室内を包み込む熱気は淫靡な香りを放ち、むせ返るほどに濃い空気が充満していた。その空気を、僕はしきりに吸った。喘いだ。肺の中いっぱいの空気に満たされても、心の中の渇望は満たされない。下腹部に感じる圧迫感も。背中に回された、力強く抱き留める腕も。求めていたもの全部がすぐそこにあるのに。僕の心は満たされていない。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。軋むベッドの上で、視線をそちらにやる。激しい交合の末に、疲れて寝てしまった妹の姿があった。吐き出された欲望にまみれ、安らかに眠っている。その姿は、いつも見ている彼女と変わらない。
「っく!?」
途端に、下腹部の圧迫感が強くなる。打ち付けられる腰の速さが増し、一気に快楽の高みへと引き上げられる。こすれる膣内の感覚。打ち付けられる腰に当たり、快楽を助長させる淫真珠の甘い疼き。そのまま、僕は達した。同時に、ひときわ激しく打ち付けられ、一番奥で欲望が吐き出される。
熱い。滾る欲望が吐き出される。求めていた物を受け取り、体が悦んでいる。もう何度目だろう。こうして、体を重ねるのは。
薄れゆく意識の中で思う。どうして、こんなことになってしまったのかと。
さざ波の音が耳朶を打つ。四月の海風は、まだ肌寒い。水面はゆったりと穏やかだ。そんな中、ばしゃばしゃと足を突っ込んで遊んでいる少女がひとり。長い髪は西日の光を浴びて、金色に輝き、スカートから伸び出る足は白く、陽の光を反射している。見た目でどこかの両家の令嬢にも見えなくはない。
簡潔な言葉で、僕らの関係性を示すなら姉妹だ。彼女の名前は白露型駆逐艦四番艦夕立。そして、僕は白露型駆逐艦二番艦時雨。僕たちは人間ではない。艦娘と呼ばれる戦闘兵器。
いつからか穏やかな海は姿を消し、かわりに深海棲艦と呼ばれる存在が跋扈するようになった。そして、僕ら艦娘もまた同じように。いつからかその姿を現すこととなった。海の平和を取り戻すため、艤装に身を包み、戦う乙女たち――ということらしいのだが、あいにく当の艦娘である僕自身には興味が無い。
そもそも、戦闘兵器といっても、艤装を装着しさえしなければ、戦闘能力を発揮することは出来ない。今の僕らは“限りなく人間に近しい”存在だ。だから、こんな話が夕立から出るのは、もっともなのかもしれない。
「最近、提督さんのことを考えると胸がどきどきするっぽい?」
ばしゃばしゃと、足を水面に突っ込んで水しぶきをまき散らす。夕立がそんなことを言うのは、想像もできなかった。
僕たちが属する鎮守府は、かなり後方の方にある。深海棲艦の出現も最近ではめっきりと減っていた。最後方の鎮守府であるがゆえに、ここは前線への補給物資の保管庫や補給艦隊の停泊地として機能していた。何度も出撃命令が下っていたが、そのほとんどは輸送船団の護衛や物資輸送任務ばかりだった。
「夕立。それはどんな風にだい?」
興味があったので、聞いてみる。金色に輝く髪を弄りながら、夕立は答えた。
「えっと……胸の奥がきゅーって締め付けられるっぽい?」
「それから?」
「後、提督さんに褒められたり、なでなでされたりするとうれしくなっちゃうっぽい!」
夕立の表情は、どこか楽しそうだった。この鎮守府が戦いに明け暮れていた頃、夕立の笑顔を何度も目にしていたけど、それよりもまぶしい笑顔だった。
その表情は、どこか嬉しそうで、恥じらいに満ちていて――乙女のそれに見える。
「夕立。きっと、それは恋さ」
「恋?」
くりっとした双眸をまんまるくして、夕立が聞く。頭の上にはてながいっぱい浮かんでいる。そんな姿が想像できて、少しおかしくなった。
