※この作品はR-18です。

ご注文は私ですか?   作:右野向左衛門

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#33

私の名前は多田ゆい、銀河大学附属恋の星高校三年生の18歳。

家族は、両親が事故で早くに亡くなり、今は兄と祖父の三人で暮らしています。

実家は銀座屈指の名店と言われる喫茶店で、私はそこの看板娘と呼ばれてます。

今の高校を選んだ志望動機は、兄が通っていたこと、兄のクラスメートからの影響が多分にあります。

「お前の成績では、あの高校には受からないよ」と言われていたのですが、一生懸命がんばって勉強し、無事に今の高校に合格しました。

高校に入った私は、写真部に入りました。その動機は、兄とお店にやってくる人たちが、ほぼ全員高校の写真部員で、私も将来、彼らと写真について話し合いたいと思っていたからです。

そして彼らの中に、アタシが密かに思いを寄せている人がおりました。

私より2歳上の、山下研太郎先輩。

彼は兄を慕っていて、兄が彼を呼ぶと一目散にやってくるため、周囲の人間は彼を「山下犬」と呼んでいます。そして私は気がつくと、彼のことを「ケンちゃん」と呼んでいました。

私が写真部に入った時は、兄が写真部在籍中に大きな写真コンクールで入賞したこともあり、結構な数の部員がおりました。そしてその時の部長がケンちゃんでした。

ケンちゃんはとても人当たりがよく、教え方も丁寧で親切だったので、写真部員全員から慕われておりました。でも勉強は苦手だったようで、事あるごとに顧問の先生から

「このままだとお前の成績では、上の大学で入れる学部学科はないぞ。下手をすれば、本当にそこら辺のFラン大学しか入れないからな」

と脅されていました。

でも自慢じゃないですが、うちの学校は入試競争率がかなり高くて、偏差値も高いんですよ。入試問題もかなり独特で、市販されている「高校案内」の記事には「本校向けの対策が必要」という記述があるほどですから。

ケンちゃんは小学校からの「内部進学組」だったそうですが、中学の成績不振者は、高校には入れないのです。だからケンちゃんは「勉強しないから頭が悪い」だけであって「本気で勉強すればそれだけの成績はとれる」と思っていました。

そして実際、彼は高3になると必死で勉強し、無事に母体の大学に進学が決まったのでした。もっとも、志望していた学部はムリみたいでしたが。

彼は大学進学後も、文化会の写真部で、兄と一緒に活動しています。大学生になってから後は、一年生になった直後は高校の写真部にも顔を出していたのですが、私が部長になった頃には、大学の活動で忙しく、写真部の教室に足を運ぶことはめったにありませんでした。

お兄ちゃんとはよく顔を合わせていますが、私とはケンちゃんがお店に来た時にちょこっと話すくらいで、以前のように話し合うこともなかったんですね。

そんな私とケンちゃんの関係が変化したのは、とある夏の日のことでした……

 

「うっひゃ──────!!」

自宅への最寄り駅である地下鉄の出入り口に通じる階段を見た私は、目の前に飛び込んだ光景にしばし目を疑いました。

あたりを見回すと、大勢の人が困惑顔で駅構内にいました。

呆然と立ちすくんでいる人、スマホの携帯を見つめている人、グループでひそひそ顔を寄せ合って、なにごとか話し込んでいる人たち。

足下を見ると、駅構内の通路は水びだしではありませんか。

「ゲリラ豪雨だってよ」

「やだー、今朝はあんなに晴れていたのにー」

「いつ止むのかな~」

「JR線、止まっているらしいってさ」

「そんな~!帰れなくなっちゃうじゃん!」

駅構内にいる人たちは、先ほどからそんな会話をしています。

幸い、ワタシの家は駅から歩いて10分もかからない場所にあるとはいえ、今帰ったら全身濡れ鼠になってしまいます。ここは諦めて、おとなしく待っているよりありません。

私も、スマホの天気予報アプリの画面を確かめてみました。今降っている雨は、あと30分経ったらやむという予報が、画面に出ています。でも、最近の天気予報は大きく外れることが多いんですよね。だからこの予報は、あくまでも「目安」と捉えた方がよさそうです。

