※この作品はR-18です。

DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~   作:カナト

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悪夢は廻る

「うぅ…456…457…458ぃ‼」

 

 東大寺翔琉(とうだいじ かける)は床に手を付きながら、額から汗を流して腕立て伏せをしていた。

 

「ほらほら、どうした!?目標の1000回まで、まだ半分の回数にも達していないぞ?もっとペースを上げないと、夜が明けるぞ!?」

 

 そう言って、彼のケツをバシバシと叩くのは如月ツバサだ。

 彼女は今、東大寺の背中に乗っては彼のトレーニングに付き合っている。

 

 監獄から釈放はされたものの、ツバサは未だに監視対象であることに変わりはない。

 だからこそ、見守り役である東大寺と共に生活している。

 その中で、彼の鍛錬に協力するのが日課になりつつあった。

 

「そ、そうは言っても…‼筋トレなんて、慣れてないんですよ!?それに、1000回なんてハード過ぎますってぇ‼」

 

 泣き言を言いつつも、既に回数は480回を超えていた。

 

「全く、おまえが鍛えてくれと言ったんだろ?はぁ…この程度で音を上げるとは、情けない」

 

 頭を押さえながら、ツバサは呆れたような溜め息をつく。

 そして、彼の背中から降りては、リビングから離れて行く。

 

「つ、ツバサさん!?」

「このままだったら、風呂に入る時間も無いかもしれん。先に済ませてくる」

 

 そう言って、彼女は浴室に向かった。

 

(あ、呆れさせてしまったかな……とほほ)

 

 しかし、背中の上にあった重りが消えたことで、少しだけペースが上がる。

 

「こんなことじゃダメだ!もっと、ツバサさんにふさわしい男にならないと‼」

 

 

 ーーーーー

 

 

 東大寺がトレーニングに精を出している間、ツバサは湯舟に浸かっていた。

 

「ふうぅ……こんな生活も、あと少しかもしれないんだな」

 

 彼との生活は、ツバサにとって安らぎを得られるものになっている。

 それでも、彼女の頭から消えない現実が迫っている。

 

 デビルマン軍団との戦争だ。

 

 期限は残り2週間を切っており、刻一刻と迫っている。

 その中で、東大寺が死なないように鍛えることを、彼女は自分の使命だと考えていた。

 

「どうすれば、あいつを死なせずに済む…?」

 

 膝を抱えながら、胸の内に潜む恐怖に耐える。

 

 彼を失うことへの恐怖が、ツバサの中で膨れ上がっていく。

 

 シレーヌとカイムの繋がり故か。

 いや、そんな単純なものではない。

 

 アモンとシレーヌの繋がりを感じていた時とは、また別の強い衝動に駆られている。

 

 失いたくない。

 側に居たい。

 これかも、共に未来を歩んでいきたい。

 

 それらの欲望の先にあるものを、人は愛情と呼ぶ。

 

『楽しくやっているようだな、デビルマン・シレーヌ』

 

 浴室の中には、ツバサしか居ないはずだった。

 そして、その声は頭の中に響き渡った。

 

「誰だ!?」

 

 湯舟から立ち上がり、彼女は周囲を見渡す。

 

 すると、目の前に半透明な状態で白い髪をした男の姿が見える。

 それはツバサと目を合わせると、不敵な笑みを浮かべている。

 

「レクス!?」

 

 彼女はその名前を呼ぶと共に、両手に拳を握って臨戦態勢に入る。

 白藤は敵意を向けてくる彼女に、余裕の態度を示す。

 

『俺はおまえと戦いに来たわけじゃない。むしろ、逆だ。おまえを救いに来たんだ、如月ツバサ』

「…何?」

 

 目尻を吊り上げながらも、ツバサは拳を下ろさない。

 

『おまえもわかっているはずだ。今のまま戦ったところで、おまえでは俺には勝てない。何なら、今度の戦争にすら、勝てるとは思っていないはずだ』

 

 それは挑発ではなく、事実。

 彼女は今、三者連合に協力している。

 しかし、それでもデビルマン軍団との戦争には消極的な考えを持っている。

 

「俺の下に戻って来い。そうすれば、おまえはまた内海明人と愛し合う運命を掴むことができるんだ」

 

 そう言って、手を差し出してくる白藤。

 彼女の欲望に問いかけるように、甘い誘惑をしてくる。

 

 ツバサの脳裏に、明人の存在がチラつく。

 しかし、その傍らには、彼女が今や友人とし認めている女…加藤美佐樹が浮かび上がる。

 

 そして何より、今のツバサには勝ち取った幸せの形がある。

 

「ふざけるな‼」

 

 右足をザバァーンっと湯舟から振り上げ、白藤に回し蹴りを喰らわせようとする。

 しかし、足は彼の身体をすり抜けていった。

 

「私はもう、運命などに惑わされはしない‼明人も美佐樹も、今は私にとっては大切な仲間だ‼」

 

 ツバサは強い敵意を白藤に向ける。

 

「おまえの魂胆は読めているぞ、レクス‼私を利用し、また美佐樹を手に入れようとしているのだろ!?そうはさせない‼」

 

