DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~ 作:カナト
監視役の任務についてはいるが、それも四六時中というわけではない。
交代制であり、他のデビルマンに引き継ぐことで自分の時間を確保することも可能。
東大寺は本部の自販機コーナーにて、缶コーヒーを買っては一気飲みした。
(そう言えば、ツバサさんはずっとあの部屋に居て、時間に縛られたルーティン生活を強いられている。僕みたいに自由に外に出る機会もなければ、こうして好きなものを買えるわけでもない。……今度戻ったら、さりげなく欲しいものでも聞いてみようかな)
椅子に座りながら、ツバサの凛々しい顔を思い出すだけで心が豊かになっていく。
『
頭の中に響いたのは、彼の内に宿るカイムの声だ。
彼は東大寺に対して好意的であり、シレーヌの力を宿すツバサに対しても心を開いている。
(ありがとう、カイム)
心の中で感謝を伝えた後、後ろを通る人影に声をかけた。
「あ、あのっ……明人さん‼」
名前を呼んで止めては、彼は振り返って東大寺の方を見る。
「おまえは、確か……東大寺だったか。ツバサの見守ってくれて、ありがとな」
急に声をかけたにも関わらず、名前を覚えているのみならず、任された責務を労ってくれた。
「もう今日の見守りは終わったのか?」
「あ、はい……。今は別の人が……と言っても、僕以外の人はツバサさんのことを怖がって、モニターからの監視に徹しているみたいですけどね」
苦笑いを浮かべながら言えば、明人は「そうか」と返事をする。
「シレーヌの力は、それだけ危険なんだ。それにここに来て最初の頃のツバサは、誰にでも反抗的な態度で殺意を向けていたからな。おまえも、何度か殺されそうになったんじゃないか?」
「まぁ、最初の頃は……。でも、僕がカイムの契約者だって聞いてから、少しずつですけど話をしてくれるようになったんです。役得って奴ですかね」
実際、東大寺以外にもツバサと対話を試みようとする者は居た。
しかし、彼以外とは真面に口を聞くことも無かったらしい。
「それにしても大変だろう?一日の大半、ずっと見守るのは。辛くなることは無いのか?」
「逆ですよ、明人さん。僕は……嬉しいんです。あの人と一緒に居られる時間が、とても好きなんです。例え監視対象だって言われても、僕にとってツバサさんは、シレーヌの契約者というだけじゃなくて、憧れの人なんです」
「……そうか。そう言ってくれて、嬉しいぜ」
明人はどこか黄昏るような、どこか安堵したような笑みを浮かべる。
「そう思ってくれる奴が居るだけでも、あいつの救いになっているんだと思う。これからも、あいつを側で見守ってやってくれ、東大寺」
彼は東大寺の肩に手を置き、ツバサを託す意志を伝える。
そして、世間話もそこで切り上げては本題に入る。
「それで?俺に何か用だったのか?ツバサのことで相談ごとなら、喜んで乗るぜ?」
まるで見透かしたように、話しかけた理由を当てられてしまった。
「えっ…!?何で……」
「いや、何ていうか……勘?だな、うん」
腕を組みながら、理由を考えようとしたが浮かばなかったらしい。
この人は、どれだけのことを見通しているんだ。
東大寺の驚きを察しながらも、明人は「まぁ、座れよ」と言って促してくれたので腰を掛ける。
「明人さん……僕、ツバサさんを自由にしてあげたいんです。だけど、方法が…わからなくて」
俯きながら、胸の内を吐露する。
幸い、周りには誰もおらず、聞いているのは明人だけだった。
「今の俺たちの状況からすれば、ツバサを解放するのはとても危険なことだ。これから、人類やデーモン、デビルマン……全てを巻き込んだ戦争が始まる。そんな中で、魔将軍レベルの力を持つシレーヌが敵側に加勢したとなったら、多くの犠牲者を生むことになるだろうな」
「……わかってます。わかってるんですよ、そんなことは…‼それでも、僕はぁ…‼」
今まで抑え込んでいた感情が、溢れ出ては言葉として吐き出される。
「シレーヌとか、デビルマンだとか、そんなことは関係ない‼僕はみんなに、本当の彼女を見てほしいんです‼そうすれば、ツバサさんがどれだけ優しくて、綺麗で……笑顔が素敵な人なのかが、わかるはずだから…‼」
「……おまえには、ツバサはそう見えているんだな」
明人は東大寺の言葉を否定せずに、受け止めては自分の考えを話す。
「俺はツバサに、大切な人を奪われそうになったことが何度もある。だからこそ、あいつに対して悪い意味でフィルターがかかっていることはわかるんだ。だからこそ、おまえから聴かせてほしい……あいつのことを、知るために」
