「あー、気持ちいい」
シャワーからでるお湯を浴びながら、私は独りごちていました。
シャンプーとボディーシャンプーで汗を洗い流し、やや温めのお湯で満たしたバスタブの中に身を浸しながら、私は微睡んでいました。
少し立つと、私は今の状況を分析していました。
祖父は商店街の慰安旅行で、明日の夜まで帰ってこない。
兄も、サークルの用事で不在。
ということは、それまでこの家には、私とケンちゃんの二人っきり……
思わず、私の口からは「チャンスだ」という言葉が飛び出しました。
長年思っている人が家にいる、家人は明日の晩まで不在、そして……
今日の私は……安・全・日……。
つまり……
ひょっとするとこれは、私とケンちゃんは一つになれるかも知れない。
このチャンスを逃すと、もう次の機会は訪れないだろう。
そう思った私は、自分の気持ちを行動に繋げることにしました。
バスルームからでると、バスタオルで濡れた身体を拭きながら、頭の中で考えを巡らせたのでした。
「ケーンちゃん、コーヒーどうだった?」
私は努めて明るい調子で、彼に話しかけました。
「おいしかったよ。ごちそうさま」
彼も、にっこり笑って、私に応じます。
「ねえゆいちゃん、その格好、なんだか色っぽいね」
ケンちゃんは、不思議そうな表情を浮かべます。
それもそのはず、私は、赤色のキャミソール型のロングドレスという格好で、ケンちゃんの前に現れたのです。もちろん、下着は着けていません。
「ムフフ。どうもありがとう」
私は、なんだか照れくさくなりました。
こう見えても、私だって花のJK。いつまでも「子どもっぽい」と思われるのは、ちょっとシャクに障ります。
「ケンちゃん、コーヒーのおかわり、いる?」
「うん、それじゃもう一杯いただこうか」
「それでね、ケンちゃん……」
「ん?」
「二杯目は……私の部屋で飲まない?」
私は腹を括って、彼を私の部屋に誘いました。
一瞬、きょとんとした表情を浮かべたケンちゃんでしたが、即座に
「うん、いいよ。一度ゆいちゃんの部屋の中、見ていたかったんだよね」
と返してきました。
「それでさ、ゆいちゃんの部屋はどこ? 先輩の部屋の隣でいいのかな?」
私は彼の質問に、軽く頷きました。
「それじゃさ、私はコーヒーを持って行くから、先に私の部屋に行っていていいよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えまして」
といいながら、ケンちゃんは私の部屋に向かいました。
そして私は、2人分のコーヒーとホットチョコレートスプーンを用意して、彼の待つ私の部屋に入ったのでした。
「うわー、久々だなチョコスティック」
コーヒーに添えられたホットチョコレートスプーンを見たケンちゃん、思わず「チョコスティック」と叫んでいました。まあ、個人的にはどちらでもいいんですけど。
「先輩、これは『チョコスティック』ではなくて『ホットチョコレートスプーン』ですよ」
「ああそうだった、間違えた」
といいながら、ケンちゃんは頭をかきます。
「テレサ殿下のお土産?」
「うん。殿下もいろいろ忙しいらしくてさ、みんなに買ってあげたいと思っていても、なかなか時間が見つけられないらしいみたいでさ」
テレサ殿下も、ケンちゃんや兄と同じ大学でキャンパスライフを謳歌しています。
でもだんだんと公務が多くなり、往復の飛行機中でもレポートと格闘しているので、寝る時間がないと、先日こぼしていたのを思い出しました。
ホットチョコレートスプーンをコーヒーでゆっくりとかしながら、私たちはコーヒーを味わいます。
「ああ、おいしいなあ。テレサ殿下やアレクさんと一緒に、ホットチョコレートスプーンを飲みながらおしゃべりしたことを思い出したよ」
「そうそう、みんな楽しそうにおしゃべりしていたもんね~」
と、私も合いの手を入れます。
それから2人は、最近起こったことを話し合いました。
学校でのこと、将来のこと、大学について。サークル活動はどんな感じか、等々。
