※この作品はR-18です。

DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~   作:カナト

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立ちはだかる壁

 八稜郭占領の知らせは、すぐにエルドラド内で知られることになった。

 アランの訃報(ふほう)に、波紋が広がる。

 

「アラン殿はガラン殿のご子息であった。息子が死んだとなれば、あの将軍が黙っておるはずがない……」

「八稜郭が奪われたとあっては、王権派の動きも活発になるであろう。最悪の場合、こちらから向こうに流れる可能性もある」

「こうなっては、我々だけで抑えつけるにも限界がある。アイラ・ムーの転生者、やはり侮ってはならぬ存在であったか」

 

 女王アイラの転生者の存在が、彼の中で少しずつ脅威となりつつある。

 しかし、その中で沈黙を貫いていた仮面の男…ディーンが口を開く。

 

「アイラ・ムーの転生者…。それだけではない」

 

 彼の一言に、元老院の幹部たちの視線が集まる。

 

「あの娘に、八稜郭を占領するほどの力はない。それよりも、他に目を向けるべき者が居る。紺碧の魔王が」

 

 中央にある巨大なスフィアに、愛羅とは違う存在が映し出される。

 それは兜に一角刃(いっかくじん)が特徴的な、紺碧(こんぺき)の魔王。

 

「これは……一体!?」

「あのような者が、アイラ・ムーの側に居るというのか!?」

「アラン殿も、あの悪魔に…‼」

 

 その魔王の存在に戦慄が走る中で、「面白い!」と野太い声が響き渡る。

 そして、元老院の集会の場にガシンッガシンッと音を立てて近づく者あり。

 中国風の鎧に身を包んだ、黒く長い顎髭(あごひげ)を生やした屈強な体格の漢(おとこ)。

 

「ディーン殿は、その戦士が我が愚息(ぐそく)を討ったと……そう言いたいのだな?」

「その通りだ、ガラン将軍」

 

 淡々と答えるディーンに、ガランはフッと口角を上げて笑う。

 

「アランの奴、つまらぬ戦(いくさ)で逝(い)ったものと思っておったが……。この老骨に楽しみを残していきおったか」

 

 彼は鞘から大剣を抜き、スフィアに映る魔王に刃先を向ける。

 

「ディーン殿。こやつの討伐、この我に任せていただきたい」

 

 それは息子を討たれた父親の仇討ちか?

 違う。

 ガランはそのようなことを考える男ではない。

 

 この男にとって、戦いこそが全て、強者こそが朋(とも)。

 今、目の前に映る魔王に、その強者としての素質を見た。

 

 将軍としての器が、好敵手との戦いを望んでいる。

 

「好きにしろ」

 

 ディーンは小さく、許可を意味する言葉を告げる。

 それに満足し、ガランは背中を向けて集会の場から離れて行った。

 

「ガラン殿が動くのであれば、安心だ」

「あわよくば、アイラ・ムーの転生者も討ち取ってくれることだろう」

「これで我らも安泰(あんたい)だ」

 

 元老院の幹部が話す中で、ディーンは足早にその場を後にする。

 

「やはり、あの男は常に女王と共に居る運命…か」

 

 その魔王の姿を見た時、彼は小さく口角を上げていた。

 

 

 ーーーーー

 

 

 ガラン将軍は自身の根城に戻り、玉座に腰を下ろす。

 

「紺碧(こんぺき)の魔王…か。あの者とであれば、面白い戦(いくさ)ができるだろうか」

 

 これから起こす戦において、彼が望むのは魔王との戦い。

 強者ゆえの孤独。

 空(から)の心を満たす存在を求め、戦いに身を置く。

 そして、アイラ・ムーの転生者にも、想う心はあった。

 

「伝説は伝説のまま、歴史の中に埋もれたままであれば良かったものを……。アイラ・ムー、そなたも哀れな傀儡(くぐつ)よな」

 