果たして雨は、30分経っても1時間経っても、降り止む気配はありません。構内にで雨宿りしている人たちも、だんだん殺気めいてきました。

帰宅しても、やることが沢山あるのですが、無事にたどり着いても、兄も祖父もおりません。兄はサークルで、祖父も商店街の慰安旅行とかで、2人とも明日の夜まで戻らないのです。店の仕込みは、ある程度は祖父がやってくれたとはいえ、残った分は私がやらなくてはなりません。この他にも、店と家の掃除、その他諸々の雑用がある。

今晩は、いったい何時にめどがつくのかな~と思いながら、私はため息をつきました。

何の気なしにふと視線を移動すると、濡れそぼったケンちゃんの姿が飛び込んできました。私は、一目散に彼のもとに駆け寄ります。

「ケンちゃん!」

私が呼びかけると、彼はびっくりしたようでしたが、すぐに笑顔を私に向けました。

「ゆいちゃん!今日は学校帰りなの?」

「うん。今日はたまっている生徒会の仕事でちょっとね」

私は、今年度の生徒会副会長を務めています。

「写真部の部長もやっているんだろ?さらにお店の仕事もあるし、勉強もある。疲れない?」

「ううん、慣れちゃったから平気」

「そうかそうか。ゆいちゃん、もともと頭もいいし、テキパキ物事をこなすからね」

ニコニコしながら、彼は私に話しかけます。

「ケンちゃん、今日はいったいどうしたの?」

「大学の同級生にちょっと付き合っていたらさぁ……こうなっちゃった」

ケンちゃんのカラダからは、まだ雫がこぼれ落ちています。

「早くしないと、風邪ひいちゃうよ」

「だよなあ。雨、やんでくれないかなあ」

それから、2人は近況報告の名目で、気楽なおしゃべりを続けました。

どのくらい時間が経ったのでしょうか。

「外、ちょっと見てみようか」

ケンちゃんの提案にのる形で、彼と一緒に外の様子を窺いました。

雨の勢いはようやく弱くなったとはいえ、それでも普段の「本降り」に近い降り方です。

私は、思い切ってケンちゃんに声をかけました。

「このままでは、風邪をひいちゃうよ」

「でも今帰ったら、君も濡れ鼠になるよ」

「大丈夫。私の店、駅から近いから。ダッシュで走れば5分くらいでつくと思う」

そうか、とケンちゃんは独りごちると、私に視線を向けて頷き

「それじゃ、君の家に行こうか」

といいました。そして、2人で一目散に、家に向かって駆け出しました。

 

そしてその5分後。

2人は、無事に私の家に着きました。

でもケンちゃんが懸念したとおり、私たちは濡れ鼠になってしまいました。

私は家の中に入ると、早足でバスルームに入り、お風呂を沸かします。

近くのタンスから、バスタオルを2枚だし、1枚をケンちゃんに差し出しました。

「はい、これで拭いて。今お風呂沸かしているから」

「ありがとう」

ケンちゃんはバスタオルを受け取ると、すぐに身体を拭き始めました。

私もべつの場所に移動し、素早く衣服を脱ぎ捨て、彼と同じことをしました。

「うわ、マズったなぁ……」

天気予報を信じ込んでいた私は、ブラの上にキャミソールを纏わず、そのまま制服のシャツを着て登校したのです。今日のブラジャーは、高校生にしてはちょっと大人っぽいかなと思うような色と形。雨で濡れそぼったからだから、ブラの形が丸見えだと思うと、ちょっと恥ずかしい。

素肌の上に白いTシャツに上下ジャージーという格好で、私は彼のためにコーヒーを淹れる準備をしていました。

そうしているうちに、バスルームから「ピーピー」という音が聞こえます。

「ケンちゃん、お風呂沸いたよ。暖まってきなよ。着替え準備しておくから」

「うんわかった。ありがとう」

彼は濡れた衣服を脱ぎ捨て、勢いよくバスルームに入っていきます。

数分後、中から彼の鼻歌が聞こえてきました。

この間私は、いつでもコーヒーが飲めるように準備を進めます。

「ああ、いいお湯だった。ゆいちゃんも入りなよ」

シャワーを浴び、新しい衣服に着替え、さっぱりした表情のケンちゃんが、私の目の前に立っていました。

「じゃあ、私はシャワーを浴びてくる。コーヒー、先に飲んでいいから」

「ありがとう。それじゃお言葉に甘えて、先にいだだくね」

彼がおいしそうにコーヒーを飲むのを確認すると、私はさっさとバスルームに入ったのでした。

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