「そう、君は提督に恋をしているんだよ」
「うん、夕立は提督さんが大好きっぽい!」
っぽいなどという曖昧な物言いだけど――それが夕立の口癖だった。
「じゃあ、付き合ってみるのはどうかな?」
「提督さんと?」
「もちろん、提督が断ったら、諦めなきゃだけど……」
僕の言葉に、夕立の表情が目に見えて曇る。
「それは……悲しいことっぽい」
「うん。でも、それが恋という物なんだよ。古い出会いが忘れられなければ、新しい出会いには巡り合えない。夕立は提督のことが好きかもしれないけど、それは司令官も一緒なんだ」
夕立が首をかしげる。ころころと表情を変え、素直に感情を表すところが犬っぽい。
「提督にも好きな人がいて、それは夕立じゃないかもしれない。でも、それは夕立も同じでしょ? 提督以外の男性に好きと言われて、はいと応えるかい?」
長い金髪をぶんぶんと振り回して、首を横に振る。本当に犬っぽい。
「だから夕立。断られても、それを恨んじゃいけない。提督の気持ちも大事だからね」
僕がそう、言葉を結ぶと。夕立は勢いよく立ち上がった。
「よくわからないけど、分かったっぽい! 今から、提督さんのところに行ってくる!!」
そのまま夕立は司令室のある建物の方へと走っていった。本当に分かっているのかな?
僕は少し不安になった。夕立が提督に迷惑をかけてしまうかもしれない。あの人はやさしいから。
でも、それと同時にもっと大きな不安があった。そんな提督だからこそ、夕立のことを受け入れてしまうんじゃないかと。
この数年間、僕らは提督と共にあった。この鎮守府で僕と夕立は古株だ。だからこそ、提督のことをずっとそばで見てきた。ここが最前線ではなくなり、人員整理で多くの艦娘が去ったけれども、僕らが――僕がここに残った理由も――いや、これ以上はいけない。
日はもう、沈みかけている。夕立の去っていった方向を見ながら、僕はため息をひとつ吐いた。きっと何も起こらない。
その日、夕立は部屋に戻ってこなかった。
あの日、夕立の背中を見送って以来、夕立の姿をあまり見かけなくなった。というのも、夕立が提督の秘書艦に任命されたからだ。それからというもの、夕部屋に戻ってくることが少なくなった。
後方の鎮守府といっても、その仕事が少ないわけではない。ここは物資の集積場や前線への輸送を担当する船団の泊地のような場所だ。とにかく書類仕事が多い。だからこそ、秘書艦に任命された艦娘は例外無く多忙となる。僕も何度か、指令室への泊まり込みを経験したことがあった。
でも――僕は見てしまった。
あの日、夜になっても戻らない夕立を心配して、指令室を訪ねた時。僕は見てしまった。
うす暗い廊下に漏れる光。司令室のドアは開いていた。
『っ!……ぁっ!?』
その隙間から聞こえてくる声は、夕立と提督のものだった。嫌な予感がした。僕は気配を消し、姿を隠しながら、そっと、ドアの隙間を覗き込む。
そこで繰り広げられていたのは、二匹の獣の交合だった。一匹は提督。もう一匹は夕立。後背位の状態から、提督が激しく突き上げた。尻の柔肉に提督の太い指が食い込み、獣じみたうめき声をあげていた。
床には、脱ぎ散らかされた衣服が散乱し、敷かれたカーペットは、汗とも愛液とも知れない液体で、大きな染みが広がっている。
「て、てぇとくさぁん……」
甘えたような、舌足らずの夕立の声が響く。それは男を誘惑する色を秘めていた。提督もそれに触発されたのか、尻を掴んで、いっそう激しく打ち付けた。
「ひゃん!!」
