DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~ 作:カナト
女神として目覚めた美佐樹。
その意識は完全に、何者かによって乗っ取られているのがわかる。
彼女の金色の瞳に光はなく、俺を前にしても無表情だ。
『下がりなさい。私は創世を果たすために、種の資格者の下に行かなければなりません』
「行かせるわけねぇだろ。俺はもう、2度と美佐樹を離さないって決めたんだ」
思えば、初めてのことかもしれない。
この力を、美佐樹に向けるのは。
「相手が女神だろうと何だろうと、返してもらうぜ。俺の女をなぁ‼」
翼をはためかせながら接近し、その肩を掴もうと手を伸突き出すが、触れる直前に止まる。
止めたのは俺の意思じゃない。
まるで磁石のように、相反する力が反発して弾かれた。
「何!?」
『悪魔の身で、神の肉体に触れようとするとは愚かなこと。汚れ人よ、あなたに私を止めることなどできません』
悪魔の力では、神には触れることもできないのか!?
仮面の下で嫌な汗が流れる間に、俺は1つの違和感を覚えた。
ここには、俺と美佐樹だけ。
ヒミコはどこに―――。
ーーーーー
明人と美佐樹から離れ、ヒミコは街全体を見下ろしながら大空に複数の魔法陣を展開する。
「女神が目覚めた今、この世界は終焉を迎える運命。神の使者たちよ、宴の時間よ‼」
魔法陣の中から出てくるのは、大魔神サタンの姿を模した者たち。
その数は10…50…もはやその数が増えていくごとに、恐怖が増していくのを感じる。
この光景を前に、三者連合では了が目を見開く。
「あれは、天使か!?何故、このタイミングで…‼ちぃ、考えている場合ではない‼」
了は自らもベルトに手をかけ、天使と悪魔の力を解放して変身する。
「デビルっ‼」
12枚の翼を広げたデビルマン・バアルシファー。
魔剣サタンを手に、空に展開される天使たちに迫る。
「神亡き今、おまえたちはそれでも神という概念での支配を望むか‼なんと愚かな‼」
問いかけようとも、それに対する問答は無く、それぞれが両手を前にかざしては光線を放つ。
それは一点にデビルマン・バアルシファーに集中し、それを魔剣サタンの刃で受け止めるがすぐに押し返される。
「くっ‼俺たちの事情など知らぬというように…‼神の気まぐれに、これ以上付き合わされてたまるか‼」
天使たちは続けて、地上に向かって光線の雨を降り注ぐ。
「させるかー‼」
地上への被害を食い止めようと、街全体を包むようにバリアを展開する了。
防御にエネルギーを全振りするが、それでも持ちこたえるのが精一杯だった。
(今まで静観していた、神の軍団が突如として動き出すとは。これも神のシナリオ通りだと言うのか!?)
押され気味になっている了。
そして、地上からは飛翔能力を持つデビルマンやデーモンが助力に駆け付ける。
「サタン!大丈夫か!?」
「シレーヌ‼」
デビルマン・シレーヌ…如月ツバサが姿を見せ、両手に火の弾を生成しては天使の軍団に向かって乱れ撃ちをする。
しかし、それは直撃しても効いている様子は無い。
「このっ…‼こんな時に、明人は何をしている!?」
「明人はおそらく、美佐樹ちゃんを……」
八つ当たり気味に明人の名前を出すツバサに、了はマスクの下で疲労の表情を浮かべながら呟く。
「奴らの狙いは、美佐樹ちゃんだ。創世の女神として目覚めさせ、この世界を終焉に向かわせようとしている」
「創世の…女神?」
「詳しく話している時間はない‼今は天使の軍団を食い止めなければ、俺たちだけでも全滅する‼」
空を埋め尽くさんとするほどの天使たちを前に、反撃の一手が切り開けずにいる。
ここに来て、誰か1人でも修正者が現れた場合には、了だけで対処できるかどうか。
(白藤隆一…‼この状況で動きを見せないということは、これもおまえの計画の内だと言うのか!?)
今までで確認された天使は、大天使ミカエルのみ。
これほどの大軍団を用意するほどの統率者は、大天使以上の地位を持つに等しいだろう。
(天使を動かすほどの存在が居るとすれば、それは…!?)
