モンスター娘のいる日常。The said page 作:琥珀色
モンスター娘のいる日常
the origin
ACT1
アラクネのいる日常
今日も清々しい朝を迎えた
ベッドから跳ね起き
リビングへ向かう
俺、神木紅戀(かみきくれん)
は今日の今日で緊張気味である。
他種族間交流法が制定されて約1年、外にもちらほら他種族の女の子を見かけるようになった。
他種族と人間の間で、互いに危害を与えないという法は若干軽減され、普通の人として、とは行かないまでも、それに近づけているようで、それなりの刑罰も取り入れられるそうだ。
それはそうと、二週間前くらいに他種族の子がうちにホームステイしに来るという話になった。まぁ受け入れる所が少ないという事実と、『家族が欲しい』という理由で受け入れを申し込んできたという次第である。
そして今日、うちにアラクネという、半人半蜘蛛という姿の他種族が来る。
「飯でも作っておこうかな
腹、すかせてるかもだし」
俺の得意料理であるクリーム煮から始まり、野菜炒め、焼き肉、サラダ、炒飯、ワンタンスープを作ってみた。
粗方フライパン等の使ったものの片付けが終わりかけた時にインターホンが鳴った。
「遂に来たか…」
内心不安である。
2度目のインターホンが鳴った
「はーい」
そう言いながら玄関の扉を開けた
すると、黒ずくめの女性と、後ろに引越しトラックが止まっていた。
「あれ、他種族の子いないんすか?」
そう訊ねる、すると黒ずくめの女性が何故か面倒くさそうに答えた
「あー……うん、そこのトラックに居るわよ」
「あ、そうそう、これこれ。これ後であのこと一緒によく読んでおいてね」
「…これは?」
「これはね、これからあの子と暮らしていく上で覚えておくことや、制度のことなんかが書いてあってね、まあ面倒くさいから読んでおいて」
「……」
そこは説明しようぜ
「あなたの名前は?」
「こういう者よ」
バァンとでもいうような勢いで名刺を渡してきた
「墨須さん、ねぇ」
「ええ、スミスってカタカナで呼ばれているわ
私は他種族間交流コーディネーターって仕事しててね、あっ」
「?」
「やっば、早く戻んないと遅刻しちゃうじゃない!!」
「きみ!早くあの子下ろしておいてよ!じゃあね!!!」
いうなりバイクに乗ってどっかへ行ってしまった
とりあえず降りてもらうように言ってみた。
すると、荷台の扉が開き彼女がゆっくりと降りてきた。
「……」
「よっ、よぉ!」
「……」
「あー…庭の方の戸からはいるから、ついてきてくれ」
早足に庭へ歩く俺と黙ってただ着いてくる彼女と庭へ回りガラリと戸を開け彼女を家へ入れる。
「適当に座っといて、今飯持ってくるから」
「…ええ」
そんな具合で彼女は返事をした。
作ったものを次々と机に並べる、俺が作った料理を、彼女はじっと見つめていた。
「箸、使えるよな?」
「…」
首を縦に一回振る。どうやら使えるようだ。
「…これ」
コイツ、今しゃべったか?
聞き間違いかもしれない。
食うか。
と、自分も食べ始めた時に
「…これ!」
「!?」
「…」
「クリーム煮が、どうした?」
「…なんでもないわ」
「…?」
そう言いながら静かに飯を食べ始めた
飯を食わせたあとに色々聞いたが、何やら不機嫌そうだった。
彼女の名前はクイン・アルタイル。
人見知りが激しいのか、過去に何かあったのかでほぼ口を利かないのが今後難点になりそうだと、このときの俺は思っていた。
~12時~
「ふむ」
「…」
ジーっと、今朝手渡された物を見ていた
端的に簡単な絵本のようなものがおいてある。しかも手書きの。
それに【byスミス】と書いてある
「…つまり他種族の子を引き取ると手当が出ると
月50万…え、高くね?」
「…」
クインの顔を覗いてみたが、やはり何か不機嫌そうな顔をしている。
「なになに…他種族にかかる経費は全て国が負担する…おお、まじか」
「なあ、お前にとってこの家は狭いか?」
「…」
黙ったままだ。
「なあ、そう黙ってちゃさ、できる会話も出来ねぇよ…」
そう端的に言い放った。
「痛ぇ!?」
刹那体が宙を舞った。
頬に鋭く重い痛みが走った。
殴られたのだと理解した
そして俺の体が床に叩き付けられると同時にクインが馬乗りになり往復ビンタを始めた
「ぐっ…」
「っ!!っ!!!!」
なかなか止まない往復ビンタ
空いていた手ですぐそこまで迫っていた彼女の手を掴み怒鳴った。
「痛ぇよ!何すんだよいきなり!」
「あなたにあたしの何がわかるって言うのよ!!!!!」
「…は?」
「この体!気持ち悪いって思ってるくせに!!!皆そうだった!!!」
「そりゃ、どういう…」
「とぼけないで!!!」
「いや、とぼけた訳じゃ…」
「手当が目当てなんでしょ!!?他種族を養うための金目当てなんでしょ!!!金が欲しくて私をここに置いたんでしょ!!!?」
「気持ち悪がられて…!」
「白い目で見られて…!!」
「死ねばいいなんて言われて…!!!!」
「…」
あまりの事に言葉が出せなかった
「私がここにいるは!金が貰えるからってだけで!!誰も…私を受け入れてくれなかった…!」
「そんなこと」
「知った風なこと言わないで!!!」
「あなたも同じなんでしょ!!!?」
これが口を利いてくれなかった理由か。
「…違う」
「何がよ!!」
クインがこんな思いしてるなんて知らなかった。
「確かに、他種族を避難する人たちも多くいる。
自分達と同じではない姿形、それを否として悪と決めつけているんだろう、これが人の本性というものだろうけど」
「……」
「俺はそうは思わない。」
「…は?」
そんな簡単な理由で人を傷つけていいはずない。
「今まで、そんな辛いことがあったんなら、これから楽しくしていけばいいじゃないのさ」
「それは…」
「他種族だろうがなんだろうが、今こうして話してるじゃないか。なら、態々嫌う必要も無いだろうに」
「…」
「とにかく」
言いながらスミスさん宛にダイアルを押す
「俺と、お前は、今日から家族なんだから。そこんとこ忘れんなよ」
と、交互に指を指し家族という言葉を強調する。
「あ、もしもし。スミスさんですか?」
「どうしたの?少年くん」
「その呼び方、やめてもらえませんかねぶっ飛ばしますよ?」
「わ、悪かったわよ。それで?私に何か用があってかけてきたわけよね?まさか、あの子のこともう嫌になったの?」
「いや、別にそんな事じゃないけど、家族だし。
そういや手当が出るって書いてあったんだけど、あと必要経費は国が出すっていうやつ」
「あー、あれね」
「その金でさ、この家を大きくするのはできるのかなって一応ちゃんとした理由もあるんだけど…」
アラクネは普通の人間の身長よりは普通にでかい
勿論下半身は蜘蛛なわけだから横幅もとる。
俺1人で暮らしてきたこんな一軒家じゃまともに歩き回れないし窮屈だろう。
と、そんな事をスミスに話した
他種族間交流コーディネーターが国に要請すればすぐに許諾され工事が始まるそうで、建て替えが終わるまでに約2週間
