#34
20XX年の、とある夏のある日。
都内でも高級といわれるホテルの、それも一晩100万はくだらないのだろうと見られる部屋に、いかにも育ちのいい雰囲気を漂わせ、しゃれた格好をした4人の女性が現れた。
彼女達は豪勢な料理としゃれたお酒、そして庶民が到底口にできない高級菓子に舌鼓をうちながら、自分たちの恋愛についてあけすけなトークを展開した。
以下、彼女達が語った赤裸々な恋愛模様をここに公開する……
「ウフフ、フフフ」
「殿下、さっきからおかしいですわよ」
自分の正面に座る女性の様子を見て、おそば付きの女官と思しき女性が声をかける。
「殿下、なにかあったのですか?」
次に口を開いたのは、メガネをかけた、すらりとしたモデル然とした趣を漂わせる女性だ。彼女は、「殿下」といわれる女性からみて、右隣に坐っている。
「そういえば、先日お兄様は、殿下と会うっていっていましたけど、いったいどこで何をしていたのですか?」
メガネをかけた女性に続いて口を開いたのは、「殿下」の左隣に座っている女性だ。彼女は、同じ部屋にいる女性よりやや若い印象だ。たぶん今日集まったメンバーの中では最年少だろう。
彼女達から「殿下」といわれた女性は、ハッとした表情を見せた後、
「うん、まあ、いろいろあったのよね~」
と、顔をいくぶんに赤らめながら、彼女達に質問の答えになっていない言葉を返した。
「殿下、あの方と何かありましたね?」
眉をひそめながら、女官と思しきが訪ねる。
「ウフフ……まぁねぇ~」
といいながらティーカップの取っ手をつまみ、紅茶を一口、ゆっくりと飲み干した。
「ああ、この紅茶はおいしい」
彼女はそう言うと、静かにティーカップをソーサーに置いた。
「アレク、あなたは相変わらず紅茶を入れるのが上手ですね」
「殿下」と呼ばれた女性はにっこり笑って、アレクに話しかける。しかしアレクは仏頂面で
「テレサ、あなた、さっきからおかしいわよ。ごまかさないで、誠実に返事をしてください」
と、突っかかるような口調でテレサに話しかける。だがテレサと呼ばれた殿下は、相変わらず口元に笑みを浮かべたままだ。
「まあまあアレクサンドラ様、そんな仏頂面でいわなくても」
と取りなしたのは、メガネをかけた女性である。そしてすぐさま、視線をテレサに向けた。
「テレサ・ドゥ・ラルセンブルク殿下、何かいいことがあったんですね」
と、弾んだ口調でテレサに声をかけると
「うん、おとといかな、彼がこの部屋にやってきたんだ~」
「お兄ちゃんが?」
びっくりした表情でテレサに声をかけたのは、テレサが今付き合っている彼氏の妹、多田ゆいである。
「そう。光良がこの部屋にきてね~」
テレサが、喜色満面の表情をゆいに向ける。
「お兄ちゃん、びっくりしたでしょうね~。こんな立派な部屋、今まで入ったことないでしょうから」
「あら、多田君はこういう部屋に何回も出入りしているわよ」ゆいの言葉に、素早くテレサがツッコんでくる。
「彼、私を追ってラルセンブルクにいった事があったでしょ?あの時、アタシはお城の中をいろいろと案内したんだ」
「ああそういえば、思い出しましたよ。殿下たちが突然帰国ししたのは、お兄ちゃんたちが高2の時でしたよね。その時はもう、みんなびっくりしたんですよ。その時のお兄ちゃんの落ち込みようは、妹の私でも見ていられませんでしたよ」
ゆいはそう言った後、小声で「いいな、お兄ちゃん」と呟いた。
「殿下、そうしたらお国には、これ以上に広くて立派できれいなお部屋が沢山ある、という認識でいいのですね」
「なにをもって立派できれいなお部屋とするのかはともかく……うんそうね、広い部屋が沢山あるのは確かね。でも、広い分だけ維持管理も大変なんですけどね」
「それで、あの……その時は、お兄ちゃんと一緒に……」
「ちょ、ちょっとゆいちゃん。アナタいったいなにが言いたいの?」
苦笑しながら、メガネをかけた女性が話しかける。
「まさかゆいちゃん、多田君と殿下がその時に、深い関係になったとも?」
「い、いえ、そんなことはいっていませんが、でも、ちょっと気になって」
その様子を見ていたテレサが、ウフフと笑いながらいった。
「ゆいちゃん、いくら何でも、私はそこまではふしだらではないでござるよ」
「そうですよゆい様、姫様はゆいさんが思うほどはしたない人ではありません」
アレクサンドラも、ゆいにそう声をかける。
「その時は、アタシと光良の間には、何も起こらなかったんですよ」
「ああそうですか。私はてっきり、あの時に殿下とお兄ちゃんがその……一緒になってしまったのかと……」
「確かに、私は光良に対する好意を意識しましたわ。でもその時は、お互いに告白ができませんでした。それに、あの時はシャルルに、きちんと自分の気持ちを伝えていませんでしたし」
「じゃあ、お兄ちゃんと正式に付き合いだしたのは……」
