※この作品はR-18です。

DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~   作:カナト

207 / 244
秘密の告白

 彼女が目を覚ました時、妙な爽快感(そうかいかん)があった。

 身体が軽くなり、起きるのが苦ではないと感じる。

 

 いつもなら、もっと寝ていたいとか、疲れが残っていてすぐには起き上がれないことが常だった。

 

 それが今では、早く目を開けて確かめたいと思う事実があった。

 

「ダンテ!?」

 

 飛び起きては、彼女は周りを見渡して愛しい人を捜す。

 自分が寝ていたのは、藁のベッド。

 全裸のまま、身体の上には毛布がかかっている。

 

 そして、外から戻ってきた彼がドアを開けて入って来た。

 

「どうした?そんな大声で俺の名前を呼んで…」

 

 怪訝な顔で問いかけてくるダンテの態度は、いつもと変わらない。

 変わっているのは、むしろ自分。

 いつもは偽りの自分(宇津木沙織)のまま就寝していたのに、今は武藤愛羅…本来の姿のまま、入眠していたことに気づく。

 

 愛羅はどこか躊躇うように、目を泳がせては口を震わせる。

 

「あの…私……」

 

 身体が震えており、何と言えば良いのかわからなかった。

 自分の正体は知られており、互いの想いも確認し合った。

 そして、身体と心が本当の意味で結ばれて迎えた翌日…。

 

 昨日1日でいろいろと起きすぎて、情報処理が間に合っていないようだった。

 

 しかし、そんな戸惑いは彼の一言で全て消し飛んだ。

 

「おはよう、愛(・)羅(・)」

 

 薄く笑み浮かべて挨拶をしてくる。

 何気ない、変わらないやり取りだった。

 

「愛…羅……」

 

 愛羅は思わず、彼が呼んだ自分の名前を復唱した。

 変わっているのは、愛しい彼が本当の自分を認め、名前を呼んでくれることだけ。

 

 そして、毛布を脱ぎ捨てては、裸であることなど気にせずに彼の胸に飛び込んだ。

 

「あ、愛羅…!?どうした、急に!?」

 

 彼女を抱き止め、その腰に手を回しながらも戸惑うダンテ。

 

「そうよ…私は愛羅……愛羅なの。あなたのことが、ダンテのことが好きで、好きでたまらない……武藤愛羅なの」

 

 目を閉じながら、彼の腕に包まれている感触を、温もりを感じとる。

 

(良かった……あれは、夢じゃなかった。私たちは、ちゃんと……分かり合えていた)

 

「俺もだ……愛羅のことが、好きだ」

 

 彼女が乳房が潰れんほどに強く抱きしめてくるのを、ダンテは優しく受け止め、頭を撫でる。

 そんな時間が、5分ほど続いたのだった。

 

 

 ーーーーー

 

 

 アジト内に人の姿は当然無く、居るのは俺と愛羅だけだ。

 俺たちは外で、焚火をしながら朝食を取る。

 

「期せずして、拠点を手に入れたわけだが……これから、どうする?」

 

 石の椅子に座り、焼き魚を食べている愛羅は、白いローブに身を包んでいる。

 

「ヴァルバ軍団が崩壊したことは、すぐにエルドラドにも知れ渡ることになると思います。だから、その前に対策を練っておかないと」

 

 エルドラド。

 ムー人の末裔を名乗る、謎の組織。

 俺たちはまだ、それと接触していない。

 

 しかし、ムーのテクノロジーを所有していることの恐ろしさは、空を覆うこのムーボーダーが証明している。

 未知のオーバーテクノロジーに挑むことになる脅威に、備えなければならないんだ。

 

 俺たちは今、たった2人だ。

 ヴァラバ軍団を潰すことができたのは、奴らが戦士として未熟だったからに他ならない。

 

「1度、エルドラドに偵察に行くのも良いかもしれません。可能なら、対話による解決も……」

「それは理想的だが、果たしてそれが可能なのか?問答無用で攻撃されたら、俺たちでも簡単には太刀打ちできないかもしれない」

 

