※この作品はR-18です。

DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~   作:カナト

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妖鳥の後悔

 三者連合内でも、柊木ツバサに向ける目は未だに恐怖、敵意に近いものが多い。

 それこそ、彼女に好意的な目を向けているのは東大寺くらいのものだった。

 

 職員の中には、彼女のシレーヌの力によって仲間を殺されたものも存在する。

 この褐色の肌をした筋肉質な肉体を持つジェイソン・ゴーダと、その部下2人も内に含まれる。

 

「聞いたか?飛鳥代表が、あの女を釈放することに前向きだって話だぜ」

「それも、内海明人が口添えしたからだろ?柊木ツバサ…あいつのシレーヌの力によって、俺たちがどれだけ苦しめられたかわかったもんじゃないってのによ」

「だが……今の奴は変身能力を封じられている。生かすも殺すも、今は俺たちの想い通りだってわけだ…クックック」

 

 3人の男たちが、暗闇の中で不気味な笑みを浮かべている。

 

「このまま、いけしゃあしゃあと外に出られたんじゃ、俺たちの気が治まらねぇってもんだ」

「三者連合も、生温い理想論ばかりを振りかざす奴らばっかで腹が立つぜ。本当に人間と悪魔が共存できると思っているのか?」

「俺たちも、戦争が始まる前に決断しないといけねぇようだな。三者連合か、デビルマン軍団に寝返るのか」

 

 悪魔の力を持つ人間だからこそ、揺れ動く心境がある。

 三者連合に所属し、共存の道を辿るのか。

 デビルマン軍団に寝返り、支配の道を突き進むのか。

 

 飛鳥了が代表を務める組織であると言っても、その思考は一枚岩ではない。

 

「まぁ、そんな先のことは今考えても仕方が無いだろ。今は……あの女に、どうやって復讐するかだ」

 

 人は立場が変わった時、心に大きな影響を与える。

 弱い立場の時は恐怖を覚える対象でも、自らが強い立場になればその認識は餌へと変わるのだ。

 

「たっぷりと、これまでの例をさせてもらわねぇとなぁ?デビルマン・シレーヌ……いや、柊木ツバサよ」

 

 

 ーーーーー

 

 

「欲しいもの?何だ、藪(やぶ)から棒に」

 

 ツバサが東大寺からの質問に、怪訝な顔で聞き返す。

 

「い、いや、その……ツバサさん、ここでの生活にそろそろ飽きてるんじゃないかなって思って。もし良かったら、僕が見守り役の時はジュースでもおにぎりでも、何でも買ってきて差し入れしますよ」

 

 ドンっと自身の胸を強く叩いて言う彼に、ツバサは「はぁ」と溜め息を漏らす。

 

「私は囚人の身だ。そんな贅沢ができる立場じゃないことはわかっている。今は……おまえとこうやって、遅れていた時間を学びに費やすことができるだけでも、十分過ぎるくらいだ」

 

 今までの彼女からは考えられないような発言に、東大寺は面食らう。

 ちなみにツバサは今、彼が持ってきた活字の本を読むことに夢中になっていたが、彼との話に集中するために1度閉じた。

 

「おまえとの時間は、今まで自分がどれだけ時間を無駄にしていたのかを痛感する。悪魔の力に目覚め、戦うことだけが生きがいだったのに……今では、戦いよりもこうして本を読んでいるだけでも心地よさを覚えるんだ。もっと、早く……気づければ良かったな」

 

 そう呟く彼女の目は、憂いているようだった。

 

 後悔。

 そんな言葉が、ツバサの頭には浮かんでいる。

 

「今気づけたなら、それで良いじゃないですか。遅れた分だって、取り返せば良いんです。僕が付き合いますよ、ツバサさん‼」

 

 真っ直ぐに自分の気持ちを伝える東大寺に、ツバサも満更でもない顔で「ありがとう」と返す。

 しかし、彼に見えないように顔を伏せれば、表情が曇る。

 

