※この作品はR-18です。

DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~   作:カナト

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避難区域

 避難区域に到着した時、近くの森で止めてから徒歩で向かう。

 

 周りが森で囲まれた中で、人里離れた場所で身体と心の傷を癒すには良い場所かもしれない。

 

「ここが避難区域……空気が美味しいわね」

 

 カイザーパイルダーから降りて、大きく伸びをしてから周りを見るさやか。

 しかし、俺はと言うと神妙な面持ちになる。

 

 この先に、俺が助けた人たちが居る……。

 しかし、彼らは受け入れてくれるだろうか。

 

 セイクリッドセイヴァーが現れてから、全く戦うことが無かった俺のことを。

 

「ほら、一緒に行きましょう。さやかが着いてるわ」

 

 そう言って、腕に手を回して共に進んでくれる恋人の強引さに救われた。

 

 住民たちは、異邦者である俺たちに怪訝な目を向けてくる。

 そして、1人の子どもが指さして言った。

 

「あ、兜甲牙だぁ‼」

 

 その声に反応して、大人たちも集まってくる。

 

「兜甲牙!?」

「兜甲牙だってぇ!?」

「マジンカイザーが来てくれたの!?」

 

 視線を一点に浴びながら、さやかが前に押し出して挨拶するように促してくる。

 

「えーっと……どうも」

 

 頭の後ろを掻きながら、苦笑いで言えば「うぉおおおお‼」と周りから歓喜の声が上がる。

 

「まさか、俺たちのヒーロー様が来てくれるなんてなぁ!?」

「さぁさぁ、こちらにいらっしゃいよ」

「サービスするわよぉ~ん」

 

 お姉さん2人に挟まれながら、広間の中央に椅子が用意され、そこに座らされる。

 

「ちょ、ちょっと、待ってくれ‼俺は別に、あんたたちに歓迎されるような男じゃ…」

 

 突然のことに、戸惑っては自分を卑下する言葉が出てしまう。

 

 しかし、そんなことを気にせず、老人が笑顔を向けてくれた。

 

「なぁ~にを言っておるんじゃ。あんたが居てくれんかったら、ワシらは今頃、悪魔特捜隊に殺されておったわい。ここに居るものみんな、あんたがあの時に助けてくれたから生きておるんじゃよ。あんたは、ワシらみんなの英雄じゃ」

 

 英雄。

 その言葉が、深く胸に突き刺さった。

 

「そうか…。俺にはまだ、英雄として見てくれる人たちが居たんだな」

 

 目の前のテーブルには、果物や食べ物、酒などが並べられている。

 これらは全て、三者連合からの支給品だろう。

 

「さぁ~、召し上がれ!遠いところから来て疲れてるんでしょ?」

 

 ふくよかな体型のおばさんが、食べるように促してくれる。

 

「こ、こんなにいっぱい食えねぇぜ。それに、これはみんなのご飯だろ?いただけねぇよ」

「遠慮なんてしなさんな。これはね、あたしらからのお礼なんだからね!」

 

 ここまでされたら、手を付けないわけにもいかず、目の前のから揚げにかぶりついた。

 

「美味い!さやかも食ってみろよ!」

 

 遠くで見ているさやかにも、隣に座るように促せば住民たちが誘導する。

 

「さやかって、弓教授の娘さんでしょ?私、電波塔で助けてもらいました。あの時はありがとうございました」

 

 彼女に助けられた人も、避難区域には居たみたいだ。

 さやかは照れながらも「い、いえいえ~」と言って返す。

 

 俺たちは確かに、この人たちの記憶の中で称賛される存在になっていた。

 

 しかし、やはり俺の脳裏には新しい救世主の姿がチラつく。

 

「……みんな、ごめん」

 

 ごはんを食べる手を止め、頭を下げる。

 

「俺は……マジンカイザーはもう、人類の希望って呼ばれる存在じゃなくなったかもしれない」

 