早いのかどうかは知らないが
仮の住居を貸してくれるという
他種族対応型の住居だ。
引き取ったその日にリフォームを頼むのは珍しいらしく、手続きに1時間かかるという
とまぁ、工事関連の話を一通り終わった後によく分からない会社事情だのを散々聞かされ、受話器を下ろしたのは三時間後であった。
工事業者は既に到着し住居前で待機状態である。
頭を下げつつスミスへの愚痴を心で呟くのだった。
仮住居は意外にも近かった。
施設的な建造物群の中に入り、指定された部屋へ入る。
道中異様な光景が広がっていた。
他種族用であろうトイレや風呂がいくつもあった
部屋の扉もえらく広く部屋も同様に広すぎる。
これならクインも入れるだろうと感心しているところで肝心なことに気が付いた。
「クイン?」
クインがいない
「家へ戻ろう、ひょっとしたら近くにいるかも」
いうなり俺は建造物群を走り抜け
彼女の名を叫びながら走った。
「クイーン!どこだーッ!」
知ってる場所を回って彼女の名を叫ぶ
「ハァ、ハァ、どこだよ、くそ」
息を切らして座り込んでしまう
「ハァ、ハァ……クイン…」
辺りは既に日が沈み視界が悪くなっている。
「早く見つけないと……また大事なもの、無くしちまう…」
パンパンに張った足を引きずりながらなおも探し続ける。
家族がいない苦しみを自分は知っている
俺が幼い頃の話だ
両親は常に家を開けて仕事に出かける毎日だった。
仕事にしか興味が無い人間の様で、5歳までは育ててくれたが、あとは家に金を置いて仕事に出てしまうようになった
俺が中学生になる頃には夫婦仲も悪くなって、口論は耐えなかった
そして、最悪の事態を目にした中学二年生の冬。
母親と2人で外を歩いている時のことだった。
5歳以降、初めて俺と外に出てくれた母は何故か浮かない顔であったが、俺にとって嬉しいことには変わりなかった。
大通りの十字路に出たところで
それは起きた。
突如として乗用車が暴走し、俺を目掛けて突っ込んできた。
俺は怖くてその場から動けなくなった。
そして、死を覚悟して目を瞑った次の瞬間である。
後ろに飛ばされる筈の体が、左方向に飛ばされたのである。
驚いて衝撃の走った方を見ると
母親が必死な顔で、必死な声で
「あなたは生きなさい!どんなことがあっても!!!!」
そして、母親は乗用車と衝突し、バネの様に跳ね飛ばされて地面に叩き付けられたその一部始終を、俺は目をつぶることなく見ていた
当時の俺には、理解出来ないであろう涙を流しながら。
初めて目の当たりにした人の《 死 》を受け止めきれずに、
人格そのものを削り取りそのダメージを埋めていた
故に、当時の俺には感情というものがなかったらしい。
そんな辛い過去が頭を過ぎる。
まさか、またあんなことが起きているのか、とか
彼女のいた場所に帰ってしまったのか、とか
変な奴らに変なことをされていないか、とか
そんな色々なマイナスのことを走馬灯のようにグルッグルと回る。
不安で不安で仕方がなかった
たかが初日だけれど、それでも、一緒に飯を食った。
それだけでも何だかふわふわした気持ちになった
それが今、音を立てて崩れかけている状態にある。
「頼むから…ハァ…ハァ…出て…ハァ…こいよ……」
家族ができたと思ったのに
「家族が、出来たと…思ったのに……これじゃ…」
また無くしてしまう
「また……無くしちまうじゃねぇか……」
人気の少ない小高い丘の散歩道
ひざまついている。
「…何なんだよ。出会って一日も経ってないっていうのに」
「クイィィィィン!!!!!」
叫んでうずくまる
「……」
そしてしばらくその場で気を落ち着けていた。
見つからなかった
「……一旦帰ろう。あしたスミスさんに捜索願出してもらわないと」
と、気力のない声でそう言いながらフラフラと帰路につくのだった。
建造物群が見えてきた
なおもおぼつかない足取りで部屋の戸を開ける。
「!?」
…クインが座っていた
どうしようもなくただ座っていた
彼女の顔は、泣きはらしたかのような顔をしていた
自分の頬から涙がこぼれ落ちる
「クイ…ン……」
「……ごめんなさい、いなくなったりして…ごめんなさい」
彼女の声も震えていた。
「私の事、家族って言われて、信じられなくて…」
「隠れて見てた…どうするのか」
彼女の頬に雫が零れる。
「探してくれたっ…私っ…の事!…っ…探してくれた…っ!酷いことしたのに…っ!それでも探してくれたっ!!…私のこと…っ…!」
「もう言うな…」
そう言って抱きしめる
「俺はお前の事、気持ち悪いなんて思ってない。今こうやってる時点で、わかるだろ?お前には」
「うぅ…ひぐっ…うわぁあああ!!!」
「…よしよし」
彼女を抱きしめる腕に感じたのは小刻みに震える彼女の体温だった。
俺は今こうして家族というものを実感している
もう孤独感に苛まれることもないと、この時だけはそう思いたかった。
それからしばらく俺達は泣いた。
ひとりは今まで抱えていた重い傷が癒えていくのを感じ、もうひとりはやっと自分を理解してくれた喜びに涙を流す。
一時間が過ぎ、2人は肩を並べて座っていた
「なあ、クイン」
1人がもうひとりの名を呼び、そちらを向く。
「なに?」
「改めて、よろしく」
「…こちらこそ、よろしく」
「ハハハっ」
「な、なによ」
「初めて、本当の家族ができた気がする」
「そう。なら、良かったわ」
クインが俺の手に、自らの手を重ねてそう言い、俺もまたクインへ言った。
「ありがとう」
ACT2
ハルピュイアのいる日常
ふたりが打ち解けてから一週間と六日たち、いよいよ明日家が新く広くなっているだろう。
それはそうと、今現在男にとってはかなり厳しい現状に立たされている。
一つの布団にふたり入って寝ている
ベッドがないこともあって一つの布団で二人で寝ている
が、一つ大問題が発覚した。
「ん…んぅ」
「んんっーーーはぁ…あ?」
ムニムニとした感触が下ろした手のひらに伝わる
「んっ…ぁっ…」
「ッッ!!!!???!!!?」
ギュゥー
「あっ…はんっ…」
胸を思いっきり掴んでしまって心臓が破れそうなほど緊張している俺をよそ目に、艶やかな声を出して反応しているが当の本人は寝ている
俺は恥ずかしさのあまり部屋の外に逃げ出した。
「…」
(は…恥ずかしすぎる…ッ!)
(何てもん触ってんだ俺はッッ!!!)
そんなこんなで動揺しまくっているところを
「あら?何をしているのかしら、少年君」
「…!?」
一番見られたくない相手に見られてしまった
「スミス…さん」
「さては何かあったわね?ナニが元気いっぱいじゃない♡」
「!?」
瞬間的に大勢を変え見えないよう隠すが、
よりによって本当に見せたくないものを見られてしまってもう内心死にたくなった。
「……で、何でここにいるんすか」
「いやぁー、昨日また問題アリの子がうちの所に戻ってきちゃってさぁー、何なら神木くんのとこにポンと置いちゃおうと思ってねー、安心しなさい?今後に備えて更に更にでかくしておいたからっ!」
「……は?
