DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~ 作:カナト
白藤隆一が生きていた。
その事実を、俺はマンションにて美佐樹と共に確かめていた。
彼女の目には、明らかに動揺が見える。
「明人……あたし…‼」
あの時の…白藤に弄ばれた時の記憶が蘇っているのがわかる。
「美佐樹‼」
俺はたまらず、美佐樹を抱きしめては自らの意志を伝える。
「あいつがまた現れたとしても、絶対におまえを渡さない…‼俺が必ず、守ってみせる‼」
「明人……」
彼女も背中に手を回し、乳房が潰れんほどに強く抱きしめる。
「大丈夫。あたしは明人と共に居るわ。例えあの人がまた現れたって、否定してみせる。あたしが愛する人は明人だって、訴え続けるわ」
美佐樹の意志を聞いて安堵しつつも、俺の中で疑念は生まれる。
あの時、教会での戦いで確かに白藤をインパルスジャックで斬った。
そして、その断末魔の最後を覚えている。
それなのに何故、あいつはまた……。
「明人、行って。あたしは本当に大丈夫だから。白藤くんが始めようとしている戦いは、きっとまた……」
美佐樹の言おうとしていることは、俺にも理解できる。
神のシナリオ。
あれは消滅したわけじゃない。
俺たちは、その力の恐ろしさを知っている。
「これもまた、あの本の筋書き通りなのだとしたら……それを止めるのが、あたしたちの役目でしょ?」
「美佐樹……」
美佐樹もまた、戦おうとしているんだ。
彼女もまた、特異点としての役目を自覚している。
「まずは了さんたちと合流する。危険だから、美佐樹はここに居てくれ」
「わかったわ。……必ず、帰ってきてね」
大丈夫と言いつつ、その顔から不安の表情は晴れない。
「帰っても、いつも通りだ。飯食って、風呂に入って、1日の最後は美佐樹を抱きながら寝る。……そんな幸せな毎日を、あんな奴に邪魔されてたまるかよ」
俺たちの日常は変わらないことを伝えれば、美佐樹の表情が和らいではフフっと笑う。
「今日は……いつも通りじゃダメよ。いつも以上に、激しく抱いて。あなたに愛されている実感を、強く感じたいの」
「……任せろ」
そう言って、玄関にて送り出しのキスを交わした。
ーーーーー
三者連合に到着し、執務室に通される。
そこには既に、了さんとダンテの姿があった。
「来てくれたか、明人」
デスクに着いている了さんの表情は、神妙な面持ちになっている。
「事は急を要する。我々に残された時間は少ない。白藤隆一のいう1ヶ月という期限の中で、戦力を整えなければならない。遂に神との戦いも、見据えなければならないだろうな」
神との戦い。
その言葉で、気が引き締まった。
「甲牙は、流石にこの場には……」
「今は人目につかない場所に居るのだろう。彼とは一切連絡がつかない。あのような報道が流れては、致し方ないことだ」
俺たちは全員、雷沼虎之助の報道を見ていた。
甲牙を人類の敵と断ずる、真の救世主の言葉は強かった。
今では、セイクリッドセイヴァーを正義とし、マジンカイザーを悪とする動きが高まっている。
「まるで、いつかのミカエルの告白を思い出すな…。あのやり方も、神のシナリオ通りの筋書きなのか?」
「おそらくそうだろう。しかし、それにしては影響力が弱い。全てが筋書き通りに進んでいるとは、考えにくい」
神のシナリオが導く未来は、終焉の黙示録。
しかし、今は暴動も何も起きていない。
俺と了さんの会話を静観していたダンテが、口を開く。
「雷沼虎之助の報道に合わせたかのように、白藤隆一は世界に対して宣戦布告をした。これを偶然と見るには、いささか都合が良過ぎないか?」
「白藤が侵攻のタイミングを伺っていたと言ってしまえば、簡単な話なんだけどな。しかし、そうじゃないとすれば……」
「雷沼虎之助も、白藤隆一と同じく修正者である可能性が高い」
白藤の次に現れた、もう1人の修正者。
そして、それはデビルマンではなく、人類至上主義を掲げている。
同じ修正者であるのなら、創造者である神の意志に従うのが自然なはずだ。
しかし、俺は白藤のことを思い出しては1つの仮説が浮かんだ。
「もしかしたら、修正者の意志は一枚岩ではないのかもしれない。俺には、白藤が神のシナリオに従っているようには見えない。あいつは……神のシナリオを手にし、それを逆に利用しようとしているように思える」
前世界のアモンとシレーヌの繋がりを利用し、俺を悪魔に陥れて美佐樹を手に入れようとする手法が思い出される。
奴は神の描いた筋書きを辿りながら、それを自分に都合が良いようにしているのかもしれない。
「修正者はあくまでも、特異点を排除するために生み出された存在。その意志がどうであれ……いや、神にとっては彼らの意志すらも、修正者としての責務を果たさせるために、植え付けられた物なのかもしれないな」
了さんの仮説に、納得する部分があった。
あくまでも、神が自らの筋書き通りに世界を導くために用意した存在。
まさしく、神の操り人形と呼べるかもしれない。
自らの意志で運命に抗おうとする、俺たち特異点とは対極に位置するようだ。
「それで、俺たちはどうすれば良い?甲牙が表立って動けない以上、人類の協力を得るのは至難だ」
「そうだな。例え俺が呼びかけたところで、その影響力は今の人類の希望の前には遠く及ばないだろう。そうなれば、人間の力を借りることは難しいだろうな」
「それなら、俺たちが集められる戦力としては……デーモン族が主軸になるのか」