 それは同情のようにも、哀れみのようにも聞こえる物言い。

 しかし、この言葉は彼の私情であり、それも1度目を閉じて開けば将軍としての目に変わる。

 

「ガイストテレスを起動せよ‼」

 

 ガイストテレス。

 それは彼の根城の名であり、命令を受けた配下が起動スイッチを作動させれば城が震えだす。

 そして、城は地面を離れて飛翔し、宙に浮きながら移動する。

 

 移動要塞ガイストテレス。

 ガラン自らが戦場に赴く時、この城は要塞となり火の海を広げる。

 

「八稜郭に通信を繋げ。彼奴(きゃつ)らに、宣戦布告をしてやろう」

 

 

 ーーーーー

 

 

 八稜郭の司令室。

 そこには、俺と愛羅、そしてソニアなどの戦士の姿があった。

 

 そして、映像が映し出されてはそこに屈強な体格の将軍が現れる。

 

『八稜郭を占領し、我が息子アランを討ち取った者たちよ。我が何者であるか、ムーの民ならばわからんはずもあるまい』

 

 映像越しでも、俺たちを見下ろすような視線で問いかける男。

 

「ガランだ……」

「ガラン将軍だ…‼」

「まさか、あの方が動き出されるというのか!?」

 

 こちらのムーの民の中に動揺が走り、ソニアも声を震わせる。

 

「まさか、ガラン将軍が……腰をあげたというのか!?」

 

 その反応だけで、目の前の漢がどれほどの脅威なのかがわかる。

 そして、ガランの視線は愛羅ではなく、俺の方に向けられる。

 

『アランを討ったのは、お主だな?』

 

 確信めいた、戦士としての直感だろうか。

 奴は俺に強い眼差しを向け、返答を待っている。

 

「そうだ。目的は、敵討(かたきう)ちか?」

 

 こちらも下から睨みつけるように目を合わせれば、ガランは口角を上げてフッと笑う。

 

『そのような下(くだ)らん理由で、戦(いくさ)を起こすわけもあるまい。もっと、純粋な欲よ。強き者との戦い‼それこそが、将軍と呼ばれし我のたった1つの望みよ』

 

 ただ戦いのみを望む男の欲望が、俺たちに牙を剥(む)いている。

 

『紺碧の魔王よ、お主の名を聞かせてもらおうか』

 

 奴は望んでいる。

 好敵手として認めた、俺の名を。

 

「俺の名はダンテ…。魔王ダンテだ」

 

 己の名に魔王と付けたのは、敵の目を俺に集中させるため。

 あくまでも、ガランの望みは俺との戦い。

 そうであれば、印象付けるためにも調度いい肩書(かたがき)だ。

 

「お主と相まみえる日を、楽しみにしておるぞ。魔王ダンテよ」

 

 そう言っては、愛羅の方に視線を戻す。

 

『女王アイラよ。お主もまた、この地に戻ったのであれば、我を越える戦ぶりを期待するぞ』

「ガラン将軍……」

 

 彼の中で、俺たちと戦うことは前提条件だ。

 しかし、それでも彼女は訴える。

 

「私たちは、あなたとの戦いは望みません。話し合いましょう、無駄な血を流さないためにも‼」

『笑止‼』

 

 愛羅の言葉を、一喝することで返すガラン。

 

『一国を治(おさ)めようという者が、血を流すことを恐れてなんとする!?そのような覚悟で、女王を名乗るとは笑止千万(しょうしせんばん)‼王とは、多くの血を流す屍(しかばね)に立つ存在。王を志すならば、この老骨の屍(しかばね)を越えてほしいものだ』

 

 王を志す。

 その一言に、俺と愛羅は違う反応を示した。

 彼女は、王という言葉の重荷に目を伏せる。

 代わりに俺は、強い眼差しでガランを見据える。

 

 その違いを、将軍の鋭い目は見逃さなかった。

 

『王を志す者のみが、我が前に姿を現すがよい。さもなければ、我が要塞に潰されて死ねい‼』

 