聞けばその他種族の他にもホームステイ先と上手くいっていないあるいは暴力沙汰や人間不信などの子がいるそうで、順を追ってこちらの自宅へ送るという事だった。
「おい…」
「へ?」
「馬鹿かテメェはァァァァ!!!!」
という怒号と同時にスミスへと渾身の拳が放たれる。
スミスは綺麗な弧を描くように宙を舞い、地へと落ちる頃には他の他種族の人たちが部屋から出てこちらの様子を伺っていた。
一方、クインはというと
「んっ…ふぁ〜〜っ…あれ?紅戀がいない…?」
「トイレかしら? 着替えておかないと」
と言って服を着、髪をとかして部屋から出る
「あら…」
「あれ、クイン起きてたんだ?」
「ううん、今起きたところよ
起きたところで、どうしたの?その状況」
「いやぁー、アハハ、なんというか」
「なによ、勿体ぶらないで教えてよ」
「うん…なんか、家族が増えそうなんだ」
「あら、いい事じゃない で?どんな人なのよ」
「それがまだ聞いてないんだ。そこのバカがまだ教えてくれなくてさ」
と、廊下でのびているスミスを指さす。
「まぁ、今日の午後くらいにはできるのよね?家の方は」
「たぶんねー。それよりクイン、乗せてくんね?後ろ」
「へ? あ〜…別にいいわよ?ほら、乗るなら早く乗ってよ」
「おっ、いいねーんじゃ遠慮なくー」
ストンと座る。案外硬い蜘蛛の部分。しかし乗り心地は悪くない
「じゃあ家へレッツゴー」
「お、おぉーっ」
頭にハテナを浮かべつつノッてくるクインは少し楽しそうだった。
そして建造物群を抜け、紅戀が道を指し、クインがその方向へ歩く。
周りの目などは気にせずにただただ楽しい珍道中を行く。
面白きことは良きことなりとはよく言ったもので、ひとりでいた時に感じた面白さの上を行くものだった。
そして家へ着くと、あまりの変貌ぶりに二人揃って開いた口が塞がらなかった
「で、でけぇ……」
「大き過ぎない..?これ…」
しばらくその場に立ち尽くしていると、スマホに着信が来た。
もちろんスミスから
「もしもし」
「ひとつ言い忘れたわ、さっき話した他種族の子の事なんだけどね、ハーピーって種族の猛禽類に属す娘でね、結構気難しいところあるから気をつけてねぇー」
と、一方的に話され、返事をする間もなく通話は切れた。
「彼女、なんて言っていたの?」
「なんか、もう家の中にいるんだってさ〜 それでな、なんかすげぇ気難しいらしいから気をつけろって」
「ふぅ〜ん、縛っちゃおうかしらその子」
「やめれ」
「ケチ」
「ケチで結構こけこっこー、なんてね」
と言いつつ玄関の扉を開けると、
そこには1人のハーピーが仁王立ちしていた。
「おいお前!」
「へ?」
「誰の許可を得て私の家にいる!!」
「いや、ここもともと俺の家で、コイツのために家をでかくしてもらって、今日こっちに戻る日なんだ。お前はあれだろ?スミスさんの言ってたハーピーってやつだろ」
「なに!?あいつそんな事は……それよりお前、今ハーピーと言ったな」
「言ったけど、なんかまずかった?」
「私をそこらのバカ鳥と一緒にするな!!私は気高きハルピュイアだ!名をエリュイ・クライアス!お前も名を名乗れ!」
「へ?あ、ええと、神木紅戀。高校二年生の春で、こっちはアラクネのクイン・アルタイル。俺の家族だ」
自称ハルピュイアの彼女のご挨拶に
「よろしく~」
クインは上から目線な彼女の物言いにはものともせず、かるーい返事を返した。
「…私は認めんぞ」
「あ、そうそう、君もこの家に来たってことは、俺達の新しい家族ってことだね」
「なぜこの高貴な私がお前らと家族にならなければならないんだ」
「強情ねぇー、そんな子にはおイタしちゃうわよ」
刹那、物凄い勢いでエリュイを縛り上げてしまった。しかもなんかエロい構図で。
「な、何だ…これ…んっ…く、クソッ 締め付けてくる…」
艶っぽい声を出しながら必死に糸から脱しようとしているが、アラクネの出す糸は普通のロープ以上に柔軟且つ堅牢であり、これを脱するのにハーピーでは不可能であることは、当人が一番よくわかっているはずなのだが
「なんなんだこいつっ…このっ…あっ…んんっ……くそぉぉぉ!!!!」
「あらぁ?あなた意外と可愛い声が出るじゃないの♡ そんな声出されちゃ、もっといじめたくなっちゃうじゃない…」
と、クインの恐ろしさを今初めて知ったと思った。
「お、俺は先に部屋見てくるよ」
「私ももう少し楽しんだらそっちに行くわっ」
「クソォォォォ!!!貴様!!私を助けろ!!!あ、おい!逃げるなぁぁぁぁぁ!!!」
リビングに入ってみる
「ひ、広い…」
「と。トイレも…すごい広い」
なんというか。もう何から何まで広すぎる。
それに家具なんかも揃っていたりと何かと親切だった。
しかもTVが4Kという…
そしてリビングに戻ってしばらく呆然としていた所にクインが戻ってきた。
「何かと広くなってたわね、紅戀」
「広すぎて、何か落ち着かないけどね」
「なら私と一緒に寝ましょうよ
そうすればいい感じに狭さを感じられるでしょう? それとも、ここに挟まれたい、とか?」
と、自分の胸を指さしながら言う彼女を直視できずに視線をそらしてしまったが、
逸らした先の視界に入ってきたのは先程のハルピュイアの、おそらく絶頂後であろう荒い息遣いをしながら必死に落ち着かせようとしている姿だった。
恥ずかしさに耐えきれず体制を変えて真後ろに向き直った刹那
「ん… フフッ♪ビビったでしょ?」
振り向いた方で待ち構えていたクインが俺の頬にキスをしてきた。
その唇はとても柔らかい魅惑的な感覚を覚えるものだった。
そしてそのキスは、俺をパニック状態にするには十分すぎるものだった。
「ぬぁ!!にゃにをしへ!!?!!?!」
「あらぁ~、そんな反応されちゃったらもう可愛すぎて堪え切れなくなっちゃうじゃない…」
まずい。これは非常にまずい
逃げなければ
「あっ!!!見てよクイン!外!外!」
「…へ?」
と、自分から視線を外した瞬間を見逃さずに猛ダッシュでハルピュイアの後ろへ隠れ
「し、縛るならこいつにしろ!!!俺を縛っても面白くないぞぉ!!!!」
と、必死の抵抗をした
「もう縛られるのは嫌だぁぁぁぁぁあ!!!!!」
「んふふ…悪くないわね」
「覚えていろぉぉぉぉおおおおお!!!!神木ぃぃぃぃい!!!!!!!」
という、絶叫とともに彼女はクインの手中に引きずり込まれるのであった。
さながら喰らう者と喰らわれる者の図だった。
「なんという…」
そして始まる地獄絵図
「ダメぇぇぇぇぇぇっ!!///」
次第にクインを脅威に感じるようになりつつあるのであった。
そして俺は二階にある複数の部屋のうち、階段に最も近い部屋を自室とし、というかこの部屋以外全て女の子っぽかった。
狙ったのだろうか
「意外と広めだな。にしても、俺好みのベッドにロングソファ、テーブルまで……多分スミスさんが考慮したのだろうなあ。んでもなんで分かったんだろ、俺の好み 」
どうせあの人の事だから、色々とやったんだろう、色々と…。
それから俺は部屋のやたらでかいベッドへ身を投じた。
「なんか…疲れた」
と、嘆息しながら嘆き
「でも……何だかんだで楽しかったな」
体の力を抜き、目を綴じた。
暗闇に包まれる。
やがて俺は眠りについた
ACT3
アルラウネのいる日常
昨日はあの後クインを起こしてみんなで夕飯を食べた。
二人とも意外にも静かに飯を食べていることに驚きつつも箸を進める。
そしてテレビを一通り見る
「私はそろそろ床につく。貴様らはどうする」
「俺は深夜アニメ見たいから、まだ起きてるよ」
「じゃあ私もそうしようかしら」
「え、いや、、ちょっとエッチなシーンとかあるんだぞ?まあちゃんとオチはあるけどさ」
「ならいいじゃない」
と、微笑みながら返す
「決まったようだな。ではまた明日。おやすみ」
「「おやすみ〜」」
声を重ねて返答する。
「うむ。ではな」
と言い残して彼女は部屋をあとにする。
「これで紅戀にくっつけるわぁー」
