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それでは本編をどうぞ。
Pixiv版【https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11292050】
大切なナニかを捧げ……もとい食されてからはや幾日。
場所はカルデア内の食堂にて、本日何度目かのため息を吐いていた。
思い起こすは、もはや過去となったデオンとのくんずほぐ……違う。えっと……そうだ。甘えるものと甘えを受けていたものとの……これもなんか違うな。
はて、どう表せばいいのか……。途中から考えることすら恥ずかしくなった俺は、思考を振り払うように机へと額を押し付けていた。
コツンと、小気味の良い音が周りの喧騒にかき消されていく。
時刻はお昼どき。様々な英霊や、カルデアスタッフを織り交ぜた大人数が、エミヤ印の料理を楽しみに列を成して並んでいるのが見える。そんななか俺はと言えば、雑音のなかに身を投じてなければデオンとのあれこれを思い起こしてしまいそうになるので、こうして食堂の隅っこに所在なさげにため息を吐くという現実逃避に似た仕事に勤しんでいるところであった。
俺の知る甘えを受けている身の行動とは、あんなだっただろうかと考えてはや何回目。いい加減答えの出ぬ課題を引っ張り出しては頭の片隅に追いやる作業を終えたいところだが、どうにも答えが出そうにもない。
そもそものところ、何故俺は性的に頂かれたのだろうか。いや、まぁなんとも自分の行いが……少なからず彼女、デオンの情欲を揺さぶってしまったのが原因なのだろうと考えるが、はて……自分の甘えるといった行動はそういった……そそられるものがあるのかと、変な方向に思考が割かれそうになって、またため息を吐き出していく。
「はぁ……」
「む、食事場でため息とは関心しないなマスター」
「ん……?」
声のした方へと首を向ければ、片手に食事を乗せたトレー抱えこちらを見下ろす綺麗な翡翠色を宿す目と目があった。
「あぁ……アタランテか……」
「どうしたというのだマスター。汝にしては珍しい……と、隣に座っても大丈夫だろうか?」
「ん、構わないよ」
では、失礼する。と言って、彼女は隣の席へと腰を下ろした。今日の食事はなんだったか。なるほど……今日はオムライス……と、金曜日だったか。ここカルデアにいると曜日感覚を失いそうになるので、ある程度の食事は曜日に沿って作られていることが多い。月曜日がカレーで金曜日はオムライスといったように、曜日をたしかにするようなものがカルデア内の至るところに設けられている。ほとんど目と鼻の先にオムライスがあるというのに、どうにも食欲が沸かない。
まったく、意気消沈気味の奴の隣に座るなどもの好きな奴だ。
「ふぅ……食事場所で辛気臭い顔をするとエミヤに怒られかねないな。俺はマイルームに戻るよ」
と、今更になってその思考にたどり着いた俺は、自室に戻ろうと立ち上がりかけたとき、袖口を引っ張られるような感覚に足に込めた力を解いてしまう。
見れば、引っ張られるような……ではなく現に俺の服の一端を掴む彼女の手があったのだが。
「まぁ待てマスターよ。そう急ぐことはない。せっかくこうして隣に座ったのだ。私の食事が終わるまで共にしてくれてもいいだろう?」
それに、と彼女は続けてこう言った。
「こんな人の多い場所でため息を吐いている姿は、
まったくもってそんなつもりなどなかったが、そうか……たしかにそう取られてもおかしくないか……。
我ながら、そこまで頭が回ってないとは、よほど我が身は堪えているようだ。
「そんなつもりはなかったんだけどな……。それで、俺の隣に座ったってことは、話を聞いてくれるのか?」
「もとよりそのつもりだ。人理修復を果たしたマスターがため息を下すほどの悩みなど、面白そうではないか」
ふふん、とどこか楽しげにニヤリと笑う彼女につられて、小さく笑みを零す。
