我が獣欲も増すというものだ!!>
美佐樹の悲鳴を聴きつけ、まだ生き残っていた政たちがセーブルに向かって突撃をかける。
「この野郎!!加藤を離————っ!!」
<目障りだ>
セーブルが腕を振るえば、政たち不良の身体がバラバラになってしまった。
死んだのだ、美佐樹と明人を信頼してくれた者たちが。
その光景を見て、美佐樹は溜まらず両目から涙が流れた。
これはどの夢で見たものよりも絶望。
この状況から死を回避することなど不可能だ。
美佐樹の身体はセーブルにされるがままになり、彼女は抵抗ができない。
暴徒はただ、それを見ていることしかできなかった。
本物の悪魔を目にし、殺すなどと言う選択肢が出てくるはずがないのだ。
逃げることも無意味だと思ってしまうのだ。
彼らは今、自らの行いに激しい後悔を感じている。
<気高き精神を持つ女よ。その心を快楽の絶望に染め上げた上で、おまえを殺してやろう>
セーブルの触手の髪が伸び、美佐樹を襲った。
「やめてぇええええ!!!!」
あ~、書いてて胸糞悪い。
悪魔を殺そうとしていた人間が悪魔になる。
これ以上の皮肉は無い。
この最悪な状況を、誰が止められるというのだろうか。