DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~ 作:カナト
ここはどこだ?
視界に映るのは、遥か遠くまで続く空。
地上には森や川、そして山。
俺は空を飛んでいるのか?
自分の身体なのに、動かすことはできない。
勝手に身体が動き、目を動かすこともできない。
これは俺の知る世界なのか?
いや、違う。
しかし、既視感があるのは何故だ?
翼を羽ばたかせる音が聞こえる。
それは自分から生えている翼だ。
赤黒い翼は、ゼロのそれとは違う。
優雅に空を飛んでいたが、大きな滝の前で着地しては、そこで1人の女のデーモンが水浴びをしていた。
「シレーヌ…」
口が勝手に動き、彼女の名前を呼ぶ。
シレーヌは後ろを振り返り、俺をその細くつり上がった目で見る。
「アモン…」
2人は互いに歩み寄り、抱きしめ合う。
「シレーヌ、君は美しい。俺の心を高鳴らせるのは、血のしたたるような戦場と、君の存在だけだ」
「私を美しいと言うのであれば、その美しさはおまえの物だ。アモン、私の愛するアモン……。私の愛を、受け止めてくれ」
シレーヌは目を閉じ、俺の頬に両手を添えては顔を近づけ、唇を重ねてくる。
意志とは関係なく、こちらも両手が動いて彼女の腰と背中に手を回して強く抱きしめる。
俺たちは唇を離し、視線を合わせて見つめ合う。
「愛しているぞ、シレーヌ。君だけが、俺の戦う目的だ」
これは俺の意志じゃない。
しかし、妙な感覚を覚える。
目の前に居るシレーヌと言う気高く美しい女戦士を愛おしく思いそうになっている。
違う、止めろ。
これは俺の意思でも、感情でもない!!
理性で行動を止めようとしても、身体はそれを無視してシレーヌを求める。
これが、アモン……もう1人の前世界の俺なのか。
『そう、それが本来のおまえの本能だ。内海明人』
その声が頭に響いた時、一瞬で目の前の世界が変わる。
俺の身体は元に戻り、真っ暗な空間の中に1人で立っている。
そして、周りには多くのデーモンや人間の死体が転がっていた。
その中で俺が一際目を引かれたのは、目を見開いた美佐樹の生首だった。
「美佐樹!!」
その前に立っていたのは、青紫色の獣だ。
「おまえは…!!」
獣は美佐樹の頭を取り、二ヒッと見て笑う。
『これが欲しいか?内海明人』
そう言いながら、俺に頭を突き出してくる。
そして、俺が手を伸ばそうとした時ーー。
ビジュギュリっ!!
獣は俺の目の前で美佐樹の頭を握り潰した。
「うぁあああああああああああああ!!!!」
頭を抱え、うずくまりながら叫ぶ。
その衝撃と共に、意識は現実に戻った。
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意識が覚醒すると同時に、俺は飛び起きて身体を起こした。
「はぁ…はぁ……今のは……。また……夢……だったのか」
隣を見れば、美佐樹はまだ眠っている。
頭を押さえながら、汗だくになった身体に気持ち悪さを覚えて風呂場に向かう。
デビルマンの力を封じられてから、数週間が経った。
その間、時々変な夢を見るようになった。
古代の時代を溯り垣間見える、アモンの記憶。
そして、自分の中の獣との邂逅。
気分の良い夢を、最近は見た記憶が無い。
ヴァイスロックによって目覚めさせられた獣の自分。
アモンの転生者としての俺。
その意識は、不動明の転生者としての意識よりも強く、俺の心を蝕んでくる。
熱いシャワーを出し、壁に両手を付いて首を下げて頭からかぶる。
「何だってんだよ……一体!!」
暴れたい衝動に駆られ、それを全て右手に集中させて強く壁を殴ることで発散する。
戦いたい。
敵が欲しい。
このやり場のない怒りをぶつける相手が欲しい。
横にある鏡を見れば、やつれた自分の顔が映ると思っていた。
しかし、そこに映っているのは俺の顔じゃなかった。
夢の中に出てきた、あの獣だ。
「っ!?おまえは……何で…!?」
問いかけようとも、獣は答えない。
そして、不敵に笑いながら消えていき、段々と俺の顔に戻って行く。
デビルマンへの変身を続ければ、悪魔の意識に乗っ取られる。
今のは、その成れの果てだとでも言うのかよ。
身体の汗を流して風呂を上がり、まだ朝日が完全には上がっていない夜明け前だ。
美佐樹を起こす気にもなれず、外行きの服に着替えてマンションを出る。
