私の部屋がある建物は、名前こそ「マンション」とついているが、壁が薄いのか。隣室の様子がわかってしまうのが最大の難点だ。普通の生活音ならあまり気にしない私だが、まわりの環境が静かなので、夜更けになると人の声が聞こえることがある。もちろん会話ではなく、情事の真っ最中とすぐにわかる声である。
両隣の住人は、どちらも私よりも若い女性だ。付き合いはあまりないが、顔を合わせれば挨拶はする。二人とも学生で、どちらも一人暮らしだそうだ。左隣の学生は、医学部医学科の学生だと自己紹介したのをおぼえている。
彼女達の部屋には、頻繁に男友達が訪問しては泊まっていく。そのたびに部屋からは、はしたない叫び声が聞こえてくる。眠れない時は気になってしょうがないのだが、おそらく彼女達は自分たちの世界に浸っていて、隣の住人にその様子が丸わかりだということに気がつかないのだろう。二人とも清楚な顔立ちをしており、育ちがいいとわかるしゃべり方をするから、そのギャップに驚かずにいられない。
そういえば引っ越す前のアパートも、壁が薄かった気がする。今住んでいるマンションは若い女性が多いが、そのアパートは独居老人ばかりで、私と同年代の住人はいなかった。だからプライバシーというものはなきに等しく、彼氏を部屋に招くのを見られる度に周囲から冷やかされ、朝になったらなったで、顔を合わせるたびにニヤニヤされた。それでも、周囲には商店が多かったので暮らしやすかった。
私が今のマンションに引っ越したのは、老人たちとの付き合いがイヤになったからではない。独居老人が次々とあの世に召されて空室が目立ったことと、建物の老朽化がひどくなって取り壊されることになったからである。2階建てで部屋が8つあったと記憶しているが、最後に残ったのは私の他には老夫婦が一組だけだった。私が引っ越す前の晩、老夫婦が手料理を振る舞ってくれたが、引っ越してからはまったく連絡を取っていない。いまどうしているのだろうか?
「アアア・・ハア・・・ハア・・・イ・・・ダメ・・・」
「その表情ステキだよ、凛」
「バカ・・・ヤメテ・・・」
浩二はたっぷり時間をかけて乳首をなめ回すと、私の両腕を上に上げた。
「この色気が、たまらないんだよなあ・・・」
彼はそう言うと、私の腋に熱い吐息を吹きかけ、コチョコチョと複数の指で愛撫する。彼の指はさらに胴体側面を経由して、全身へと動いていく。
「ハァ────ッ!イ、イヤ────ッ!」私は目を瞑り、必死に頭を振る。
「燃えてきたようだね。顔が真っ赤だよ」フフフといいながら、浩二は私のカラダを、舌で愛撫していく。
「相当ストレスがたまっているようだね。声・・・大きくなってきた」
そう言われて、私はますます激しく頭を振る。
「バカァ────ッ!ヤ、ヤダ────ッ!」
「スゴく燃えてる」そういう浩二の手は、私の秘部をコチョコチョと弄ぶ。「君のアソコ、グショグショに濡れているよ」
「アア────ッ!ア────ッ!」
両隣の部屋から聞こえてくる情事の声を聞くたび、私は心の中で「なんとはしたない」と思っていた。だからアパートに住んでいた時は、情事の時はホテルか彼氏の部屋を使っていた。だがいまは、ワタシの声が両隣にまるまる聞こているのではないかと思うと、なんだか恥ずかしくなる。
私はわずかばかりの理性を保ち、必死に歯を食いしばる。すると左隣の部屋から
「イヤァ─────────────────────────────────ッ!!!!」
「アアァ─────────────────────────────────ッ!!!!!!」
という叫び声が聞こえてくる。その声は、どう見ても情事の最中でないと出てこない声だ。これには浩二も「おや、お隣さんも激しいね」とびっくりしたようだった。
確か、この部屋の住人は医学部の学生だったはず。名前は友藤さんと名乗っていたような。背の高さは私と同じくらいだけど、理知的な顔立ちで髪が長くて、最初に挨拶した時は医学部の学生らしく、この子は頭がよさそうというだという印象を持っていた。
そんな子が夜更けに、彼氏を自分の部屋に招いて、快楽の世界に耽っている。その光景を想像しただけで、私は体の芯から熱が湧いてきたようで、体中が赤くなるような感覚に襲われた。
気がつくと、浩二が私の耳元で
「もういいかい?」と聞いてくる。
「お隣さんに負けないくらい乱れてみろよ」
ハァ、ハァという喘ぎ声に混じって
「じゃあ、きてよ」と私も応じる。
浩二は硬くなった自分のものを私の中に突っ込むと、グイッ、グイッと前後に動かす。
「イイッ・・・イイ────────────────────────────ッ!!!」
「タクヤ──────────────ッ!!!モット──────────────ッ!!!」
「ア───────────────ッ!!!アア───────────────ッ!!!!」
