DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~ 作:カナト
何時からかは、もう覚えていない。
毎夜見る悪夢が、少女の心を蝕んでいく。
それは悪魔が姿を現す前から起きていた。
あの時の出来事は、何度も夢に出てくるのだ。
場所は学校の体育館倉庫。
そこは外道の秘密の楽しみの場だった。
少女は両手を後ろに縛られ、全裸で吊るされていた。
多くの男が彼女を囲み、1人の男がビデオカメラを向けて回す。
男の顔は覚えていない。
黒いモヤがかかっており、はっきりとは見えない。
しかし、その眼光は覚えている。
いやらしく、心に張り付くようなおぞましい目。
その目で見下ろされながら、何度も痛めつけられた。
殴られる、蹴られる、竹刀で叩かれる、鞭で打たれる。
「うっ!がはっ!!っ!!いやぁあ!!!」
悲鳴をあげれば、男どもはその声を聴く度にもっと激しく痛めつけてくる。
下品な笑い声が響きながら、外道どもは少女を身体的に傷つける。
意識を失いそうになれば、バケツいっぱいの水をかけられた。
そして、最後には獣欲の限りを発散させられるのだ。
「んっ!んっ!んっ!んっ!んっ!んんっ!!」
口とオマンコに肉棒を突っ込まれ、激しく犯される。
身体を犯され、弄ばれる。
男は女を利用することしか考えていない。
こんな地獄が、彼女の日常だったのだ。
そして、それは悪魔が姿を現してから酷くなっていった。
混沌とした世界では法が存在せず、力ある者が弱い者を虐げる。
人間の女という存在は、何の後ろ盾もなければ男だけでなく悪魔にも犯され、最悪の場合は殺されていった。
その時の光景が、夢の中で蘇ってくる。
「いや……いやぁ……やめてぇえええ!!!!」
男に、悪魔に弄ばれる身体。
両胸を鷲掴みにされ、口と下半身に獣欲をぶつけられる毎日だった。
悪夢を見るたびに、当時の恐怖が蘇る。
それが毎晩、朝まで繰り返される。
しかし、その日は違った。
凌辱の屈辱に耐えていると、その空間に獣の大きな雄叫びが響いた。
グォオオオオオオ!!!!
それを聞いた途端、悪魔たちは一目散に恐怖の顔を浮かべては彼女から離れて逃げていく。
そして、少女の目の前には自身の身長を遥かに超える、黒い怪物の虚栄が現れて彼女を静かに見下ろす。
怪物から感じるのは、禍々しい恐怖と押しつぶされるような威圧感。
その場に立ち尽くしていると、怪物は目を黄色く光らせ、再度雄叫びを挙げながら両腕の翼を羽ばたかせては空に向かって飛んで行く。
『沙織……起きろ、沙織!!』
その瞬間名前を呼ぶ声が聞こえ、彼女の悪夢の中に光が刺し込んだ。
-----
深夜、俺は1度深い眠りについたのだが、しばらくして目が覚めてしまった。
下からは唸り声が聞こえてくる。
起きてしまったのはそれが原因だろう。
「下に降りるなとは言われているが……。無視するわけにも、いかないか」
慎重に、音を立てないように梯子を下りて行けば、ベッドの上で沙織が額から汗を流しながら唸り、苦しそうな声を漏らす。
「やめてっ……これ以上はっ……お願いっ…!!」
涙を流しながら、夢の中で何かに耐えている。
そんな沙織の額に触れれば、手に熱が伝わってくる。
「これを放っておいて良いのだろうか……」
沙織の声は震えており、恐怖を感じていることが伝わってくる。
「怖い……怖いよぉ……。誰かっ……助けてえぇ…!!」
この少女が、先ほどまで気丈にふるまっていた沙織と同じに映るのにそう時間はかからなかった。
「俺の言葉は、的を射ていたのかもしれないな」
彼女の過去に何かがあったにしても、それを知ろうとは思わない。
しかし、苦しんでいる姿を見るのは、あまり気分の良いものではない。
沙織の肩に振れ、悪夢から起こすために名前を呼んだ。
「沙織……沙織!」
呼びかけに答えるように、パッと目を見開いて起きる沙織。
息があがっており、過呼吸になっている。
「沙織、深呼吸をしろ。落ち着くんだ」
彼女は頷き、言われるがままに深呼吸をして呼吸のリズムを整えた。
「はぁ……はぁ……私、今……」
「うなされていた。悪い夢でも見ていたのだろう」
「あなた……私の名前を呼んだ?」
「ああ。起こす必要があると思ったからな。約束を破ったことは悪かったと思っている」
沙織は首を横に振り、身体を起こして額に手を当てる。
「いつも、こうなのよ。悪夢にうなされて、起きたら身体は汗びっしょりで……。過去のトラウマを乗り越えることができていないのね」
「……そうか」
素っ気なく返すと、沙織は俺をじっと見る。
「何があったのかとか、聞かないのね?」
「それは酷というものだろう。わざわざ、他人に話すために嫌な記憶を思い出すこともない」
「そう……それもそうね」
そう言って、彼女は再度横になって天井を見上げる。
「怖い夢を見たの……」
「そうだろうな。あのうなされ方は、そうでないと説明がつかない」
「でも、いつもとは違って救いのある目覚めだったわ」
