DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~ 作:カナト
兜十蔵博士の追悼式は、つつがなく行われた。
後にわかったことであったが、俺と弓さやかが光子力研究所に入った時に、人の姿が無かったのは事前に彼が人払いをしていたからであった。
犠牲になるのは、自分1人で良いという理由からだったのだろう。
身体が悪魔に成り果てようと、人としての心は残っていたからこその判断だと信じたい。
「アニキ……おじいちゃんは、最後に何て言ってたんだい?」
墓石の前で、シローが問いかけてくる。
「俺たちを愛していた……そして、悪くない人生だった…ってさ」
空を見上げながら、ポケットに両手を突っ込んで告げる。
悪くない人生……。
本当に、そうだったのか?
その身体が悪魔になって、俺に討たれることを望んで、実際にその通りになって満足だったのか?
俺にはわからない…俺には。
「甲牙……」
黒の礼服を着たさやかが、気まずそうに声をかけてくる。
「お父様が呼んでいるわ。その…今後の光子力研究所について、話がしたいって」
「……わかった」
世界は俺に、爺の死を悼む余裕を与えてはくれないらしい。
ーーーーー
さやかの案内で弓教授の下に案内されれば、そこは執務室であり対面する形でソファーに座らされる。
「こんな時に、すまないね…甲牙くん」
「いいえ、俺も他のことに気を紛らわせたい気分だったので…。それで、何の話ですか?」
「君には酷な話だとは思うが、とある研究チームから、こういう話が持ち上がってきてね」
そう言って、書類の束を手渡してくる。
そこに書かれている内容に、「んな!?」と声が漏れては目を疑った。
「光子力研究所を……買収だって…!?」
「兜博士が亡くなった今、最高責任者は不在となっている。そんな中で、対悪魔対策チームのホーリースパークの代表から、提示されたものだ」
「……どうして、これが教授の下に?」
「雷沼虎之助より、私に選択が一任されたのだよ。名ばかりではあるが、兜博士の代理の責任者は私となるのでね」
「そうですか…」
俺はこういう時、無力感に襲われる。
権利関係とか、そういう大人の事情には足を踏み込めない。
「私としては、彼に研究所を渡すのが賢明だと思う。君には酷な話だとは思うが、デーモンに対抗するためには光子力が必要になる。そして、それを有効活用できるのは、やはり悪魔に対抗しようとしている者たちではないかとね」
「俺は……」
俺が決断できずにいると、「それは早計ではないでしょうか、弓教授」と助け船を出す者が居た。
その声が聞こえて振り返れば、そこには三者連合の代表の姿があった。
「サタっ……飛鳥了‼」
「やぁ、こうして面と向かって会うのは久しぶりだね、兜甲牙。できれば、もう少し違う形で会いたかったがね」
飛鳥は俺の隣に座り、買収の書類をパラパラとめくっては目を通す。
「これは光明な言葉選びをされていますが、光子力研究を私物化することが上手く記載されている。これが本当に、人類に敵対するデーモンだけに対抗するために使用されるならば良い。しかし、無差別に悪魔の力を持つ者のみを滅亡させるために使用されるのであれば、我々三者連合としては容認できない」
弓教授の目は騙せても、飛鳥の目は誤魔化せない。
「雷沼虎之助…セイクリッドセイヴァーは、確かに人類に対して多大な貢献をしている。しかし、メディアにて悪魔を過剰に危険視する発言が多くみられる。私の耳には、穏やかに暮らすことを求めるデーモン族や、共存を望むデビルマンたちからの疑念の声が届いている。外野が口出しして申し訳ないが、あまりお勧めはできませんね」
「うむ……難しい問題ですな」
手を組んでは、腰を丸くする弓教授。
「この書類にサインされる前に、私が間に入って交渉させていただきたい。光子力は人類を発展させるための重要なエネルギーとなりますが、悪魔の力を持つ者たちにとっては有害な力になる。言わば、この世界にとっては諸刃の剣なのです。それを取り扱うものは、この世界の責任を背負うと言っても過言ではありません」
「そうですな。……頼んでもよろしいですか、飛鳥代表」
「喜んで。私としても、雷沼虎之助という男を知る良い機会となりますので」
弓教授から契約書類を引き継げば、彼は俺を一瞥してから席を立った。
その様子から、話があるらしいことが見て取れた。
「それじゃ、弓教授……俺もこれで」
「ああ、時間をもらって悪かった」
教授に挨拶した後、飛鳥と共に誰も居ない格納庫まで足を進めた。
「ここで、兜博士は亡くなったんだな……。惜しい人を失った」
「殺したのは俺だ。責めるなら、責めてくれ」
「いや、君が何の理由もなく博士を手にかけるとは思えない。……事情は聴いている。博士が悪魔の力を手にしたこともな」
「……そうか」
爺が悪魔化して死んだことは、秘匿情報とされている。
世間的には、研究中の事故という扱いだ。
「先程は、君たちの問題に口を挟んで悪かった。他人が口出しすることではないと思ったが、流石に事が事だけにな……」