腕に抱きつき頰擦りをしてくるクインはどことない幼さを感じさせた。
「…ったく」
クインの甘えに折れた俺はナデナデしろという空気を作っているクインの頭を、ぶっきらぼうに撫でた。
「あん、もう もっと優しく撫でてよ」
「はいはい」
ぶつくさ言うクインをテキトーに流しながら優しく撫でるようにする。
「出来るじゃない」
上機嫌になるクインを見て
(やっぱ子供っぽいとこあんだな)
と、ひとり思うのだった。
「ふぁぁ…じゃあまた明日ね〜、おやすみ、紅戀」
一通りの深夜アニメを見終え、クインは眠たそうにのそのそと自室へと戻っていった。
その夜は悪い夢を見た。
俺が高層ビルから飛び降りる夢だった
何故かは知らないが、落ちて行く最中に色々なものを見た。
俺とエリュイ、クインが何かと戦っているような光景だった。
そして俺達側に人影がいる
集中してその姿を明らかにしようとした刹那、体中に凄まじい衝撃が走ると同時に、目が覚めた。
「……あ……れ…夢……だっ…たのか……」
冷や汗でベッドも濡れていたので
乾かすことにした
「ああクソ。めんどくさい」
愚痴を吐きつつベランダにベッドの布団部分を立て掛ける
そして脱衣所へ行き衣服を洗濯籠へ投げ込み風呂場へ入る
「うへぇ、ベタベタする」
ぶつくさ言いつつシャワーを浴びる
「…にしても、今朝の夢は何か意味深だったな…… まさか正夢になるとかじゃないよな」
どうも胸騒ぎがする。
何か起こるかもしれない、そういう嫌な予感が頭の中をひっきりなしに飛び交う。
「もしそうだとしたら…」
考え込みながら脱衣所へ向かう
バスタオルを頭から被ったまま
服を手探りで探す
と、何かを掴んだが服ではなかった。
「…貴様」
「……は?」
「気様私の胸を触るとは。いい度胸ではないか。」
「あ、いやその、わざとじゃ」
「問答無用だ。」
蹴られた。それも相当な力で。
何故そもそも脱衣所にいたのか不思議ではあったが。今は痛みが酷い。
「あがっ…あああッ……!ぐ…」
刹那ものすごい勢いでクインが走ってきた
「どうしたの!?何されたのこの鳥に!」
「おい、蜘蛛女。貴様今なんといった。」
「何って、鳥だけど?」
「私は気高きハルピュイアだ!鳥などと私を愚弄するなら!ただでは済まさんぞ!!」
「あらぁ?そんな事言っていいのかしら?あなた私の糸に散々弄ばれてたクセしてよく言うわねぇこの小鳥さんは」
オーホホホホとかよくある高笑いをするかのように笑いかけて挑発しているクイン。
一方のエリュイは
「いいだろう貴様なんぞ糸を出される前になんとか蹴りをつけてしまえばいい!」
完全に挑発に乗っかっている。
「あー、おれしーらね」
気力のない声で一言言い残しリビングへと移る。
「はぁ...」
脱衣所から物凄い怒号やら衝撃音やらが鳴り響く。
さながらなにかのアクション映画ではないかと錯覚するほどの、なんというか、勢いだった。
「無駄に疲れるっていうか…」
「そろそろ支度しないと学校遅れちまう」
気だるそうに着替えを始めるが、
なにか視線を感じる。
「とっとと着替えていこう」
気にする暇などなく足早に着替えてクインたちに学校に行くことを伝える。
「俺学校行ってくるからさあ!お前らあんま喧嘩すんなよ!」
「丁度いい、ではこうしよう。
どちらが神木に奉仕できるか」
「いいじゃない望むところよ」
「では。おい神木」
「な、なんだよ」
「私が学校まで送り届けよう」
「…はぁ?」
「いいから表へいけ。」
送り届けるという言葉の意味がさっぱりわからなかったがとりあえず靴を履き表へ出る
クインも後を追う
出たかと思うと突然リュックに引っ張られ俺は宙を舞った
上を見るとエリュイが足で俺のリュックをつかんでいる。
「まてまてまてまてまて!!!!」
「何だうるさいな」
「これ俺死ぬパターン!!死ぬパターンだぞ!」
「落とさない限り死なんだろ。ほら行くぞ」
言い終えるや否や物凄い速さで飛行する。
目を回しそうになる速さに言葉も無く、ただ落ちまいと必死に恐怖と戦う。
「着いたぞ。ここだな?お前の学校は」
ものの数分で着いてしまった。
電車乗り換えだってあるし結構遠いはずなのに。
眼下では登校中の生徒が何事かとこちらを凝視している。
恐怖は薄れ、代わりに恥じらいが
生まれた。花を咲かすように、ポッ と。
「よし、降りるぞ」
「お、落とすなよ?!」
「落とすわけなかろうがこの馬鹿者」
「バカとはなんだバカとは!」
「馬鹿だから馬鹿と言っているのだろう!何が悪いかこの馬鹿者!」
「んだともう一回言ってみやがれこんちくしょう!!」
「ああ何度でも言ってやるさこの馬鹿者!!」
「はぁ!?てめぇこらふざけんなよ!!」
空中で起きている大喧嘩に、次第と観衆が集まる。
「まだその減らず口を閉じないかこの愚か者!!!」
「愚か者だァ!?お前そろそろキレるぞこの鳥頭!!!!」
「貴様遂に言ってはいけない禁句を言ったな!!!!!鳥頭などと!高貴なるハルピュイアであるこの私を愚弄してただで済むと思うなよ小童!!!」
「は?!何が小童だてめぇこそ小童だろうがこの鳥頭!!」
だんだんと口が悪くなっていくこの無駄な戦いは空中で果てしなく繰り広げられていく。
そしてこの無駄な争いが最頂点に達しようとした刹那。
「おい!!!!神木!!!お前学校の校庭で何やってんだ!!!降りてこい!!」
と、二人の声をかき消さんばかりの怒号が校庭に響き渡った。
「「!?」」
一瞬体が硬直した。
学年主任の三鷹伽椰子が職員室の窓に拡声器を持って仁王立ちしている。
彼女はハスキーボイスの持ち主だ。
故に普通の女教師の怒号とは訳が違う。
「お、降りよう」
「…うむ」
と、戦意喪失状態になった2人はこの後、職員室にて事情の説明及びキツい説教を受けることになった。
「…怖かった。」
「三鷹先生は校内一恐ろしい先生で知れ渡ってるからな」
「何か言ったか?神木紅戀」
「い、いえ!!!……って、先生、あんな所にあんなでかい花、いつ飾ったんですか?」
「いや?さっきまでは無かったはずだが…後でほかの先生に聞いてみる」
「あ、わざわざありがとうございます」
「おい貴様」
「あ?先生でしょ?」
「うぐ…せ、先生」
「なあに?」
「私は神木がここを終えるまでどこにいれば良いのか」
「あー、どうせうちのクラスだし
今日だけ神木は後ろに下がってもらって、席一つ追加して隣に座ってもらって一日過ごしてもらおうかしら」
「あの、先生 」
「なによ」
「みんな他種族を実際に見るのは初めてなんじゃ」
「そうだとしたら?」
「色々珍しい目で見られるかもだし、エリュイは少し気難しいところあるし、人を遠ざけるようなことも時々言うし、陰険にならないか心配で、その」
「あー、大丈夫でしょ、多分
そん時はあたしが何とかするから」
「だってさ、どうする?エリュイ」
「…わかった。そうしよう」
「…だそうです」
「よし、じゃあ今日はそうしよう」
かくして気高きハルピュイアの一日体験入学がスタートした。
校内ですれ違う生徒は紅戀の予想通りじーっと見ている。
「なあ、神木よ。」
「何だ?」
「さっきからジロジロ見られているのだが」
「さっき先生に言ったとおり、本物の他種族を見るのはお前が初めてなんだよ。だからあんま気を悪くしないでくれ」
「わかった」
俺はそう言い残してトイレへ向かうや否や クラスの女子が群れを成してエリュイへとなだれ込む。
「ねぇねぇあなたその翼本物!?触っていい?!」
「んなっ!?」
「わぁー見てこの足すごいよ!鳥だ!」
エリュイの事を何も知らない
女子たちはエリュイの触れてはいけない一線を越えまくっている。
しかもプッツン確定の「鳥」
という単語もひっきりなしに飛び交う
(この無礼者共めが…鉤爪で喉元掻っ斬ってやろうか……)
そして俺が戻る頃には
教室は大惨事になっていた。
「貴様らァァァァァ!!!!!!!高貴なるハルピュイアに対して鳥などと!!!
