DEVILMAN REBORN ~LOST DESTINY~ 作:カナト
風景は、古代のギリシャだった。
目の前に広がるのは、火の海。
建物は崩壊し、人々は次々と無残に死んでいく。
空には巨大な赤い翼を広げ、身の丈を超えた長剣を持った悪魔……いや、魔神が浮かんでいた。
魔神の目からは涙が流れ、その手には生気を感じない顔をしている茶髪の少女が抱かれている。
そして、その前に立つのは青い翼を広げるもう1人の戦士。その手には太い大剣が握られていた。
言葉を交わす魔神と戦士。
その主張は相反するものだった。
魔神は愛を求め、戦士は力を求める。
そして、2つの力は激突した。
地は割れ、海は荒れ、2人を哀れむように豪雨が降る。
2人の力は同等。
決着はつかない。
あまりにも悲しく、哀しく、救いのない衝突。
神は地上で戦う哀れな2人に失望し、その存在を時空の彼方へと追放した。
魔神と戦士は、互いを認めることができなかった。
愛だけでも、力だけでも、互いの願いはかなわないことに気づかなかったのだ。
2人は双子だった。
そして、互いを合わせ鏡としたのだ。
その双子の片方の名はカイザ。
1人の人間の女と愛を育み、魔族を裏切りゼウスと手を組んだ魔神。
しかし、その存在は醜い争いを犯した大罪への罰として、地上の神々や人間の記憶から消え去られた。
カイザは時空を
だが、双子の兄は力を求めて強欲に走った大罪として、地獄に落とされた。
兄は地獄の王であるハデスに挑むが、カイザとの戦いの傷は癒えずに大敗を期す。
敗者は名と記憶を奪われ、王の前にひれ伏した。
その力への強欲を残したまま。
そして、かの戦士に与えられた名は―――。
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意識が戻って目を覚ますと、急に身体が重くなったように感じた。
何か、長い夢を見ていたような気がする。
「2人の魔神……あの姿は、マジンカイザーと同じ……。なら、あれがカイザーだったのか」
夢と言うには、あまりにもはっきりと映像が記憶に残っている。
「あの魔神は一体…」
夢の中に出てきた、カイザと似た姿をした戦士。
禍々しい力を放つ鎧をまとい、まるで闇のカイザと呼ぶような存在だった。
カイザとは似ているけど、考え方がまるで違っていた。
『私の過去を見たようだな、兜甲牙』
その声は頭の中に響き、棚に置いてあるブレスレットが青白く光っている。
「その声は……魔神カイザ!?どうして、いきなり声が!?」
『驚くのも無理はない。私が君に精神干渉できるまでに、君が魔神の力を使ったことを表すのだからな』
「魔神化によって、俺とおまえが意志疎通できるようになったってわけか。皮肉なもんだな」
『それだけではないと思うがな……』
意味深な一言を言うカイザに、俺は目を細める。
「……何があるって言うんだ?」
『おまえの時間軸で言うのなら昨夜、弓さやかがこの部屋に来た。そして、異形の者にさらわれた』
「何!?」
驚いて身体が跳び起きてしまうが、やはりまだ痛みが走る。
……まて、そんなに痛みを感じない。
昨日はあんなに激痛が走ったのに。
いや、そんなことよりもさやかのことだ。
「さやかがさらわれたってどういうことだ!?」
『言葉の通りだ。異形の者……悪魔だとは思うが、奴が弓さやかと共に消えた』
「どうして、さやかを助けなかった!?」
『この世界に実態が存在しない私にはどうしようもない』
「それなら……今、さやかはどこにっ……!!」
取り乱す俺に、カイザは冷静に聞いてきた。
『弓さやかが、それほどまでに大事か?』
「っ、どういう意味だ!?」
聞いている意味がわからなかった。
聞き返すと、カイザは客観的な事実を突きつけた。
『おまえは大事なのは、自身の目的と誇りのみだと思っていた。誰かを想う気持ちがあったとはな』
「喧嘩売ってるのか!?」
『その感情に任せて衝動的に行動した結果を忘れたのか?』
「っ…!!」
言い返せずに言葉が詰まってしまった。
デビルマン・ゼロと戦っていた時、俺の意識は途中から別の何かに支配されていた。
あれを言葉で表すならば、闇と言うべきか。
『ゼロが止めなければ、おまえは自滅していたことだろう』
「……否定できないな」
『今後戦うことになれば、身体の侵食具合にもよるが、精神への侵食も悪化することは間違いない』
カイザに釘を刺され、俺の戦う意志がさらに揺らぎそうになる。
「あの時、俺の意識を支配していたものは、魔神の力と関係あるのか?」
『魔神の力はおまえの感情と比例して力を増幅させる。しかし、感情の種類によっては暴走することもあるだろう。ゼロとの戦いで、おまえの感情は憎悪と歪んだ信念に支配されていた。あれでは魔神の力を制御することはできない。あの戦いでは、おまえは力を使っていたのではない。力におまえの身体が使われていたのだ』
魔神の力に振り回されていたという事実。
それによって、心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
このまま、俺の身体は魔神に支配されてしまうのか。
その恐怖が、震えを起こす。
「俺は……どうすれば良い?このまま戦い続けていけば、魔神化は進行していく。それを制御できなくなったら、俺は……いや、世界はどうなるんだ、カイザ!?」
『地球は消滅するであろうな』
躊躇なくカイザは事実を告げ続ける。
『それほどまでに強力なのだ、魔神の力とは。そして、1つ良いことを教えてやろう』
「……これまでの話から、良いことなんて、全く希望が見えないけどな」
『まぁ、聞くが良い。デビルマン・ゼロ、あの男も我らと同等の力を持っている』
「そんなこと、言われなくてもわかってる!!俺に勝った男なんだからな!!」
『いや、わかっていない。ゼロが魔神に勝利できたのは、力を制御できたからだ。世界を滅ぼしかねない力を』
「……内海明人にはできて、俺にはできなかったって言うのかよ?」
『実際、その通りだからな』
カイザの力を制御できなければ、地球が消滅する。
俺はとんでもない力を手にし、何でもできると思い上がっていた。
過去の自分を、これほど全力で殴りたいと思ったことは無い。
『話を戻そう。弓さやかは連れ去られた。おまえはどうする?』
「……場所はわかってるのか?」
『犯人の気配は覚えている。しかし、その状態で戦えるのか?』
「身体は動く。これくらいの痛み、もうどうってことない」
『私が言っているのは、心の状態だ』
カイザは全てを見透かしている。
その上で、俺の心を試してきた。
『おまえが動かねば、弓さやかは死ぬかもしれない。それほどまでに、敵は強大だ』
「……」
『選べ。自身の中の恐怖に負けるか、女を救うために恐怖を抱える覚悟を持つかを』
この2択は重い。
どちらかを選べば、後戻りはできない選択だ。
自分の身体を取るか、さやかの命を取るか。
だけど、そんなこと、聞かれるまでもない。
俺はベッドから降りて立ち上がり、カイザのブレスレットを手に取って左手に付けた。
「後悔はしたくない。そのためだったら、身体を食われたって耐えてやるぜ」
『……良い返事だ』
カイザの顔はブレスレットの形状ゆえに見えないが、笑っているような気がした。
戦う決意を固めた甲牙。
カイザの力に恐怖を感じながらも、さやかを救いに一歩を踏み出す。
しかし、敵の正体は、その力……。
甲牙は、真の英雄となるため覚悟を試される。
英雄とは、いかなる存在のことを言うのか。