第三者による騒動を終えたあくる日のことだ。
お互いにこれだけは悟られてはいけないと、片方が言った嘘に合わせていく様は、傍から見ればそれはもう喜劇の一貫として楽しめたものであっただろうと思う。というより、思わなくてはやってられないとばかりに、私は首を振った。
その後のことは詳しく覚えてはいないが、マリーとの会話を楽しんだあとの彼との距離感とも言える空気が、とても続きをしようなどという空気ではなかったのは覚えている。
「帰る……」
「あぁ……」
「おやすみ……デオン」
「おやすみ……マスター」
別れたての気まずい空気を醸し出す男女の二人かというほどの短い会話を終えて昨日はなんとかその場を乗り切ったのであった。
そんなこんなで今日があるわけだが。件の彼ことマスターはと言えば、午前中はカルデア内に未だに残る英霊たちとの何気ない会話を楽しむという時間に当てられていた。
終局特異点を終えた今、彼ら英霊達が残る理由は様々だ。
せっかく、こうして英霊となった身で知り合いにあったのだから、少しくらいこの時間を共有してもいいだろうと。
せっかく、こうして英霊となった身で自由になれる時間があるのだから享受しようと。
せっかく――。とそれぞれの理由を携えてこのカルデアに残っている
時たま起こる
中にはマスターを想って残っている英霊もいるのだから、物好きなものだと……自分を小突きたくなってきた。
朝から忙しなく、古今東西あらゆる英霊に取っ替え引っ替えで会話を楽しんでいるのであろう彼は、相変わらず表情に大きな変化は見られないが、彼の雰囲気が楽しんでいるのだとわかる程度には、皆理解していた。
そんな彼が昨日見せた表情は……とても良かった。と、そこまで考えて頭の中に浮かぶ邪念を振り払う。
「ッ……、ふぅ、いけないな。こんな調子では……」
午前中は皆が集まるような食堂といったところを転々としていたのだが、何の因果かマスターが色々な英霊を引き連れその場に現れるので、とても心休まるどころではなかったのだ。
最終的に行き着いた場所が自室というわけなのだが、それはそれで問題があった。
「昨日は……ここで、彼と……」
視線が向かう場所はベッドだった。きっと、いや確実にマリー王妃が来なかったら、最後までシていたのだろう。それくらい、あの時の私たちは興奮しきっていたはずだ。
そっと、ベッドへと横たえば、昨夜の記憶がありありと思い返された。昨日行われた記憶が、一日の睡眠を得て忘れ去られるわけがない。それくらいに熱せられた記憶が、今思い起こされる。
「まったく……彼も彼だ……」
午前中に出会った彼は様々な英霊達と会話しているなか、お得意のポーカーフェイスのお陰か、私と目があっても意識することはおろか、数瞬視線を交わすだけで動揺した私と打って変わって、動揺一つせずに英霊たちと会話していたのを覚えている。
さしもの私も物申したい気持ちもあったが、流石に会話を邪魔するのも気が引けて、机に突っ伏するだけに終わっていた。そもそも、まるで意識しているのが自分だけだと思わされたみたいで、恥ずかしかったのだ。
実際のところは知らないが、今だけ彼のその表情筋の硬さには賞賛の声を全力で投げてやりたい気分だった。
「はぁ……」
心ここにあらず、それはもっとも今の
会いたい。それが、率直にして簡潔な思いだった。
「それで、俺のところに来たのか……」
「あぁ。」
奇しくも、そのシチュエーションは昨日とは異なっていたけれども。
そこには寸分の狂いなく、同じ状況が繰り広げられていた。
違う点を上げるのであれば、訪問しにきたのはデオンであり、訪問されたのがマスターだったところか。さらに言えば、少なくとも、これから相談事をしにきたなどと言える雰囲気ではなく、デオンの瞳にたった一つの目的に基づく熱が帯びているくらいである。
勝手知ったる彼のマイルームの扉のロックをしっかり施し、満足気に彼を見返してみれば、後ずさるようにこちらを見やる彼がいた。
さしもの私も、それには傷ついた。
「どうして、逃げるんだい?」
「い、いや……、なんというか、狙われた獲物の感覚を今覚えてね……」
「へぇ、そうかい」