夕立の体が少しはねた。表情は分からない。でも、その声音から色欲に犯され、淫蕩の表情を浮かべていることは容易に想像がついた。提督はそのまま動かなくなった夕立の体を抱え上げ、乱暴に、叩きつけるように夕立の体を落としていく。
「あぅ……うぁぁ!」
気を失いかけていたのか、夕立が奇妙な声を上げた。提督の背中越しに見えた夕立の顔はやはり、蕩けるような表情だ。提督もまた、これまで見たことの無い表情をしている。何かに耐えるように、キッと歯を食いしばり、顔は赤く紅潮している。喘ぐように、苦しい呼吸をしていた。
互いの肉がぶつかり合う、激しい音が響き渡る。もう限界が近いのだろう。振り落とされそうになっているのか、夕立は必死に、提督の肩を掴んでいる。
「はぁ! はぁ……うぁ、ん……。てぇとくさんっ!!」
甘えるような、切なげな声が漏れ出る。終わりはやってきた。
司令官のうめき声と共に、動きが止まる。ああ、張り詰められた欲望が夕立の膣内に吐き出されている。互いに痺れたように痙攣して、そのまま長椅子に倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ……てぇとくさん……」
切なげな声を上げる夕立を、司令官は大きな手でやさしく撫でる。これ以上、見ていてはいけない。そう直感し、その場を離れた――それから、夕立とはあまり会話をしていない。
別に避けているわけじゃない。ただ、僕が避けているだけ。直接の原因を作ったのは、僕。夕立の中にあった感情を、僕が目覚めさせてしまったから。
「こんなことになるなんて……」
強い後悔の念で、心の中がいっぱいになった。提督は誰にでもやさしい。僕にも。時に、僕はそれを独占したくなる。提督の一番になりたい。でも、僕はそれをしなかった。正確には、僕の中の僕と言うべきか。
僕は周りを気にしすぎていた。一歩引いて、誰かのことを優先させていた。それでいいと思っていた。それで、夕立に好きだった男性を奪われてしまった。いや、違う。初めから奪われてなどいない。僕が自分で譲ったんだ。
「くぅ……」
涙はこぼれない。代わりに、下腹部に熱が宿る。あの司令室での一件を目撃して以来、僕は変だった。ふとした時、妙に胸が苦しくなる。動悸して、喉の奥がカラカラに乾いた。体の奥底で、何かを求めていた。それは提督のことを求めている証だということは理解していた。
でも、それはかなわないことだ。既に提督は夕立の物。僕なんかには振り向いてはくれない。
頭の中に浮かんだその事実が、より一層の熱をもたらす。熱い――鎮めなければ。幸い、夕立はまだ戻ってきていない。たぶん、今日も戻ってこないだろう。
また、提督と一緒に――そう考えるだけで下腹部の疼きがいっそう、強くなった。
ふたりの交合を見て以来、ずっとこれだ。下手すれば、毎晩、自分を慰めているかもしれない。いけないことだと分かっていても、この疼きは収まってはくれない。
手が伸びる。スカートの中。その一番敏感な場所に。ショーツはすでに湿っていて、指先でなぞると形がはっきりとわかるほどだ。ブラの下の乳首は固くなり、身じろぎをするとこすれて、甘い疼きをもたらす。
「っ……!」
布越しに、上下に擦る。分泌液はその量を増し、布を無用な物へと変えていく。ぐちょぐちょとした水音と共に、息が荒くなる。体の中から何かがせりあがってくるような感覚。空いている左手で胸を揉んだ。その頂点、敏感な部分は固くなり、その存在を主張するかのように、布越しにぷっくらと膨らんでいる。
もどかしい。セーラー服越しに揉んでいた胸を直接弄りたくなる。今すぐ、全裸になって、内からあふれ出る快楽そ貪りたい。声を噛み殺し、布越しに弄るだけでは我慢できない。
(もう、限界だ)