面白そうではないか。と来たか。まぁたしかに、この悩みとも言えぬことは、傍から見ればなんてことはない笑い話になればいい程度の話だろう。いっそのこと恥ずかしさを上回る笑い声でかき消して欲しいほどだ。
笑わないか? と一種のフリのようなものを投げかけてから、俺は頭の中で文章を組み立てるように一から話していった。
「そういえば、アタランテ的に見て……俺は子供に見えるだろうか」
かれこれ特異点を廻りに巡ってきたわけだが、そう何年も巡っていたかと思えばそんなことはなく。たった一年。されどの一年のうちに目まぐるしく特異点を巡ってきたのだ。体感的には随分と成長したような感覚を覚えるが……そう、一年だけなのだ。
自分の年齢すら危うくなるほどに、カルデアに来るまでの断片的な記憶が少しかけているような気さえする。
ダ・ヴィンチちゃんに聞けば、ある程度のことは分かるだろうが。現状カルデア周りのことで忙しないダ・ヴィンチちゃんにこんなことで一々聞きに行くのもどうかと気が引けて、結局は自分の本来の年齢がどうかすらあやふやなままではあった。
「む? 外見的なものが悩みなのか?」
「あぁ、いや……なんというべきか……甘え方っていうのが分からなくてだな……」
「それで、子供らに甘えられ慣れている私に、それを聞こうと……それが悩みなのか?」
「まぁ、そんなところだ……」
背もたれに寄りかかるように天井を仰ぎ見る。シミ一つないどこまでも白い天井がどこまでも続いている。
「マスターとて、このカルデア内だけでもそれなりに甘えられてるだろうに」
「それもそうなんだが……いざ自分がと思うと、なんか違う気がしてな」
「……つまり甘えたいと」
そう結論づけられると身も蓋もない。何とも言えない歯がゆさが背筋を走るせいで居た堪れずに、どこかへ逃避を図りたくなる。
「なるほど……こういうことか……」
ちょうど食べ終わったのか、カチャリとスプーンを置いたのと同時に、何かを言っていた気がするがなんと言っていたのか、まぁ特に何かを問い詰めたいようなものではなかったとは思うが。
「ちょうどいい。このあとは特に何もないのだ。私の部屋に来い」
「は……?」
「いいか? 絶対に来い。絶対にだ」
「お、おぅ……?」
食器を片付けに去りゆく彼女の背中を見て思う。
一体彼女の中でどう結論づいて部屋に招き入れるという結果に結びついたのかは、さておき……。なかば強制じみた圧力を感じ取った俺は、おとなしく彼女の部屋に向かうのであった。
「それで、どうだ。私のお膝元は、ん?」
どうしてこうなった。
彼女の部屋に訪れたまではいい。
なかば強制的なものではあったが、悩みを聞いてくれるというのであれば是非もない。故にこうして彼女の部屋に訪れたというに、待っていたのは膝枕というものであった。
いやというわけではない。というより嫌なわけがない。男子足るもの、女性の膝枕とは等しく平等に輝かしく眩いものであろう。受けている俺自身が、うちから湧き出る幸福感でどうにかなりそうなのだから間違いない。何が間違いないというのか……。
どうしてこうなったのか……。
だが、しかし、けれども、一体全体なぜこうなったのか。思い返すほどのものもない。部屋に入ってみれば、ベッドに腰掛けているアタランテがいて、こちらを手招きしているアタランテがいて、気づいたらこちらを慈愛のこもった目で見下ろすアタランテがいたという結果が今である。いや分からんて……。
甘えるという行為は他者から強制的に行われるものだったかと思考に耽そうになって、視界の片隅になにやらふよふよと漂う毛玉が見えて、一瞬身構えてしまう。それが、彼女から生えるしっぽだと理解したはいいものの、こう触れたくなるような欲求をくすぐる動きに思わず生唾を飲んでしまう。
「ふ、なんだ。触りたいのか? だがダメだ。今はな……」
なん……だと……? 生殺しか……生殺しなのか!?
目の前に揺れるようにこちらを誘ってるかのように尻尾を見せておいて、ノータッチだと!?