「俺もホーリースパークに売り渡すのは、気乗りしなかったんだ。逆に助かったぜ、飛鳥代表」
皮肉を込めて人間の方の名前で呼べば、彼はフッと笑って受け流す。
そして、真剣な面持ちになった。
「懸念点が無いわけではない。奴らには、不審な点が多々ある。中でも、これは私たちの調査によって浮かび上がった可能性の話だが……」
飛鳥は俺に鋭い横目を向けて言った。
「
「何!?」
飛鳥の仮説に、俺は驚きを隠せなかった。
「雷沼は、光子力と悪魔の双方の研究に着手していた。そして、その光子力の研究によって生まれたのがセイクリッドセイヴァーだろう。そして、悪魔の方の研究は……」
口にすることが憚られるのか、彼は1度鍔を呑み込んでから言った。
「人間と悪魔の力を融合させる……言わば、人工的にデビルマンを生み出す研究だ」
「そんな……バカな!?」
雷沼虎之助。
その男の闇が今、明かされようとしている。
「彼がこれまで戦ってきたデーモンには、全てデビルマンのベルトが巻かれていた。自らの研究によって暴走したデビルマンを、自らの手で葬る。自作自演の英雄であった可能性も、無きにしも非ずだ」
「人類の希望を謡いながら、自らが人類の敵を作り出していたっていうのかよ!?何のために!?」
「そこまではわからない。しかし、幼稚な発想ではあるが……」
飛鳥は1度言葉を区切り、険しい表情を浮かべた。
「人類の希望という称号を得るためのマッチポンプ。そうだとしたら、辻褄が合う。何故、彼は暴走するデビルマンの現場に駆け付けることができたのか。人類に悪魔への警告を呼びかけるのか。全ては、自らを人類の英雄とするための計画だったのかもしれない」
悪魔を憎みながら、悪魔を生み出す。
そんな矛盾が、許されるはずがない。
「ドクター・ヘル……彼の父親もまた、悪魔の研究に着手していた。そして、今はその力を自らのものとしている。もしかしたら、彼がデビルマンの力を手に入れたのも、息子である虎之助の研究の被検体になった影響なのかもしれない」
「雷沼が、ドクター・ヘルの息子!?そんなこと、どこで…‼」
「兜博士から、彼の身辺調査を頼まれていてね。私もこの事実を知った時は、驚きを隠せなかったよ」
あの男が、俺を敵視する理由がわかったような気がする。
俺は…マジンカイザーは人類の希望と称されていた。
そして、そんな俺は兜十蔵…ドクター・ヘルにとっては宿敵の孫だと言える。
血筋の因縁。
そう言っても過言ではない。
爺が言っていた、あの男っていうのは……まさか、雷沼のことだったのか!?
ーーーーー
追悼式が終わり、さやかはスタッフと共に片付けに入っていた。
未だに、信じられなかった。
兜博士が死んだという現実を。
そして、彼を殺したのが孫である甲牙自身だということを。
(あの戦いで、博士は甲牙に何かを残そうとしていた……。そして、甲牙はそれを理解して、受け止めた。あの場で、私は……何も、できなかった)
さやかはただ、2人の戦いを見ていることしかできなかった。
無力だったのだ。
だからこそ、今の彼女は求めてしまう。
マジンカイザー……恋人である甲牙と並び立てるほどの力を。
「おや、もうお開きですか……」
その声に反応して視線を向ければ、そこに居た人物に驚きを隠せなかった。
「あなたはっ……雷沼虎之助!?」
「そういうあなたは、弓さやかさん…。お久しぶりですね」
向こうもさやかの名前を知っていたようで、歩み寄っては軽く会釈してくる。
「このような場で、またあなたとお会いすることになろうとは……。兜博士に最後の挨拶に来たのですが、遅すぎたようですね」
「い、いいえ。そういうことでしたら……こちらです」
さやかは直感した。
今、甲牙の心は混乱状態にある。
雷沼虎之助と、会わせてはならない。
棺の前に誘導すれば、雷沼は黙とうした後に一瞬だけフッと笑みを浮かべているように見えた。
「ゆっくりとお眠りください……永遠に」
そう口にする声は上ずっていて、とても死者を悼む心境のものの出す声ではないと感じた。
「兜甲牙くんも、ここに居られるので?」
「あ、はい…。ですけど、今はお父様とお話中でして」
「そうですか。それは良かった」
そう言って、彼はさやかの方に身体を向ける。
「弓さやかさん……。このような機会に会えたのも、何かの縁。私は前々から、あなたとはゆっくりと話をしてみたいと思っていたのですが、よろしいですか?」
「えっ…私と?」
「はい。旧・人類の希望と共に戦った、戦いの女神であるあなたと…ね」
その意味深な言葉に、怪訝な顔を浮かべていると彼は掌を向けてくる。
「さぁ、私と共に来るのだ。マジンカイザーをあの老いぼれと同じように、真の悪魔とするために」
手からは波動のようなものが放たれ、それがさやかの中に入り込んでいってはバタンッと気を失った。
彼女を抱き上げ、兜博士の亡骸に向かって笑みを浮かべる。
「灰となりながら、後悔するが良い。この私によって、おまえの全ては否定されるのだ。おまえも、おまえの孫も……未来永劫、悪魔の血統として語り継いでやろう」
雷沼はさやかを抱えたまま、光子力研究所を後にする。
向かった先は言うまでもなく、ホーリースパークの本部だ。