「ええ、私たちが高3になった年の春からですわ。あなたのお兄様とお付き合いしはじめたのは」
シャルルというのは、当時テレサ殿下の「婚約者」とされていた男性だ。親同士の決めた結婚だったので、当人たちはあまり気乗りしなかったという話を、ゆいは最近テレサから聞かされた。いろいろあったけど、結局2人は話し合って、この結婚はなかったということにし、テレサは光良との交際をスタートさせた。
「じゃあ、殿下はゆうべ、お兄ちゃんと情熱的な一時を……」
そこまで口にすると、ゆいは頬を赤らめた。
「まあ、ゆいちゃんたら……」
テレサはゆいの言葉を聞いて、顔が真っ赤になったが、一瞬の間をおいて
「ええ、そうですわ。私たち、夕べは私の寝室で、思う存分愛し合いましたの」
といった。
アレクは、テレサを窘めるような口調で「殿下」と口にしたが、テレサはそれを無視して言葉を継いだ。
「好き合っている男と女、思う存分愛し合うのは当然のことじゃないですか」
そしてテレサはコホン、と一つ咳払いをした。
「皆さま、勘違いなさっているようですが、私たち王族にとって、愛する人と愛を交わすのも、国家と王族にとって最重要のミッションなんですよ」
「その最重要なミッションを、ノリノリで楽しんでいるのは殿下なんですが」
半ば呆れ気味に、アレクが口を挟む。
「殿下、大胆なことをおっしゃいますね」
もじもじとした表情をしながら、メガネをかけた女性が口を開いた。
「あら、それだったら委員長やアレクの彼氏の方が、光良よりもずいぶんスケベじゃないですか?」
微笑を浮かべながら、テレサはアレクと「委員長」こと長谷川日向子に言葉をかける。
図星だったのか、アレクは「ウ……」と下を向いたまま答えない。日向子はすでに諦めているのか
「ええ、一ちゃんなんか、私を抱くたびに仰々しいセリフを口にするんですよ。ムードもへったくれもありゃしないの」
と、苦笑いを浮かべながらテレサに応じる。
「あー、薫もさ-、なにかっちゃうっさいんだよ。アタシとしてはさ、もっとまっとうに愛してもらいたいとおもっているんだけどね~」
ため息交じりに、アレクサンドラが話に割り込んでくる。
テレサはクスクスと笑いながら
「あ~、なんだか薫君だったらやりかねない。体中のあちこちをさわりながら、くっさいセリフをああだこうだと口にして、相手そっちのけで自分の世界に入り込んでいそう。それに本人は『女の子には、キモチよくなってもらいたい』と思っているから、余計イタく感じるのよね」
というと、日向子も
「ああ、一ちゃんも似たようなものよ。顔に出したらムードが台無しになるから、アタシは黙っているけどね」
「優しいのね、委員長」と、アレクは答える。
「そりゃそうよ、だってお互いに好き合っているんだもの。彼の気分を害する言動はしたくないの」
「そう。アタシはいつも文句を言っているよ。そのたびに薫は顔色を変えてああだこうだといってくるけどね」
「アレク、あなた変わったわね」
テレサがそうツッコむと
「そうですか」と、アレクは顔を真っ赤にして下を向く。
「以前のあなただったら、薫君がなにか口にしたら睨んだり、手を上げたりしていたでしょ?でもいまはそうでもなさそうね」
「だって、彼のことを好きなんだもん」アレクは、顔を赤らめながらもいった。
「彼、とっても優しいんだもん」
「『ベッドの中限定』じゃないわよね」
テレサが笑いながらツッコむと
「違うわよ!普段の時だって、ちゃんと優しいから!」と、アレクは言い返した。
「みなさん、なんだかんだいって仲いいんですね。それに、結構スケベなんで驚きました」
3人の女性の会話に、ゆいが割って入った。
そのとたん、三人は一斉に『しまった』という表情を見せた。
「ご、ごめんゆいちゃん……ゆいちゃんには、ちょっと刺激が強すぎたかな」
日向子が、冷や汗を浮かべながら弁解すると、アレクも
「ああ、すまない。未成年者には、ちょっとそぐわなかったかもな」と、苦笑交じりに言葉を続けた。
その様子を見たテレサは「クックッ」と笑い声をかみ殺しながら
「まぁまぁいいじゃない、2人とも。みんな誰もが経験するのだから」
と優しくなだめる。
「それで、さ」テレサは、ゆいに視線を向けた。
「ゆいちゃん、ケンちゃんとはうまくいっているの?この間あった時『付き合っています』っていっていたけど」
問いかけられたゆいは「ええ……その……」と言葉を曖昧に濁し、しばらく黙っていたが
「私……とうとう……大人の階段を上りました……」
といった。
彼女の発言を聞いたテレサ、アレク、日向子は一斉に色めき立った
「え、本当?」
「ヤツ、どんなだった?優しかった?」
「大人になった感想は?」
一瞬戸惑いの表情を見せたゆいだったが、一呼吸をおくと、自分の初めてのことを語り出したのだった。