 危険であることを承知で、愛羅も言っているはずだ。

 それでも、彼女を危険に巻き込むことを躊躇(ためら)わせる。

 

「昨日の調査で、エルドラドも1枚岩じゃないことがわかりました。女王アイラ……その希望にすがろうとする人たちも、まだ存在するようですから」

「女王アイラ…?それは、アイラ・ムーのことか?」

 

 女王と言われて、すぐに思い浮かんだのはアイラ・ムーの方であった。

 そして、愛羅と区別を着けるために、彼女のことはフルネームで呼ぶことに統一する。

 

 愛羅は頷き、言葉を続ける。

 

「アイラ様はムー人の女王だった存在。そして、その力は代々、彼女の魂を持つ者が転生した時に発現します。私もまた、その魂が転生した存在……ですから」

 

 険しい表情になり、愛羅は自身の胸元に手を当てる。

 

「愛羅が……転生?」

 

 聞いたことのない真実に、俺は怪訝な顔を浮かべる。

 そして、彼女は昨日と同じく、辛そうな顔になる。

 

「この話は、誰にもしたことはありません。そして、あなたにとっては……辛い話になります」

 

 どうやら、愛羅がこれから語る話に俺は無関係では無いらしい。

 

「ダンテ、私はあなたと共に生きることを選びました。だけど、それはあなたの王としての生き方を支えるため…だけじゃ、無いんです」

 

 彼女は俺と目を合わせ、目を潤ませながら訴える。

 

「私はもう、あなたに嘘をつかないと決めました。だから、これから話すことを聞いて、私を許せないと思うなら見限ってください。それだけのことを、私はあなたにしてしまったから……」

 

 愛羅から感じるのは、後悔の念だった。

 だからこそ、その言葉を聞く意味があると感じた。

 

「これ以上、おまえが俺に隠し事をして苦しむの姿は見たくない。話す勇気ができたなら、俺はそれを受け入れる」

 

 彼女の覚悟に応える形で言葉を返せば、愛羅はスゥー、ハァーと1度深呼吸をしてから口を開いた。

 

「ダンテ、あなたの先導者の特異点……。それは本来、私が持っていた力。私はあなたに、その力を渡してしまったんです。永きに渡る輪廻の戦いから、解放されたいという……自分勝手な我儘のために」

 

 先導者の特異点。

 それが本来は、愛羅の力だった…?

 

 突然の告白に、俺は何と言って良いかわからなかった。

 

「先導者の力は、民を導く王の素質がある者を求めます。アイラ・ムーには、その素質があった。だけど、私には無かった。アイラ・ムーの転生者として、その力を受け継いだとしても……私には、もう戦う覚悟は擦り切れていたんです」

 

 愛羅の表情から、相当辛い決断だったのが伝わってくる。

 

「アイラ・ムー。彼女は6000年もの長い間、生と死を繰り返してきました。神の定めた運命に抗い、戦うために。その記憶は全て、転生を繰り返す度に蓄積されていく。私もまた、今の武藤愛羅の記憶と共に、これまでの6000年の記憶が頭の中に入っています」

 

 愛羅は語ってくれた。

 アイラ・ムーの転生者となった者が、何を経験するのかを。

 6000年もの間、生と死を繰り返す事実。

 それは自らの死の記憶が、何度も繰り返されることを意味していた。

 それと同時に、運命に敗北した記憶でもある。

 

「通算して6000年間、アイラ様は何度も転生し、女王として生き、その人生の幕を閉じてきた。それも決まって、修正者の手によって命を奪われたんです」

 

 修正者。

 確か、特異点を排除するために神が生み出した存在だと、サタンは言っていた。

 

「神は自ら定めた運命を、覆すことを許さない。そして、アイラ様も数々の敗北を繰り返しながら、その失敗をデータとして自らの魂に刻んでいった。いつか来る、神への勝利を信じて」

 

 敗北の記憶を繰り返してきたのであれば、それは辛い記憶だったはずだ。

 これまでも、多くのアイラ・ムーの転生者がその記憶を頼りに、運命に抗おうとしていたのだろう。

 今の自分には不可能でも、次の自分が勝つ可能性を信じて。

 

