※この作品はR-18です。

DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~   作:カナト

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ガールズトーク

 場所は街中の喫茶店。

 そこには窓辺の席に2人の女子が対面で座っており、黒髪の女子がウキウキした調子で話している。

 

「それでね、それでね。明人ったら、あたしがテレビを見ながら久しぶりに海に行きたいなぁって呟いたら、次の日に時間を作って、バイクで連れて行ってくれてね…」

「ふむ……」

「砂浜を一緒に歩いていたら、帰り際にネックレスをプレゼントしてくれたの!今も着けてるものなんだけど、その時の照れくさそうな顔が可愛くてぇ……」

「なるほど……」

 

 赤毛の女子は、黒髪の女子……美佐樹の話を黙々と聞きながら、ティーカップに口を着けてお茶を飲んでいる。

 そして、時計と彼女のことを交互に見ては、頬杖をついて「はぁ」と小さく溜め息を漏(も)らす。

 

「それで?かれこれ1時間が経つが、おまえの惚気話(のろけばなし)はいつまで続くんだ?」

「えっ……だって、ツバサが言ったんでしょ?あたしと居る時の明人の話を聞いてみたいって」

 

 赤毛の女子……ツバサは後悔した。

 軽い気持ちで、雑談程度の会話のつもりであったが、明人のことを語り出すと美佐樹のマシンガントークに、ただただ耳を傾けるだけになってしまった。

 

「別におまえと明人の惚気(のろけ)が聞きたいがために、そんなことを言ったわけじゃない。……全く、おまえと言う奴は本当にわからないぞ、美佐樹」

 

 頭を抱えながら困った顔を浮かべていると、少し先の席からこちらにいやらしい目を向けてくる男子2人組に気づく。

 

「なぁ、あの黒髪の子、おっぱいでかくね?あと赤毛の女の子もレベルたけぇ~」

「だよな。ちょっと、声かけてみる?ワンチャン狙えるかもじゃん?」

 

 怖いもの知らずの彼らに、ツバサがギロっと目尻に血管を浮かばせながら睨みつける。

 

「おい、聞こえてるぞ、変態ども。命が惜しかったら、今すぐに失(う)せろ…‼」

 

 彼女の一言に、2人組は「ひっ‼」と怯えてはそそくさと店から出て行った。

 それを見送りつつ、美佐樹は苦笑いを浮かべる。

 

「アハハッ、凄い殺気だったね……。あたしでも怖いよ」

「あの程度で怯えてるような、軟弱(なんじゃく)な男に用は無い。私を狙うなら、もっと強い覚悟を持った奴でなければ……」

「東大寺くんみたいな?」

 

 美佐樹がからかうような笑みを浮かべて名前を出せば、「そうだな、あいつなら……」と頬が緩んだがすぐに正気に戻る。

 

「そ、そこであいつの名前を出すのは卑怯(ひきょう)だぞ!?」

 

 顔を真っ赤にしながら怒るが、美佐樹は自分のティーカップに口を着けてズズズッとカフェラテを飲んだ。

 

「何が卑怯なのよ?監獄から出ても、東大寺くんと一緒に居たいから、わざわざ同室にしてもらったんでしょ?彼のことが好きだから」

「ぐっ…‼それはぁ……」

 

 目を逸らしながら言葉が詰まるツバサ。

 シレーヌの力を持つ彼女は、今まで監獄の中で監視を受けていた。

 しかし、今は東大寺や了、明人の働きかけもあり、その恩情(おんじょう)から釈放された。

 だからこそ今、美佐樹と共に居るのだ。

 そして、彼女もまた、明人や美佐樹と同じマンションに住んでおり、東大寺と同室になっている。

 

「私はまだ、三者連合から完全に信頼されているわけじゃない。無駄に監視の目を着けられるよりは、あいつの方がマシだと思えただけだ」

「ふ~ん、素直じゃないなぁ~」

「っ‼美佐樹、おまえって奴は…‼この魔女め‼」

 

 魔女と呼ばれれば、彼女は薄く笑みを浮かべる。

 