そして、明人は時計を見てはスマホを取り出す。
「東大寺、これからどこかに行く予定でもあるか?」
「えっ……。いいえ、あとは帰るだけですけど」
「そうか。だったら、俺に付き合ってくれないか?」
そう聞かれては、生返事で「はい」と返す。
すると、彼はスマホでどこかに電話をかければ、すぐに繋がったようで内容を伝えてはすぐに終わる。
「俺んちに来いよ。同じ職場の仲間なんだ、帰る方向は一緒だろ?」
ーーーーー
東大寺がお呼ばれした先は、マンションの明人の部屋であった。
彼が先に入って「ただいま」と言えば、キッチンの方から綺麗な女性が出迎えてくれた。
肩で揃えている黒髪をした、豊かな胸と細みのスタイルをした美人だ。
今は夕飯を作っていたのか、エプロンをしている。
「お帰りなさい。夕飯の準備、そろそろ終わるから待ってて?」
東大寺が後ろから「お邪魔します」と言えば、嫌な顔せずに上げてくれた。
「ごめんなさいね。明人が急に人を連れて行くとか言うから、張り切り過ぎちゃったわ。あなたも、もう少し待っててくれる?」
「あ、はい‼すいません…ありがとうございます」
東大寺は明人と共にテーブルについては、2人分のお茶を出される。
ツバサとは正反対の、柔らかな印象を与える女性だった。
思わず見とれていると、前に座る明人からジト目を向けられる。
「おーい、人の彼女に見とれてんじゃねぇよ。ツバサに言いつけるぞー?」
「え、あ、すいません‼その……彼女さん、お綺麗ですね」
「まぁな。でも、おまえにはやらねーぞ?……というか、要らねぇか。おまえには、おまえの大切な人が居るんだから」
そう言って、彼は麦茶を半分ほど飲んでから夕飯が出るのを待つ。
「美佐樹も、久しぶりの来客で嬉しいんだと思う。このご時世だと、外に出て交流する機会も少なくなってきたからな」
「そ、そうですよね。もしかして、彼女がさっき言っていた、明人さんの……」
「その話は、飯の時にしようぜ。積もる話もあるだろうからな」
美佐樹の準備も終わったようで、テーブルの上に揚げ物やサラダの盛り合わせなど、大量のメニューが並べられていく。
「こ、こりゃまた……頑張ったなぁ」
東大寺もテーブルに出された数々の料理に、思わず目を疑ってしまった。
「あ、明人さんはいつも、これだけの量を食べてるんですか?だから、そんなに身体がガッシリして……」
「いや、流石にこんなに食ってねぇよ。美佐樹、何人分作ったんだ?」
「明人が人を連れて行くって言うから、多めに作ったのよ。何人連れてくるかなんて、言ってなかったし」
何人来ても良いように、多めに作った結果がこれらしい。
流石の明人も、自分の説明不足が原因ともなれば黙って食べるしかなかった。
ちなみに、料理自体はとても美味であった。
ーーーーー
夕飯を終えた後、美佐樹が洗い物を済ませてはソファーに移動し、明人と美佐樹は2人用の、東大寺は1人用のものに座る。
「それで……さっきの話の続きだけど、おまえはツバサとどんな時を過ごしてきたんだ?」
明人が真剣な顔で問いかければ、ツバサという名前に美佐樹は少しだけ眉をひそめる。
夕飯の時に、彼女には東大寺がツバサの監視役であることは話してある。
その時も、表情は険しかった。
「俺と美佐樹は、正直ツバサに……シレーヌに対していい思いでが無い。戦って、殺し合いまでしたことがある。だけど、おまえにはツバサが別の角度から見えているんだろ?だったら、それを俺たちに教えてほしい」
この場に美佐樹を同席させたのは、彼女の中にあるシレーヌへの意識を変えるためだろうか。
そして、席を離れないところから、美佐樹も東大寺の話に耳を傾けようとしているのがわかる。
「僕にとって、彼女は…柊木ツバサという存在は、光なんです。最初は確かに、カイムがシレーヌに反応したことが始まりでした。だけど、それだけじゃないんです……。ツバサさんは、僕に生きる道を示してくれたんです」
東大寺は話した。
ツバサと初めて、心を通わせた時のことを。
ーーーーー
ー時は遡り、ツバサが収容された当初ー
東大寺はツバサの監視役になって一週間が経つが、気まずい空気が流れていた。
あれは明人から、改めて決別を言い渡された後日のことだ。
契約している悪魔の影響か、カイムのシレーヌに対する心が彼にも伝播していた。
しかし、ツバサは1日を通して寝ているだけの時間が多い。
ごはんやシャワー浴、排せつ以外は、ベッドで寝て時間が経過している。
