DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~ 作:カナト
彼女が目を覚ました時、妙な
身体が軽くなり、起きるのが苦ではないと感じる。
いつもなら、もっと寝ていたいとか、疲れが残っていてすぐには起き上がれないことが常だった。
それが今では、早く目を開けて確かめたいと思う事実があった。
「ダンテ!?」
飛び起きては、彼女は周りを見渡して愛しい人を捜す。
自分が寝ていたのは、藁のベッド。
全裸のまま、身体の上には毛布がかかっている。
そして、外から戻ってきた彼がドアを開けて入って来た。
「どうした?そんな大声で俺の名前を呼んで…」
怪訝な顔で問いかけてくるダンテの態度は、いつもと変わらない。
変わっているのは、むしろ自分。
いつもは
愛羅はどこか躊躇うように、目を泳がせては口を震わせる。
「あの…私……」
身体が震えており、何と言えば良いのかわからなかった。
自分の正体は知られており、互いの想いも確認し合った。
そして、身体と心が本当の意味で結ばれて迎えた翌日…。
昨日1日でいろいろと起きすぎて、情報処理が間に合っていないようだった。
しかし、そんな戸惑いは彼の一言で全て消し飛んだ。
「おはよう、
薄く笑み浮かべて挨拶をしてくる。
何気ない、変わらないやり取りだった。
「愛…羅……」
愛羅は思わず、彼が呼んだ自分の名前を復唱した。
変わっているのは、愛しい彼が本当の自分を認め、名前を呼んでくれることだけ。
そして、毛布を脱ぎ捨てては、裸であることなど気にせずに彼の胸に飛び込んだ。
「あ、愛羅…!?どうした、急に!?」
彼女を抱き止め、その腰に手を回しながらも戸惑うダンテ。
「そうよ…私は愛羅……愛羅なの。あなたのことが、ダンテのことが好きで、好きでたまらない……武藤愛羅なの」
目を閉じながら、彼の腕に包まれている感触を、温もりを感じとる。
(良かった……あれは、夢じゃなかった。私たちは、ちゃんと……分かり合えていた)
「俺もだ……愛羅のことが、好きだ」
彼女が乳房が潰れんほどに強く抱きしめてくるのを、ダンテは優しく受け止め、頭を撫でる。
そんな時間が、5分ほど続いたのだった。
ーーーーー
アジト内に人の姿は当然無く、居るのは俺と愛羅だけだ。
俺たちは外で、焚火をしながら朝食を取る。
「期せずして、拠点を手に入れたわけだが……これから、どうする?」
石の椅子に座り、焼き魚を食べている愛羅は、白いローブに身を包んでいる。
「ヴァルバ軍団が崩壊したことは、すぐにエルドラドにも知れ渡ることになると思います。だから、その前に対策を練っておかないと」
エルドラド。
ムー人の末裔を名乗る、謎の組織。
俺たちはまだ、それと接触していない。
しかし、ムーのテクノロジーを所有していることの恐ろしさは、空を覆うこのムーボーダーが証明している。
未知のオーバーテクノロジーに挑むことになる脅威に、備えなければならないんだ。
俺たちは今、たった2人だ。
ヴァラバ軍団を潰すことができたのは、奴らが戦士として未熟だったからに他ならない。
「1度、エルドラドに偵察に行くのも良いかもしれません。可能なら、対話による解決も……」
「それは理想的だが、果たしてそれが可能なのか?問答無用で攻撃されたら、俺たちでも簡単には太刀打ちできないかもしれない」
危険であることを承知で、愛羅も言っているはずだ。
それでも、彼女を危険に巻き込むことを
「昨日の調査で、エルドラドも1枚岩じゃないことがわかりました。女王アイラ……その希望にすがろうとする人たちも、まだ存在するようですから」
「女王アイラ…?それは、アイラ・ムーのことか?」
女王と言われて、すぐに思い浮かんだのはアイラ・ムーの方であった。
そして、愛羅と区別を着けるために、彼女のことはフルネームで呼ぶことに統一する。
愛羅は頷き、言葉を続ける。
「アイラ様はムー人の女王だった存在。そして、その力は代々、彼女の魂を持つ者が転生した時に発現します。私もまた、その魂が転生した存在……ですから」
険しい表情になり、愛羅は自身の胸元に手を当てる。
「愛羅が……転生?」
聞いたことのない真実に、俺は怪訝な顔を浮かべる。
そして、彼女は昨日と同じく、辛そうな顔になる。
「この話は、誰にもしたことはありません。そして、あなたにとっては……辛い話になります」
どうやら、愛羅がこれから語る話に俺は無関係では無いらしい。
「ダンテ、私はあなたと共に生きることを選びました。だけど、それはあなたの王としての生き方を支えるため…だけじゃ、無いんです」
彼女は俺と目を合わせ、目を潤ませながら訴える。
「私はもう、あなたに嘘をつかないと決めました。だから、これから話すことを聞いて、私を許せないと思うなら見限ってください。それだけのことを、私はあなたにしてしまったから……」
愛羅から感じるのは、後悔の念だった。
だからこそ、その言葉を聞く意味があると感じた。
「これ以上、おまえが俺に隠し事をして苦しむの姿は見たくない。話す勇気ができたなら、俺はそれを受け入れる」
彼女の覚悟に応える形で言葉を返せば、愛羅はスゥー、ハァーと1度深呼吸をしてから口を開いた。
「ダンテ、あなたの先導者の特異点……。それは本来、私が持っていた力。私はあなたに、その力を渡してしまったんです。永きに渡る輪廻の戦いから、解放されたいという……自分勝手な我儘のために」
先導者の特異点。
それが本来は、愛羅の力だった…?