「魔女でも何でも良いよ。明人の側に居られるなら、ね」

「……その覚悟に、私は敗けたんだろうな」

 

 対するツバサは自嘲するような笑みを浮かべ、窓の外を見る。

 

「以前までの私なら、こうしておまえと喫茶店に来て話しているとは信じられなかっただろうな」

「それはあたしと、ツバサが変わることができた証拠だよ。あたし、こうしてあなたと話せて嬉しい」

 

 美佐樹が素直な気持ちを口に出せば、「そうか」と言ってはまんざらでもない表情になる。

 

「美佐樹……おまえは、これからも明人の隣に居たいのか?」

「当然。そのために、ここに残ってるんだから」

 

 ツバサの問いに即答で返せば、彼女は憂うように視線を逸らす。

 

「これから、この世界はデビルマン軍団との戦場になる。正直、これまでにないほどの被害が出るだろう。悪魔の力を持つ者、あるいはそれに対抗する力をもつ者でなければ、生き残ることはできないかもしれない。厳しい言い方をすれば、戦う力を持たないおまえは……今度こそ、死ぬかもしれない」

「……そう、だよね」

 

 美佐樹とて、覚悟していたことではあった。

 彼女自身、今まで多くの危険な目に遭(あ)ってきたが、それは明人が居たから切り抜けることができた奇跡だ。

 戦争となれば、明人はこの世界を守るための戦いに身を投じることになる。

 それが、特異点としての宿命を背負った彼の宿命。

 

 前世界では、不動明が悪魔特別捜査隊との戦争の際に、牧村美樹は人間によって殺された。

 それが神のシナリオであり、この世界でもその筋書きに沿った動きをしていた。

 結果として明人は世界よりも、美佐樹を守ることを選んだ。

 それによって、運命の黙示録は回避されたはずだった。

 

 しかし、神の定めし運命は、その筋書きに逸れる動きを許さない。

 これが、運命の修正力なのであれば、美佐樹の運命はまた危機に晒(さら)されることになるかもしれない。

 

「美佐樹、これから私が語る言葉は本心だ……」

 

 重たい口調で、ツバサは真剣な目を向ける。

 

「私はおまえに、死んでほしくない。だから、今は……デビルマン軍団との戦争が終わるまでは、おまえは明人から離れるべきだ」

「ツバサ……」

 

 優しさが故に、残酷な忠告をする。

 本当は、ツバサも彼女にこんなことを言いたくはなかった。

 しかし、他の誰も言えることではないと思った。

 

 美佐樹は彼女からの忠告を聞き、口を噤(つぐ)んでしまう。

 

「おまえが、何よりもそれを望んでいないことはわかっている。それでも、これから先……人間は、無力だ。今度こそ、死ぬかもしれない。それでは、明人は―――」

「ありがとう、ツバサ」

 

 ツバサの言葉を遮(さえぎ)るように、美佐樹は感謝を口にする。

 

「戦えないあたしが、明人の隣に居たって……足手まとい、だよね」

 

 彼女自身、気づいていたことではあった。

 明人はいつも、美佐樹を守るために戦ってきた。

 そんな彼を、支えるために側に居ることを決めたつもりだった。

 

 明人が悪魔ではなく、デビルマンとして居られるようにするために。

 

 しかし、状況は刻一刻と変わりつつある。

 これから先に始まる戦争は、この世界を守るための戦い。

 もう美佐樹1人を……1人の人間を守るためという目的だけでは、釣り合わなくなっている。

 

「勘違いしないでほしいが、私はおまえの強さは、人間だからこそ持てるものだと思っている。おまえのその心の強さは、代えがたいものだ。だからこそ、おまえ自身がデビルマンになるという安易な考えは持たないでくれ。私は、おまえを失いたくない」

 

 悪魔の力を手に入れたからと言って、全ての人間がデビルマンになれるわけではない。

 美佐樹が求めたとしても、その肉体をデーモンに乗っ取られる可能性もある。

 

「わかってるよ。そんなこと、明人も望んでいないと思うしね。……ごめんね、辛いことを言わせちゃって。ツバサは、優しいね」

 