言葉を交わす度に、一歩、また一歩とお互いの距離を開けないままに詰めていく。
「私はね。マスター。ちょっとばかし、いや正直に申し上げると、悔しいんだ。」
「え?」
「君は色々な英霊たちと会話する中、私としっかりと目があったにも関わらず、なぜこうも私だけ浮き足立ったかのような感覚を覚えるのに、とうの君は何も素知らぬ顔で会話を続けているのか」
「い、いやそれはっ! おわっ!?」
いつのまにか誘導されていたのも知らずに、彼はベッドへと背中を預けるようにこけた。
「この際、君がその時のポーカーフェイスの裏に隠していた感情はどうだっていいんだ」
「で、デオン……?」
「ほら、マスター……、照明器具の明かりを落としてくれないかい……。これからするのは、その、恥ずかしいことだからね。」
「あ、あぁ……」
言ってて、途中で恥ずかしくなるなんて、自分もまだまだだなとニヒルな笑みを浮かべてしまう。
対する彼は、ベッド片隅にある照明器具のボタンを押して、部屋の明かりを落としていった。わずかながらの明かりを残しているのは彼なりの抵抗なのか、それでもお互いの表情が見え隠れする明かりの加減は、なんとも淫猥な空気を醸し出していた。
「ッ……」
一体それはどちらから漏れ出たのか、唾を下す音が音ひとつない部屋に響き渡る。
一つ一つ、体を着飾る服へ手を掛け、その身を徐々に表していく。薄暗いなか、はっきりと視認できないはずなのに、彼の目がこちらを片時も目を逸らさず見ているようで、体の中に仄かに燻っていた熱が徐々に温度を上げるように、灯されていく。
ぱさり、ぱさりと、落ちていく衣類の柔らかな音が響くたびに、彼の体は震えていた。
そして、最後の砦を落とすと、小さく深呼吸をして、彼を見やり、自分の体へと視線を移す。
そこにあるのは、
そう、ここにいる
「君にとって、この体は剣だと、一時は言っていたね。でも、この時、いやこれからは……君にとっては鞘でもありたいと思うようになったんだ。なんて、直接的過ぎるかな」
らしくもないようなことを言った気がして、冗談めかすように小さく笑みをこぼす。
「どうかな……私の体は……。他の英霊達に比べ特徴的なものなんてないだろうけれど、君にとってこの体は、情緒を揺るがすに至っただろうか」
一歩、そしてまた一歩と、彼へと足を忍ばせる。お互いに、お互いの全貌をしっかりと認識できる距離に立つと、彼はその顔を紅く染め上げ、顔を背ける姿が目に映った。
「君には、この姿は視界に移すには及ばないものだったかい?」
「あっ、いやそういう……わけ……では……」
だんだんと漏れ出る声が小さくなっていくに連れ、次第にその口が所在なさげにパクパクと情報を処理しきれていないかのような、幼稚なそれとなっていた。
「冗談だよマスター……いや、ご主人様。」
ピタリと、彼の胸へと右手をつければ、肩を大きく震し、こちらを見上げる彼の目と目があった。
きっと彼の心臓のように、私の心臓も鼓動が早まってるに違いない。
それほどに、両者は興奮していると確信が持てるほどに、彼の表情はこの時だけはしっかりと読み取れた。
「続き、しよっか……ご主人様。」
そっと、右手を押していくと、抵抗もなくそのまま彼はベッドへと横たわっていく。その上へ覆いかぶさるように四つん這いで彼を見下ろせば、あの時と……昨日と同じ姿がそこに映し出される。
「今夜は寝かせてはあげないよ。ご主人様」
昨日のように、降って沸いたかのような情欲に身を任せることなく。今ここにある、情欲に自ら浸かっていくこの感覚を、どう言葉に表せば良いのだろうか。
実に、実に心地いい。
そして、彼はと言えば、これほど揺さぶりをかけたというのに、私に触れるということをしてこなかった。そこまで、私に魅力がないかと言えば、きっとそういうことではないのだろう。彼の顔を覗き込めば、そこには間違いなく熱にうなされた顔が次はなんだと期待の眼差しを込めてこちらを見ているのだから。
彼本来の根っこにあるのは、どこまで行っても受動的な性格だったはずだ。
こうして、数ある特異点を巡るうちに、徐々にそれは成りを潜めていった。だからこそ、こうして世界を救うに至ったのだから。