事切れる覚悟は出来ているのだろうな!!!羽根をちぎりおって!!!!」
机は鉤爪の深い痕が無数についていたり、エリュイの翼は何本か萎びていたり折れていたりしていた。
今現在のエリュイは激怒の域を超えて暴走に近いようなことになっている。
「と、止めないと偉いことに…
もう偉いことになってんだけど」
そして彼女の前へ飛び込み
「止めろエリュイ!!!」
と、叫んで静止しようとするが暴走に近いような状態の彼女を止めることは出来ず
「なんだ貴様は!!私の邪魔をするのか!!!この下衆共の所業を戒めてやるのだ!!!邪魔をするな!!!!!」
「クソッ!」
そして強引に止めに入ろうとした瞬間
「ぐっ…」
俺の視界には血飛沫が舞い、鈍い湿った音と同時に気が狂いそうになるような強烈な痛みが襲う
「やめ……ろ……」
一瞬噴水のように吹き出した血を体中に浴びながら倒れ、俺の意識は混沌の闇へと落ちていった。
「……っ!?私は…一体……か、神木…ぅ…そんな……」
私は自分の足を見て気を失いかけたが、なんとかとどまった
「私は…何を……」
「どうし……た…!?」
三鷹先生が教室に入ってくるが、さすがの光景に固まっていた。
「…ぁ…ぁぁ……」
唇が震える
声もまともな言葉にすらならず
「……神木…」
周囲が阿鼻叫喚としている中、私は意識不明になった神木を足でつかみ窓を突き破り高く飛躍する。
クインに知らせなければ。そして私は今度こそどこにも居場所がなくなると。覚悟しながら自宅へ
一直線に滑空する。
するといきなり私の足に蔓が巻き付き、勢いを失った体は地面へと落下する
が、想像したほどの鈍い痛みはなく
「何……これ…柔らかい」
「貴女、さっき一緒にいた子の事、殺そうとしたわよね」
「ちがっ…あ…わ、私は……そんなつもりじゃ……」
「あなた降りてくれる?この子の事治せないでしょ?」
「…!? いま、なんと…」
「だからぁ、治せないでしょ?って言ったのよぉ」
私は耳を疑った。
私が負わせたこの傷は内蔵まで見えるほど深い。
もう助けようのないものだったが、
彼女は確かに《治せないでしょ?》
と言った。
「……わかった」
「はぁーい、治療開始ぃ~」
刹那巨大なはなが彼女と神木を包み込む。
そして淡いピンク色の光を放つ
そしてそれを覆い込むようにして幾重に花びらが出現し包み込む。
「ヒーリングフラワー」
彼女の紡いだ一言の言葉を皮切りに
幾重にも覆いかぶさった5m以上もあろう花びらが美しく開花する。
「治療終了~、明日には意識回復するはずよぉ~」
「き、貴様は……何者だ?」
突然現れ見ず知らずな筈の神木を救った他種族へ質問を投げる。
「アタシはアルラウネのベルシルビア、ベルシルビア・ダージリン。アタシ、神木紅戀って人の家へホームステイする予定なのよ~」
「んなっ!?」
「なぁに?まさかこの子がその子なの?」
「ああ、いや、そうなんだが…私が原因で深い傷を負わせてしまって…」
「貴女ハルピュイアでしょ?なら、何となく察しはつくわよ貴方の成を見ればね」
「すまない……」
と、自責の念で押し潰されそうになりながらも何とか言葉を紡ぐが、言い訳のような言葉しか出なかった自分を更に責める。
自らのせいで大切な家族を傷つけてしまったという、とんでもなく大きな責任を、どのように取ればいいのかもわからない、そんな自分に腹が立つ。
「私は、もう家には帰れない。
神木が起きるまで付き添ってやれ。」
「あ、ちょっと貴方…」
エリュイは彼女の言葉を聞かずに空へと飛翔し、姿を眩ませた。
「ところで、紅戀ちゃん。起きてるんでしょう?」
「…バレてたか」
「貴方回復早いのねぇ、どうするのよ?あの子」
「一日二日は様子見る。その後はみんなで探す。もちろんスミスさんたちにも手伝ってもらってさ」
「そう。 じゃあ貴方を家に送らなくっちゃね」
そういうなり彼女は紅戀を背負い歩き出した。
「貴方中々面倒な子と暮らしてるのね、次どこ曲がるの?」
「家にももう1人いるよ。…そこ右ね」
「そもそも何で他種族であるアタシたちと暮らそうなんて思ったの?それなりの苦労だってあると思うけど」
「…家族が欲しくて、ね」
結構核心に近いことを訊ねてくる辺り、何か訳ありなのは察しているのだろうか?…いや、そんなわけない。そんな訳は無いと自己完結させつつ、素直に答えると、彼女は そう と言ったきりあまり話さなくなった。
そして進行方向を尋ねる言葉だけ耳に入るようになる。
冬休みの登校日に偉い騒ぎを起こしてしまった。おそらく退学だろうと内心覚悟を決めつつ、
淡く香る花の香りと 空に響く小鳥の囀りを聞きながら、紅戀は静かに目を閉じた。
揺れる体。
香る花。
鳥の囀り。
それを最後に記憶したのはつい一時間前どうやら寝てしまったようだ。
道の角で寝ていたらしい俺は
すぐ隣で静かに寝息を立てている
ベルシルビアを見つめた。
「寝てる時もなんか、こう、艶っぽいんだな…いかんいかん ここは…家のすぐ近くだな」
彼女の当てずっぽうで歩いていたのだろうが、家まで数十mのところで眠ってしまったらしい。
夕暮れ時、カラスが妖しく哭く。
俺はベルシルビアを背負って自宅へと戻った。
そしてやたらでかいソファーに寝かせ自らも隣で休む。
すると階段を下りてくる足音、
クインだ
「おかえりー…って!え!?何そのボロっボロな服!?えっ!?えっ!!?」
「シーーッ!寝てるから!!」
軽くヒステリックになりかけてる彼女を落ち着かせようと静かにソファから腰を浮かせ彼女の側まで行き小声で事情を説明する。
「え!?あのk」
「シィーーっ!起きちゃうから…!」
「ご、ごめんなさい あの鳥遂に紅戀に手を挙げちゃったの…?」
「ああ。なんかもう顔向けできないとか言って飛び去っていっちゃってさ」
エリュイが暴走したことや
重傷を負った自分を彼女が治癒してくれたことなどを伝える。
「そう…そうなのね、わかったわ」
「理解してくれた?」
「う、うん」
「さんきゅ、クイン」
「ひぁっ!?」
「あっ、すまん!つい」
撫でた瞬間クインが想像外の反応をした。
顔を赤くして体をビクつかせたクインを見て俺も顔が真っ赤になって手を引っ込める。
「…んーん、ちょっと驚いただけ。ごめんね?」
「ア、アァ〜!ダイジョブダイジョブ!何モ問題ナイヨ!」
「…フフッ 紅戀って可愛いところあるのね」
「かっ!可愛くなんか、ねぇよ…」
可愛いと言われ恥ずかしくなり反論しようとするが勢いがなくなる。
「な、なんか…体に力が…入らなく..」
「…ぅ~ん、はぁ~良く寝たわぁ~」
クインに支えてもらいながらなんとか姿勢を保っているが
そう長く持ちそうにない。
「なあ、ベルシルビア なんか体に力が入らないんだけど」
いいタイミングに起きてきたベルにそう尋ねる
「そりゃそうよ。あんなダメージ受けておいて。しばらく安静にしていなさいな?