意識を街全体に届くように集中させれば、既に彼の予測を超える現象が起きていた。
幾星霜の時の中で、何度も対峙した者だからこそわかる絶対の存在。
神のオーラだ。
そして、その近くには明人の姿が。
「バカな!?彼女はもう神の力を宿しているのか!?一体、誰がこんなことを…‼」
大魔神サタンの思考を以てしても、現状の理解が追いつかないことが起きている。
いや、今までも何度かこのようなことはあった。
しかし、今回に関しては次元が違い過ぎる。
「彼女が女神に目覚めたのなら、この世界は――‼」
「そうよ、サタン。この世界はあるべき姿に還るのよ」
天使軍団の総攻撃が1度止み、その先頭に立つ全裸の女…ヒミコが彼らを見下ろす。
「おまえは……何者だ!?新たなる修正者か!?」
不敵な笑みを浮かべながら、ヒミコの姿が変化する。
白と黒が混じったボディースーツに、緑のラインが入っている。
その後ろには、黒い太陽のような翼が生えている。
「私はかつて、魔女と呼ばれた存在…ヒミコ。そして、この世界の破滅を望む者。理を拒み、世界をあるがままの姿に還すのが、我が宿命」
それは差し詰め、終焉の魔女とも呼べる存在。
そして、彼女からは今の美佐樹と同じ力を感じとる。
「おまえが、この現状の首謀者か!?あるがままの姿とは、何のことを言っている!?」
了はヒミコと対峙し、その真意を探る。
「天使、悪魔、人間。それらは全て、元は同じ存在だった。上も下もなく、支配する側とされる側に区別されることも無い。強者も弱者もなく、全てを0からやり直す。それが、この世界のあるべき姿」
美佐樹の黄金のオーラとは真逆の、漆黒のオーラが彼女から展開される。
「もはや、天使と悪魔の戦いによる輪廻など必要ない。この世界は、混沌へと還る運命なのよ!」
彼女が両手を広げ、天使たちに号令をかける。
それに合わせ、天使軍団の総攻撃が再開されようとした瞬間――――。
『やはり、現れたか。破滅の魔女め』
その言葉と共に、紅の閃光が遠方が飛んできては天使軍団を一直線に消滅させる。
「この声は…!?」
了だけでなく、ツバサもその存在に期待と共に警戒心を向ける。
紅の鎧を装着した勇者と呼ばれる悪魔は、了とヒミコの間に浮遊する。
彼の存在に、魔女は
「観測者の特異点……勇者アモン…‼」
了に背を向け、ヒミコを正面に捉えて言葉を交わすアモン。
『女神の力を手に入れるのが、おまえの目的。そして、加藤美佐樹の身体を器として、神の意志を再臨させたようだな』
現状を把握しているような勇者の物言いに、了は口を挟む。
「神の意志の再臨だと!?だとすれば、おまえが明人に話した、神は死んだという言葉はどうなる!?」
『神はあの本に、自らの意志をコピーしていたのだ。そして、その力が女神の器と接触した時、女神の意志として覚醒するようにしていた。今の加藤美佐樹は、女神の肉体を得た神の意志そのものとも言える存在だ』
「美佐樹ちゃんが、神の意志そのものだと…!?」
だとすれば、事態は最悪と言わざる負えない。
創世の女神として覚醒した美佐樹の肉体を得た神。
それと創世の種の資格を持つ白藤隆一が接触すれば、この世界の破滅は確実。
食い止めるには、今、ここで彼女を止めるしかない。
「明人は!?彼は今、彼女と共に居る‼デビルマン・ゼロ……明人の特異点としての力があれば、あるいは…‼」
「不可能よ。特異点の力を持っていても、神そのものに悪魔の力が敵うはずが無い。あなたたちにできることは、もう何も無いのよ‼」
希望を絶つ言動をするヒミコに、了は鋭い視線を向ける。
その中で、アモンはフッと笑う。
『必死だな、魔女よ。本当は気づいているのだろう?この状況は、既におまえの筋書きから外れているということに』
勇者の言葉に、彼女は訝し気な顔をする。
