DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~ 作:カナト
何時からかは覚えていない。
それでも、俺はこの暗闇の中を歩き続けている。
目的地もわからず、ただ本能のままに。
「これは……」
次第に見えてくるのは、燃える廃墟の街。
その建物の1つ1つが、見覚えのあるものばかりだ。
辺りに散らばっているのは、たくさんの人や悪魔の死体。
その先に立っているのは、1人の黄金の髪をした全裸の女。
彼女は4枚の翼を広げながら、空虚に
「美佐樹…」
名前を呼んでも、反応は無い。
手を伸ばしながら、歩み寄ろうとする俺だが、その後ろから声が聞こえた。
「無駄よ、内海明人」
それが耳に届いて、振り返った先にタキシード来た女が1人。
「あれはもう、加藤美佐樹ではない。白藤隆一と合体し、創世の女神へと覚醒した。これから、世界は生まれ変わるのよ」
俺はこの女を知らない。
しかし、魂が訴えかけてくる。
この女の存在を、俺は許してはいけないと。
「おまえは……誰だ?」
「私の名はヒミコ。この世界を壊す……真なる魔女よ」
その言葉と共に、創世の女神が黄金に発光して飛翔する。
「美佐樹!?」
デビルマンに変身して追いかけようとするが、反応が無い。
いや、身体が動かない…‼
「これは神のシナリオに記された運命……その終着点。あなたは創世の種として選ばれた。それでも、望む未来を手に入れられるのは1人だけ。あなたは、この結末を変えられるかしら?」
辺りが光に包まれ、呑み込まれて行く。
俺とヒミコも例外ではなく、その巨大な力の前に――――。
ーーーーー
「明人‼」
大きな声で名前を呼ばれ、ビクッと肩を震わせた。
「あれ、俺は…今……」
周りを見れば、そこは三者連合の会議室。
甲牙やジュンさんが怪訝な顔を浮かべており、了さんが腕を組んでは険しい顔を浮かべている。
「会議中に居眠りとは、関心しないな」
居眠り…?
それじゃ、今の光景は夢だったってことか。
「……悪い、了さん。気を付ける」
俺が目頭を摘まんで押さえていると、気を利かせてサイコジェニーがコーヒーを出してくれた。
眠気覚ましに、それを一気飲みして口を手の甲で拭う。
「白藤隆一が提示してきた、1ヶ月の期限まで日は迫っている。ダンテたちも合流する予定だが、それまでに我らも戦力は整えなければならない。気を引き締めてもらわなければ、困るぞ?」
今回、俺たちが集まっているのもそのための会議だったな。
了さんが甲牙の方に目を向ければ、彼はタブレットを見て口を開く。
「こっちは光子力を使った兵器の運用を、さやかとミネルバが中心になって進めている。民間人でも使える簡易的な光子力バリアや、マジンガーZの技術を応用したパワードスーツ「イチナナ式」がもう少しで運用可能だ。できる限り、多くの人に広めたいんだけどな……」
「大きすぎる力は、それだけ使用する際に大きな責任を有する。あくまでも、その力は戦争を生き抜くために使用するだけだ。余計な混乱は避けたいからな」
光子力は悪魔の力を持った者たちに対して、人間が持てる唯一有効な力だ。
三者連合が治める共有エリアでも、人と悪魔のいざこざは少なくない。
そこに多くの人間が光子力を使用できるようになれば、今の均衡が崩れて戦争の前に混乱が起こる可能性がある。
「こちらに所属しているデビルマンたちについても、統率は取れているわ。だけど、いつかの反乱の時みたいに、デビルマン軍団に寝返るつもりの者も居るかもしれない。目は光らせた方が良いわね」
ジュンさんは了さんのサポートをしている傍らで、三者連合に所属しているデビルマンたちの管理・調整を行っている。
しかし、戦争の相手がデビルマンである以上、白藤の思想に影響を受ける者も少なからず存在するだろう。
「皆、大変な状況下にあると思うが、ここを乗り切れば未来は切り開ける。今後もデビルマン軍団や修正者の妨害を警戒しながらも、来たるべき時のために準備を進めて行こう」
近況報告を終え、一先ずは会議は終了。
それぞれが席を立って会議室を後にする中で、俺は最後に立ちあがって重たい身体を動かす。
「明人、少し話せるか?」
了さんが声をかけてくる。
顔を上げれば、彼の表情からは心配の感情が読み取れる。
「わかった。俺も了さんに、確かめたいことがあったんだ」
ーーーーー
俺と了さんは屋上に移動し、2人で街の景色を見る。
「ここから見る景色は、少しずつ変わっていくな。前は人だけだったのが、今は悪魔も自分の姿を隠さずに歩くことができてる。人と悪魔が共存する世界が、少しずつだが……形になっている」
口角を上げながら呟く了さんの隣で、俺も同じ景色を見る。
しかし、見える景色は綺麗なのに、先程の光景がフラッシュバックしては血生臭い感覚に襲われる。
「……この戦いに、意味はあるのか?」
不意に言葉にしてしまった。
それを聞いて、了さんは横目でチラッと俺に視線を送る。
「明人、様子がおかしいぞ?何かあったのか?」
了さんは知らない。
この戦いはあくまでも、神を打倒するため。
しかし、アモンの話が本当だとすれば、この戦いの果てにあるのは……。
