DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~ 作:カナト
ムーの民からの信仰が、女王アイラから魔王ダンテに移った。
その事実によって、彼らの意識は大きく変わった。
魔王ダンテとしての宣言の翌日。
俺は玉座に腰を下ろしながら、目の前の光景に内心で戸惑っていた。
愛羅を慕っていた者たちが全員、この俺を前にして
「魔王ダンテ、お言葉を」
隣に控える愛羅が、言葉をかけるように促してくる。
この時に着ていた彼女の衣装は、女王の王衣でも、白のローブでもなく、胸元を強調するような露出の多い服を着ていた。
一体、いつの間に用意したんだ……。
俺は玉座から立ち上がり、軽く手を挙げて言葉を発する。
「
こう言うのは慣れないため、小さめの声で言ったつもりであったが、前から順に顔を上げてくれた。
「まずは、その……ありがとう。こんな俺を王として受け入れてくれたことに、感謝する」
礼の言葉を伝えれば、民の間で動揺が広がる。
「魔王様が、感謝…?」
「何をおっしゃっているのだ?」
魔王と自称する者の言葉とは、想えなかったのだろう。
しかし、これは俺の純粋な気持ちだ。
「
愛羅の言葉に、民たちの動揺の声はおさまった。
女王という地位を捨てたとしても、彼女の言葉には皆、耳を傾ける。
今は俺の補佐として仕えることを宣言しており、それで皆も納得している。
彼女の口ぶりから、これで終わることは許されないらしい。
「皆、不安なことだろうと思う。敵はガラン将軍だ。そして、未だに俺のことを信じられない者も居ることだろう……。当然だ、急に王が代わったとなれば、戸惑うことはわかっている。それでも……俺がいえる言葉は1つしかない」
拳を握り、自身の胸にドンっと押し当てる。
「俺を、見ていてくれ」
俺には、彼らの戸惑いを払う言葉はない。
だからこそ、言葉ではなく行動で示さなくてはならない。
「おまえたちの命は、俺が預かる。アイラ・ムーではなく、この魔王ダンテが‼そして、おまえたちの不安、不満、恐怖……全てを背負い、先へと進む。おまえたちに見せるのは、魔王の道だ‼」
民たちの目には、俺がどのように映るのだろうか。
アイラ・ムーが希望の象徴だったのであれば、差し詰め絶望の象徴だろうか。
だとしたら、俺は彼らがすがるべき存在ではない。
「我が王道に、この魔王にすがる者など必要ない‼俺が望む民の姿は、王に
女王アイラへの信仰により、彼女1人にすがっていた
それが愛羅の望んでいたことであり、魔王としての自分にできることだと思った。
望むべくは、皆が自らの足で地に立つ姿。
「まずは我が王道を阻まんとする、ガラン将軍を討ち取る‼この戦いに勝利した先に、我らが道は切り開かれる‼魔王の民となる者たちよ、皆の奮戦を期待する‼」
俺の声に、ムーの…いや、魔王の民たちは「うぉおおおおおっ‼」と拳を上げて雄叫びを上げた。
ーーーーー
チョロロロロッ…カポンッ。
八稜郭内の浴室は、ジャングルの温泉ほど開放的というわけではないが、それでも1人で使用するには広すぎるほどの面積だった。
「ついに明日……決戦か」
湯舟に浸かりながら、俺は両手で湯をすくっては顔を洗う。
頭に浮かぶのは、ガラン将軍の不敵な笑み。
あの男が望むのは、俺との
魔王として挑む、最初の戦い。
ここで敗北すれば、これから先などあるはずもない。
「あの男に勝つために、俺に必要なのは何だ…?」
立ちはだかる壁の大きさに、身が震えている。
それほどまでに、映像越しに相対した時のガランの存在感は強烈だった。
「1人で戦おうとするから、息詰まるんですよ。魔王様?」
湯煙の向こう側から、愛しい女の声が聞こえてくる。
そして、ぺちっぺちっと裸足で近づいてくる音が聞こえ、歩み寄ってくる。
「あ、愛羅っ…!?」
一糸まとわぬ姿で、首筋には黒いチョーカーを、下腹部には淫紋が刻まれた長い黒髪の女。
愛羅は俺に裸を見られていることなど気にせず、足先から湯舟に浸かっては俺の隣に来て座る。
「フフッ、魔王としての地位を得ても、変わらないですね。王たる者、何が起きようとも
早速、ダメ出しをされては目を逸らして肩まで浸かって萎縮してしまう。
「愛羅、正直に答えてくれ」
俺は前日の違和感に対して、答えを求める。
