「ねえねえキミ♪ これなーに?」
「! し、志希! それは俺の大切な物なんだ。返してくれ」
もしかしたら、人生で1番の窮地に立たされているかもしれない。
イベントが無事に終わり、楽屋で寛ぐ「LiPPS」のメンバー5人。帰りの車を用意し、ちょうど楽屋へ呼びに行った時、タイミング悪く業務用の携帯が鳴った。仕方無いのでその場に上着を置き、楽屋から離れて携帯に出たのである。
営業先からの何てことのない連絡だったので、手早く済ませ、急ぎ足で楽屋へ戻ると……。
メンバーの1人である一ノ瀬志希が、あの時間を止められる時計を手にしていたのだ。ここで場面は冒頭へ戻る訳だが。
ぶっちゃけ、これまで多くの性的な悪戯を、この時計を使って行ってきたが、志希が1枚も2枚も噛んでいるのではないかと疑わなかった訳ではない。
アイドルである以前に、化学の分野においてのギフテッドである志希、こんな訳の分からないトンデモ時計くらい作れてしまうかもしれない。
そう思っていたのだが、あれだけ多くのアイドルに手を出しておいて、志希が何のアクションも起こさない訳がない。そう考えると、志希がこの時計を作った訳ではないことが分かり一安心していたのだが……。
ここで時計を奪われて、色々なことを調べられでもすれば、間違いなく俺は社会的に抹殺されてしまうだろう。いくら能天気な彼女でも、同じ女性として許してくれるとは思えない。
何で時計から目を離したんだ俺。ましてや癖の強すぎるLiPPSの楽屋なんかに置きっぱなしなんて。しかし、今更悔やんだところで時すでに遅し。とにかく今は志希からどうにかして時計を取り返さないと。もしスイッチを押されてしまえば全てが終わってしまう。
「スンスン……何やらただならぬ匂いがするね~キミがそこまで必死になっていることに関係しているのかな?」
「志希、菊谷プロデューサー困ってるでしょ。早く返してあげなよ」
「そんなこと言っちゃって~美嘉ちゃんも気になってるくせに~」
「あ、アタシは別に……」
見兼ねて美嘉が(決してシャレではない。てかそんな余裕ない)志希を諭すも、志希の耳には届かず、むしろ美嘉を味方に(重ねて言うがシャレではない。そーいうのは楓さんの役だ)引き込もうとしている。
「志希、もう帰りの車も用意してるんだ。ふざけてないで早く返してくれ。他のみんなも帰る支度は出来てるかー?」
あくまで冷静に。取り乱せば、そこを確実に志希は突いてくる。そして間違いなく時計に興味を示し出す。
「にゅふふ、はぐらかそうとしたってそうはいかないよ。このスイッチみたいなところに秘密が隠されているんだね?」
「ま、待てっ! そのボタンは……!!」
「えいっ!」
――時間停止。
…………あ、あれ?
やられたと思い、堪らず俺は目を瞑ってしまった。次に目を開けた時、それは俺の人生が終わったことを告げる時、そう思っていた。
しかし、いつまで経っても何も起こらない。恐る恐る目を開けてみると……。
そこには左手を腰にあて、右手で時計を握り締め、ドヤ顔で
志希だけじゃない。呆れた顔でスマホを弄っている美嘉、呑気に大口を開けて団子を食べようとしているフレデリカ、荷物片手にお茶を飲もうとしている周子、興味が無さげに雑誌を読んでいる奏。
LiPPSのメンバー全員がその動きを止めていた。
理屈はよく分からないが、どうやら誰でもこの時計のボタンを押せば、時間を止められるということではないようだ。何故俺は止められるのかも分からないが、少なくとも志希は時間を止めることは出来ず、自分自身も止まってしまった。
「ハァ……慌てさせやがって……」
溜め息をつきつつ、志希から時計を取り返す。右手から時計を取り返した後も、志希はドヤ顔で止まったままだ。あれだけ俺を手玉に取り、翻弄していても、時間が止まってしまえば呆気ないものである。
しかし……ドヤ顔をしているのに、実際のところは何も出来ず、時計も取られていることを考えると、何処と無くシュールなマヌケさが出て面白いな。
せっかくだ、この前のライブイベントみたいに、全員に悪戯してみるとしよう。
