「もうお昼ね……」
時計を見れば、12:36と数字が並んでいる。今日は珍しくお仕事があって――仕事と言っても、ホームオフィスでお客様とお話をするだけではあるけれど――お昼のことをすっかり忘れてしまう程に忙しかったので、手短に済ませたい。そういえば、近所に有名なお店があるらしい。ラーメンへの並々ならぬ情熱を持った店主が経営しているというので、繁盛しているのかも。そう思って、出前をお願いすることにした。
注文をすると十分くらいでインターホンが鳴り、玄関に向かうと、黒いTシャツに身を包み、タオルを頭に巻いた筋肉質な男性がラーメンを届けてくれた。
「ありがとうございます、わざわざごめんなさいね」
男性は首を横に振り、
「僕のラーメンを食べて貰えてうれしいです」
と笑みを見せた。私は彼の笑顔に下心があるように思えたのだけれど、殿方を疑っては失礼だと思って考えを改める。
「おいくらでした?」
ラーメンの代金を尋ねたけれど、彼はちょっとだけ慌てている様子。まだ不慣れなところが可愛いと思っていると、彼は代金は頂かない、と険しい表情で告げる。どういうことなの、と問えば、ラーメンを物陰に置いて這い寄ってきた。
「な、何……えっ?」
状況の整理が出来なくてただ彼を見つめると、強引に初々しい接吻をされた。鍵を掛けさせて、と訴える。我ながら弱々しい声だと思った。彼にどんなことをされてしまうの、それだけが気がかりで仕方がない。接吻があったので、性欲の処理だろうか。それとも、そう思わせておいて――接吻によって薬物が投与され――眠らされ、殺されてしまうのだろうか。もし後者なら、夫と娘が可哀想。前者なら、夫に面目が立たない。
「いくらでも払うから、何もしないでっ」
懇願するけれど、彼には聞こえなかった、あるいは無視をされてしまった。彼はおもむろに立ち上がったが、期待通りとはいかず、玄関の鍵を確認するのみ。少しでも離れないと、その一心で後退りをしたけれど、彼に捉えられてしまった。
彼は私の服の上から胸を揉みしだく。嬌声が漏れてしまうのは、彼の手が私を堪能するように動くから。しばらく揉まれるうちに身体が火照り、お腹のしたの辺りが切ないのを知覚した。
「ねぇ、貴方の、当たってるの」
硬い円柱が私の太ももに触れている。私に夫はいるけれど、しばらく一緒に寝てくれないから、制御が効かなくなってしまった。だから、彼とでもいいかなって、そう思った。
「欲しそうな顔をしてますね」
彼はねっとりと口を開き、私のロングスカートに手をかけた。その後はストッキングの上から筋を撫でられた。浅いところで気持ちよくなってしまう。奥の方がきゅんっと締まるから、焦らさないで、早くしてと願った。彼はまだですと言って自らの肉棒を露にした。一目見た瞬間に、立派だと思った。硬いのは分かっていたけれど、太くて長くて、でもそれだけじゃない。そそりたっていて、あんなもので乱暴にされたら堪らないと想像する。そしてそう考えてしまって、ひどく濡れてきた。
「お願い、もう待てないの」
「奥さん、何のためのお胸ですか」
私の胸で彼の男性器を満足させろだなんて、卑劣な人。私は気持ちよくなれないのに。でも、彼の望みを叶えれば私の望みも叶うだろうから、心を尽くそう。彼を寝かせて、上から跨がった。逞しいものを凝視して、胸で挟んで上下させる。本当なら潤滑液が必要だけれど、彼の先端から迸っている液体で十分だった。先端を舐めながら、吸い付きながら、包み込む。少し速度を変えて繰り返すと、彼は苦しそうに声を上げて、出る! と言う。周りを汚さないように口で受け止めた。噴水のように口に注がれた彼の精液はもはや飽和していて、飲み込んでも喉に張り付くような感覚がした。
「今度は私の中ので、ね?」
彼なら私の一番奥を満足させてくれる。彼に絡み付いて耳元で囁くと、彼は私を四つん這いにさせた。見えないところから、後ろから、犯されてしまう。夫との夜よりも心拍数が増えた。
「入れますよ」
やっと、待ち望んだものが。彼のものが私の内部をまさぐり、私の腰がビクンと跳ね上がった。
「あっ……ぁうっ……だ、だめっ」
彼が奥に達すると、彼は私の腰を力強く押さえつける。彼に主導権を渡したくはないのに、本能が彼に任せろという。性欲は人間の三大欲求というから、本能に任せてみよう。力を抜けば、彼と私が激しくぶつかり合う音が。ぶつかるのは肌だけということはなく、私の最奥で、子どもが育つところを彼の先端が穿つ。
「やっ……あぁぁあぁっ、すきっ……きもちいいっ」
カリが私を乱し、夫と繋がるより数倍も快感が得られる。許して、許して、許して、許して。夫との行為と比べてしまうと、どうしても夫の事が頭をよぎるから、夫にこの過ちを許して、と。絶対に許されない行為と知っていながら、それでも彼との交わりが気持ち良くて、切なさが込み上げる。
「待ってぇっ……んっ、んぁぁっ、や……ぁあっ」
私は何を待って欲しいの、もっと激しく、獣のように、狂うまでしたい。素直になれない自分を恥じると、快感は増幅した。
「奥さん、キツくなってますよ」
彼は相変わらず腰を振る。私の腰を押さえつける手の力は強くなっていた。
「いやっ言わないでっ」
そんなことを言われると、また締め付けが強くなる。
「あぁっいくっ……出る、出ます!」
「うん、来て、全部私のナカにっ」
彼と一緒に達したい。涙ぐむ目を閉じたその時、遂に絶頂した。身体の芯を撫でられ、核を捉えられた感覚を覚える。末端の感覚がなくなったわけではなく、彼の体液が私の子宮にたっぷり注がれるのも気持ちいい。征服されて悦んでいる淫乱な女、下品な女。自分を責めると、更に余韻に浸れる気がした。
「す、すみません、こんなことを……」
彼は土下座をしたけれど、その頭を上げさせて、
「その……気持ち、良かったですよ」
と伝えて、青ざめた彼を慰め、お店に帰した。
(気持ち良かったけれど、酷いことを……)
夫には二度と顔向け出来ない。一時の快感の為に、夫を裏切るなんて、人がしていいことじゃない。恐怖に押し潰されそうだから、いっそのこと寝てしまえ。メールで「今日は体調が悪いから、もう寝させてもらうね」と送り、ベッドに入った。嘘までついてしまう、悪い女。明日は夫に殺してもらおう。