DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~ 作:カナト
忘れられぬ輪廻
『忘れてはなりません』
どこからか、誰かの声が響く。
それが誰の声なのか、彼女はわかっていた。
目を開いては、自らの身体が全裸の状態で暗黒の空間に浮かんでいるのがわかる。
『例え、あなたの運命を彼に託したところで、あなたは逃れられない』
空間の中に白い光が輝いては、そこには彼女と同じく長い黒髪をした全裸の女性が浮かんでいる。
『わかっているはずです。だからこそ、あなたは彼と共に居ることを選んだ。自身の行いが、この世界に対しての裏切り……罪となるとわかっているから』
「……」
彼女は口を開かず、自身と瓜二つの容姿をしている。
『私はもう、あなたの下には居られない。あなたは、運命と向き合う時が来たのです。逃れられない、自身の運命。そして、その魂に刻まれた罪と』
彼女は、自身に語り掛ける女性に手を伸ばす。
「わかっています、逃れられないことは」
女性も彼女に、鏡合わせのように手を伸ばす。
『それでも、あなたは恐れている。何度も繰り返す運命から逃げ、彼に嘘をついていることに対する、負い目に』
手が重なり、女性の姿が白い粒子となって消えていく。
『向き合ってください、自分の運命と。そして、彼自身と。あなたは、あなた。他の何者にもなれない……あなたは私にはなれない。あなたの運命は、あなたが決めるしかないのです』
その言葉と共に、彼女の頭に膨大な情報量の記憶が流れ込んでくる。
それはこの世界…いや、あらゆる世界で起きた、戦いの歴史。
何度も王としての力を開花させ、世界の運命を変えるための戦いに挑んでは、敗北してきた記録。
輪廻する記憶が、彼女の頭と心を蝕んでいく。
「いやっ…いやっいやっいやぁ‼思い出したくない…‼私はっ……もう、戦えないの…‼」
彼女は頭を押さえては、涙を流しながら苦しむ。
「教えて……私はどうすれば良いの!?どうすれば、私はっ…‼」
答えを求め、すがるように女性を見上げる彼女。
しかし、女性は首を横に振る。
『あなたはもう、私という幻にすがることは許されない。示さなければならないのです、決意を。どんな名前に変えようと、あなたはあなたでしかないのだから』
女性は消える直前に、彼女の真の名を口にした。
『アイラ。私はあなたに、その名と運命を御返しします』
ーーーーー
「沙織……どうした?」
名前を呼ぶ声が聞こえては、沙織はハッと我に返った。
「えっ……どうしたって…ダンテこそ、どうしたの?」
俺の呼びかけに反応しているが、心ここに非ずの状態だったのは間違いない。
「熱さにやられたのか?無理もない。外に出ていなくても、この天気じゃな……」
俺たちはテントの中に居り、一歩外に出れば日の光が眩しくて手で影を作る。
ここはジャングル。
三者連合本部から遠く外れた、荒野にも近い場所だった。
しかし、それが年月が経っているわけでもないのに、自然が広がっては樹海が広がっていた。
アマゾンを思わせるほどの視界の中で、沙織も外に出ては視線を上に向ける。
「こんな所を占領して、向こうは何を考えてるんでしょうね……」
目と鼻の先には紫色のバリアが展開されており、外の世界と隔絶されているのがわかる。
「サタンが言っていたはずだ。この土地には、何かがあると。だから、俺たちはここに来たんだろ?」
時は1週間前に遡る。
三者連合の所有する土地の1つが、何者かの襲撃を受けては占領されてしまったのだ。
そして、周りを覆うように樹海が広がっては周囲に巨大な特殊バリアが展開されていた。
それは人間どころか、力の弱い悪魔すらも通さない。
魔王クラスの力を持つ者でなければ、通過することは至難だった。
そして、その調査に駆り出されたのが、俺だった。
明人はサタンと共に来たるべきデビルマン軍団との戦いとの準備に入っており、甲牙は世界の救世主として日々追われている。
自由に動けるのは、俺だったということで白羽の矢が立ったのだ。
本当は俺1人で行く予定だったが、沙織も何故か同行するとしてついてきた。
「沙織……どうして、一緒に来てくれたんだ?おまえは別に、街に残っていても……」
「……気になることがあったから。それに、ダンテ1人だと危なっかしくて心配でしょ?」
そう言ってウインクしては、少しだけ憂《うれ》うような目をしていた。
そして、バリアまで接近しては俺はデビルマンとしての姿になっては手で触れる。
バチンっと小さく弾かれるが、それでも貫通できないほどではない。
しかし、問題は沙織だ。
ここまで来て、彼女が通り抜けることは不可能だと感じた。
何故なら、沙織はただの人間なのだから。
「沙織、離れていろ。少し強引にはなるが、ここは俺が無理矢理にでも―――」