突然の告白に、俺は何と言って良いかわからなかった。
「先導者の力は、民を導く王の素質がある者を求めます。アイラ・ムーには、その素質があった。だけど、私には無かった。アイラ・ムーの転生者として、その力を受け継いだとしても……私には、もう戦う覚悟は擦り切れていたんです」
愛羅の表情から、相当辛い決断だったのが伝わってくる。
「アイラ・ムー。彼女は6000年もの長い間、生と死を繰り返してきました。神の定めた運命に抗い、戦うために。その記憶は全て、転生を繰り返す度に蓄積されていく。私もまた、今の武藤愛羅の記憶と共に、これまでの6000年の記憶が頭の中に入っています」
愛羅は語ってくれた。
アイラ・ムーの転生者となった者が、何を経験するのかを。
6000年もの間、生と死を繰り返す事実。
それは自らの死の記憶が、何度も繰り返されることを意味していた。
それと同時に、運命に敗北した記憶でもある。
「通算して6000年間、アイラ様は何度も転生し、女王として生き、その人生の幕を閉じてきた。それも決まって、修正者の手によって命を奪われたんです」
修正者。
確か、特異点を排除するために神が生み出した存在だと、サタンは言っていた。
「神は自ら定めた運命を、覆すことを許さない。そして、アイラ様も数々の敗北を繰り返しながら、その失敗をデータとして自らの魂に刻んでいった。いつか来る、神への勝利を信じて」
敗北の記憶を繰り返してきたのであれば、それは辛い記憶だったはずだ。
これまでも、多くのアイラ・ムーの転生者がその記憶を頼りに、運命に抗おうとしていたのだろう。
今の自分には不可能でも、次の自分が勝つ可能性を信じて。
「だけど、私がアイラ様の記憶に目覚めた時には、もう……心が折れていた。武藤愛羅としての過去の経験で、私はもう、戦うことができなかったんです。そんな時に、聖域にあなたは来た……」
最悪なタイミングで、記憶が復活したのだろう。
聞けば、愛羅自身もこの世界で、男たちによって屈辱を受けていたのだから。
そんな彼女に、運命に抗うことを訴えたところで、戦う覚悟などできるはずが無かった。
「運命だと……思いました。聖域で、あなたのその魔王の力を見た時……あなたの方が、この力を持つに値すると感じたんです。だから、私は…‼」
彼女の言葉に反応するように、右手の甲に魔王の紋章が浮かぶ。
そして、ローブの下で愛羅の胸元から光が放たれる。
自ら胸元を広げれば、そこにはムーの紋章が浮かび上がっていた。
「これが、先導者の力を受け継いだ者の証です。あなたの場合は、デビルマンとしての姿を。私の場合は、このムーの女王としての力が継承者の証となります」
「……だとしたら、あのケイの襲撃の時には、俺は既におまえから先導者の力を与えられていたことになるな」
紋章を見ながら、俺は自分の中で折り合いをつける。
愛羅の気持ちを想えば、無理からぬことだった。
6000年も同じことを繰り返し、敗北してきた記憶。
そんなものを見せつけられては、戦いから逃げたくなるのも頷ける。
例え世界の運命がかかっていると言われても、彼女はアイラ・ムーではなく、武藤愛羅という1人の女性なのだから。
愛羅は改めて、俺に頭を下げた。
「私のことを、許してほしいとは言いません。ですが、私があなたを支えたいと思った気持ちは本心です。そして、あなたを……愛しているという、この心も」
彼女は頬を染めながら、謝罪と共に想いを口にしてくれる。
そんな愛羅の手を取り、俺は微笑みを向ける。
「俺はこの力を宿したことを、後悔していない。この特異点の力があったから、俺は王としての道を目指すことができた。そして、これからも大切なものを守るために戦うことができる。だから……これ以上、俺のことで自分を責めないでくれ。感謝しているんだ、本当に」
「ダンテ……」
俺の言葉に救われたのか、彼女の目には涙が浮かんでいる。
「ありがとう。私、あなたに恨まれても仕方がないと……思ってた…‼」
「恨むわけが無い。今の俺があるのは、愛羅のおかげだ。だから、これからも……俺と共に、歩んでくれ」
「……はい」
俺の手を両手で、力強く握る愛羅。
「これでもう、あなたには隠し事も嘘もありません。聞いてくれて、ありがとう……ダンテ」
全てを話してくれた彼女の手を引き、近づけては抱き寄せる。
「だ、ダンテ!?」
急なことに、愛羅も動揺しているのがわかる。
それでも、離そうとは思わなかった。
「愛羅……これからは、本当のおまえを見せてくれ。俺の前では、偽ろうとしないでくれ。俺も愛羅の前では、ただのダンテで居たい……」
「……元から、そのつもりですよ。だから、全てを今……あなたに話したんですから」
秘密を告白したことで、彼女は本当の意味で心の枷《かせ》から解放されたのだろう。
表情が安らいでいるのがわかった。
「ダンテ……1つ、お願いがあります」
「何だ?俺にできることなら、何でもしたい……」
愛羅は頬を紅潮させながら、俺の顔を見上げて懇願してくる。
「今日も、私のことを抱いてください。あなたの愛を、もっと感じたいんです。いっぱい……ご奉仕しますから♡」
そういう愛羅の顔は女王ではなく、1人の女の顔になっていた。
遂に秘密を明かした愛羅。
そして、それを知った上で彼女を受け入れると決めたダンテ。
それによって、もう後ろめたい想いはない。
愛羅の彼への想いは、日に日に強くなっていくことでしょう。