キッカケは何だったのか、それは俺自身にも分からない。ただ気が付いたら、俺はそういう人間になったんだなあと漠然と考えていた。
別に優れたところがある訳でもない。むしろ人より劣っているところの方が多いだろう。でもそれで腐っていくこともなく、運命なのだから仕方ないと諦めていた。
実に可愛いげのない子供時代だったと思う。夢を見ることもせず、挑戦することもせず、努力することもせず、それこそ周りの空気と同化していたと言っても過言ではないかもしれない。
そんな無味乾燥な小中学校時代を終えて、無事に高校生としての新たな生活を送ることになった日、即ち入学式の日にそれは分かった。いつものように朝起きて、心踊らせることもなく高校までダラダラと歩いていた。基本的に、何事も興味が無いので、やや俯きながら歩くのが俺の歩行スタイル。だから気が付かなかった。
周りの人々が動いていないことに。
流石の俺でもこの時ばかりは驚いた。何年ぶりか忘れたけど、とにかく驚いたことは今でも覚えている。恐怖感や寂寥感には苛まれなかったが、どうしてこうなったのかという疑問は、ずっと頭の中を駆け巡っていた。
時間停止。アニメや漫画の中だけだと思っていたが、まさかそんな非日常な出来事が、自分に降りかかるとは思わなかった。その後、どうやって学校まで辿り着いたのかは忘れてしまったが、気が付けば辺りは喧騒に包まれ、クラス発表のことでワイワイ盛り上がっているところに、ポツンと佇んでいる自分がいた。
とりあえず整理すると、俺が頭の中で念じると時間は止まり、もう一度念じると時間が動き出す。時間が止まっていても、自由に動き回れるし、止まっている人や物も自由に動かせる。まあ、流石に機械とかは動かないみたいだけど。
何というか、非常に都合の良いように仕組まれているようだ。
とはいっても、こんな能力を手にしたところで、俺自身が何か変わる訳でもないので、精々自分の物欲を満たすくらいにしか考えなかった。窃盗? バレなきゃ犯罪にはなりませんよっと。
しかし、俺のクラスに編入生がやってきてから、その考えは地平線の彼方へと消え去ることとなる。
編入生の名前は真壁政宗。これまたアニメや漫画に出てきそうな完璧な奴で、イケメンであり頭脳明晰であり運動神経抜群でありと、天が二物どころか三物も与えてんじゃねえかという、俺とは住む世界が違う人間だ。
にもかかわらず、何故か俺はコイツとつるむことが多い。別に俺はつるみたかった訳ではないのだが、席が近かったり、トイレでバッタリ会ったり、俺が読んでる本に真壁が興味を持ったりとかで、いつの間にかそこそこ話すような間柄になってしまった。
そして真壁繋がりで、同じクラスの朱里や双葉とも話ようになっていった。今までの学生生活では考えられないくらい人付き合いをしているな、俺。
それはさておき、まだ俺が真壁達と殆ど話したことの無い時、帰り道の公園でたまたま見かけてしまう。
あの真壁が女子相手に手玉に取られているところを。
その女子には見覚えがあった。何故ならその女子といつも一緒にいるもう一人の女子は、校内で知らぬ人はいないというくらいの有名人だからだ。
「残虐姫」と称される彼女、安達垣愛姫。そしてそのパシリをさせられている小岩井吉乃。
そう、安達垣に手玉に取られているのならまだしも、小岩井に手玉に取られているというのが、その時は不思議で仕方なかった。
それから真壁達と話すようになってから、思い切って真壁に聞いてみた。お前と小岩井ってどういう関係なのか、と。あの時の真壁の顔は、この世の終わりでも迎えるかのような表情をしていたのを今でも覚えている。
何でも真壁と安達垣は、幼少期からの知り合いらしい。そして真壁は安達垣から何か酷いことを言われたのをキッカケに、自分自身を変えて、復讐しようと誓ったのだとか。その矢先、安達垣の使用人である(使用人というのはここで初めて知った)小岩井に真壁自身の過去も含めて色々バレてしまい、あの場面が出来上がったという訳だ。
正直、ここまで詳しく教えてくれるとは思わなかったが、とりあえずコイツのやろうとしていることは、第三者の立場から言わせてもらうとクズそのものだ。だが、今までの人生の中で、こんな刺激的なことは無かったので、クズといいつつ何処か面白がっている自分がいた。俺も大概のクズである。
それからだ。俺がこの能力を、他の方法に使おうと考え始めたのは。
特に変わったところはございません。