閑話休題。
「んっ……」
まず手始めに行ったのはキスだった。
昨日のように、いきなり舌を入れるのではなく。優しくついばむようなキス。
上唇、下唇、頬、果てはおでこや瞼まで。彼の体を余すことなくキスをしていく。
ときおり、くすぐったさに身をよじったり、こえが漏れ出ている彼だが、彼はそのことに気づいているのだろうか。少なくとも、頬を上気させ出来上がっているであろう彼がそれに気づいているとは思えないが。
あぁ……まったく、本当に……。
愛おしい。そう口にして、彼の衣服へと手をかけていく。これまたゆっくりと焦らすように時間をかけて。その際、彼の腹部へと腰を下ろす。そう、まだ局部に腰を下ろしてはいけない。まだその熱はあとに取っておく。
そうして、今や淡く色を吐き出す彼の口に左手を差し込みながら、右手で彼の黒のインナーをまくりあげていけば、目に分かるほどに色っぽい肌が映し出された。
「ぅえ、ェオンッ……」
左手で舌を掴んでいるためか、舌っ足らずな声音で私の名を呼ぶ彼に大丈夫、全て任せて、とほほ笑みかければ、左手に伝わる熱が強まった気がした。
彼の想いに応えるべく、剥き出しとなった体へとベーゼを落としてく。その度に、私の左手が強く吸われるのだから、彼のどこが弱く快感を得られやすいかはすぐにわかってしまう。
その度に愛おしさで、狂わされる私のことなぞ彼は知らないのだ。
本当に、まったく……。
そして、かれこれ数分。はたまた数十分。彼の体から満足気に顔を離すと、映し出されるのは、いたるところに点在するキスを落とされた痕だった。
「ふふ……」
それにことさら満足したように彼へと笑顔を向けるが、半ば放心気味だった彼には何に満足しての笑顔なのか露知らず、弱々しく名前を呼ぶだけに終わっていた。
すっと、彼から左手を返してもらい、それを眼前へと持っていく。
薄暗い中でも一際鈍い輝きを持つように左手にまとわりつく彼の体液。こぼれ落ちそうな雫を片隅に収めた私はそれを口へと遠慮なく運んだ。
彼の口に収まっていた左手を自分の口に。はしたないなどとそんなことを気にする奴はこの場にいないだろう。味わうように、それでいて、噛み締めるように。自分でやったことだというのに、今だけこの左手が羨ましく感じてしまう。その左手を、キュポン、と口から抜き取り、それを自分の体に、胸に丹念に塗りこむように、体全体に彼を味わうがごとく、手を這わせていく。
「あぁ、……んっ、はぁ……いいな、これは……」
彼と私で混ざり合った体液が私の体の表面だけでも犯していくと思うと、とても正気でいられる気がしなかった。
ピンと張り詰めた小さな丘の頂点を最後に弾いて、彼の体へと寄りかかった。
「で、デオン?」
彼の身を案じるような声が右耳に優しく響く。
「大丈夫……軽く果てただけだから」
「え、は、果てっ――」
「それ以上は口にしちゃいけないよ。ご主人様」
そうして、彼の口に人差し指を置いて制す。
さて、彼の耳はいかほどか……。制したままの右手で彼の顔を逃れらぬように右手を添えて、彼の左耳を髪のなかからかき分け捉えると、何をされるのか想像したのか、彼が大きく身じろいだ。
「デオン、待ってくれ。耳はやめてくれ」
「ん? どうしてだい?」
「あ、いや……その……」
やがて、そのことを言った先に待ち受けることを想像したのか。小さく嘆息を溢し、観念したように、耳は弱いから、優しく頼む。と、瞼を落とした。
瞼を落としたのは愚策だろうに、と心の片隅で思いながら、小さく了承の意を口にして。
「でも、加減はするつもりはないけどね?」
「え、ちょっ!? ッ……!!」
咄嗟に彼は自分の口を左手でふさぎにかかったが、とても、隠せないほどの喘ぎが手のひらから漏れ出ていた。
「ふぅん。耳だけでこんなに感じるのか……、君は一体今までどうやって過ごしてきたんだい?」
講義の声を上げようと左手がどきかけたのを見計らって、さらなる追撃を加えれば、部屋に木霊する程の声が彼の口から溢れ出た。
それに満足して、遠慮の微塵もないような口撃を彼へと与え続ける。
