DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~ 作:カナト
未だかつて、ここまで身体が拒絶する戦いは無かった。
俺は今、目の前に居る自分の祖父を殺そうとしている。
そして、向こうもまた俺に殺意を向けているのがわかる。
「爺…‼俺はおまえを許さねぇ‼さやかを傷つけたおまえを、絶対にぃ‼」
『許さないから何だと言うんじゃ!?憂いは絶たねばならぬ。ワシが世界を手に入れるためになぁ‼』
世界征服なんて幼稚な夢を抱いていたのか、ずっと。
俺たちに隠れて、地獄王ゴードンなんて兵器を作っていたのか。
この男は、人類のために研究を続けていたわけじゃなかったんだ。
「おまえはっ、この世界に居ちゃいけないっ…‼」
「だったら、ワシを殺してみろぉ‼このワシから、大切なものを守ってみせろぉー‼」
互いに拳を離して距離をとれば、胸部のV字の熱板より熱線を放射する。
「ファイヤー・ブラスター‼」
爺はそれを、6つの腕を前で交差させることで防御する。
「ぐぅるるっ……はぁあああ‼」
熱線は覇気だけで散っては、そのまま攻勢に出る。
「久しぶりに、愛の鞭というものを振るってみるかぁ‼」
触手のような腕を高速で操作し、縦横無尽に平手打ちを振るってくる爺。
しかし、ここまで来たら出し惜しみは無しだ。
「マジン・パワー‼」
マジントリガーを起動し、魔神の力を解放する。
黄金のオーラを纏い、両手の拳を向けて左右のオーラをドリル状に回転させる。
『ダブル!ギガドリルブレイカァ……パァーンチっ‼』
前方に渦を発生させながら、2つのオーラの拳を放つ。
2つの拳はぶつかりあいながら、爺の触手を粉砕しながら進んでいく。
『そうじゃぁ…憂いを捨てるんじゃあぁ‼もっと、ワシにぶつけてこおぉい‼』
そう言って、両手を広げては胴体に直撃しては後ろに吹き飛ばされる。
『ぐぅうううううううううっ‼‼‼』
床に足を踏ん張らせ、魔神の拳を耐える爺。
『よもやっ、ここまでとはっ…‼しかし、まだじゃあぁ‼』
魔神化の力を以てしても、爺には届かないのか!?
「憂いを断て、甲牙よぉ‼おまえの力は、こんなものでは無かろう!?」
血反吐を吐きながらも、爺はなおも立ちあがる。
そして、禍々しい悪魔のオーラを展開する。
「ワシは悪魔に堕ちた……兜の人間として、引導を渡すのがおまえの務めじゃ‼おまえがやらねばならぬのじゃ、マジンカイザー‼」
今なら、わかる。
爺は俺に、何かを伝えようとしているんだ。
そして、俺は気づいた。
マスクの下で、自分の目から涙が流れていることを。
「爺…‼」
ギュッと拳を握り、全身を震わせる。
すると、爺は俺を指さして問いかける。
『その顔は何じゃ、その目は何じゃ、その涙は何じゃあ!?』
大きく踏み込み、拳を握っては俺の顔面を平手撃ちしてくる。
「ぶぐふっ‼」
喰らってみれば、なんとも弱弱しい一撃だった。
俺と爺では、ここまでの差があったのか。
「おまえは何故、ワシの言うた通りにできん!?その涙で、誰が救えるというんじゃ!?憂いを断て、おまえがおまえであるために‼」
わかった…。
わかって…しまった。
爺は…おじいちゃんは、こうなった時から決めていたのか。
「うぐぅうう‼……ファイナル!カイザーブレェエエエエド‼」
胸のZのシンボルから、カイザーブレードを引き抜けば、それは魔神化の影響で身の丈を遥かに超える長剣となっている。
「神を越え…悪魔をも滅ぼす、この力で……今‼」
両手で柄を握り、下段構えから振り上げる。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお‼‼‼」
悲しみを、理不尽に対する怒りを力に変え、俺はカイザーブレードを薙ぎ払った。
スパアアァ―――――ンっ‼
『そうじゃ…それで良い……それでこそ……ワシの……愛しの…‼』
胴体と下半身を切り離し、倒れる爺。
その身体は、筋肉質なものから元の細い身体付きに戻っている。
「おじいちゃん‼」
変身を解除し、駆け寄る俺は爺を抱き上げる。
時間はまだ残されているようで、弱弱しい目を向けてくる。
『……ワシを、許すな…甲牙よ。彼奴らの策略にハマり、魔に身を堕とした、この兜十蔵を…許しては、ならぬ』
「じいちゃん……何で、こんなことに…‼」
戦いを見守っていたさやかも、俺たちの下に歩み寄ってはしゃがんで爺に語り掛ける。
「博士……話してください。何があなたを、そうさせてしまったのかを」
「さやかちゃん……君にも、申し訳ないことをしてしまった。甲牙の憂いを断たせるためとはいえ……ワシには、君を利用することが最善の手だと思ってしまった」
この反応から、ここまでの全てがおじいちゃんの演技だったことがわかる。
全ては、俺に自分を討たせるために選んだ道だったんだ。