 ガランはその言葉を最後に、通信を切ったのだった。

 

 

 ーーーーー

 

 

 当然というべきか、あの後は八稜郭の中で混乱が起きていた。

 エルドラド内で、ガラン将軍の存在がどれだけ大きいのかを思い知らされる。

 

 しかし、それを知れば知るほど、俺は胸の高鳴りを感じている。

 

 偵察部隊からの報告では、ガランの乗る移動要塞ガイストテレスが八稜郭の頭上に迫るまで3日。

 その間に、俺たちは戦力を整える必要がある。

 

 王を志すものとして、立ちはだかる壁。

 それが将軍と呼ばれる者であるならば、相手にとって不足はない。

 

 俺は八稜郭を離れ、遺跡に向かっては1人で翼竜の石碑(せきひ)の前に立つ。

 

「あのガランという男に……俺は勝てるだろうか」

 

 この場には、明人も甲牙も、サタンも居ない。

 頼れるのは、愛羅やムーの民のみ。

 

 俺がもしも敗北すれば、それは愛羅たちの死を意味する。

 また1つ、敗けることが許されない戦いに挑むことになる。

 これもまた、俺が王へと至るための試練だと言うのか。

 

「やはり、ここに居ましたか、ダンテ」

 

 後ろから声が聞こえれば、そこには白ローブに身を包んだ愛羅が居た。

 首筋を見れば、黒いチョーカーが着けてある。

 その姿から、今は女王としての彼女ではないことを示している。

 

「愛羅……。おまえはいつも、俺のことがわかってしまうな」

「ダンテの行動は、わかりやすいですから」

 

 彼女は俺の隣に移動しては、同じように石碑(せきひ)を見上げる。

 

「皆、混乱しています。ガラン将軍と戦うことに、恐怖を感じている」

 

 今の八稜郭の状態は、彼女にもわかっているのだろう。

 そして、ムーの民はアイラ・ムーという存在に救いを求める。

 

 しかし、愛羅の手を見れば震えているのがわかる。

 彼女もまた、女王という象徴ではなく1人の人間だ。

 あの将軍の放つ覇気に圧され、戦意が揺らいでいるのがわかる。

 

「ダンテ、私は……私は恐い。女王と呼ばれる重責にも耐えられず、あの男と戦うことに向き合えず、逃げたいとすら思っています。……アイラ様の転生者と呼ばれているのに、恥ずかしい限りです」

 

 俺の前だからこそ、愛羅は胸の内を吐露してくれたのだろう。

 

「きっと、3日後の戦いで、また多くの人が死ぬことになるでしょう。もしかしたら、八稜郭での戦い以上の犠牲者が……。その責任を、私は背負えるでしょうか」

 

 弱気になっている彼女に、俺はなんというのが正解なのだろうか。

 愛羅は今、ムーの民にとって希望、そして象徴となっている。

 そんな彼女の精神状態は、これから戦いに赴く戦士たちの士気にも関わってくるはずだ。

 

「愛羅……俺は王を志す者として、おまえを背負うと決めた。そんなおまえが、女王としての責務を1人で背負えないというのなら……」

 

 俺は彼女に身体を向け、その頬に触れる。

 

「俺が魔王として、おまえの女王の責務もろとも背負う。だから、その俺を支えてほしい。俺を王と認めてくれるるならな」

「ダンテ……」

 

 彼女は触れられた頬を染めながら、薄く笑みを浮かべる。

 

「私の愛する魔王様。愛羅の望みを、口にしてもよろしいでしょうか?」

「今日は愛羅の我儘を聞く日だ。俺にできることなら、何でも言ってくれ…」

 

 愛羅は俺からの促しに、小さく頷く。

 

「私への信仰も、ムーの民も、あなたの王の道へと捧げます。だから……」

 

 彼女は俺の手を取り、乳房にむにゅっと押し付ける。

 

「私に……どうか、勇気を。あなたの所有物であるという証を、いただけませんか?」

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