セーラー服の内側に手を伸ばす。そのまま、へその辺りか腹をなぞって、上へと進む。じらされるような感覚を演出してみても、その体は素直だ。手は素早く、飾り気のない下着の裏側へと伸びていく。
まだ、小さな膨らみ。その双丘の上で屹立した頂点。その周辺をなぞるように、指を這わせる。そして摘まみ、そのまま引っ張り、左右に揺らすように愛撫する。
同時に、秘所に伸ばしていた指も動きを速める。ぬれぼそったショーツは、既にその意味を果たしていない。くっきりと浮かび上がった形に、ぷっくらとした部分が指先に触れた。その部分を少し強めに、指の腹で押し込む。
「んんっ!!」
声にならないうめき。ふっと匂う淫臭。それが自分の物であると自覚して、恥ずかしくなった。でも、動きは止められない。上下の敏感な部分を同時に、こねくり回し、そのまま高みへといざなう。
しかし、その瞬間、無遠慮に部屋のドアが開いた。
「っ!?」
開いたドアから入ってきたのは――夕立だった。
「時雨。まだ起きてるっぽい?」
間の抜けた、少し舌足らずの声。久しぶりに聞いた気がする。
「う、うん……何か用かな?」
「自分の部屋に戻ってくるのに、用なんてないっぽい!」
ふと、部屋の時計を見た。時間は既に、消灯時間を過ぎている。現に、夕立が入ってきたドアの外は真っ暗だ。暗闇の中に立つ夕立の表情はまるで見えない。しかし、夕立はそのまま僕のベッドへと歩み寄ってくる。
「夕立。提督さんとお話があるっぽい。時雨も一緒に来てほしいの」
「えっ……? でも、消灯時間は過ぎているし――」
「提督さんの命令だから、大丈夫っぽい?」
そういわれ、強引に手を取って。立ち上がらされる。微かに漂う淫臭と湧き上がる熱に、自分が今まで何をしていたのかを思い当たり、少し恥ずかしくなる。
だが、そんなことなどお構いなしに、夕立は僕を部屋から引っ張り出した。
その強引さは、いつもの夕立らしくなかった。手の力も、僕のことを逃がすまいとしているように強い。
僕らの寝泊まりしている宿舎から、指令室のある建物まで行くには、一度、外に出なければならない。春の夜は少し肌寒いが、先ほどまでの行為で火照った体にはちょうどいい。当然、辺りには人の気配もないし、明かりも全くない。
暗闇に鳴れた目に入り込んでくるのは、赤煉瓦造りの建物だ。その一角の窓から明かりが漏れている。司令室だ。夕立は、そのままドアを開け、建物の中に入っていく。まだ、手は放してくれない。
「夕立? 提督の話って何かな」
少しだけ恐怖を感じて、問うてみる。暗い廊下に少しの明かりが指していた。
ドアが少し開いていて、指令室から光が漏れている。この前と同じ状況だ。夕立は、何も答えないまま、ドアノブに手をかけ、ドアを開いた。
「さぁ、どうぞ」
通された部屋はいつもと変わらない。この前の痕跡などはどこにも見たらない。提督はいつもの執務机ではなく、長椅子に座っていた。事後にふたりで倒れ込んだ、あの長椅子に。
室内に妙な気配が漂っている。まるで、獲物を待つ獣の檻に入れられたような。そんな気分だ。
ガチャ――背後で、カギの閉まる音がした。
逃げられない。そう思った。だが、どうせ、夕立と司令官の情事を覗いたことがバレただけだ。何の心配もいらない。僕はいつも通りにしていればいい。笑顔で「おめでとう、お幸せに」そう言ってあげれば、何の問題も無く、この部屋から出られるはず。
「この前のこと、夕立は知ってるっぽい!」
「それは何のことだい?」
「提督さんとシテる時。時雨が覗いてこと。夕立は気づかなかったけど、提督さんは気づいてたっぽい!」