 笑顔を向けて言うが、それが無理してのものであることはすぐにツバサには伝わった。

 

「明人と、よく話した方が良い。あいつも、おまえを失うことが何よりも恐ろしいはずだからな」

「うん……そうだね」

 

 2人で喫茶店を後にすれば、そのままマンションに戻ることにした。

 

 

 ーーーーー

 

 

 部屋に戻れば、まだ明人は戻っていなかった。

 

 美佐樹はソファーに座り、テレビをつけた。

 

 画面の先では、世界各地で起きているデビルマン騒動が報道されている。

 三者連合を主体として、覚醒したデビルマンを鎮圧している。

 この鎮圧部隊の中に、明人も召集されているのだろう。

 

「戦争なんて、このまま起きなければ良いのに……」

 

 白藤の宣戦布告後から、世界の情勢は目まぐるしく変わっている。

 特に悪魔の力を持つ者たちの中には、2つの選択肢が突きつけられた。

 このまま三者連合に協力するか、デビルマン軍団の方に着くか。

 

 白藤隆一たちが目指しているのは、人間と悪魔を越えた存在としてデビルマンが支配する世界。

 対して、明人たちが目指すのは悪魔も人間も共存する世界。

 

 相容れない思想を持つ者たちは、衝突する運命。

 

 分かり合うには、彼らはすれ違い過ぎたのだ。

 

 明人の帰りを待っていると、唐突にピンポーンっとインターホンが鳴る。

 

「誰だろ…?」

 

 こんなご時世に、セールスの訪問などあるはずもなく、宅配も何も頼んではいない。

 不思議に思いながら玄関に向かい、ドアを開ければ、そこには誰も居なかった。

 

「何?イタズラ?」

 

 怪訝な顔を浮かべながらドアを閉めれば、その瞬間に部屋の空気が変わった。

 

「あなたが、この世界が生み出した女神の器」

 

 それは女性の声であり、振り返った先にはタキシードに身を包んだ女が立っていた。

 

「だ、誰!?」

 

 彼女は突然、その姿を現した。

 そして、美佐樹と対面すれば、黄昏るように笑みを浮かべる。

 

「私はあなた、あなたは私。あなたは、世界によって生み出された創世のための器。だけど、創られる世界は1つだけ。この世界をあるべき姿に導くために求められたのは、私ではなく、あなた」

「女神…?創世…?」

 

 彼女の言葉を復唱すれば、空間が歪んでは場所が変わる。

 そこは数多の光が星のように広がっている黒い空間。

 そして、その先には巨大な白い球体が浮かんでいる。

 

「この数多の星たちは、世界を生み出す創世の種。そして、あの球体は卵…至高天。女神は種を選定し、その身を媒体として卵と結びつき受胎する。創世の種を宿す者の、望む世界を」

 

 彼女と美佐樹は衣類が消え、全裸になって向かい合う。

 

「あなたは…誰?あなたの望む世界は……」

「私の名はヒミコ。これまでの世界を破壊し、世界をあるべき姿に戻す者」

 

 ヒミコは両手を広げ、その背後に黒い巨大な大樹のようなものが浮かび上がる。

 

「あるべき姿……それは―――!?」

「創世の種は現れた。種はあなたを、女神にすることを望んでいる。新たな世界で、新たな命を生み出す母とするために」

 

 彼女は美佐樹に歩み寄り、目を合わせる。

 

「あなたは女神として、新たな世界を創世するために彼を導かなければならない。全ては、愛すべき原初に還(かえ)るために……」

 

 ヒミコは彼女の後ろを指さし、美佐樹はそれに促されるように振り返る。

 

 その先に立っていたのは、白髪の長身の男―――白藤隆一だった。

 

「あなたは―――」

 

 その姿を見た時、再度空間が歪んではマンションの一室に戻った。

 そして、ヒミコの姿は消えていた。

 

「今のは、一体……」

 

 女神。

 創世の種。

 至高天。

 

 全ての言葉が、美佐樹の中で木霊(こだま)する。

 

 そして、美佐樹とヒミコの出会いは、この世界の運命を決めるための戦いに一石を投じることになったのだ。

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