「多分……その必要は無いわ」
そう言って、沙織はバリアに歩み寄っては手をかざして前に進む。
すると、スゥーっと手がバリアの中に入っていたのだ。
「なっ!?」
それを身をもって体感した瞬間、沙織は小さく「やっぱり……」と呟いたのを聞き逃さなかった。
そして、そのまま身体ごとバリアの中に入って行った。
「1人で行くな、沙織!危険だ!」
彼女とは違い、俺は強引に身体を通しては体力を消耗しながらも身体をバリアの中に侵入させることに成功した。
「どうして、おまえは拒絶されず、俺は……」
「おそらくだけど、このバリアは人とか悪魔とか関係なく入ることを許さないのよ。……とある者たちを除いてね」
まるでバリアの性質を理解しているかのような言い方に引っ掛かりを覚えたが、沙織は足を進めて行った。
「そんなことより、今はここで何が起きているのかを探らないと。時間はあまり残されていないわ」
「そ、そう…だな」
追及したい気持ちはあった。
しかし、俺はその気持ちを抑えて彼女の背を追った。
バリア内は人の気配が全くしないが、何か不気味さを感じさせる。
わざわざ、外界との接触を阻むような空間は、いつかの魔戒島を思い出す。
「……ダンテ、あれを見て?」
沙織は何かを見つけたのか、建物のようなものを指さす。
そこは石造りの遺跡だった。
形状はピラミッドに似ており、全長50メートルほどの高さをしている。
「こんな所に遺跡が…?」
それを目にして、俺は頭に
俺の中の何かが、そこに向かうように促してくる。
そして、同時に沙織からも「行ってみない?」と提案を受ける。
「そうだな……何かわかるかもしれない」
無論、警戒はしつつも、進む足を止められなかった。
好奇心とは違う、何かに突き動かされるような感覚。
それに抗うことはできず、引き寄せられるようにピラミッドの前に移動した。
「この中に、一体何が……」
遺跡の中に入れば、中は少し肌寒かった。
そして、暗闇を進んだ先で、沙織がライトを向けて壁を照らせば、「え!?」と彼女は声を漏らす。
「これは……壁画だわ」
彼女の見ている方向に目を向ければ、そこには確かに何かが描かれていた。
それは天使と悪魔の決戦。
天使の背後には、巨大な老人のような顔が描かれており、悪魔の戦闘には巨大なコウモリのような魔王が映し出されている。
「この悪魔……ダンテ、あなたに似ている気がする」
「確かに、そうだな……」
それは以前、魔戎島で力を暴走させた時に変化した、俺の悪魔としての姿と|酷似〈こくじ〉している。
悪魔たちの戦闘に立ち、天使たちに挑むその姿はまさに先導者と呼ぶにふさわしい。
しかし、俺はその魔王の頭部にある肌色を見逃さなかった。
「これは……女?」
魔王の頭部に乗り、杖を頭上に掲げる長い黒髪の女が描かれている。
沙織はそれを見た時に、「うっ‼️」とうめき声を上げては頭を押さえる。
「沙織!」
彼女にかけよって身体を支えた時、大きく全身を震わせているのが伝わった。
そして、俺にしがみつくように腕を掴んでくる。
「やっぱり……逃げられないと言うのっ…?私は…‼️」
額から汗をかきながら、瞳が泳いでいるのがわかる。
明らかに動揺している。
ここに来てから、様子がおかしいのは明白だ。
「沙織……やっぱり、おまえは本部に戻った方が良い。そんな状態では……」
離れるように進言したが、彼女は「いやです!」と俺の提案を拒絶した。
「いやっ…私は……多分、今、あなたと離れたら……耐えられないから」
離れたくないというように、俺の胸に額を押し付ける沙織。
弱っているのは自覚しているが、それでも共に居たいという彼女に、それ以上何も言うことはできなかった。
ふらつく沙織の肩を支えながら前に進めば、遺跡の中心部に来たようだ。
そこには、巨大な石像が|祀〈まつ〉られていた。
翼と腕が一体となっている、灰色の翼竜の像。
それはどことなく、先程の壁画に描かれた魔王と似ている。
「これは……何だ?」
沙織を床に座らせた後、石像に歩み寄った瞬間―――。
【待っていたぞ、魔王の器よ】
その声は直接、頭に流れ込んできた。
テレパシーだ。
それも石像からのものだとわかる。
「何だ……おまえは、誰だ?」
声に出して問いかけるが、答えは返ってこない。
しかし、確かに今の声は言っていた。
待っていた、と。
ここには、俺に関する何かがあるんだ。
この遺跡には、調べなければならないことが多いようだ。
「魔王の器……。俺はやはり、そのために生み出された存在なのか」
来たるべき決戦を前に、俺は今、本当の意味で運命と向き合おうとしていた。
魔王とは、先導者とは。
その意味を理解し、受け入れた時、俺は大きな決断を迫られることになる。
この時の俺はまだ、そのことに気づいていなかっった。