「先輩と殿下、うまくいってそうだね」
「ええ、そりゃもうラブラブで」
「先輩が?」
「お兄ちゃんもだけど、それ以上に殿下も、ね」
苦笑しながら答える私。
「薫先輩とアレクさん、一先輩と日向子先輩も、うまくいっているの?」
ホットチョコレートスプーンを舐めながら、ケンちゃんが質問してきたので
「みたいだよ~。お酒が入ると、それはそれはもう……」
コーヒーを口にしながら、私は答えました。
「はは~ん」
ニヤニヤしながら、ケンちゃんが私に顔をよせてきます。
「その内容は、ゆいちゃんには結構刺激が強すぎるようですな~」
と,ケンちゃんがニヤニヤしながらツッコんできます。私は思わず
「バカッ!!」
と叫び、ケンちゃんの脇腹に肘鉄を食らわせました。
「おおっ!!」
私の肘鉄が思っていた以上に強かったのか、ケンちゃんは私の方に倒れ込みました。
そして、ハプニングはその時に起こりました。
何とケンちゃんの掌が、もろにワタシの胸を……。
思いきり、というほどでもなかったのですが、彼の掌は、私の膨らみを掴んだのです。
「うわっ!うわわわっ!!」
彼はびっくりして手を引っ込めると、顔を赤らめながら下を向き、そのまま凍り付いてしまいました。
私もびっくりして、頭の中が混乱します。
こんなときは、どうしたらいいのでしょう?
視線をケンちゃんにむけると、彼はブルブルと震えています。
わざとではないとはいえ、いたいけな女子高生、それも後輩の妹の乳房を触ったという事実に、彼も内心ではパニックになっているのが、傍目にもわかります。
でも今の場面は、私以外の人間でも「偶発的な事故」とわかるのですから、そんなにおどおどしなくてもいいのに、と思うのですが。
私たちは無言のまま、そのまましばらくじっとしておりました。
「……ごめん、ゆいちゃん」
すまなそうなな表情を浮かべながら、ケンちゃんが私に言いました。
「ううん、気にすることないよ」
ゆっくりとかぶりを振りながら、私は返事をしました。
「ケンちゃん、そんな人じゃないということはわかっているから」
「本当?」
ケンちゃんの表情は、まだ曇ったままです。
「だから、私は気にしてないってば。元気出しなよ」
といいながら、私はケンちゃんの肩に手をかけました。
「ゆいちゃん」
「なあに」
私が返事をすると、彼はもじもじしながら
「ゆいちゃんのおっぱい……結構……柔らかかったな」
と、ぽつりと呟きました。
「……バカ……」
私は、ケンちゃんの脇腹を軽くつつきました。
またしばらくの間、気まずい沈黙が私の部屋を支配します。
重苦しい空気を打ち破ったのは、ケンちゃんでした。
「おれ、さ……ゆいちゃんのこと、好きなんだよ……」
私は、一瞬きょとんとしました。
「今、なんていったの?」
「だからさ」
ケンちゃんは視線を私に向けると、自分の手で、私の手をしっかりと掴むと、先ほどよりも力強い声で言いました。
「ゆいちゃんが好きだ」
私は思わず、彼の手を握り返しました。
「本当?」
というと、彼はクビを縦に振りました。
彼は腕を私の背中に回し、優しく抱きしめると、私の身体を自分の身体に引き寄せました。
「大事にするよ」
彼はそういうと、私の額に優しく口づけをしました。
どのくらい時間が経ったのでしょうか。彼は唇を私の額から離すと、ゆっくりと自分の指で、私の髪を梳いてくれました。
丁寧に、優しく、時間をかけてくれたおかげで、私の身体は、いつの間にか温かくなっていました。
「ありがとう」
私はそう呟くと、もういいからという意味をこめた視線を、彼に送りました。
そしてお礼の意味をこめて、私は彼のそばによると
「これが、私の今の気持ちだよ」
といいながら、彼の唇を奪ったのです。
ケンちゃんはびっくりしたらしく、目を見開いて私を見ました。
でも私の気持ちに気がついたのでしょう。手を私の肩にかけ、そして彼も私の唇に触れたのです。
そして再び唇を話した私は、思わず
「抱いて……いいよ」
と口にしたのでした。