私のヒーリングフラワーはまだ中級みたいな物だもの、ヒーリングさせてすぐに動けるようになるなんて上級とかにならなきゃ無理よ」
「そ、そうなんだ、わかったよ」
「部屋まで送ろうか?」
「ありがとクイン、それじゃ頼むよ」
「…よっと」
クインは軽く俺を抱き上げ階段を上る。
階段を登りながらクインはこんなことを訊ねた。
「エリュイの事、心配?」
「何さ突然」
「いいから、答えて頂戴」
「心配に決まってる」
「じゃあ私の事、好き?」
息が詰まりそうになる程に顔を近づけてそう訊ねてくるクインの顔は、今までにない妖艶な顔をしている上に甘い香りが漂って、一瞬目目が眩んだ。
いつも以上に俺に密着する力が強い。
「クイン…なにを…」
「…好きなの。あなたが、紅戀が好きなの」
「んなっ!?…ど、どうしたんだよ…お前らしくないこと言って…」
「…そう、ね。そうよね、あはは
何やってんだろ、私ってば…」
俺をベッドに横にしながら口にする言葉は、力無く途切れる。
「最近ね、時々、思うんだ…
やっぱり私って、嫌われてるんじゃないかって…。だから、だから!あなたの気を引きたくて…さっきみたいな事、しちゃって…」
「いやいや、嫌ってないよ?
大切な家族を嫌う理由なんてないでしょうが」
「……なら…なら!」
「んなっ!?」
「…私のコト、抱いてよ」
衣服をすべて脱ぎ捨て、顔を上気させ両手を胸の中心で固く握り締めながらこちらをジッと見つめている。
「いや、だ、抱くって言ってもだな!お、おおおれ心の準備がっっ!」
「わ、私が、リード…してあげるから」
そう言うなり俺のズボンを下げ
男の勲章を弄り出すクインの顔がさっきよりも赤く上気していることに気がつく。
「な、なぁ、はずかしいんなら、さ…や、止めた方が…」
「嫌よ、離さない。紅戀のは私のものなんだから」
半ばムキになったクインは勢いで紅戀の男の勲章を頬張る。
「っっ!!?!!?」
「お、お前正気か!?き、きたねぇぞそんなとこ!」
「きははふはい(汚くない)」
「らっへ、ふれんろらはら(だって、紅戀のだから)」
「ちょ!?」
彼女の技術は、初めてにしては恐ろしく上手かった。
何度も頭が真っ白になりそうになるのを堪えながら事の流れを受け入れる。
事の流れを受けいれるということは、即ちクインを受け入れるということである。
そして2人の体は一つに繋がれ
肌と肌が直で密着する。
彼女の体は、普段よりも華奢で、
それでいて艶かしい雰囲気を漂わせていた。
その豊満な胸も相まり、さらに自分の本能を掻き立てる。
次第に少年とアラクネは、互いの体を求め貪りあった。
肉と肉がぶつかり合う音。
艶かしい水音
激しくも妖艶な喘ぎ声
全てにおいて彼を興奮状態へと誘った。
「きらいな、訳っ…くぅ……ないっ、だろっ!」
彼は腰に意識を集中し彼女の奥へと自分のモノを押し付ける。
彼女はシーツを握って喘いでいる。
「私っ…あぁっ…家族なのよね…んっ…はぁっ…」
「当たり前だ!っく……エリュイだって、あのアルラウネだって……」
「んでも普通は、家族ではこんなことしないけど…んっ…」
次第に会話も減り、さらに2人は互いを求め合った。
それは随分短い事に感じられたが
事が終わったのは、夜10時半のことだった。
夕暮れ時に始まり夜中に終わる。
随分長かったが体感時間は決して長いものではなかった。
「気持ち良かったわよ、紅戀」
「俺も…すごかったよクイン。まさかあんな君がいたなんて思ってもみなかった」
そうクインに笑いかけた。
「…もうっ」
そして最後に深いキスをした。
「あの子達、随分ハッスルしてたわねぇ…私も混ざりたかったわぁ〜」
「あら、もうこんな時間…喉乾いたわぁ……やっぱ寝るぅ」
ベルシルビア・ダージリンは眠そうに腰を上げ牛乳を取ろうとしたが、やはり眠かったのでソファに身を投げそのまま眠りについた。
夜が明けた。
今日は生憎の雨模様であった。
ハルピュイアにとってはとてもコンディションが悪いだろう。
「…朝…か」
俺は体を起こし、服を着て部屋を出た。
クインはまだ深い眠りの中だったので気付かれずに台所へと向かったが、そこにはベルシルビアが突っ立っていた。
「あら、おはよぉ〜」
「お、おはよう」
「昨日はお盛んだったわねぇ、私も混ぜて欲しかったわぁ〜」
手を頬に当てうっとりした顔をしながらそんな重いジョークを撃ち込んできた。
「んなっ!?き、聞こえて!?」
「そりゃあもうお姉さんのあそこもぐっしょり濡れちゃったわぁ」
もじもじしながら話す彼女に対して何だかひっぱたきたくなるような感覚を覚えた。
「そんなことより、エリュイは、戻ってきてたか?」
「そんな事って、かなしいわぁ まだ戻ってないわよ〜 それより、ほら…ね~?濡れてたでしょぉー?」
恥じらう様子もなく恥部を晒しながら彼の問に答えるアルラウネ。
少なからず欲情してしまった自分が恥ずかしい。
「やっぱ今日探す。ベルは探せるか?」
「ぼちぼちって感じかしらぁ」
「そうか」
そう言い、手早くスミスに電話をかける。
3コール目で電話が繋がり、いつものだるそうな声が聞こえる。
「えー、多種族間交流コーディネーターのスミスでーす…」
「いつもそんな感じなんすか」
「ぅえ!?少年君、、じゃなかった神木くん!ど、どうしたのかなこんな朝っぱらに」
「エリュイが家出をしましてね、探すのを手伝って欲しいんですよ」
「あー、やっぱり。おーけ、お姉さんに任せなさい」
言い切った直後に通話は切れた
「とりあえず何か作らんと。腹減った」
「さんせぇーい、お姉さんも食べたいぞっ」
「おまえハムエッグでいいや」
「え…」
固まるベルを無視して台所へ行き料理を作る
しばらくするとクインが降りてきた。
「おはよぉー…ふぁぁ……」
「出来てるから食っておいて。俺はエリュイを探しに行く」
「え?あ、うんわかった」
言いながら口に卵焼きだのご飯だのを掻きこみながら尚もクインは話しを続けようとしたが、ベルの一言によって阻止された。
「あなた女の子のクセして男の子みたいな食べ方するのねぇ~」
「……」
「女の子なら静かに食べないと」
そして無言のまま食事を再開させる
「紅戀ちゃん、美味しかったわよぉ〜」
「ふぅ、美味しかった」
「ウイウイ、お粗末さまー」
十分後にはみんな家の外に出ていた。
無論エリュイ捜索の為だ。
「あ、スミスさん…と、そこのでかいのと」
「で、でかい…」
「一つ目と」
「ぅ…」
「ゾンビ?と」
「へへっ」
「露出狂か」
「んなっ!?あたしゃドッペルゲンガーだっての!!」
「でも全裸じゃん。髪で隠れてるけど全裸じゃん。」
「うぐ…」
「つか、スミスさん寝巻きっすか。」
寝巻き、しかもはだけかけている。
しかしサングラスは忘れず着用している。この中途半端に意識されたサングラスは何なのだろうか。
「いやぁ寝起きだったものでね、着替えるのもめんどくさいからこのままで来たってわけ」
「そすか、じゃあ行こうか皆」
腰に手を当てドヤ顔仁王立ちをするスミスに若干イラついたが、そんなことでいちいち突っ込んでいても、事は動かないだろうというくらいは理解しているつもりだ。
そして俺は華麗なるスルーを繰り出し、スミスの連れてきた子達とベルにクインを後ろに率いて車に搭乗し、分散地点まで走らせる。
そして分散地点へと着いた俺達は
各々バラバラに探し始める。
数時間もの間彼女の行方を捜索したが、何一つ手がかりを掴めずにいた。
「なあクイン、お前ビルの間とか移動できるの?スパイダーマンみたいに」
「スパイダーマン?何よそれ」
「人間が蜘蛛の遺伝子を手に入れて」
「私みたいになるの?」
「いいや、手首のここら辺から蜘蛛の糸をバシュバシュっと出して自由に飛び回れたり壁にへばりついてよじ登ったりできるアメリカのスーパーヒーローだよ」
「そんなの実在するの?私たちの間じゃ聞いたこともないけど」
「そりゃそうだよ、架空のヒーローだもの」
「あら、そうなの。で、ビルに登るのは多分出来ると思うけど
、どうするの?」
「クインって視力どれくらいあるの?」
「うーん、あなた達人間よりは…目の良い人なら100倍はあるとおもうわよ?」
まさか100倍とは流石アラクネ。目の数は伊達じゃないと言うことか。
「ならビルに登ってエリュイを探して欲しい」
「任されたわ」
「あとこれ、スミスさんから預った携帯電話な。なにか進展があれば連絡を。通話長に各々の電話番号が載ってるから」
「わかったわ、じゃあいってくるからあとは頼んだわよ〜」
「ふぅ。よし、やるか」
俺は俺で徒歩で探す。
「エリュイ…鳥といえば森川辺とかはどうだろうか……」
「パラパラ小雨も降ってるし、そんなに遠くには行ってないと思うわよ~?」
「雨宿りとか、してるかもだしな。お前なんか人探しに使えそうなスキル的なの無いのか?」
「そんな便利な能力なんてあるわけないじゃないの~」
(俺を治癒術だかで治した奴が言うことかよ…)
捜索すること2時間、スミスからの電話で家出騒動は終息した。
話によればエリュイは隣の県の端の方の森に飛んでいったが生憎の雨で飛べなくなり近くの倉庫に身を潜めていたという。
スミスの秘密道具“他種族発見機“を使い探したのだという。原理を教えてはもらえなかったが、発見機本体は俺に譲ってくれた。
彼女曰く、朝っぱらから出かけるのは辛いのだそうだ。
ともあれエリュイを家に引き戻しクインがお説教をしている。
「アンタねぇ、なんで逃げんのよ」
「……」
とまぁこんな具合にずっと口を開かずでクインの一生懸命なお説教も一方通行で終わってしまっている。
一方で、天候はどんどん悪化していく。
エリュイの心象はどんな具合だろうか、この大雨のような感じなのだろうか?
