DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~ 作:カナト
眩しさを感じると同時に目が覚めると、視界に入ったのは純白の天井だった。
俺は寝ていたのか、石畳の上に横になっていたらしい。
両手をついて上半身を起こして辺りを見渡せば、白い空間の中に多くの柱が立っており、ギリシャの宮殿内のような作りの部屋になっている。
両耳に甲高い靴音が聞こえてきては近づいてくる。
「目が覚めましたか、予期せぬ来訪者」
大人の女の声が聞こえ、そちらに目を向けると細身で凛としている美しい女性が立っていた。
その両隣には、槍を持った女性が俺に警戒心を向けている。
「……おまえは?」
頭を押さえながら聞けば、護衛2人が槍を向けてきた。
「アイラ様に何て口を!!」
「無礼な!!」
怒気を孕んだ表情をしている2人を片手を上げて静止させる。
「良いのです、2人とも。彼は我々のことを、本当に何も知らないのかもしれません」
女は俺に歩みより、自身の胸に手を当てて名乗った。
「私の名はアイラ・ムー。この女性のみの『聖域』を治める者です。あなたの名を聞かせていただけますか?」
「名前…?俺の……?」
「はい。あなたのお名前を聞かせていただきたいのです。そして、ここに流れる前に何をしていたのかも」
護衛の2人とは正反対に、優しい笑みを向けてきいてくるアイラ。
その顔はからは敵対心は微塵も感じない。
しかし、俺はアイラのその願いに答えられなかった。
「俺の名は……おそらく、ダンテ…だ。それ以外のことは、何もわからない。自分が何者なのかも、何をしてきたのかも……わからないんだ」
奇妙なことを口にする俺に、護衛たちの言葉は容赦がない。
「嘘をつくな。誤魔化そうとしても無駄だぞ!?」
「……悪いが、本当のことだ。名前だって、ついさっき知ったくらいだからな」
あの光景が夢だったのだとしても、俺は今『ダンテ』と名乗る他ない。
他に自分を表す言葉を持ち合わせていないのだから。
俺への警戒心が増す護衛たちとは対照的に、アイラの表情は穏やかになる。
「わかりました。あなたの言葉を信じましょう、ダンテ」
「アイラ様!?」
「大丈夫です。彼からは邪悪なる意志は感じません。今はただ純粋な心があるのみ。彼が黒い闇に染まるかどうかは、私たちの心によって変わるかもしれません」
アイラは俺の手を取り、その温かい手からは安らぎを感じる。
「あなたの心は今、生まれたばかりの赤子のようなもの。どうか、その純粋な心を忘れずにいてください」
「純粋な……心……」
言われて悪い気はせず、彼女を見ていると胸が温かくなってくる。
「ダンテ。あなたさえ良ければ、このまましばらくはこの聖域に留まり、身体を癒していきませんか?」
突然の提案に、俺だけでなく護衛の2人も目を見開いて動揺する。
「アイラ様、この聖域で男を受け入れるおつもりですか!?」
「こんな素性もわからないような男をっ…!!」
女たちは俺に敵意を向けてくるが、アイラは彼女たちの動揺を受け止めながらも諭す。
「彼は今、記憶がなくて不安定な状態なのです。居場所を用意し、心と身体を癒す時間が必要なのですよ。しかし、あなたたちの不安ももっともです。なので、前もって彼女を呼んでおきました」
タイミングを見計らったかのように、1人の黒い長髪をした少女が部屋に入ってくる。
「お呼びでしょうか、アイラ様」
「待っていましたよ、沙織」
少女はアイラと対面しながらも一瞬俺に視線を向け、怪訝な表情をしながらも彼女の言葉に耳を傾ける。
「あなたは、先日彼の命を助けましたね?」
「は、はい。意図していたわけではありませんが、結果的にそうなってしまいました」
アイラは手で沙織に俺を見るように促す。
「沙織。彼は名をダンテと言います。これまでの記憶がない、純粋な心を持った青年です」
「ダンテ……」
俺の名に何か思うところがあるのか、訝しげな表情を浮かべる沙織。
「ダンテ。あなたの命は沙織によって救われました。そのことを忘れないでください」
「あ、ああ……」
俺と沙織は互いに一瞬目が合い、すぐに視線をそらす。
「それでは、沙織。あなたが救った命です。ダンテの聖域での生活の世話を、あなたにお任せします」
笑顔でサラッというアイラに、沙織は驚きを隠せなくなり取り乱してしまう。
「あ、アイラ様!?私がこいっ……彼の世話をするんですか?」
「はい。よろしくお願いします」
平然と言うアイラに対して小さく溜め息をつき、どこか恨めしそうに俺を見てくる沙織。
「これも試練です。ダンテとあなたが出会ったのも縁でしょう。その繋がりを確かなものにしてください」
「あ、アイラ様がそうおっしゃるのであれば……」
主の言葉を渋々受けながらも、どこか納得がいかない顔をしている。
「繋がり…私とこいつの?……ありえない」
小声でボソッと呟いたのが、偶然耳に届いてしまった。
しかし、アイラはそれを気にせずに俺に笑顔を向けて言った。
「さぁ、ダンテ。今日から、この聖域があなたの居場所となります。どうぞ、自分の家だと思って生活してください」
「自分の……家……。俺の?」
家と言うものがどういうものなのか、全くわからなかった。
居場所と言うものも想像が付かない。
今の俺には、ダンテと言う名前と沙織と言う女に救われた命以外は何もない。
「こんな何もない俺でも、ここに置いてくれるのなら感謝する。アイラ」
呼び捨てにしたことが気に触れたのか、沙織たちの目付きが鋭くなった。
今日から俺はダンテと言う名で生活することになる。
この聖域と呼ばれる場所で、俺は安らぎを得られるのだろうか。
自分自身のことを、何か思いだす時が訪れるのだろうか。
アイラ様、懐広いなぁ。
ダンテくんの言葉には全て悪気はないのです。ただ、記憶が無いから目上の人に対する言葉の使い方がわからないだけで。