「だけど、私がアイラ様の記憶に目覚めた時には、もう……心が折れていた。武藤愛羅としての過去の経験で、私はもう、戦うことができなかったんです。そんな時に、聖域にあなたは来た……」

 

 最悪なタイミングで、記憶が復活したのだろう。

 聞けば、愛羅自身もこの世界で、男たちによって屈辱を受けていたのだから。

 

 そんな彼女に、運命に抗うことを訴えたところで、戦う覚悟などできるはずが無かった。

 

「運命だと……思いました。聖域で、あなたのその魔王の力を見た時……あなたの方が、この力を持つに値すると感じたんです。だから、私は…‼」

 

 彼女の言葉に反応するように、右手の甲に魔王の紋章が浮かぶ。

 そして、ローブの下で愛羅の胸元から光が放たれる。

 自ら胸元を広げれば、そこにはムーの紋章が浮かび上がっていた。

 

「これが、先導者の力を受け継いだ者の証です。あなたの場合は、デビルマンとしての姿を。私の場合は、このムーの女王としての力が継承者の証となります」

「……だとしたら、あのケイの襲撃の時には、俺は既におまえから先導者の力を与えられていたことになるな」

 

 紋章を見ながら、俺は自分の中で折り合いをつける。

 愛羅の気持ちを想えば、無理からぬことだった。

 6000年も同じことを繰り返し、敗北してきた記憶。

 そんなものを見せつけられては、戦いから逃げたくなるのも頷ける。

 

 例え世界の運命がかかっていると言われても、彼女はアイラ・ムーではなく、武藤愛羅という1人の女性なのだから。

 

 愛羅は改めて、俺に頭を下げた。

 

「私のことを、許してほしいとは言いません。ですが、私があなたを支えたいと思った気持ちは本心です。そして、あなたを……愛しているという、この心も」

 

 彼女は頬を染めながら、謝罪と共に想いを口にしてくれる。

 そんな愛羅の手を取り、俺は微笑みを向ける。

 

「俺はこの力を宿したことを、後悔していない。この特異点の力があったから、俺は王としての道を目指すことができた。そして、これからも大切なものを守るために戦うことができる。だから……これ以上、俺のことで自分を責めないでくれ。感謝しているんだ、本当に」

「ダンテ……」

 

 俺の言葉に救われたのか、彼女の目には涙が浮かんでいる。

 

「ありがとう。私、あなたに恨まれても仕方がないと……思ってた…‼」

「恨むわけが無い。今の俺があるのは、愛羅のおかげだ。だから、これからも……俺と共に、歩んでくれ」

「……はい」

 

 俺の手を両手で、力強く握る愛羅。

 

「これでもう、あなたには隠し事も嘘もありません。聞いてくれて、ありがとう……ダンテ」

 

 全てを話してくれた彼女の手を引き、近づけては抱き寄せる。

 

「だ、ダンテ!?」

 

 急なことに、愛羅も動揺しているのがわかる。

 それでも、離そうとは思わなかった。

 

「愛羅……これからは、本当のおまえを見せてくれ。俺の前では、偽ろうとしないでくれ。俺も愛羅の前では、ただのダンテで居たい……」

「……元から、そのつもりですよ。だから、全てを今……あなたに話したんですから」

 

 秘密を告白したことで、彼女は本当の意味で心の枷《かせ》から解放されたのだろう。

 表情が安らいでいるのがわかった。

 

「ダンテ……1つ、お願いがあります」

「何だ?俺にできることなら、何でもしたい……」

 

 愛羅は頬を紅潮させながら、俺の顔を見上げて懇願してくる。

 

「今日も、私のことを抱いてください。あなたの愛を、もっと感じたいんです。いっぱい……ご奉仕しますから♡」

 

 そういう愛羅の顔は女王ではなく、1人の女の顔になっていた。




遂に秘密を明かした愛羅。
そして、それを知った上で彼女を受け入れると決めたダンテ。
それによって、もう後ろめたい想いはない。

愛羅の彼への想いは、日に日に強くなっていくことでしょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。