「加藤美佐樹は既に、神の意識によって女神の器となっている。彼女と白藤隆一が接触した時、この世界は終わりを迎える。最終戦争など、待つ必要は無い。私たちはあるべき姿に戻り、混沌へと還るのだから」
『おまえの思惑など知らん。だが、1つだけ確かなことがある。あの男は諦めが悪い。事、愛する女のためならば、しつこい程にな。そして、神の理を越えていく』
アモンには視えていて、ヒミコには視えていない未来がある。
それは好敵手と認めた者であり、世界を越えた繋がり故の感知。
自身とは違う未来を辿った者への、信頼。
ーーーーー
バリアの外での攻防戦に意識を向けている余裕はなく、俺は美佐樹に何度も接触を試みる。
しかし、どれだけ触れようとしても反発することは変わらない。
『特異点の力を持っていようと、私に触れることはできないと言ったはずです。諦めなさい、汚れ人よ』
浮遊する美佐樹…
それだけでなく、右手をかざしては光線を放ってくる。
「ぐぅううっ…‼ヴァイス…ゼロォオオオっ‼」
ヴァイスロックの上からインパルスジャックの鍵を差し込み、ヴァイスゼロに変身しては両腕を交差させて防御する。
しかし、それでも力に圧されてしまう。
『何故、そうまでして抗う?この世界は不完全。悪魔も、その悪魔と共に我らに反逆する人間も、その不完全の権化なのです。滅びの運命は変わらない』
冷たい目を向けたまま、女神は呟いて複数の魔法陣を展開する。
『運命を受け入れよ』
魔法陣から放たれる、無数の光線。
それをインパルスジャックで相殺しながら、俺は翼をはためかせて彼女に手を伸ばす。
「クソくらえだ、そんな運命‼」
全身に力を集中させ、紫紺と深緑のオーラを全開にする。
しかし、それでも神と悪魔の力は拮抗し、反発する。
『明人よ、悪魔と神では相容れることはない。このまま同じことを繰り返していては、運命の想う壺だぞ!?』
ゼロの言葉が頭に響き、こちらが力を込めると反発する力が増していくのがわかる。
それなら、どうすれば良いのか…‼
『内海明人』
それはいつか聞いた、
いや、もうわかっている。
この声が誰のもので、何を語り掛けてくるのか。
その男は意識の中で、俺に手を差し出してくる。
『今を生きるおまえに、この世界を託す』
それはフラッシュバックにも似た感覚だった。
だけど、今度はその言葉の真意を、本当の意味で理解した。
「そうか……わかったぜ。そう言うことだったのか、不動明」
俺は美佐樹を取り戻したい。
その気持ちが先行して、力で彼女を取り戻そうとしていた。
だけど、違うんだ。
破壊皇ゼロの力を暴走させた時、俺を救ってくれたのは力じゃなかった。
あの時、俺を人として繋ぎ止めてくれたのは……。
「美佐樹ぃいいいいい‼」
手を伸ばしながら、デビルマンの鎧が外れていく。
「取り戻す‼絶対にぃ‼」
その光景に、女神は予期しなかったことから目を見開く。
『何!?自ら、悪魔の力を脱ぎ捨てるだとぉ!?』
ゼロの鎧を外したことで、反発する力が薄れていき彼女に手が近づいていく。
しかし、女神は恐怖からか、その身を引いて行く。
『やめろ‼来るな、汚れ人よ‼私はっ……女神だぁ‼』
両手をかざし、光線を放とうとする女神。
しかし、その手は震えている。
「何が女神だ…‼そんな情けねぇ面してる奴が、神様なんて笑えるぜ」
ゼロの鎧は無くとも、俺には前世の魂に刻まれた力がある。
それを今、解放する‼
「デェェェェ……ビィイイイイル‼」
それは鎧を装着するものではなく、前世の不動明に刻まれた戦いの記憶と共に、肉体を通じて再現する力。
翼を広げた蝙蝠の頭をし、両目の下に黒いラインが入る。
そして、背中からは黒い翼を広げてはためかせる。
これが不動明の身に刻まれた、デビルマンの力。
これはもはや、戦うための力ではない。
だから、あんたの力も貸してくれ……不動明。
今こそ、運命に抗う時だ。