「そんなに寝ていて、逆に疲れませんか?」
「……」
「まぁ……こんな部屋じゃ、やることも無いと思いますけど」
「……」
「何かあったら、何でも言ってくださいね?ここから出すのは、流石に難しいですけど、それ以外だったら……」
沈黙が苦になり、言葉を投げかけ続けるとツバサから「おい」とやっと返事が返ってくる。
そして、彼の方を見ることなく答える。
「うるさい。静かにしていろ、寝てられん」
「……そんなに眠たいんですか?」
「違う。おまえの言う通り、やることが無くて退屈なだけだ。本当なら、こんな牢獄など、シレーヌの力を使えばすぐにでも……」
彼女は忌々し気に手に巻かれている鎖を睨みつけては、「くっ」と声を漏らす。
「おまえと話すつもりはない。大人しく、私の監視を続けていろ」
「……そうですね。だけど、僕もずっとここに居てもやることが無いって気づいたんですよね。だから、勉強でもしています」
そう言って、監視役用に用意されたテーブルの上に、バックから教材を取り出してはノートを広げる。
「勉強…?」
ツバサは少し身体を起こし、東大寺の方に視線を向ける。
「……おまえはバカか?」
そして、履き捨てるように聴いてきた。
「今の世界のありさまを知らないわけではあるまい。勉強なんてしたところで、結局は力が無ければ死んでいく。そんなことをしている暇があるなら、己の腕を磨いた方が賢明だ」
「……確かに力だけで物事が決まる世界なら、そうかもしれませんね」
東大寺はツバサの方に身体を向け、対話をはかる。
「今はそれが自然の摂理だとしても、勉強したことがどこかで役立つかもしれない。今じゃなくても5年後、10年後、あるいはもっと先の未来にでも、知識は自分を助けてくれる。僕はそう信じてるんです」
「……くだらない」
彼の言葉は、彼女には響いていなかった。
しかし、ツバサは勉強する東大寺の姿から目が離せなくなっていた。
そして、黙々と参考書を見てはノートにペンを走らせる彼の方に、足が向かっていた。
「そんなに、楽しいのか?」
「えっ……楽しそうに、見えました?」
「違うのか?そんなに集中して、本にかじりついて……そんなに、勉強は楽しいものなのか?」
ツバサの心が、少しずつ揺れ動き始めていた。
戦い以外のことに、関心が向き始めていたのだ。
「……読んでみますか?」
「良いのか?」
参考書を渡してみるが、ツバサにしてみれば最初から意味がわからなかった。
「おい、これはどういう意味だ?さっぱりわからん」
「ん?あぁ…それはですね」
他愛のない、時間つぶしのつもりだった。
しかし、ツバサにしてみれば未知の領域だった。
今まで感覚的に、自分の力のみで生きてきた。
弱肉強食の世界で生きていくと決めた彼女に、東大寺との勉強は新たな可能性を示したのだ。
「ここが、こうなって……そうです、そこでこの式を当てはめれば―――」
「そうか、できた!できたぞ、東大寺!」
ツバサは年頃の女の子のように、ノートとペンを持ったまま無邪気に飛び跳ねている。
その時の嬉しそうな彼女の笑顔は、東大寺の頭に焼き付いていた。
その後もいろいろな知識を、ツバサは東大寺と共に補強していった。
今まで戦いに向かっていた戦士としての欲望が、今は知識欲へと変わっていく。
これが東大寺がツバサに与えた、新たなる欲望となったのだ。
そして、監視役が東大寺から交代になる時間が来た。
「……東大寺」
ツバサは教科書とノート、ペンを、鉄格子の中から彼に返す。
「意外と……楽しいな、勉強って。こんな感覚、初めてだ」
「ツバサさん……」
東大寺は眼鏡の位置を正した後、勉強道具を受け取って彼女に真剣な目を向ける。
「また、一緒に勉強しましょう!」
「……い、良いのか?私なんかに教える時間など……気を遣う必要はないんだぞ?」
「僕がそうしたいんです。ツバサさんと一緒に……居たいんです」
決意を込めた目で言えば、彼女は若干目を見開いては「ふんっ」と言って背中を向いてしまった。
「しょうがないっ!ただの暇潰しとしてだがっ…‼おまえに……付き合って、やる」
歯切れの悪い言い方ではあったが、その時のツバサの身体は震えていた。
そして、帰り際に彼女が微かに「ありがとう…」と呟いた声が彼には届いていた。
その日以降、ツバサは東大寺の前では少しずつ素直な一面を見せるようになった。
戦いだけが全てだった彼女の心を、彼は開いたのだ。
この話書いてて、途中から思った。
あれ?ツバサってこんなに可愛かったっけ…?
東大寺くん、ファインプレー‼
そのまま突っ走れー‼