私の耳元では、隣室の医大生の絶叫が止まらない。快楽まみれの世界に耽っているのだろう。自分の叫び声が筒抜けであろうとは、よもや思ってもいまい。
彼女の叫び声に、浩二も闘志が湧いてきたのだろう。必死に腰を動かしながら、オラオラ、と小声でつぶやいているのがわかる。彼にカラダの中をガンガンと激しく突かれ、私もいつの間にかあられもない大声を出していた。
「アアァ─────────────────────────────────ッ!!!!!!」
「ハァァ─────────────────────────────────ッ!!!!!!」
彼が私の中で動くたびに、はしたない叫び声が止まらなくなる。
「イヤ・・・イヤ・・・ヤメテ・・・」
彼の動きに合わせて、私は頭を左右に振った。
隣の部屋からバタン!という音が聞こえたのは、その最中だった。だがその様子は、浩二には聞こえなかったようだ。私も雰囲気をぶち壊したくないから、そのまま黙っていた。
「ウグッ!!ウグググッ!!」といううめき声、私の耳に入ってきたのはその直後だった。彼氏が何事か囁いたのだろう。一瞬だけ静かになった後
「ウァァァ────────────────────────────────ッ!!!!!」
というくぐもった叫び声が、薄い壁を通じて聞こえてきた。
可能性は二つ。彼女の声があまりに大きいので、彼氏が猿ぐつわをしたか。
あるいは、彼氏にお尻を高々と突き上げられよう頼まれて、その通りにしたところを後ろから思い切り突かれたか。
「カンジル────────────────────────────────ッ!!!!」
という絶叫の後
「タクヤ、オッキ──────────ッ!!!カッタ─────────────イッッ!!!」
と叫ぶ声が、私の耳に飛び込んできた。
アア、なんとはしたない声を出す子なのだろう。でも女医の卵とて、衣服を脱いだら生身のオンナだ。勉強に忙しいから、その反動で快楽の世界に浸りたくなるのだろう。そういえば、知性の高い女性は、SEXに貪欲だという話を聞いたことがある。彼女もそうに違いない。ううん、絶対そうだ。
彼女の声は、ますます高くなる。彼女の叫び声を聞いていたら、私も、彼女と同じ世界に行きたいと思うようになった。
「ねえ、今度は私が上よ」
私がそう言うと、浩二は「待ってました」とばかりに、私の中からイチモツを引き抜いた。私は逞しく雄々しくなったイチモツを掴むと、ゆっくりと腰を落とし、グイッグイッと押し込んだ。そして、ゆっくりと腰を動かしていく。
「アッ!アッ!ハッ!ハッ!」
私が思いきり腰を左右に激しく振ると、浩二の口から艶めかしい気遣いが出てくる。彼の息づかいにあわせて、私は腰を振る。
激しく動き回る私を、浩二が支えてくれる・・・イヤ、これは違う。支えているではなく、彼はしたから私の動きに合わせて、私の乳房を愛撫しているのだ。もうダメだイッちゃう、そう思った瞬間
「モウダメ────────────────────────────────ッ!!!!」
「イ、イ、イッチャウ────────────────────────────ッ!!!!」
と絶叫する友藤さんの声が、私の耳に飛び込んできたではないか。
それにつられて私も次の瞬間
「イ、イ、イッチャウ────────────────────────────ッ!!!!」
と叫び・・・そのまま、浩二の胸に倒れ込んで、意識を失ってしまったのだった。
翌朝。
「おはようございます」
私に挨拶したのは、友藤さんだった。
彼女は顔を赤らめながら
「あ、あの・・・夕べはお騒がせして、申し訳ありません。ご迷惑だったでしょうか?」
と、私に話しかけてきた。
それが昨晩のことを指していることは、すぐにわかった。
「わ、わ、私こそすいません・・・きこえていましたか」苦笑しながら、私は応じる。
「あの・・・」友藤さんの顔は、まだ赤いままだ。
「ひょっとして・・・いままでの私のあの声も・・・」
「いえいえ、お気にしなくても」
「彼氏なんです。私も彼も、今研修医をしています。彼は他の大学から医学部に編入して来たんです。一緒に勉強して、気がついたらいつの間にか付き合っていて・・・」
じゃあ、今まで部屋で一緒に過ごしていたのは、と私は尋ねた。
「ハイ。私、彼しか知りません。彼のことが好きで好きでしょうがないんです」
ひょ~、朝っぱらからのろけ話ですか。
「お互い、忙しいからなかなか会えなくて・・・。だから一緒に過ごせる夜は、メチャクチャ燃えちゃうんです・・・」
この子、結構大胆だな。でも彼女は、本気で今の彼氏のことが好きそうだ。
「あの、私これから仕事なんで、これで失礼します」
友藤さんは最後にこう言うとぺこりと頭を下げ、そのまま足早に私の前から去って行った。