DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~ 作:カナト
ニクスは今までのデーモンとは違い、知能を持った敵だ。
美佐紀を人質に取り、俺を怒らせて冷静さを失わせようとしている。
それにあえて乗っている俺は愚かなのだろう。
しかし、恋人を人質にとられたことで怒りを覚えない男が居るだろうか。
俺は無理だ。
デビルマンとしての身体能力で、常人なら30分かかる道を5分で走り、裏山の頂上に到達した。
そこには巨大な大樹があり、その前にニクスと氷の棺に閉じ込められて気を失っている美佐紀が居た。
「早いな。もう少しかかると思っていたが」
「あんなことを言われて、ゆっくり来れるわけがないだろ」
「それはそれは…。プリンセスは裸でおまえのことをお待ちかねだ」
ニクスは氷の棺を美佐紀の身体のラインに合わせて人差し指でなぞり、彼女の頬付近の氷を舐める。
奴は美佐紀という存在を使い、俺を挑発しようとしている。
「ニクス…!!」
もう1度ベルトに手をかけようとすると、ニクスは「おっと、待ちな」と止め、ローブを脱ぐと黒いズボンで上半身は裸であるが、その腰に巻いているベルトに目が行く。
「おまえ…それは!?」
「貴様だけが特別だと思っていたのか?デビルマンは1人ではないということさ」
ニクスはベルトの中央にある六角の結晶を右手で回して1回転させれば、澄まし顔で『デビル…』と呟く。
すると、身体が黄色く光出して姿を変える。
両肩、頭に六角形の氷の結晶をまとっている黄色い鎧の姿になった。
「俺の本当の名前は鈴谷冬夜(すずたに とうや)、デビルマン ニクスだ」
「おまえ、俺と同じデビルマンだったのか!?なら、どうしてデーモンを従えているんだ!?」
俺が驚いているのに対して、ニクス…鈴谷冬夜は冷静だ。
そして、雨が降っている空を見ながら、奴は顎をつきだして俺を見下ろすように見る。
「この世界は弱肉強食だ。デビルマンだろうと、デーモンだろうと、人間だろうと、俺は強い方に就くだけ。今はデーモンが強い。だから、俺はデーモンに従っているのだ」
「そんな……そんな理由で…!?おまえは悪に身を落とすのか!!」
「そうだ。弱者は、強者に従うのが自然の摂理なのだからな!!現に、あの方の力の前ではデーモンもデビルマンも…」
ニクスは顔を歪ませながら何かを言いそうになるが、そんなこと、今はどうでも良い。
ベルトに手をかけようとすると、ニクスはチッチッチと人差し指を振り、氷の棺に触れる。
「貴様に2つの選択肢をやろう。1つは、デビルマンに変身せずに俺に殺されて死ぬか。もう1つは、デビルマンに変身し人間として死に、恋人を失うか…だ」
「……何?」
ニクスが触れた部分から、棺の氷が吸収されていく。
すると、美佐紀の身体の外側を囲むように棺は球状になる。
「恋人同士なのに、秘密を抱えている。それはおかしくないか?ちゃんと、今の彼女の様に心まで裸にして、包み隠さずに……デビルマンであることを明かすべきだろう?」
「ニクス……おまえ、まさか!?」
敵の意図を察するが遅かった。
ニクスが指を鳴らすと、俺が今一瞬でした予想がその通りになった。
氷の大きな球体の中に居る美佐紀が、その目蓋をゆっくりと上げたのだ。
「ここは…あたしは一体……」
そして、最初はわからなかったが状況を理解し、全裸であることも気にせずに、球体の内側に両手を置いて俺を見る。
「明人くん!?どうして……何がどうなっているのよ!?」
美佐紀が取り乱しているのを気にせず、ニクスは彼女に優雅にお辞儀をする。
「初めまして、加藤美佐紀さん。俺の名は鈴谷冬夜、デビルマン ニクスと名乗らせてもらおう」
「えっ……あなた、一体…!?」
「物覚えが悪いレディーだな。私はデビルマン。悪魔の力を持ちながら人間の心を持つ者。今から、あなたの恋人である内海明人を殺します」
ニクスが足元の草を凍らせて白くさせると、美佐紀は目を見開く。
そして、俺を見てダンダンっと球体の中を叩いて叫ぶ。
「明人くん、逃げて!!この人、本当に人間じゃないわ!!」
美佐紀が必死に俺に逃げるように訴えると、ニクスは溜め息をついて彼女を見る。
「うるさいなぁ……ショーが台無しになるじゃあないか。内海明人、逃げるのなら…この女を絶対零度の冷気で氷漬けにする。冷えきった女に突っ込むのも悪くないのでなぁ」
ニクスは俺を挑発し続け、変身させようとしている。
しかし、ここで変身すれば、美佐紀が俺が人間じゃなくなったことを知ってしまう。
いや、元から人間じゃなかったことを知ってしまうんだ。
「さぁさぁ、どうする!?内海明人!!」
ニクスが空中に鋭くとがった氷柱を出現させて飛ばせば、それが俺の肩や腕、頬をかすめて血が出てくる。
変身するべきか、しないべきか。
そんなことを迷っている内に、俺の身体は右腕以外氷柱で切りつけられる。
「変身しないのか!?それほどまでにこの女に自分の正体を知られたくないのか!?」
「はぁ…はぁ……俺は…美佐樹をっ…!!」
何とか立っているが、苦痛は感じている。
デビルマンに変身すれば、傷は全て塞がる。
しかし、それは不可能な状況にある。
美佐樹は傷つけられる俺をじっと見ては「やめて!!」と何度も言って球体内を叩く。
「このままでは死んでしまうぞ!?どうする!?デビルマン、内海明人よ!!」
聞かれてしまった。
美佐樹は俺を見ては額を前に押し付ける。
(明人くんが……デビルマン!?なら、この人と同じってことなの!?でも…)
彼女は俺の前に言った質問の真意に気づき、大きく深呼吸をする。
そして、顔を上げ、覚悟を決めた目で俺を見た。
「戦って……。あなたに力があるのなら、それを使って!!あたしのあの時の言葉は嘘じゃない!!だから、あたしを信じて!!そして、生きて……明人ぉおお!!」
美佐紀の目の端から涙が流れ、それが下に落ちる。
『例え明人くんが悪魔に成ったとしても、あたしはあなたを嫌いにはならないわ』
頭の中でリピートし、俺の中で迷いは消えた。
目を閉じ、向かってくる氷柱がスローに感じながら、俺はベルトのマークを右手で動かし、静かに呟いた。
「……デビルっ」
俺の身体が白く光だし、純白の鎧に包まれて変身を完了した。
氷柱は鎧の装甲で防いだ。
美佐紀を見ると、彼女は俺を見ても驚かず、ただ真っ直ぐに俺を見て頷いてくれた。
俺も頷き返し、ニクスの前に立つ。
「おまえの選択肢に加えておけ。俺は変身したし、人間としても死んでいない。ここで死ぬのはおまえだ、ニクス!!」
俺は怒りのリミッターを解除し、黄色い鎧の同族に向かっていった。