(東大寺……確かにおまえは、私に新しい気づきを与えてくれた、恩人とも呼べる存在だ。しかし、私はおまえに何も返すものは無い……。むしろ、私と居ることでおまえに与える影響は……)

 

 ツバサ自身、これまでの自分の行いは理解している。

 力と衝動の求めるままに、殺戮の日々を過ごしてきた。

 誰かに恨まれ、憎まれ、殺意を向けられることはわかっていた。

 前までは、それも弱肉強食の摂理だと思っていた。

 

 しかし、今の彼女には憂いがあった。

 ツバサは薄々、気づいているのだ。

 

 東大寺翔琉(とうだいじ かける)。

 自分が彼に向ける気持ちが、かけがえのないものになりつつあることを。

 そして、彼を失うことの怖さを。

 

 今日とて、東大寺がここから去った後のことを考えるだけでも不安に押しつぶされそうになる。

 

 もう2度と、ここには来ないのではないか。

 自分はまた、見捨てられるのではないか。

 彼との時間が、本当は都合のいい夢だったのではないか。

 

 その大きな不安が、次に彼が来た時には消えて安らぎを得ている。

 毎日が、その繰り返しだった。

 

「東大寺……」

 

 少し震えるような声で、ツバサは彼の名前を呼ぶ。

 

「はい、どうしました――――って、ツバサさん!?」

 

 東大寺が顔を上げれば、彼女はバサッと服と下着を脱いでは全裸になる。

 豊満な乳房、乳首、陰部が、全てさらけ出されている。

 

「見てくれ、東大寺……私のことを」

 

 恥じらうことなく、ツバサは軽く両手を広げては彼に自身の裸体を見せつける。

 

「私の身体は……綺麗か?汚れてないか!?」

 

 まるで縋(すが)るように、彼女は問いかける。

 

「ちょ、ちょっと、からかってるんですか!?」

 

 東大寺は咄嗟に後ろを振り向いては、顔を真っ赤にして両手で目を隠す。 

 そんな彼の態度に、ツバサは悲し気な表情を浮かべながら、鉄格子の前まで歩み寄っては中から彼に向かって手を伸ばす。

 

(東大寺……私は、おまえを…‼)

 

 口に出したい言葉は、いくらでもある。

 しかし、それを口にすることを、彼女のこれまでの経験が許さなかった。

 

 ツバサの前には、東大寺の向こう側に見えてしまったのだ。

 

 自身がこれまで殺してきた骸たちが、彼女を睨みつける姿が。

 

(……ダメだな。こんなことは……許されない)

 

 伸ばした手が、残り3センチで届きそうになったところで、拳を握って引き戻すツバサ。

 そして、自身の腰に手を当ててはアハハッと笑う。

 

「そうだ、からかってやっただけだ‼どうだ?少しは退屈しのぎになっただろ?」

 

 そう言っては、下着と服を着ては彼に背中を向けた。

 

「東大寺。やはり、おまえは私に相応しくない」

 

 彼女は冷たい声で、そう言った。

 

「えっ……どうしたんですか、改まって」

 

 東大寺は思わず、振り返って聞き返してしまう。

 

「そのままの意味だ。言っただろう、私は強い男が好きだ‼例えおまえがカイムの契約者だとしても、私の心はアモンを求めてしまう」

 

 嘘だ。

 あの明人との戦いで運命の繋がりが切れたと気づいた日から、ツバサの中でアモンを求める気持ちは消えていた。

 

「勉強なんて……くだらない‼これから戦争が始まるんだぞ!?こんなものが、何の役に立つ!?軟弱なおまえが、私に構っていても良いのか!?私を理由にして、戦いから逃げるな‼おまえはもっと、強くならなきゃダメなんだ‼」

 