「どうして、昨日は八稜郭内で一夜を過ごそうと言ったんだ?」
「……何か不思議なことでもありましたか?」
彼女は目を閉じて湯に浸かりながら、すぐには返答はしない。
「おまえは俺に、信仰も民も捧げると言った。そして、実際に今、その通りになっている。あの夜のことは、偶然だったのか?」
愛羅の言っていた通りに、事が進んでいることに戸惑いを覚えていたのは俺自身も同じだった。
そして、これ以上誤魔化すことはできないと思ったのか、小さく息を吐いた。
「私という象徴を壊すためには、皆の前でダンテの力を見せつける必要がありました。それには荒療治にはなりますが、あの方法が良いと思ったんです」
今まで希望の象徴となっていた女王アイラが、魔王ダンテに服従している光景。
それを見せつけることで、ムーの民にとって絶対の存在であったアイラ・ムーへの信仰を地に落とす。
そして、そのアイラ・ムーの転生者を屈服させた存在が、新たに王として君臨する。
王としての力を見せつけた魔王に、彼らは服従せざる負えない。
言葉にして伝えなくても、状況が愛羅の思い描く通りに進んでいた。
彼女はわかっていたんだ。
自分の淫らな姿を見せることで、ムーの民の心が揺れることを。
そして、俺の持つ魔王としての覇気の強大さを。
ムーの民が、その魔王の覇気に圧されて服従することを望む未来を。
「これで、ダンテは名実ともに王としての1歩を踏み出すことができた。私はその側で、あなたの王の道を共に歩むことができれば、それで満足です」
その身を削ってまで、彼女は俺の王の道を切り開いてくれた。
愛羅の覚悟に、応えることができるだろうか。
「明日のガラン将軍との
「……わかった」
俺だけでなく、愛羅も戦いに臨む覚悟を決めていた。
彼女なりのやり方で、魔王の王道を支えようとしてくれているんだ。
「俺が魔王としての道を進むために、ガラン将軍に必ず勝つ‼そして―――」
隣に居る彼女の両肩を掴み、目を合わせる。
「絶対に、愛するおまえの元に戻ってくる。今度も、必ず……だから―――」
「待つつもりはありませんよ?」
俺が言おうとしたことを見透かしてか、愛羅はそんなことを言っては俺の頭の後ろに両手を回しては自身の乳房に埋めた。
「んぶっ!?あ、愛羅!?」
むにゅっと顔に柔らかい感触が広がり、昂っていた心が鎮まっていく。
「私はもう、守られるべき女王ではありません。魔王ダンテを支える、たった1人の女なんです。そのための覚悟も、力も、全て……あなたと共にあります」
まるで子どもをあやすように、彼女は俺の頭を撫でてくる。
「私はあなたを支える存在。例え場所が戦場だとしても、それは代わりありません。ダンテこそ、ピンチになったら私の名を呼んでください…。いつでも、あなたの下に駆け付けますから」
「……ありがとう。何よりも、頼もしい言葉だ……」
そのまま俺は愛羅の豊満な乳房に埋まり、目を閉じる。
湯舟の温かさと、彼女の柔らかい感触、そして胸の鼓動―――。
張りつめていた糸のような心が、少しずつ緩んでいくのがわかる。
「お眠りなさい、ダンテ。愛羅の胸の中で……。私はいつまでも、あなたと共に……」
俺の意識が、段々と薄れていくのがわかる。
そして、俺の右手が彼女の下腹部の淫紋に触れた瞬間―――。
「こ、これは…!?」
愛羅の身体は、紺碧の光に包まれた。
ーーーーー
光の先にあったのは、白い空間であった。
愛羅は全裸のままその空間に浮いており、目の前には翼竜のような漆黒の巨大な獣が映る。
「あなた…は…?」
よく見れば、それは遺跡の中にあった石碑に似ている。
そして、それだけでなく……。
(あの時の……夢の中に出てきた悪魔…?)
魔戒島に居た時、ダンテが現れてから見た夢のことを思い出す。
あの時も、同じような悪魔が現れていた。
『我は
悪魔は愛羅のことを見下ろし、言葉をかける。
『武藤愛羅よ……おまえは、魔王の『心』より
心と力。
そのどちらも、欠けてはならないもの。
「私が…ダンテの力に…?」
『遠くない未来に、我が力を望む時が来るであろう。女王の地位を捨て、魔王の隷属となったおまえに……魔王の
獣の黄色の目から放たれる光が、彼女を包む。
『しかと、我が名を記憶と心に刻むのだ。我は魔王の『力』を宿す玉座。その名は―――』