 感謝や称賛の言葉は、素直に嬉しい。

 しかし、だからこそ伝えるべきだと思った。

 

 目の前に居る英雄の、心の内を。

 

「世間では、セイクリッドセイヴァーっていう新しい戦士が活躍している。正直、カイザーはお呼びじゃねぇのかもな。人類の希望って呼ばれているのに、悪魔と戦うことを躊躇(ためら)っている……情けねぇよな」

 

 自嘲気味に言えば、人の波をかき分けて1人の少年が前に立った。

 

「そんなことないよ!お兄ちゃんは、ちゃんと父さんと母さんを助けてくれたじゃないか!」

 

 その声に聞き覚えがあり、顔を上げれば少し目を見開いた。

 

「おまえはっ……確か、明人の居候先に居た…」

 

 確か、加藤美佐樹の弟……名前は加藤孝太郎(かとう こうたろう)。

 

「まさか、ここで君と再び会うことになろうとは……。明人とうちのバカ娘は、元気にしているかね?」

 

 孝だけじゃない、その後ろから見覚えのある夫婦が現れた。

 

「加藤夫妻‼あなたたちも、ここに…!?」

「久しぶりだね、兜甲牙くん」

 

 そうか、避難区域ということは、確かにこの人たちが居るのも納得だった。

 

 

 ーーーーー

 

 

 いつまでもギャラリーが居ると落ち着かないため、加藤家の避難所に案内してもらう。

 

「こんな状況でも、誰か知り合いが訪ねてくれるのは嬉しいものだ。何分、この避難区域では、娯楽も少なくてね」

 

 通されたのは加藤家の住宅よりも、大分狭いアパートの一室だった。

 加藤母が、テーブルの前にお茶とクッキーを用意してくれる。

 

「ごめんなさいね、命の恩人に対して安物のお菓子しか出せなくて」

「いいえ、十分です。そんなに畏《かしこ》まらないでください。今の俺は、みんなが思っているような男じゃありませんから…」

 

 対面する形で、加藤父が座っては言葉をかけてくれる。

 

「相当、大変なんだろうな、外の世界は。我々にとっては、想像の範疇(はんちゅう)を越えるほどに」

「……外からの情報は、入って来ないんですか?」

 

 そう言って、部屋の隅に置いてある小型のテレビを指さすが彼は首を横に振った。

 

「確かに手段はあるんだがね、我々はここで助け合って生活するので精一杯なんだよ。娘の美佐樹のように、愛する者のために共に生きる道を選ぶのは、並大抵の覚悟ではない。我が子ながら、強い女に育ってくれたものだよ」

 

 今の一言を、美佐樹さん本人に聴かせてやりたいと思った。

 今頃、明人と仲良くやっていることだろう。

 

「明人や美佐樹さんとは、連絡は?」

「時々、手紙のやり取りをしているよ。最近では、『そろそろ孫の顔を見せられるかもしれない』とか冗談交じりの文(ふみ)を寄越してくるくらいだ。それだけが、唯一の楽しみかな」

 

 そう言って笑みを浮かべているが、その顔からやつれているのがわかる。

 

「私たちはまだ、良い方だ。他の住民の中には、人間に対して疑心暗鬼になっては施設に引きこもってしまっている者も居る。支給品とて、信頼できるものたちだけで見張らなければ、1人で独占しようとする者も現れる。外の世界と同じく、助け合いと奪い合いが繰り返されているのだよ」

「……悲しい、ですね」

 

 結局、変わらないのか。

 人間の中から、奪い合う本能は消えない。

 生存競争に晒された時には、生存本能が理性を上回ってしまう。

 

「しかし、幸いにも殺人は起きてはいない。皆、そんなことをしては外の世界の繰り返しになるとわかっているからな。そこの一線を越えないようにしているだけ、まだ平和なのだろうな」

「本当に、不幸中の幸いですね」

 

 生返事をしてしまうと、加藤父が問いかけてくる。

 