 彼女は全身を震わせながら、東大寺の方に身体を向けては床に置いていた本を彼に向かって投げつけた。

 本当は、そんなぞんざいに扱いたくはなかった。

 彼が自分のために用意してくれたものだと、知っていたから。

 

「ツバサさん……」

 

 動揺しながら名前を呼ぶ彼を、ツバサは目に涙を浮かべながら指さす。

 

「私は強い、だからどんな相手とも戦える‼しかし、おまえは弱いんだ‼だから、1分1秒も無駄にするな‼知識だけでも、情報だけでもダメなんだ‼己が力で、道を切り開かなければいけない時が必ず来る‼だから、おまえは弱い自分から、変わらなくちゃ…‼」

 

 涙を流しながら訴える彼女に、東大寺は何も言い返せなかった。

 

「出て行け‼そしてっ……弱い男が、私の前に2度と姿を現すな」

 

 彼はもう、何も言うことができなかった。

 それはツバサの怒りに圧倒されたからではなかった。

 逆だ。

 彼女の姿が、とても悲し気に映ったから。

 

「……わかりました」

 

 東大寺は眼鏡のレンズを反射させ、地下監獄を後にした。

 時間としては、ちょうど見守りを交代しなければいけないことも理由としてはあった。

 しかし、一番の理由は、ツバサ自身がそれを望んでいると伝わったからだ。

 

 彼が出て行ったのを確認した後で、膝から崩れ落ちるツバサ。

 

「…ううっ…うぐぅううっ…‼」

 

 自らの顔を両手で覆いながら、悲しみの声を上げる。

 

「うわぁああああああああんっ‼」

 

 彼女は恐怖に、勝つことができなかった。

 

 失うことの怖さに。

 巻き込むことの怖さに。

 見捨てられ、傷つくことの怖さに。

 

 だからこそ、自身を照らしてくれた光を手放してしまったのだ。

 

「うぐっ、ううぅ‼東大寺っ……東大寺ぃいいいいいっ‼」

 

 名前を呼んでも、東大寺が戻ってくることは無かった。

 わかっていた、自ら突き放したのだから。

 

「あぁはぁああああああああああっ‼」

 

 雄叫びのような泣き声は、そこから1時間続くことになった。

 

 

 ーーーーー

 

 

 東大寺は地下牢獄を出た後、とぼとぼと腰を丸めながら歩く。

 

(僕はやっぱり……ツバサさんに必要とされていたわけじゃなかったのか)

 

 自らが持ってきた本も、彼女に投げつけられてしまった。

 

 結局、自分に彼女を救うことはできない。

 その無力感に、じわじわと胸が締め付けられる。

 

 そして、三者連合本部内を歩いていると、後ろから声をかけられる。

 

「東大寺翔琉…だな?」

 

 振り向いた先に居たのは、3人の屈強な肉体をした男たちだった。

 

「あ、あなたたちは…!?」

 

 驚きながら、身体を向けて身構える東大寺。

 中央に居る男が口を開く。

 

「俺の名はジェイソン・ゴーダ。デビルソルジャー隊の者だ」

 

 デビルソルジャー隊。

 三者連合内でも、かなりの戦闘経験を持った武闘派で攻勢されるチームだ。

 その戦闘方法も過激であり、敵をいたぶる戦法を好んでいる。

 今では長期間の戦闘続きで人数は極少数になっているが、それでも隊長のジェイソン・ゴーダを始めとした精鋭たちは圧倒的な強者の風格を漂わせる。

 

「ジェイソン・ゴーダさん……。デビルソルジャー隊の隊長が、僕に何のようですか?」

 

 少し警戒しながら問いかければ、ジェイソンは軽く東大寺の肩に手を置く。

 

「何、そんなに身構えなくても良い。俺たちは、君と戦いたいわけではない。少し話をしてみたいと思っただけだ。デビルマン・シレーヌ……柊木ツバサの弱点となった、君の話をな」

 

 そう言う屈強な軍人の目は、獲物を狩る獣の目をしていた。

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