まず、呆れた顔で止まっている美嘉の左手からスマホを奪い取る。そしてそのスマホをドヤ顔の志希の右手に持たせる。美嘉のスマホを持って何をドヤ顔してるんだろうな、こやつは。
次に、団子を食べようとして止まっているフレデリカの左手から団子を奪い取る。もぐもぐ……この団子美味いな。更に美嘉のシャツのボタンを外し、胸元をはだけさせ、そこからブラジャーを抜き取る。ついでにちょっと胸も揉んでおく。抜き取ったブラジャーをフレデリカの左手に持たせると、他人のブラジャーを食べようとしているトンデモ変態の完成だ。
今度は周子の左手から、お茶の入ったコップを奪い取る。さっき団子食ったから喉乾いちゃった。ゴクゴクとお茶を飲み干し、空になったコップに食べ終わった団子の串を入れ、再び周子の左手に戻しておいた。
最後は奏だ。奏に悪戯するのは2回目だが、今回もまたムッツリ全開、スカした顔で誤魔化すのだろうか。だとしたら、誤魔化しきれないくらいの悪戯をしないといけないな。
奏の手から雑誌を奪い取り、その雑誌は美嘉の右手に持たせておく。そしてドヤ顔の志希からデニムを脱がせ、ショーツも脱がせる。おぉ……ピンクの
流石に下半身丸出しは可哀想なので、志希にはデニムをちゃんと履かせておいた。ノーパンだけど。今こいつはノーパンでドヤ顔してるのか……シュールさとマヌケさが更に際立つな。
奏に対してはまだ悪戯を続けるぞお! 美嘉と同じくシャツのボタンを外しブラジャーを、スカートを捲り上げてショーツをそれぞれ脱がせる。これでノーブラノーパンで他人のショーツをまじまじと見ているド変態の完成だ。脱がせたブラとショーツは、周子の荷物にでも入れておくとしよう。
――時間よ、動け。
取り返した時計のボタンを押せば、再び時は刻み始める。
「あれ、何も起きない……ってえぇ~っ! な、何で時計がスマホに……!?」
「え、あれ? スマホは? てか何でアタシ雑誌持ってんの…………!?!?!? へ? え、え、な、何で……どうして……?」
「あむっ。……んんっ!? あれあれあれ!? お団子は!? しかもこれって……ブー! ラー! ジャー!! 何でぇー!? てか誰のぉー!?」
「あれ、いつの間に飲んじゃったんだろ。まあいっか、自分のお茶飲もっと…………え、ちょ、ちょっと! な、何で鞄の中に下着が……! しかもこれシューコのじゃないし……!」
「……っ!? ど、どうして雑誌が……? 一体誰のなのよこれ……っっっ!? こ、これ……前に事務所でもあった……どういうことなの……」
5人それぞれ見事な慌てふためきっぷり。癖の強すぎるメンバーも、こんな怪奇現象を目の当たりにすれば、フツーに慌てるしテンパるのは当たり前だが。
「き、キミ! 一体何をやったの!?」
「何のことだよ。というか、みんな何かアタフタしてるけどどうしたんだ」
「い、今はこっち見ちゃダメぇ~!!」
美嘉の渾身の一撃(持たせた雑誌の角、因みに割と分厚くて硬め)が眉間に直撃し、俺は見事なまでにひっくり返ってしまった。……痛い。
「とにかくプロデューサーさん! 今はこっち見ちゃダメ!」
「フレちゃんもさんせー!」
「分かった分かった! 出ていくから色んな物投げ付けてくるな! あちこち当たって痛いんだよ!」
「良いからキミは早く出ていく!」
「いてぇ! 蹴るな!」
クソッ……! 志希がスカートだったら、今の角度ならモロ見えだったのに……惜しい!
色々悪戯して楽しかったが、その分身体中に傷を作る羽目になってしまった。楽屋の外に出て傷の確認をすると、ところどころ一撃を貰った箇所が赤くなっていた。手加減無しかよあいつら……。
そんな暴力行為に及ぶメンバーには、みんなまとめてお仕置きしてやらないとな。
――時間よ、止まれ。
本番は次の話で。
お陰様で週間ランキングで1位になりました。ありがとうございます。
そして引き続き多くの感想、評価も本当にありがたいです。中にはアドバイスをしていただける方までいらっしゃって……文章能力、描画力ゼロの私にとっては感謝感激です。
……それらに100%お応え出来ないのは申し訳ない限りですが。
他作品、ストップからのリベンジもお読みいただけましたらこれ幸い(露骨な宣伝)。