まだ薄暗い街を1人で歩き、混乱しそうな頭を冷やす。
静寂の中で外の風に当たっている時間が、今は心地いい。
「衝動に身を任せるのは……獣と同じだ」
悪魔としての前世と、人間としての前世。
2つの記憶が自己主張してきては、俺の存在を惑わせる。
悪魔か、人間か。
美佐樹の顔と、シレーヌの顔が一瞬で交互に頭の中でチラついた。
歩きながら考え事に頭を悩ませていると、鋭敏になった戦士としての本能が察知した。
近くに、悪魔が居ると。
<夜はもう人間の時間には非ず。まだ暗い世界の中に、よく外に出てくれた。デビルマン・ゼロよ>
目の前に数体のデーモンが現れる。
見た所、そこまで強くない下級デーモンだ。
「何つータイミングで現れんだよ……。悪いけどな、俺は今おまえたちに構ってる余裕はない。さっさと消えろ」
<そう言われて、帰るバカが居るかー‼>
猿型のデーモンが、忠告も聞かずに襲ってきたが軽く頭を掴んで動きを止める。
<・・・アリャ?>
「消えろって言っただろ‼」
頭を掴んだまま地面に叩きつければ、血をまき散らして動かなくなった。
手に付いて血を軽く振って飛ばし、残りの奴らを見る。
「変身してなくても、おまえたち程度なら今のままで充分だ」
それを挑発と捉えたのか、デーモンどもは一斉に襲いかかってくる。
<死にさらせぇえ‼>
<その首もらったー‼>
ゼロの力が無くても、デーモンならば多勢に無勢でも蹴散らせる。
流石にデビルマンになれば、話は別だけどな。
「来いよ。憂さ晴らしには持ってこいだぜ‼」
デーモンを両手の拳で瞬殺し、周りには血溜まりができる。
その中央に俺は立ち、肉片となった悪魔の死体を見ては胸の鼓動が速くなる。
身体が、戦いとは別の何かを求める。
死体の肉に手を伸ばして掴み、それを無意識に口に運ぼうとする。
肉片を口に含もうとした瞬間、横から『やめておけ』と言う声と共に手を紅の籠手に捕まれた。
「アモン!?」
今、最も会いたかった存在かもしれない。
紅の悪魔の戦士アモン。
彼は息を切らし、手を離して肉を取り上げて捨てた。
それを見て、ある違和感に気づく。
「アモン、おまえ‼その左腕はどうしたんだ!?」
彼の鎧の左腕の部分が無くなっており、鎧も少し痛んでいるのがわかる。
『おまえが気にすることではない。こんなのは傷にも入らん。……それよりもだ』
アモンは俺の胸倉を掴み、目を合わせてくる。
『悪魔の肉を喰えば、おまえはもう人間に戻れなくなる。冷静になれ、自分を見失うな。内海明人』
「……自分を見失うな…だと?」
奥歯を噛みしめて込み上げてくる怒りを抑え、アモンを睨みつける。
「おまえは知っていたのか、アモン!?俺の中には、おまえと同じ魂が宿ってるってことを‼」
問い詰めるように視線を合わせて聴けば、アモンは俺の怒りを受け止める。
『……同じではない。おまえの中に宿っているのは、ただの闘争と欲望に支配された獣だ。それに振り回されているようでは、おまえ自身の欲望を満たすことはできないだろう』
「意味わかんねぇよ‼わかるように説明しろ。俺は……自分で自分がわからなくなってんだ」
アモンの手を離し、背後を見せて俯いてしまう。
「俺は……おまえの転生者でもあり、不動明の転生者でもある。だったら、この世界に存在するおまえは何なんだ!?」
彼に会うことができたのならば、ずっと問いただしたかったことだった。
アモンは少し沈黙を貫いた後で、重々しく呟いた。
『おまえの抱える苦しみの答え、それに関して俺から言えることは何もない。しかし……そうだな、答えを見出したいのであれば、ガーラの集落のある森の泉に向かえば良い。そこで、自分を見つめ直せ。加藤美佐樹であれば、場所はわかっているはずだ』
彼はそれだけ言い、翼を広げて飛び去って行く。
「待て、アモン‼俺の質問に答えろ‼……アモォオオオン‼‼」
名を叫ぼうとも、彼は止まらなかった。
森の泉……そこに何があるって言うんだ。
不安は増していくばかりだが、他に手段も無い。
俺は空を見上げて朝日が昇るのを確認し、大きく深呼吸をした。
アモンの記憶と明の記憶が混在する中、苦悩する明人。
彼が自分の中の答えを見つけることができるかどうか。
それにしても、要所要所で現れてくるなぁ……この世界のアモンは。
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