まるで、名探偵の会心の推理と言わんばかりに、びしっと人差し指を向ける。後でちゃんと怒らないといけない。それはよくないことだと。
「別に、誰にも言わないよ。僕はふたりのことを祝福するさ。大事な妹と大切な上司だもの。だから――」
「夕立は、時雨も一緒がいいなぁ」
僕の言葉にかぶせて、夕立がそんなことを言う。
一緒が良い? それはどういうことだろう。
「提督さんは、とっても上手。夕立はいつも、疲れて眠っちゃうけど――時雨と一緒だったら、提督さんに勝てるかも」
いつの間にか、提督のそばに歩みよっていた夕立。いつも通りの、屈託のない笑顔でそんなことを言う。
「夕立、それはどういう――」
紡いだ言葉は途中で途切れた。
夕立が提督の肩を掴み、そのまま目線を下ろしていく。ふたりの顔が近づき、そして、唇が触れ合う。最初はついばむような軽いキス。それがだんだんと情熱的になっていく。互いの唾液をすする激しい水音。舌を絡めあい、互いのすべてを吸いつくそうとするような激しいキス。
突然の出来事に、僕は面食らってしまった。ただ、内心でオロオロとして。それが表に出ないように必死に隠して。それでも、そんなふたりの姿から視線を離すことが出来ないでいた。
キスが終わると、夕立の白い頬に少しばかりの朱が灯る。表情も蕩け、目の焦点も定まっていない。
「時雨にも見せてあげる。提督さんのすごさを……」
そういうと、夕立は服を脱いでいく。あっという間に下着も脱ぎ捨て、生まれたままの姿へと早変わり。その素早さに、提督も少しばかり苦笑をした。
夕立の裸は、何度も見たことがある。一応、姉妹だし、同じ艦隊で出撃することもよくあった。入渠のときも、楽しそうにしている夕立の姿はよく覚えている。でも、その時の裸と今の裸では、まるで別物のように感じる。
夕立は元々、スタイルがいい方だ。胸も――僕よりは大きい。手足もすらりと伸びて、肉付きのバランスも良い。僕の方は、所謂、幼児体型という奴だ。そんな夕立が軽やかな足取りで提督の下へ向かう。
「提督さんのを、気持ちよくしてあげる」
そういって、提督の前に跪く。そのまま、ズボンの前立てをまさぐり、ファスナーを下ろしていく。すると、既に半起ち状態の陰茎が飛び出してきた。赤黒い先端に血管が浮き出ている。雁の部分はやや大きいように感じた。
知識としては知っていたし、情報として見ることもあった。でも、その実物の存在感は並大抵のものではなかった。それに――知識として、知っていたそれよりも提督のそれは大きいように感じる。
「えへへ……」
飛び出してきた陰茎を見て、ほほ笑む夕立。いとおしそうに頬ずりをして、亀頭にキスする。
「時雨もこっちに来て」
夕立がそういう。言われるがまま、彼女の隣に腰を下ろした。間近で見たそれの第一印象は“怖い”だった。僕らに見られて、興奮でもしたのか、先ほどよりも太くなり、天を突かんとばかりにそそり立っている。赤黒い先端は、さらに充血し。雁首の太さが増す。こんなモノが本当に夕立の体に納まるのか。そんな心配すらしてきた。
そして、離れていると分からなかったが、むせ返るような匂いがする。
汗の臭いとその他が混じりあった臭いは、かぐわしいとは言えない。でも、その匂いを嗅ぐと自分の体の奥が刺激された。下腹部に甘い疼きが走り、ショーツの染みが広がるような感覚を覚える。
「うふっ……時雨も発情してるっぽい?」
発情。その言葉が意味することは何のだろう。
僕らは艦娘。いわば兵器だ。それが人間と交わるというのは、いったいどういうことなのだろう。ふと、機械性愛という単語を思い出す。機械に対して、欲情を抱く性的嗜好のことだ。提督も、そうした嗜好の持ち主なのだろうか?