「1人で背負うな、明人。俺たちは、共に運命と戦ってきた同士だ。黙示録の未来を変えるために、おまえの抱えるものを共に背負わせてくれ」
「了さん……わかった」
これは俺が1人で背負うべきことじゃない。
しかし、現実なのかどうか、確証が持てなかった。
アモンから告げられた真実だけじゃない。
創造主ゴウのことや、不吉な夢のこと。
全てを了さんに伝えれば、彼は驚いた様子もなく、小さく息を吐いた。
「神は既に居ない……か。これまでの戦いは、全て神のシナリオによって仕掛けられた運命による防衛機能だったわけか。そして、この運命を変えるためには、君と美佐樹ちゃんに掛かっていると創造主と名乗る者が告げた…か」
端的に要約してくれた了さんは、手すりに背中を預けては片手を自身の頭に乗せながら空を見上げる。
「この手で神を討ったというのに、その時の記憶が無いとは…。これはまた、道化だな」
「至高天……そこに女神が導いた者が、新しい世界を創世できるとゴウは言っていた。そして、俺と白藤は創世の種だと…でも」
白藤には、デビルマンが頂点に立つ世界を創るという理想がある。
しかし、俺には世界に対する理想なんて……。
了さんは俺の言わんとしていることを察し、口を開く。
「俺は過去に、人間を滅ぼそうとしたのは……話したな?」
彼にしてみれば、愛しくも忌まわしい前の世界の話だ。
不動明と殺し合い、その果てに消えた。
「あの時、俺はデーモンが頂点に立つ世界を創りたかったわけじゃなかった。ただ彼らが、平和に暮らすことができる世界を望んだんだ。その結果が、黙示録に繋がったわけだがね」
自嘲するように笑う了さん。
そして、太陽を見上げながら言葉を続ける。
「明人が望むのは、そんな未来か?」
「それは…違う」
前世界の不動明の記憶は、頭にこびり付いている。
そして、あんな未来にしないために、俺は戦ってきたんだ。
「だったら、君はどんな未来を望んで戦ってきた?人は多かれ少なかれ、未来を想い描きながら生きている。その答えは既に、これまでの経験の中で見え始めているんじゃないか?」
了さんの問いかけに、俺は思考を巡らせる。
すると、不思議な感覚があった。
意識が、身体から離れて……。
ーーーーー
目の前には宇宙空間が広がり、辺りには星が広がっている。
俺の意識は浮遊しており、その空間の中に漂っている。
『汝の望む世界……。それは秩序か、混沌か、それとも……。汝の望む創世を成すのだ、内海明人よ』
姿は見えないが、それはゴウの声。
そして、その声と共に空間が開かれる。
そこには、どこから生えているのか、巨大な樹がそびえ立っている。
「これは……」
周りを見渡せば、それまで見えていた星々が形を変える。
まるでオタマジャクシのようで、それが大樹の上に浮かぶ巨大な黄金の球体へと向かっていく。
「これら全てが、生きとし生ける者の望む未来だと言うのか…?」
その先に向かおうとすれば、背後から巨大な影が迫り―――。
ーーーーー
意識が現実に戻り、周りを見れば三者連合の屋上だと認識する。
今のは……。
「明人?どうした、急に黙って」
急に?
まさか、さっきの永遠にも似たような感覚は、了さんにしてみれば数秒の出来事だったのか。
「了さん、俺―――」
今起きたことを、そのまま伝えようとした時だった。
ブォーンっ!ブォーンっ!ブォーンっ!
街全体に響くような警報が聞こえ、緊張感が走る。
「敵襲か!?」
「だけど、どこも変化は…‼」
街からは小さな敵意や、デビルマンの気配すらも感じない。
それなのに、この警報が鳴ったのは何故だ?
巨大な力を探知したら鳴る警報。
それが発動した理由を、次の瞬間理解した。
「何だ、あれは!?」
視界に映るビルの1つから、桃色の光が柱状に空に向かって伸びていく。
それだけでなく、別方向から同じような光の柱が時間差で。
そして、その柱たちはある一か所を囲むように先端が重なっていく。
「あそこにいるのは……まさか!?」
俺は屋上から飛び降り、そのまま腰に巻いたベルトに手をかけて叫ぶ。
「デビルっ‼」
身体が白く発光させながら、漆黒の翼をはためかせてマッハである場所に向かう。
「届けぇー‼」
夢の中と同じように、俺は手を伸ばす。
しかし、無情にも柱と柱の間を埋めるように桃色のバリアが展開されて道は塞がれた。
囲まれたのは、俺たちが住むマンションを含んだ半径10キロメートル以内。
それはつまり、この結界を作った者の狙いが1つであることを示しているようなものだった。
何故なら、この中にはまだ…‼
「美佐樹ぃー‼」
愛しい彼女の名を叫びながら、結界を何度も殴るもビクともしない。
手を付きながら、透視能力を駆使して中の状況を確認する。
その中で、1人だけ一際大きなオーラを放つ人影を認識する。
それは一直線に、1つの部屋に向かって歩を進めていた。
「あいつは……まさか!?」
ただの夢。
しかし、それだけでは説明がつかないような偶然。
タキシードに身を包んだ女は、俺の闘志に気づいたのか、こちらに視線を向けて口角を上げる。
「目覚めの時よ、創世の女神」
彼女の名はヒミコ。
自らを魔女と呼ぶ女だった。