「君はおそらく、人類の希望というものに違和感を覚え始めている……。違うかな?」

「違和感……。確かに、そうかもしれないですね」

 

 見透かされた理由はわからない。

 それでも、否定できなかった。

 

「君を見ていると、明人のことを思い出す。大きな葛藤を抱いた戦士は、皆同じような表情になるのかもしれんな」

 

 話をしながら、加藤父はコーヒーに口を付けては窓から外を見ている。

 

「あなたたちにとって、明人は……どんな存在なんですか?」

「言うまでもない。血は繋がらずとも、私たちは家族だ。それ以上でも、それ以下でもない。……まっ、大切な娘を取られた気分は、あまり良いものではないがね」

 

 そう言いつつ、笑みを浮かべているところから明人はこの人たちに信頼されているのだろう。

 そして、その言葉の強みから、加藤家の人々は彼の正体を知っているのがわかる。

 

「私が言うべきことではないのかもしれないが、明人とは仲良くしてやってほしい。彼は今まで、孤独の中に居た。多くの繋がりを持ち始めている彼を見ていると、嬉しいものだ」

「俺も明人には救われた側なんです。そして、共に戦いながら大切なことを教わりました。俺としても、明人とは友情を感じています。これからも、あいつは俺にとってかけがえのない仲間です」

 

 明人は俺にとって、恩人であり戦友だ。

 同じ特異点という運命を背負う仲間だ。

 

「俺は希望の象徴とか、人類の救世主とかお膳立てされて……戦うべき理由が、見えていなかった。だから、俺は正義という名の大義名分を振りかざして……戦い続けた」

 

 マジンカイザーの力を手に入れたばかりの時は、その力に溺れて正義の名の下に悪魔を殺すことに高揚感を覚えていた俺

 今でも、命乞いをするデーモンたちの悲鳴は忘れない。

 彼らからしてみれば、俺の方が悪魔だと思われていただろう。

 

「そんな俺の鼻っ柱をへし折ってくれたのが明人でした。そして、戦う理由なんてシンプルで良いんだって気が付いた。それからは、逆に今までの称号が重荷になってきて……」

 

 ギュッと拳を握り、震わせる。

 

「悪魔特捜隊を壊滅させた時、俺は初めて人を殺しました。怒りに身を任せて……人の愚かさに絶望して、この手で殺したんです」

 

 悪魔だけでなく、人間までも殺してしまった。

 その負い目が時々、俺の胸を締め付ける。

 

「そしたら、悪魔も人間も変わらないじゃないかって……思い始めて。俺は人類の希望であることを、降りたかったのかもしれませんね」

 

 研究所に引きこもっていた理由が、口から吐き出された。

 

「セイクリッドセイヴァーが出てきて、俺は……これで人(・)類(・)の(・)た(・)め(・)に戦わなくても良いんだって、安心したんです。迷ってばかりの俺よりも、雷沼虎ノ助のような男が、人類のために戦うべきなんだって…思えたから」

 

 人類のため。

 その言葉が、ずっと俺を縛り続けていた。

 だからこそ、それから解き放たれたような気がしたんだ。

 

 加藤父は黙って俺の話を聞いてくれた。

 そして、口を開いて問いかけてくる。

 

「人類の希望、人類のため……。その形は、いかなるものであることが正解なのか。私には、その答えはわからない。しかし、君は既にもう1人の救世主とは違う答えに辿りついているのではないかね?」

「違う…答え…?」

 

 復唱するが、彼は笑みを浮かべるだけで話してはくれない。

 自分の意志で、見つけるしかないということだろう。

 

「ゆっくりしていくと良い。皆、君のことを歓迎してくれるだろう」

 

 そう言って、席を立って行ってしまった。

 

 これが、サタンの目論見通りなのかはわからない。

 

 しかし、確かにこの旅の指標にはなる気がした。

 

 セイクリッドセイヴァー……雷沼虎之助とは違う、人類の希望としての形。

 

 それを見つけた時が、マジンカイザーとして復活する日なのかもしれない。

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