時折、愛を囁いて、そのまた彼を優しく責めて、肩で呼吸するほどに乱れた息を吐き出す彼に満足して、そっと体を離していけば、口惜しそうに、あっ……と零す彼がいた。
大丈夫。逃げないよ。これから私たちは一つになるのだから。
そう、一つに。
きっと、このまま行けば私の体は大丈夫でも彼の体には負担となるだろう。いくら寝かさないぞと言ったところで、本質的には彼に無理をして欲しくないのだ。
彼の体を調教――うん。味わうのはまた後日にして、いい加減彼の息子の姿をみようじゃないか。
背中の方へと手を回せば、彼の息子様はいつでも準備万端とでも言うように、固くズボンに張り詰めたように窮屈さを味わっている熱がある。それを優しく、取り出すように、テキパキとズボンを下ろし、トランクスを下ろしていけば、昨日感じた熱が右手に伝わってくる。
「ぁ……」
うずうずと、彼の体は準備万端ではある。では、私はどうだろうか? 固く張り詰めた胸の頂上はぷっくりと膨らんでいる。そして、下半身は……言葉にするまでもないか。
今はそう、焦らずとも時間はこの先にいっぱいあるのだ。今日は、彼のためにも早くに終わらせよう。
「ご主人様……いいよね?」
一応の了承をえれば、帰ってくる無言の頷き。早く開放してくれと、瞳が揺れているのが見て取れる。
「ふふ……それじゃ、遠慮なく……」
彼の息子を、私の秘部へとあてがうと、ゆっくりと、そっと、腰を下ろしていく。カリ首まで入ったのだろうか……初めての経験ゆえに詳しいところまでは分からないが、多分そう……。ふっと息を吐き出して、一気に彼を膣へとくわえ込んだ。
ズドンッと、体中が貫かれたかのような衝撃と共に、背中から駆け上がるナニカが私をどこかへと連れ去るように、視界が大きく揺れた。
「カハッ!!?」
イった。間違いなく。否応なく。私の体はイった。これが彼を迎え入れるという快感。これが体を貫かれるという快感かと、視界が断続的にパチパチと震える。
「デオン……あっ――」
彼とて、そう長くは続くまい。今もこうして見下ろした先には、体がどうにかなりそうな恐怖と似たナニカと戦っている顔が伺える。
その顔に左手を添えれば、どこか安心したように、それでいて切羽詰まったかのような百面相を見せるのだから、面白い。
「大丈夫……、さぁ……動くよ」
私の中で脈動する彼が、今すぐにでも暴発してしまわないように、繊細な注意でもってストロークを開始する。
「あぁ、ご主人さまぁ、あぅ、んっ……」
「デオン、くっ、んぁ、うっ……」
一体これでは誰が責めてるのかわからないじゃないか。
いや、そんなのは些細なものだ。今この場で必要なのは、ただ快楽に身を委ねればいいだけじゃないか。
眼前に迫る彼に口づけを施し、徐々に舌をのめり込ませ、お互いの熱を交換し合う。
腰を打ち付ける度に、彼に対する愛情が一段と増していく。
淫猥な音が部屋に木霊する。やがて、お互いがその頂きに達すると予感して口をはなし、熱にうなされたお互いを見やる。
「デオン……」
「あぁ、一緒にイこう。ご主人様」
カウントはもう目前まで迫っていた。
最後に、一際大きく腰を打ち付けるのと同時、彼女の中で彼がはじけ飛ぶのを感じた。
「んっっっっ!!!!!!」
天井を仰いだところで、その快感は逃げないというのに、弓なりに反ったその体に最後に思ったのは、幸せただ一つだったという。
「はぁ、はぁ……まったく、本当に……まったくだ……」
彼に倒れ込んでみれば、右耳に聞こえるのは微かな寝息のそれだけだった。
力なく、幸せそうな寝顔をのぞき見れば、うちから幸せが湧き出ないわけがない。
小さく、彼の頬を小突けば、口から空気が漏れ出るのみ。
「今一度……君に忠誠を誓おう。マスター……いや、ご主人様」
しばらくして、ふたり分の寝息がマスターの自室から聞こえ出す。
後日談などというのは、無粋だろう。今はそっと二人の寝顔を見て、この辺で閉幕としよう。
~fin~
はい、これにてシュヴァリエ・デオン編はひとまず終わりです。えぇひとまず。
はぁ……やっぱりデオンくんちゃんは可愛いなぁ(放心)
そして、投稿したあとに読み上げれば脱字やらたくさんあるのに気づくのだから私ってば、ほんとバカ(´・ω・`)