DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~ 作:カナト
聖域の中を回っているともう夕方になり、広場にて多くの女性が集まっては中央にある巨大な戦士の石像に両膝をついては目を閉じて祈りを捧げている。
その石像には威厳と勇ましさを感じる。
「あれは……」
「キングボンバ、この島の守り神よ」
「守り神?」
もう1度遠目で石像を見れば、腹の下に気持ち悪さを覚えた。
「アイラ様の話では、その昔、この島には多くの神々が住んでいたと言われているわ。神と人間は互いに助け合ってきた。神は人間に富みと知恵を与え、人間はその恩恵への感謝を込めて神への忠誠を誓った。でも、平和と言うわけではなかったわ」
沙織は俺を近くに在った壁画まで案内し、それを指さす。
そこに描かれていたのは、キングボンバと黒い怪物の衝突。
「これは、守り神と悪の怪物との戦いよ。神に敵対し人間を堕落させる邪悪な存在、悪魔は反逆のための力を得るためにより多くの人間の力を得ようとした。それを止めるために、キングボンバは力を振るったと言われているわ」
壁画には、キングボンバの他にも悪魔と戦う黄金の神の存在が描かれている。
「この……キングボンバとは違う者は何なんだ?」
「それはゼウスね。人間を守るために戦った善の神の長だった存在よ」
「ゼウス……うっ!!」
壁画をじっと見ていると、急にズキンっと頭が痛みだす。
頭の中に、多くのイメージが薄っすらと流れてくる。
映るのは戦いのイメージ。
神々と人間対悪魔の戦い。
光と信仰を糧に戦う神と、闇と憎悪を糧に戦う悪魔。
その戦いの中に、ゼウスの隣に立つ青い悪魔……いや、魔神の姿が映る。
魔神と戦うのは、4つの頭を持つ巨大な悪魔。
これは……何だ?俺は一体……何を見ているんだ!?
戦いの中で、魔神と悪魔は言葉を交わす。
『何故、我らを裏切り神々の下についた。魔神カイザ!?』
『それが正しい道だと思ったからだ。おまえたちのやり方では、神々だけでなく全てを破壊してしまう!!魔王よ、おまえはそれでも良いのか!?』
『憎き神を討てるのであれば、本望だ!!』
『おまえたちの悲願のために、人間を巻き込むな!!』
『神に加担する者もまた、我らの敵でしかない!!このまま神の思惑通りに進めば、この世界は――――!!』
記憶の映像はそこで終わり、現実に意識が戻ると沙織が駆け寄ってきた。
「あなた、大丈夫なの!?」
「はぁ……はぁ……ああ、心配……ない。しかし、今のは……」
壁画には映っていない。
しかし、確かに戦いの中に居た戦士が居た。
魔神カイザ。
悪魔は裏切ったと言った。
神々に味方した魔神……。
俺は何故、こんな記憶を見ることができたんだ?
沙織は俺の背中に手を回し、周辺にあった石の椅子に腰を下ろさせた。
「少し休んだ方が良いわ。起きたばかりなのに、連れまわし過ぎたみたい。悪いことをしたわね」
「俺がそうしたかったから、そうしたまでのこと。沙織が気にすることではない」
聖域のことは、粗方把握できた。
女性のみの国と言う話は本当のようで、農業や狩りなどをして生計を立てている。
そして、男である俺に対する視線は冷ややかな者で、怒り、恐怖などの感情が見え隠れしていた。
「アイラは俺を歓迎すると言っていたが、多くの者はそうではないらしい。……理由を聞くつもりは、今のところは毛頭ないが」
聞いたところで、教えるとも思えない。
それを知るためには、俺は来訪者として日が浅すぎる。
「沙織、その男は何だ?」
近くから低い女の声が聞こえれば、こちらに隠すことのない不審な目を向けてくる女が目の前に立っていた。
沙織は彼女を見れば、俺を庇うように前に立つ。
「彼はアイラ様が迎え入れた男よ。警戒する必要はないわ、ユリア」
「アイラ様がどう思うかは関係ない。男はこの聖域には要らないはずだ。ただでさえ、外に問題を抱えているのに、内にも脅威を抱えている余裕はない」
「あいつらとダンテは関係ないわ。彼は記憶喪失なのよ?」