 彼を指さしながら、ツバサはその真意を追及する。

 

『それが、おまえの出した答えか。実に愚かな選択だ』

 

 白藤は彼女の敵意など意に介さず、淡々と言葉を返す。

 

『確かにおまえの精神力は、相当強いものになったようだ。もはや、運命を利用することもできなくなるだろう』

 

 ツバサの身に起きた変化を分析しながらも、彼は「しかし」と言葉を区切る。

 

『おまえの大切な存在……東大寺翔琉は、その運命を変えることができるかな?』

 

 意味深な言葉を投げかけ、ツバサはそれに対して眉をひそめる。

 

「東大寺に…あいつに、何をするつもりだ!?」

『自分のことには揺れなくても、彼を引き合いに出すと途端に動揺したなぁ…。やはり、デビルマン・シレーヌ……おまえは弱くなった。おまえは大切なものを見つけることで、孤高の強さが無くなった』

 

 白藤が彼女の身体に手をかざして念じれば、頭の中に流れる光景があった。

 

 それは前世界の記憶。

 不動明と戦っていたシレーヌを勝たせるために、カイムが自らの命を犠牲にして合体した光景だ。

 

「こ、これは…‼」

 

 ツバサは頭を押さえつつも、全身に鳥肌が立っていた。

 

『このまま、彼が君と共に戦っていれば、カイムは自らの命を捧げて君を強くすることだろう。言わば、デビルマン・シレーヌを進化させるための踏み台……それが、デビルマン・カイムとなった、東大寺翔琉の運命なのだ』

 

 如月ツバサは、自らの運命を変えることができた。

 しかし、東大寺翔琉は未だに、神のシナリオの中に囚われている。

 

 その運命を切り開くことができるものを、ツバサは持っていない。

 

 彼女はイメージしてしまう。

 東大寺がツバサを守るために、自らの身を犠牲にする選択を。

 そして、その先でシレーヌとカイムが合体する未来を。

 

『シレーヌ。血塗れでも、君は美しい』

 

 前世界の記憶がフラッシュバックし、カイムの言葉が蘇る。

 

「いやぁああああああああああ‼」

 

 結局、シレーヌとしての運命からは逃れられないのか。

 愛する者を見つけたが故に、彼女は苦しむことを強いられる。

 

 東大寺を失う恐怖に悶絶(もんぜつ)するツバサを見下ろし、白藤の姿は消えた。

 

『これだけではない。俺を裏切ったおまえには、更なる地獄が待っている。失うことの恐怖を、存分に噛みしめるが良い……』

 

 ツバサと東大寺は、まだ気づいていなかった。

 白藤が2人に仕掛けた、恐るべき罠を。

 

 

 ーーーーー

 

 

「807…808…809‼」

 

 ツバサが入浴している際中も、東大寺は腕立て伏せを止めずに継続させていた。

 

 しかし、中々上がってこない彼女のことが、流石に心配になってくる。

 

「ツバサさん、もしかして逆上せたのかな……」

 

 トレーニングを1度中断し、浴室に向かおうとする東大寺。

 しかし、その瞬間―――。

 

 窓の鍵が1人でに開き、入ってきたのは1人の女。

 

「おまえが、デビルマン・カイムだな……」

 

 突然の来訪者。

 それから向けられる殺気に、東大寺は身を構えた。

 

「あなたは…‼」

「私の名はデビルマン・ビビカ‼おまえの命、私がもらう‼」

 

 そういうと同時に、女は「デビルッ‼」と掛け声をあげて変身する。

 両腕は鳥の翼へと変化し、額に5つの目を付けた異形の存在へと。

 

「そう言われて、素直に殺されてたまるか‼デビルっ‼」

 

 東大寺もカイムへの変身をとげ、臨戦態勢に入る。

 

「おまえ1人なら、僕1人で十分だ‼」

 

 ツバサに声をかけることもせず、ビビカに向かって突進するデビルマン・カイム。

 敵はそれを受け止めるが、カイムの突進力によって外に追い出される。

 

「ぐはぁ‼」

「このまま逃がしはしない‼」

 

 外に出ると同時に、両肩の角から雷撃を放つ。

 それをビビカは頭部から生える角から、光線を放つことで相殺する。

 

「流石は屈強な戦士カイム‼力では押し負けるか」

 

 敵はカイムの実力を知った上で、暗殺を目論んでいた。

 そのことに、警戒心を向ける東大寺。

 

「狙いは僕か!?ツバサさんに手を出したら、許さないぞ‼」

 

 守るべき存在を頭に思い浮かべながら、カイムはそのまま再度突進を仕掛ける。

 しかし、その時だった。

 

「いいや?シレーヌの前に、まずはおまえの心を折れとの命令だ。デビルマン・カイムよ、おまえに悪夢を見せてやろう‼」

 

 そう言って、ビビカが口を開けば、その中から巨大な目が現れる。

 

「何だ、それは――――うぎゃぁああああああああああ‼‼‼」

 

 その目を見た瞬間、東大寺の視界が歪んでは意識が遠くなる感覚に襲われた。

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