抗議の目でアタランテを見上げれば、息を殺したかのような声が返ってくる。
「そんな目で見るな。ほれ、触らすことは出来ないが、こちらから触れてやる」
そう言って、器用にも彼女のしっぽがあご下をくすぐるように這い回る。
これを触れてはならぬと申すか。それに、そこはかとなく気持ちよさが優ってきて、色々とやばい。
存外、自分の体は他者からの温もりに弱いことを知っている。文字通り、人肌に触られると変なくすぐったさが優ってイケナイ気持ちになってしまう。そのことを知ったのはここ最近でのことだが。
首周りをいやらしく這い回る尻尾から逃げようと立ち上がりかけるも、それを制するように彼女の手が胸を押している。彼女のことだ。今俺の心臓が脈打つ速度が尋常じゃないことくらい把握してそうだ。
「汝のことはデオンから聞いた」
思わぬところから出た名前に立ち上がりかけるも容易く彼女はそれを制している。
「何を動揺しているのかは知らないが、彼女に聞かされたことは、汝とそう変わらぬことだったよ」
マスターが何やら甘えたがっていること。マスターが甘え方を知らぬこと。マスターの甘え方はやばい……。ざっと三つのことに付いて聞かされたと言っていたが、最後の物については後でデオンに問い詰めねばならぬことのようだ。たしかに口止めといったようなことはしていなかったが、こうも露見しているのを見ると、恥ずかしさで死にそうになる。
両手で顔を覆いたくなるのを我慢して、それでと視線で話の続きを促した。
「何、彼女……いや
デオンに問い詰めることが優先事項に設定された瞬間だった。
「ほら、マスター。汝なりに私に甘えて見せろ」
甘えて見せろと言われて、ではいざ参る!! と行けるのであれば行きたいが、現状恥ずかしさを処理するのにパンクしている俺には無理からぬことだった。
「そういえば汝は、自分が子供かどうかと言っていたな。そうだな……私からしてみれば、汝は充分子供だよ。どこかほっとけないような雰囲気を醸し出す時点で、マスターは私にとっては子供だ。」
もっとも、戦場に置いてはその限りではないが、と付け足して。
改めて子供だと突きつけられれば、それはそれで恥ずかしい。というか俺は一体何回恥ずかしい思いをすればいいのだ。
「そうら、デオンが言うやばい甘え方とやらを見せてみろ」
そう言って、尻尾で首元をくすぐる様に這わせるのをやめてください。
「んっ……」
変な声が出てしまうからと我慢する間もなく漏れ出る声に、我ながら悲しみを覚える。
「ほれほれ、恥ずかしくて甘えれないか?」
誰のせいだと抗議の声を上げる前に、別の声が出そうで口を閉じるので精一杯だというのに。絶妙な加減でもって首まわりを這い回る尻尾が気持ちよくて離れたくないと思わされる時点で、そうとうヤられてるとも言える。
立ち上がって逃げたくとも、胸に置かれた手のひらが有無を言わさぬ力で防いでるせいで、その選択肢はなきものとされている。最終的にアタランテのお腹に顔を押し付けることで表情を見られぬようにするのが精一杯であった。
「む、汝の顔が見れないではないか」
「誰のせいだ……」
「普段は見せぬような顔をするものだから興が乗った。許せマスター」
「ッ……そうッ! いいながら――んッ! 尻尾で遊ぶの、やめないのな……」
「興が乗ったと言ったろう。普段から顔を崩さないマスターの顔を見るのは、どうにも気持ちがいい」
彼女の嗜虐心に気付かぬうちに触れてしまったのか、顔を伺うことは出来ないが、三日月を描いているであろう口角を想像して、体の内側の何かに火が灯りかけたのを覚えた。
「んっ……アタランテ、頼む。これ以上はまずい……」
「ん? 何がまずいというのだ」
胸に置かれた手に力を込めて離そうにも、彼女はそれ以上の力でもってピクリとも動かそうとしない。そもそも、体から徐々に力が失われつつあるのだから、気にも留めていないまである。
「逃げないから……手を退けてくれないか。苦しいんだ……」
「む、それは悪かった。」
ほれ、逃げるなよ? と言って、手を退けてくれる。
無論、逃げるつもりなんてない。否、逃げる気力なんてものは削がれた。
彼女がそうさせたのだから、この償いは、この小さな昂ぶりは……彼女に収めてもらおう。なかば強制的なものではあったが、それでも甘えさせてくれるのであれば是非もなし。
彼女の方へ向き直れば、さてなにするぞとこちらを伺う楽しげな目が見える。
「なぁ……アタランテ……いや、姉さん」
「……ん?」
数瞬遅れた反応を無視して、俺は続ける。
「俺を……、褒めてくれないかな……」
「は?」
長い沈黙の後に彼女が思う。
好奇心は猫を殺すとは……このことかと。
~続く~
CV:早見沙織の時点でずるい(確信)ずるくない?(再確認)
とまぁ、えぇ続きはまた後日です( ˘ω˘ )
なぜ……毎回一ページにまとめられないのか……