「記憶喪失?……フンっ、そんなのは女に近づくための嘘に決まっている!!」
ユリアは腰にさしていた剣を抜き、俺に向けてくる。
「ダンテと言ったか?おまえが記憶があるかどうかなど、関係ない。男は即刻、この聖域から出て行け!!」
「……すまないが、俺にも俺の事情がある。おまえが俺をどう思っているかは見るからにはっきりとわかるが、それを考慮してやる余裕はない」
剣を向けられても物怖じしない俺を見て、ユリアの表情は怒りに歪んで剣先を突き出した。
「男の分際で!!」
しかし、カキンッと鉄と鉄がぶつかり合う音が響いては剣が弾かれる。
弾いたのは、鞘から抜かれた沙織の剣だ。
「沙織!!」
「不本意だけど、私はアイラ様から彼のことを任されているの。手出しさせるわけにはいかないわ」
一触即発しそうな空気が漂う中で、数十秒にらみ合った後に先にユリアが剣を鞘に収めた。
「今日のところは見逃してやろう。しかし、今後は殺されたくなければ私の視界に入らないようにすることだな」
「……善処する」
ユリアはその場を去ったが、流石に周りからは嫌な注目を浴びる。
「行きましょう。ここだと、周りに迷惑になるわ」
俺は頷き、沙織と共に町を離れて森の中を進む。
「ユリアの事、気にしないで。あの子は少し臆病なのよ」
「臆病で殺されたら敵わないな。彼女の言う通り、顔を合わせないようにした方が良さそうだ」
「そうね。お互いのためにも、その方が良いでしょうね」
森の中を進んでいけば、そこには1つの木製の小屋があった。
「あそこが私の家よ。あなたにも、今日からここに住んでもらうことになるわ」
「……良いのか?俺はおまえが毛嫌いする男だぞ?外で寝ていても良いつもりだったのだが」
「アイラ様にあなたの世話を任せられたんだから、しょうがないわ。ほら、さっさと入った入った」
沙織に促されるまま小屋の中に入ると、大人2人が生活できるだけのスペースはあった。
簡易的なベッドとテーブル、そして剣や弓矢だけが置かれた質素な部屋だ。
「男みたいな部屋で驚いた?だけど、ここに住んでいる女の部屋なんて、宮殿に居る人以外こんなものよ」
「女の部屋がどんなものかもわからないし、男の部屋も考えがつかない。どうやら、俺は生活面でも記憶が欠落しているらしいな」
自分がどういう生活を送っていたのかさえ思い出せそうにない。
腰にさしていた鞘を抜いて壁に立てかけ、沙織は梯子を指さした。
「あなたが使うのは2階ね。夜は外出禁止。男が夜に町を徘徊していたら、殺されても文句は言えないわ。良い?」
「あ、ああ。わかった」
促されるままに梯子をあがって上を行けば、殺風景な物置きのような部屋になっていた。
下からシーツを投げられる。
「寝る時はそれを使いなさい。ベッドに潜り込んできたら、承知しないから」
「わかっている。わざわざ自分から殺されるような真似はしない」
窓から外を見れば、空ではもう日は沈んで星が出てきていた。
「私は外に出てくるけど、あなたは――――」
「外に出るつもりはない。ここに居れば良いんだろ?」
「そう言うこと。物分かりがよくて助かるわ」
沙織が小屋を出て行き、俺は1人になる。
2階で床に寝転がりながら天井を見上げ、空っぽの頭で考えてみる。
「俺は一体……何者なんだ?」
先程の戦いの記憶。
そして、夢の中の巨大な怪物。
思い出せるのは、この2つのみ。
肝心の俺自身のことは何もわからないままだ。
何時、どこで生まれ、何を目的として生きてきたのか。
何もわからないままだ。
腕の黒い刺青を見てみれば、その模様は翼のようだった。
「自由を求めて翼を手にしたかった……っふ、我ながらロマンチストだな」
窓から月を眺めると、その三日月の美しさに心が洗われるような感覚を覚えた。
「ダンテ……今日わかったのは、名前だけ。明日、また何かを思い出すことがあるのだろうか」
頭の中に不安が広がる。
ダンテ……真の王……。
失われた記憶を取り戻した時、俺はどうなってしまうのだろうか。