もっとも、僕らは人間と変わりはない。自らが発情して、雄のそれを受け入れることだってできる。でも、倫理的な問題は拭い去れないだろう。
それでも――僕は、提督のこれを、自分の内に入れたがっている。そう体の奥底がうずいていた。
「まずは、夕立から……」
そういって、亀頭にキスをする。赤い舌を伸ばし、丹念に竿を舐めていく。加えた竿を離すと、粘度の高い唾液が糸を引き、蛍光灯の光に照らされて、キラキラと輝いた。そして、そのまま、もう一度、大きく咥え込む。
歯磨きでもするように、歯で亀頭と雁首を刺激し、前後に頭を揺する。いつもは無表情な提督が、苦しそうに顔を歪めていた。
(気持ちいのかな……)
夕立は空いた手で玉袋を弄ぶ。その表情は既に蕩けている。同性の僕から見ても淫らだ。弄ばれるままの提督は、ふぅーと強く息を吐き、夕立の手練手管に耐えていた。
やがて周囲に漂う匂いは、一気に淫靡な物へと変化していく。時を刻む時計の音と時折漏れる、夕立の吐息。竿をしゃぶる水音。提督の切なげな吐息――それらすべてが僕の脳を侵していく。体の奥が甘く疼き、それが波紋のように全身へと広がっていく。
「はぁ、はぁ……ふぅ……くっ……」
息が早くなる。全身が熱を帯びたように熱くなり、心臓が早鐘を打つように脈打つ。頬が紅潮し、脳が焼けるほど熱くなるのがわかる。そして、他の一部分だけが、異常に熱を帯びている。
手がするすると伸びていく。スカートのその下。快楽の源泉へ。ぐっしょりと濡れた下着に指がふれ、微かな水音を立てる。触るだけでは満足できない。役割を果たさなくなった下着をずらし、そのまま、秘所へと指を伸ばしていく。膣内はしっとりと濡れていて、やけに熱い。
人差し指で、かき回すようにすると、次から次へと蜜があふれ出す。その蜜は太腿を伝い、その下のカーペットに染みをつけていく。ふたりの痴態を肴にしようと視線をやると、既に次の段階へと移っていた。提督は余計なズボンを脱ぎ捨てていた。先ほどまで跪いていた夕立も、いつの間にかに提督にまたがっていた。
次に何が起こるかは容易に想像がつく。
「はぁ……」
夕立の切なげなため息とともに、腰が下ろされる。その行方はまっすぐに伸びた司令官の怒張。夕立の秘所は、それをゆっくりと受け入れていく。
「うぅ……あっ!?」
苦しげにうめく。圧迫感に耐えかねた物なのか、それとも、もたらされる快楽に耐えかねた物なのか。判別はつかない。それでも、夕立はけなげに腰を振り、司令官のそれを愛撫する。肉付きの薄い胸が、その動きに合わせて、上下する。白い肌は朱に染まり、整えられた表情には淫蕩の色が透けて見える。熱い秘所をまさぐる指が、その動きを速める。知られざる妹の一面に、僕は興奮していた。
提督の逸物を咥え込み、それでも貪欲に快楽を貪ろうとする妹の姿は美しくも見える。卑猥な舞を演じるように。腰をくねらせ、肩に手を回し、全身を使って愛撫する。その姿を、僕は自分に重ねた。
提督の腰の上で舞う自分の姿。恥も外聞も関係なく、ただ、自分の内の欲望に任せて、快楽を求めるその姿を。それを想像すると、頭の中が真っ白になり、体の奥から熱くなるような感覚が生まれる。胸が締め付けられる。
体と体がぶつかり合う音。結合部から漏れ出る水音。激しく交わされるキスの音――卑猥な音が重なり合い、奏でる多重奏は僕の脳をさらに犯していく。
「あっ……はぁ、くっ……」
自然と声が漏れる。艶っぽい、男を誘うような声。こんな声が自分の口から洩れるとは想像もしていなかった。快楽が加速していく。蜜の粘度が濃くなり、その量が増した気がした。指を飲み込んだ膣はうねり、それを食いちぎらんとばかりに締め付けてくる。
「はぁ!! ……ぅぅぁ」
加速した快楽が出口を求めて殺到する。脳天を焼くような白い光を幻視した。全身がわななき、手足の力がすっと抜ける。今まで経験してきた自慰では得られないような快楽が、全身を貫いた。