デビルマンは白藤に、人間は雷沼に協力する姿勢を崩さないだろう。
そうなれば、俺たちの声が届くのはデーモンたちしかありえない。
「皮肉なものだな。この世界を守るために戦うのが、物語としては悪役を担う悪魔になるとは。そして、その頂点に立つのは、かつて世界を滅ぼした堕天使…」
「それでも、やるしかない。あいつらに対抗できるのは、俺たちしかいないんだからな」
先程から、口数が少ないダンテが気になる。
「ダンテ……おまえ、どうしたんだ?さっきから、静かだな」
「俺は未だに、自分の道が決められないでいる。今の俺は、無力だ」
その問いかけに怪訝な顔を浮かべれば、彼は言葉を続ける。
「明人。俺はおまえと同じく特異点としての力を持つが、その力を扱えているとは到底思えない。これから先、修正者たちとの戦いになったとしても、俺はおそらく……足手まといになる」
ダンテはまだ、その力を目覚めさせたばかりだ。
先導者としての特異点の力は、未知数な部分が多い。
俺の選択者としての特異点は、この世界の運命を決めることができる。
そして、甲牙の守護者としての特異点は、世界を神の筋書きから守るためのもの。
しかし、ダンテのそれは未だにどのようなものなのかが見えない。
「先導者の力は、君が王としての在り方を定めた時に覚醒の兆しを見せるはずだ。急ぐことは無い。ダンテ、君は間違いなく、俺たちに必要な存在なんだよ」
彼の肩に手を置き、励ましの言葉を送る了さん。
「しかし、本当に奴らは1ヶ月間の猶予を我らに与えるだろうか?」
浮かび上がる疑念は同意できるものであり、俺もダンテも険しい顔を浮かべてしまう。
「何者かが、もう水面下で動いていてもおかしくはない」
了さんの憂う気持ちを前に、俺の中でくすぶるものが在った。
ざわつきにも近い感覚だった。
ーーーーー
ー時間は半日ほど前に遡るー
場所は地獄の城。
そこでは、白藤が玉座に座っており、その隣のテーブルにはチェス盤と駒が並んでいた。
「雷沼虎之助……人類の新たなる希望か。笑わせてくれる」
彼の独り言に反応するように、フッフッフっと笑う女の声あり。
「本当にお笑い草ね。だけど、それを利用するのも一手だとは思いませんか?超人を統べる王よ」
容姿は黒で身体のラインが出るスーツに身を包んでおり、シルクハットを被っている。
「お初にお目にかかります、白藤隆一様。私の名はヒミコ、以後お見知りおきを」
「おまえ……いつの間に、我が城内に」
警戒しながら問いかければ、彼女の背後に黒いゲートが開かれる。
「私はこの世界に選ばれし巫女。そして、このゲートは私と引かれ合う運命にある者の下に導くもの。運命が、私とあなたを引き合わせたのです」
奇怪な物言いをするヒミコであるが、白藤は彼女の笑みを受けては少し警戒を緩める。
(この女の真意……探る必要があるか)
「何をしにここに来た?おまえは、運命に導かれて何を求める?」
「無論、私が決めた王が行きつく未来を見たい。そのために、私はあなたに力を貸しましょう」
「ただの巫女風情が、地獄に足を踏み入れるだけでなく、この俺に助力するだと?面白い女だ」
その強気な物言いに、フッと彼も不敵な笑みを浮かべる。
「私があなたを、望む未来へと導いてみせましょう。まず手始めに、あなたの求める者を捧げましょうか?」
そう言っては、白藤の手元にあった神のシナリオが彼女の手元に移動する。
「これはっ…‼」
「私もまた、あなたと同じ存在だということです。これでご理解いただけましたか?」
神のシナリオに触れることが許された存在。
それは大天使と修正者にのみ許された権利だ。
そして、ヒミコの姿はまごうことなき人間。
言うまでもなく、修正者であることを表していた。
「おまえは人類の希望を利用すると言っていたな。何を、どうする?」
「簡単なことです。あなたのように、神の筋書きを利用するのですわ」
そう言っては、神のシナリオのページが彼女の望んだページまで開かれる。
それは救世主により、終焉の魔神が討ち取られる場面の内容だった。
「人類の希望が虚偽であることを知り、混乱する人間たち。そして、そこに英雄の存在が現れる。私たちは、そこに宣戦布告するのです。アーマゲドンを起こすために」
アーマゲドン…それは世界の終わりへと導く戦争だ。
「人類からすれば、悪魔の力を持つ者は悪となる。そして、自分たちは善。互いの身を滅ぼすまでの戦いを起こし、対消滅を目指すのです」
「……その消滅した世界、おまえは何を望む?」
「新たなる種の誕生。神が望むのは、自身の理想となる完璧な世界。そのアダムとイヴとなるのは、あなたともう1人……」
白藤とヒミコの頭に浮かぶ人物が一致する。
「加藤美佐樹。彼女を命を生み出す女神とし、理想郷を作るのです。あなたが王として君臨する、新世界を」
耳心地の良い言葉を並べ立てる彼女であるが、それでも疑念は残る。
「しかし、ただの人間では死ぬことはわかっているはずだ。加藤美佐樹には、何の力もない」
抑制者の特異点の力を持ってはいるが、それは戦うための力ではない。
彼女自身は、間違いなくアーマゲドンの中で死ぬ。
「そうであれば、死なないように力を与えるまでです。そのために、私に考えがあります」
そう言って、神の器のページを一枚切ってはそれが羽根へと変わる。
「彼女を神の器とし、新世界に適応させれば良いのです」
修正者たちの思惑は、既に水面下で始まっていた。