「気を付けろ、甲牙…‼おまえは、あの男と戦う運命にある‼しかし、それは人類などのためではなく……おまえの未来をぉ…‼」
何かを伝えようとしているのがわかる。
しかし、そのための時間はあまりにも短すぎた。
「……最後の…最後に、思い浮かぶ言葉が……こんな安易な言葉とは……兜十蔵ともあろうものが、情けないが……」
おじいちゃんは、俺の頭に手を置いては笑みを浮かべた。
いつもの不敵な笑みではなく、人間らしい満面の笑みだ。
「ワシは……おまえたちを、愛しておったよ。悪くない……人生…じゃった」
ボトッ。
手が床に落ちては、その瞬間に全てを悟った。
「……うぅうぅ~~~っ‼じいちゃぁあああああああああああああああああんっ‼」
両目から、涙が零れた。
祖父の亡骸を強く抱きしめ、雄叫びをあげる。
「うわぁあああああああああああああああああああっ‼」
俺は今、自分の手で家族を殺したんだ。
そして、解放されたんだ。
おじいちゃんは、その命を以て俺を……兜甲牙という、1人の戦士にしようとしてくれたんだ。
「甲牙……」
さやかはただ、俺が泣き止むまで側に居てくれた。
後ろから抱きしめ、人としての温もりを与えてくれている。
泣くのはもう、これで最後にする。
ここで出し切って、憂いを断つ。
俺が戦士として復活する日は、今日この時だ‼
ーーーーー
場所はホーリースパーク本部の執務室。
格納庫の監視カメラ映像から、状況を観察する者が1人。
「兜十蔵……やっと、逝ったか。これで障害となる存在は、残り1人…」
甲牙を見ては、冷徹な目を向ける雷沼虎之助。
そして、その傍らに居るさやかを見ては、フッと笑う。
「あそこで弓の娘を殺していれば、魔神化は急速に進んだものだが……残念だ。しかし、兜甲牙、こんなものでは終わらせん……。人類の希望は、たった1人で良いのだ。そして、それは私こそが相応しい……貴様が神などではなく、悪魔と成り果てる時は近い…‼」
目障りであり、疎ましく思う存在。
雷沼にとって、甲牙は道端に転がる石ころのように邪魔な存在であった。
「しかし、我が父と同等のマッドサイエンティストと呼ばれた存在が、最後に愛を口にするとは……。フッ、世も末だな」
雷沼は椅子から立ちあがれば、とある人物に連絡する。
「私だ。たった今、兜十蔵の死亡を確認した。これより、光子力研究所を手に入れる計画を進める。古い人類の希望には……ご退場いただこう」
電話を切っては、執務室を出てはエレベーターで地下に進む。
そこはホーリースパークの中でも、彼だけが立ち入ることを許される秘密の研究室。
ドアが開いた先に広がるのは、数多もの巨大な水槽。
その中には、悪魔と人間が混じったような見た目の亡骸がいくつも浮かんでいる。
「英雄とは、戦いが続くからこそ求められ、尊ばれる。戦いを終わらせてはならない。共存など、必要ない。人類の、人類による、人類のための英雄はこの私、雷沼虎之助だけで十分だ」
独り言のように呟くが、その先に居る存在に「そうだろ、お爺様」と声をかけた。
『英雄か…。おまえがそれを求めるのであれば、追い続けるが良い。ワシの野望を、邪魔しなければな』
雷沼がお爺様と呼んだ相手は、デビルマン……いや、ドクター・ヘルであった。
『それにしても、おまえはやはりワシの遺伝子を継ぐ者よ。自身の野望を叶えるために、闘争を続けるための駒を用意するとは……』
「誰もがわかっていることじゃないか。闘争は終わらない。互いに異なる生命体は、否定し合うしかないのさ。共存なんて
ビキビキビキっと水槽の1つにヒビが入り、パリーンっと砕けては中から悪魔と人間が混じった怪物が姿を現す。
『た、助け…て……くれ…‼』
雷沼はその被検体に歩み寄っては、強引に腰に巻いているベルトを奪っては消滅させる。
「これでまた、人造魔人のサンプルができたか。次はいつ、悪魔どもを暴走させようか」
『悪魔と人間を無理矢理融合させ、デビルマンとすることでドライバーを生成するとは……。そして、それをまた他の人間に……我が息子ながら、残酷なことをするものよ』
「英雄には敵が必要だろ?役者は多い方が良い。そして……人々を絶望の底に落とし、そこに差し込む一筋の光を演出するためにも、あのマジンカイザーには悪役になってもらわなきゃ困るんだよ」
そう言って、その場を後にする雷沼。
息子の背中を見送りながら、ドクター・ヘルは不敵な笑みを浮かべる。
『のう、十蔵よ……。自ら孫の手によって討たれ、満足か?ワシも遠からず、そちらに行くかもしれん。その時は……共に互いの研究を語り合おうではないか。光子力に捧げたおぬしの人生と、悪魔の研究に捧げたワシの人生……どちらが豊かなものであったか、永久に…な』
今まで競い合っていた宿敵の死を悼むヘル。
そんな彼の声に、答えるものは誰も居なかった。