「そうか、それは良かったな」
近くに置いてある椅子に腰を掛け、沙織の話を聞く。
暗黙の了解で、彼女が寝れるまで話を聞くべきだと判断した。
「この島に住む女は、みんな男に傷を刻まれた者ばかり。私もその1人だわ。アイラ様に助けられて、世間とは隔絶されたこの島で新しい平和な生活ができると思っていた……」
「平和……に、俺は見えるが、違うのか?」
問いかければ、沙織は静かに首を横に振る。
「聖域の中が、辛うじて平和を保てているだけよ。ここの外は、弱肉強食の地獄が広まっているわ。アイラ様の力で守られているけど、聖域の外では人の道を外れた者たちが今も牙を剥いて女に襲いかかろうとしている」
その外道というのは、女たちの視線から男であることが察せられる。
「聖域の外……か。だから、俺は敵対視されているんだな」
「でも、アイラ様にはわかっていたのね。あなたは、あの外道たちとは違う何かを感じるわ」
「違う何か…?」
沙織と視線を合わせると、彼女は俺の瞳の奥を覗き込むようにじっと見てくる。
(……気のせいかしら。あの夢の中の怪物と同じ感じがする……)
俺の手を握り、強い眼差しは目を逸らさせない。
「あなたは、一体何者なの…?」
「悪いが、その問いに答えることはできそうにない。俺はダンテ。今はそうとしか言えない」
「ダンテ……」
沙織の目から、いつの間にか敵対心が感じられなくなった。
「不思議ね。こんなことは初めてだわ。何もわからない、素性も知らない男なのに、あなたと居ると何故か安心を覚えている自分が居る。あなたの中の何が、私をそうさせるのかしら」
「わからない。しかし、会って1日しか経たない男に対して、気を許しても良いのかは甚だ疑問だが」
「そうね……その通りよ。だけど、ダンテ……あなたには……特別な……」
何かを言いかけていたようだが、沙織の目は重力に逆らえなくなり閉じられた。
また小さく寝息を立て始めたようで、眠りにつくことができたのだろう。
「特別……か。これも、真の王という言葉が関係しているのかもしれないな」
起こさないように手を離し、梯子を上っては俺も再度就寝する。
その中で考えていたのは自分のことではなく、沙織がまた悪夢にうなされなければ良いということだった。
-----
次に目が覚めた時、沙織に叩き起こされた。
「ほら、起きなさいダンテ!!聖域での朝は早いのよ!?」
深夜の大人しい少女はどこに行ったのか、気丈さが戻った彼女は俺を小屋から外に連れ出しては、弓矢を持って森の中を回る。
まだ眠い目を擦りながらも沙織について行き、欠伸をしながら問いかける。
「ふぁ~あ。……沙織、こんな朝早くに森で何をしようって言うんだ?」
「狩りよ。食料を調達しないと、みんなが餓死しちゃうわ」
言っている側から何かを見つけたようで、弦に矢を引いて集中する沙織。
その時の彼女の目は、命を奪う者の目をしていた。
「スゥゥ……フッ!!」
弓を引いて矢を放ち、それは獲物に命中する。
命中はした。
しかし、それで仕留められなかった。
ブゥオオオ!!
獲物はイノシシだった。
一発で仕留められなければ、怒りで突撃してくることは必至。
怒りに身を任せ、沙織に突撃してくるイノシシ。
彼女は何故か焦りを覚えながら、鞘の剣を抜いて構える。
「ダンテはさがって、私が仕留めるから」
「……いや、俺がやる」
「・・・え?」
俺は沙織の前に立ち、右手を前に出してイノシシを見据える。
「ちょっと!?ダンテ、何を―――」
「心配ない。この程度の獣なら……」
ドンっ!!
「押さえ付けるのは容易い」
沙織は目の前で起きていることに信じられないというように目を見開いた。
俺は人差し指でイノシシの眉間を捉え、そのまま動きを制止させていた。
いくらイノシシが地面を蹴って突進をかけようとしても、びくともしない。
「……嘘……」
沙織のそんな声が聞こえた時には、俺はイノシシの顔面を蹴って横に倒していた。
蹴りの衝撃で絶命し、イノシシは動かなくなった。
「沙織……こいつはどうする?」
「え?あ、ええ。そのまま、宮殿に運ぶわ」
「わかった」
俺はイノシシを片手で担ぎ、森の中を進む。
その後ろをついてきて、沙織は訝し気な表情をする。
「あなたのどこに、あんな力があるのよ?」
「……何の話だ?」
「何って……普通ありえないでしょ?どこの世界にイノシシを指一本で止める人間が居るっていうの?」
沙織が疑問に思っている理由がわからない。
しかし、イノシシを見た時に奇妙な感覚を覚えたのは事実だ。
沙織はイノシシを見て、突進してくる獣に対して焦りを感じていた。
しかし、俺にとってはそれが疑問だ。
何故、あの程度の獣に対して焦りを覚える必要があるのかっと。
イノシシを担いでいるのとは反対の手を見て、拳を握ってじっと見る。
「……人間ではないのかもしれないな、俺は」
聞こえないようにそう呟き、俺たちは町への歩みを進めた。
感想、評価、お気に入り登録、お待ちしております。