たぶん、今の僕は、誰にも見せられないほどだらしない顔をしているだろう。達したという感覚が全身を支配し、体が思うように動かない。口からあふれた唾液は、制服の胸元を汚していた。
「ぁ……」
ふと、ふたりに視線をやる。どうやら、ふたりも達したらしい。夕立は蕩けるような表情で、荒い息を吐いて、床に転がっている。全身に玉のような汗をかいていた。倒れた夕立の秘所からは、吐き出された白い欲望があふれ出していた。
あれだけの量を注がれたら、絶対に孕む――そんなことを考えていると、提督が僕の手を取った。そのまま、乱暴に床に引き倒される。使い古されたカーペットの感触が頬に痛い。今の僕は、いわゆる四つん這いの状態だった。
「て、提督……?」
初めての絶頂を経験した体はうまく動いてくれない。振りほどこうにも、提督の力が強すぎた。後ろに手を取られ、がっしりと固められてしまう。そのまま、提督は僕にのしかかり、耳元でこうささやいた。
――欲しいか――
荒い吐息と低い声が耳朶をくすぐる。僕は何も答えなかった。それを肯定と受け取ったのか、
乱暴な手つきで、僕の下着をはぎ取った。スカートがたくし上げられ、外気が火照った肌を撫でる。僕からは何も見えないが、提督からは恥ずかしいところが丸見えのはずだ。
荒い息遣いだけが聞こえてくる。何をしてくれるのか。何をされてしまうのか。そんな期待と恐怖の入り混じった感覚が僕の体を高ぶらせる。どうしようもないほどの渇望が、また、秘所を潤わせる。
「っ……!」
武骨な指が秘所を撫でる。固く閉じていた二枚貝は自慰によってほぐれ、既に花開いている。その花弁を丁寧になぞっていく。一番の敏感な場所には手を付けず、その周りだけを弄っていた。僕の反応を楽しんでいるのだろう。
くちゅ――指の次は生暖かい、ざらざらとした感触。それが提督の舌だということは、すぐに気づけなかった。
「いや、きたなっ! あっ、あぁぁ……」
太腿に舌を這わせ、そのまま上っていくと、股の付け根にキスをする。空いた手は尻の柔肉をほぐし、陰唇を這う舌は別の生き物のように、花弁のひとつひとつを丁寧に舐める。
もどかしい。そう感じる。提督と夕立の行為を見せられ、既に僕の体は開き切っている。一思いに突き込まれてしまえば、どれだけ楽だろうか。
(ひょっとして、これはお仕置きなのかな……?)
そんな考えが、頭の中に生まれる。夕立との行為を見てしまったことへの。もしくは、それを自分の想いを隠していたことへの――そんなわけがない。
じらす様な愛撫は永遠に続くかと思われたが、それも終わりを告げた。愛撫が終わり、提督が僕の腰を掴む。秘所には何かが押し付けられる感触があった。その正体に気づいたのは――
「あっ……!」
一気にねじ込まれてからだった。
柔肉を押しのけて、入り込むような感覚に喉の奥から声が出る。体の内側から何かを押し出そうとするような感覚。でも、それは決して嫌な感覚ではなかった。むしろ、求めていた物が空虚な場所をぴったりと埋めてくれるような――そんな感覚が僕の中を支配していた。
「て、提督……気持ちいいかい?」
僕の言葉に提督は何も答えない。答えの代わりとばかりに、膣内に突きいれた。肉棒が膣壁を抉る感覚。擦れた部分が甘い快楽を呼び、体の奥を刺激する。痛みは無い。快楽と充足感で、すべて吹き飛んでしまったのか。それとも、僕の体はそういう風に“出来上がって”いたのか。その判別はもうつかない。
一突きごとに、頭の中で火花が散った。白い閃光に視界が霞む。視界に張り込んだ夕立の姿は先ほどと変わらない。ただ、その表情は妖艶で、まるで、僕の痴態を楽しむかのような微笑をたたえている。