そんなことは俺にはわからない。
「なあ、別に、そんな頑なにならなくてもいいじゃん」
「……」
「とりあえず、しばらく自分の部屋に行って休んでろよ。疲れたろ?」
するとエリュイは軽く頷き二回へと消えていった。
「ったく、何なのよアイツ」
「まぁそう言うなよ」
「ねぇねぇ、あたしお腹減っちゃったわぁ〜、なにかつくってくれないかしらぁ」
「そこの棚にカップ麺とカップ焼きそばあるから好きなの食べな」
「冷たい……けど…濡れるッ..!」
ベルの頭は平常運転のようです。
その後、特に何もなく俺ら3人は就寝まで過ごした。
エリュイは部屋に篭りっぱなしでろくに状況も把握できない。
あいつの事だ、きっと自責の念は消えてはいないのだろう。
…しばらくはあいつに寄り添ってやらないと と、一人決断するのだった。
AM1時
今日くらいはエリュイと寝てやろうと思って、部屋の前まで来てみたのだけれど。
静寂と闇に包まれる廊下、若干の肌寒さ、その静寂に支配された空間の中でなら聞こえる。
エリュイの啜り泣く声
自分を責めている、そんな声と共に
「..あら、開いてる」
「っ…今の私に近づくな」
「無理」
「くるな…」
「やだね」
恥じているのか怒っているのかはしらないが。
「お前の泣き顔は好きじゃないぞ。いつもみたいにふんぞり返ってるほうがいい」
「…うるさい」
「うるさくていいから、ひとつ聞いてくれないかね」
「…なんだ」
「前にも言ったと思うけど、俺とクイン、お前にベルも大事な家族だから。
お前は俺の家族なんだよ。
俺はお前のこと嫌いじゃないし、憎んでもいない。むしろ好きなくらいさ」
「…嘘をつけ」
「ばーか、誰がつくかよ。折角珍しく俺がカッコつけてるってのに」
「そんな必要ないだろうが」
「お前がいつまでも雛鳥みたいにぴーぴー泣いてるからだろ?ん?ピヨちゃん」
「私は気高きハルピュイアだぞ。それを何がぴーぴーぴよちゃんだ。蹴るぞコノヤロウ」
「…っははは!」
「な、何だ急に…気持ち悪い」
「やっといつものお前に戻ったな」
泣き顔も晴れて良い見下した目に戻っている。
プライドの高くて、その反面脆くもあるいつもの彼女がいる。
「おかえり、エリュイ」
そうして抱きしめてやる。
やっぱり華奢だな。
ハーピーという種族は進化の過程で小型化しているから普通の人よりは小さい。
でもこいつはその中でも背の高い猛禽類
気高く気難しい、そういう種族。
でも、華奢な体躯なのは変わりない。
猛禽類は荒々しい翼を持っているというが、俺はそうは思わない、寧ろ綺麗だと思う。
「か、神木…お前…」
彼女の翼が優しく俺を包む。
「ありがとう…ただいま」
月明かりに照らし出された彼女の笑顔は、俺にはまぶしすぎるようにも思えた。
それ以降彼女があの日のような状態になることはなくなった。
大変喜ばしいことだ。
俺もこいつらも。
今になっては本物の家族以上の絆で結ばれているような気すらする。
俺の夢にまで見た家族、そのカタチが今ここに。俺の目の前に。
幸せは今。
俺の望んだ世界がここにある。
ACT4
the origin
あの一件以来、エリュイはいつも以上に俺を小馬鹿にするようになった。
ただ、もう一つ変化もあった。
「おーい、エリュイ飯できたぞー」
『私の部屋まで持ってこい!』
「...あいあい行きますよ行きゃあ良いんだろー」
「おら、持ってきたから戸あけろー」
戸が開きエリュイが出てくる
「不味そうだな」
「うっせ」
この言われようである
「…ありがと」
「おー」
とまあ感謝されるようにはなったんだよね。
「ところで神木」
「あいあい、何でしょう」
「この後、暇なら私と出かけないか」
ほう、何だろうか。空から落とされるビジョンがよぎりまくるんだが
「別にいいけど、ついでに買出ししないとだからな。それ付き合うならいいぞ」
「おお…!わかった、条件を飲もう」
「どうだ?空を舞う気分は」
「ああ、恐ろしくてちびっちまうぜ」
「むう」
「結構いい感じだよ」
「ふふ ありがとうな」
そんな他愛のない会話をしていたらいつの間にか景色が変わっていた。山景色の良いところだ。
「まったく。この前まではずいぶんと突っぱねまくってたくせに、今はなんだかんだくっついてくるようになったな」
「い、いうなっ///」
そう言ったあとエリュイは俺を山の山頂に下ろし一回りして彼女も降りてきた。
そして俺に体を投げこう言った。
「……言いにくいんだがな?……その…」
らしくもなく顔を紅潮させ、上目遣いでこちらを見ている。
「その…………きだ」
俺の胸の中に顔を埋めて何か言っている。
「なんだって?」
「だから……す、好き…だ」
「!」
「あの時、本当に救われたんだ。その時以来、何度もお前のことを考えていて、だな…お、おい!なにか言え!わたしばかりはずかしいだろう!ばか!」
ポコポコと胸を叩きまくるエリュイをぎゅっと抱きしめる
「んなっ?!」
「ありがとう、俺も好きだよ、エリュイ」
「〜〜!!///」
猛烈に恥ずかしかったのかは知らないが、凄まじい蹴りが飛んできた。
「なん……で…なんだ……」
そこでみっともなく気を失った。
「…あれ、ここ俺の部屋…?」
部屋は暗くなっていてよくわからないが間違いなく我が家の匂いがする。
俺はすぐに起き上がり、カーテンを開けた。
当然ながら辺りは暗くなっていた。
下からはかすかにテレビの音は聞こえるが、あの三人のやかましい声は聞こえない。
「どうしたんだろう、いつもと何か違う気が…」
俺は下の階へ降りてリビングに向かう。
そこにはバラエティー番組を眺めるベルシルビアがいた。
「あれ?ベルじゃないか、あいつらはどこいったんだ?」
「あぁ、紅戀ちゃん。目、覚めたんだぁ〜」
「ああ、まぁな」
やや疲れ気味にそう答え、彼女の横に座るのだが
「……」
彼女の様子がだいぶおかしい
いつものような痴女っぷりが嘘のように消えてはいるが、何故かそわそわしている。
「なぁベル?お前なんか変なもんでも食ったのか?」
「ん〜ん、違うわよぉ。ちょっと言いづらいんだけどねぇ?」
「えっとぉ…そのねぇ、発情期…みたいなのが、ね?」
言いながら俺を押し倒す。
いつもの花の香りはより一層濃く感じる様になっている上に、自然と俺の体も疼き始める。
「…お前これ……」
「大丈夫よぉ、あの子たちなら買い物に行ったからまだ帰ってこないわよぉ、だから、ちょっとでいいの…お願い、私のこの渇き……貴方のそれで、潤して…欲しいの」
その後、結局ベルの思い通りの事になってしまった。
純情な愛から来る事の始まりならばまだわかるが、ああいう形で行為に及ぶのはやはり嫌だ。
普段の痴女丸出しのあいつがいきなりこんなこと…。
やはり彼女の心が俺には読めそうにはなかった。
「しかし5連続とかちょうしのってんじゃねーよ…俺の体が持たねぇんだよ」
「お腹いっぱいよ、ほら見てここ…ぅふふ、ポッコリお腹になっちゃったわよ」
「あーもう黙れこの痴女!」
と言った次の瞬間
バタンと扉が開き
「ただいまぁー!」
帰ってきた彼女らは全裸の俺たちを見やり、
「コラァァア!!!!ベルゥゥ!!!!私の紅戀になんてことしてくれたのよ!!!」
ベルの両肩を鷲掴みにしてガクンガクンと乱暴に振り回しながら問いただしている。
「私の神木とこ、交尾するなど…… それはさておき…おい神木」
「は、はい…」
「不埒者が!!」
そうして蹴り抜かれた俺は鮮やかな曲線を描きながら宙を舞う。
後に目を覚ました俺はクイン、エリュイに猛烈に詰め寄られ二時間の説教をくらった。
翌日、目を覚ました俺はいつもの様に彼女らを起こしに行く。
皆朝は弱いのか駄々をこねるが、そこがまたなんとも可愛らしく愛らしい。
いつもならもう一時間寝かせるのだが、今日はそうも言っていられない
今日、また新たにうちに来る子がいる。
デュラハンだ。
デュラハンといえば西洋の怪物で、その容姿は美しい女騎士だが、彼女が左手で抱えているのはそう、彼女自身の生首だ
デュラハンは死期の近づいた者の前に現れるという。
そんなデュラハンをこの家の家族として迎え入れるのだ。
「おーいみんなー!片付け終わったんだろうなー!」
「も、もう少し!!!」
「おいクインそこは私がやっておくからそれをどかせと」
「まだ終わりそうにないわよぉ〜」
「こっちはまだ作ってるんだからそっちはまだ手伝えないぞ!?」
ちょうどエリュイがこの家に来た時にこのコンロ、ちょっと高性能なものに変えてもらって、数も増やしてもらったのが幸いしたのか、クインをうちに置く時に用意したご馳走を作る時間と比べるとだいぶ早くなったが、人数が増えてきた分扱う量も増えるわけだから実際ほんの少し早くなった程度でさほど変わらない。
「ああもう、こうなるんなら四時くらいに起きて作り始めておけばよかった…」
ブツクサと文句を言いながら鍋やらフライパンやらを忙しなくいじる。
ただ、つくずく思う。一人の頃と比べたら、今の暮らしは俺にとって至福なのだと。
「紅戀ちゃーん、墨須さんから電話よぉ〜?」
まさかもう来たというのか!?
まだ半分しか作ってないってのに!
「子機で取ってスピーカーにして俺の近くに置いておいて!」
「はぁ〜い、ここに置くわね〜」
「ああ、どうm」
「それから、おはようの キ・ス♡」
去り際に猛烈なディープをかまされた。
SAN値が急下降するのを感じながら手を動かす。
『あ〜もしもし?神木くん?』
「そうだけど、まさかもうついたとか言うんじゃ」
『いやぁーそれがねぇ、聞いてよ』
「なんすか」
『ちょっと道混んでてさ、一時間遅れそうなのよ』
「そうですか、それは良かった」
『よかったって、何が?』
「まだ料理が全部作り終わってないんすよ。だから良かったって」
『へぇ、料理…ねぇ…?』
「あげないっすよ?」
『うへぇキッツいわぁ〜…。じゃあまた家の近くになったらかけ直すから、よろしく〜』
と言って通話が終わった。
「よし、あとは焼き物だからすぐに終わるし、この鍋の火は、消してても大丈夫か。」
さっきから上の階でドタドタする音が絶えない。
「何やってんだろなあいつら」
「おーーい!終わったのかーー!」
「ちょっと紅戀手伝ってよぉー!!!」
「はぁ…」
嘆息しながらクインの部屋に行くと、あまりの衝撃に目を丸くする。
「お前……片付けって…言ったのに……なんでさっきより散らかってんだよ!!!」
「仕方ないじゃない!可愛い感じにしようと色々引っ張り出したり場所変えたりしてたらこうなっちゃったのよ!」
「余計なことすんなって!!早く戻して片付けとけよ!」
嘆く彼女を背に部屋を出てエリュイの部屋へ。
「エリュイ〜片付け終わったか〜?」
「あぁ。みろ、この整理整頓された私の部屋を」
「なんか、えらく殺風景だな」
「何?」
「いや、何でもない。ベルのとこも見てくるよ」
「またやる気か?」
「いややらないからそんな黒いオーラ出さないでくれないかな怖いから」
「まあいいだろう」
「エリュイは下に降りてていいよ」
「うむ。わかった」
そう言って二人で部屋を出て俺はベルの所に、エリュイはリビングに向かった。
「おいベルー。片付け終わ……お前何してんの」
「…んふふ、角オナしてましたぁ///」
「うん。片付け出来てるならその粘液綺麗に拭き取って換気して下に降りてこい。以上」
バッサリ切り捨てた俺にベルは食い下がろうとするが、俺は迷わず開けかけたドアをそっと閉めた。
料理もあらかた終わった
一息ついているところに電話がなった。
「もしもし」
『もしもーし神木クーンわたしだスミスだ』
「知ってますが」
『もう着くわよー』
「りょーかい」
電話を切ってみんなを招集、表へ出る。
「おー、みんな出てきたわね」
「あぁ、どうも」
「さ、出ておいで〜」
「...」
無言で出てきたデュラハンは首が繋がっていた。
「デュラハンって首くっついてたっけ」
すると彼女は首を横にふり
「...いいえ、着脱可能です」
と言いながらスポッと首を外して見せた。
「まあすごい」
「私の糸よりはすごくないね」
「セルフクンn」
「ベルそれより先言ったら顔殴るぞ」
「首が取れる以外に、なにか特技はあるのか?」
「エリュイ、首が取れるのは元々で特技じゃない」
「そ、そうか失礼した」
「いいえ、慣れていますので」
「あ、あはは まぁ、うちに入りなよ。墨須さんもご苦労さんした」
玄関を開けてみんなを中に入れて
外でこちらをのぞき込む墨須に一言
「お疲れ様でした」
そうしてぶつくさ言いながら墨須は仕事に戻り、俺は家へと戻る。
孤独に泣いた者、人間を嫌っていたいた者、クイン、エリュイ、ベル、それに俺も。
みんな家族が欲しかったんだって、そう思いながら今日を過ごす。
きっと明日も、そのまた明日も、たぶん、ずっと先も。
俺達は、家族なんだ。
〜Fin〜