途端に、羞恥心が全身を支配した。見られている。それも妹に。犬のような交合で興奮し、一突きごとに淫らな表情へと変わっていく様を。締まりのない口元からは舌を出し、唾液を床に垂らしている――そんな姿を、見られている。
嫌だ、嫌だ――。
しかし、体の中に湧き上がる快楽は止まらない。それに気づいた瞬間。声が出た。男を誘う嬌声が。“僕”などと言ってみても、結局、“僕”は女だった。男に組み敷かれ、多少乱暴であっても、想い人との交合に痴態を晒している――そんな女だった。
叩きつけられる腰の勢いが増す。抜き差しされる肉棒の高度は増し、それを受け入れる秘所の蜜は白く濃い物へと変化していった。淫らな水音だけが、やたらと頭に響く。もう、夕立の視線も気にならない。頭の中を支配しているのは暴力的な快楽だけだ。
「っ……んっ! はぁ……」
うまく呼吸が出来ない。酸欠状態の頭は快楽に酔っている。全身の感覚が無くなり、そこから落ちるような感覚があった。終わりは近い。ひときわ強く、腰が打ち付けられた。そして――
「うぁ……! ああぁ……」
膣内に吐き出された。男の欲望。焼けるように熱い感覚が、膣内から全身へと広がっていく。頭の中が痺れ、解放された感覚に酔いしれる。酩酊していた意識が呼び戻され、すっと体の感覚が戻ってきた。
後に残ったのは虚無感。全身を襲う倦怠感とまだ内にくすぶる淫靡な感覚の炎だった。
うまく体が動かない。交合の果てに、体の力をすべて使い果たした。倦怠感が体の中に蔓延している。視線だけで振り返り、背後の提督を見た。
いつものやさしい表情は汗にまみれ、短い髪はしっとりと濡れている。いかつい肩が上下ししている。そんな提督の双眸にはまだ見える。野獣じみた欲望の光を。ああ、まだ終わっていない。
ふいに、体が浮き上がる感覚があった。提督が僕の体を軽々と持ち上げたのだ。そのまま、僕を抱えて、指令室の奥へと向かっていく。そこにあるのは仮眠室だ。どこからか調達してきた古いベッドとカーテンで仕切られたそこは、『部屋』と呼ぶにはふさわしくない。
仰向けの状態で、ベッドの上に寝かせられる。古いスプリングが軋んだ。体はうまく動かないが、僕の心も提督を求めていた。
提督の太い指が、やさしく、丁寧に。汗で湿った前髪を人差し指で払った。僕の顔を覗き込む。先ほどとは打って変わって、いつも通りの無表情だった。でも、眸の中に映る色は消えていない。僕のことを無茶苦茶にする気だ。
それでもいい――提督の肩に手を伸ばし、腕を絡める。こういうとき、どんな言葉を掛ければ男は奮い立つのか。考えた末に、短い言葉が出た。
「きて……」
いつも通りの声音に、少し吐息を織り交ぜた。それだけで提督はまた、獣へと変わる。
やさしくされるよりも、こっちの方が好きかもしれない。
それから何度かの交合のうち、僕は意識を失った。最後に見たのは、僕のことを心配そうに覗く、夕立と提督の顔だった。
僕が目を覚ましたのは、指令室のベッドの上だった。提督と夕立の姿は無い。昨晩、何度交合したのかはわからないが、体中のべたつきや、まだ室内に充満する残り香が、その行為の濃厚さを想像させた。胎内にまだ残る、提督の感触もそれを助長させる。
昨晩の行為の記憶が、頭の隅によみがえり、赤面していた。初めはふたりの雰囲気に流され、提督に身を任せるだけだったが、途中から積極的に快楽を求めていたような気がする。提督の耳元で甘えた言葉をささやき、いきり立ったそれを自身の胎内に受け入れていた――ようなこともあった気がする。
ベッドの上で昨晩のことを後悔しながら、たっぷりと時間を浪費した。結局、身を整え終えたのは、総員起こしの数分前だった。
その日の朝礼で、僕は二人目となる秘書艦に任命された。夕立ともども何かと小仕事の多いこの鎮守府で、提督の補佐をすることになる。
しかし、提督が僕らに求めたことは、それだけではなかった――