五大名門校として内外に名声を轟かせる超名門校、
小中高一貫校であるが故に巨大な敷地を誇るそこは住宅地からやや離れた場所に在る。
芽依の家から言えば凡そ徒歩で80分程の距離だ。
そのためいつもは転移魔法等を使用して通学してるのだが、流石に魔力が空では魔法は使えない。
かといって通学用の乗り物は予約制なのでこちらも活用できず、今日芽依は仕方無く徒歩で通学したのだが、
「お前が遅刻とは珍しいな」
当然のようにものの見事に遅刻していた。
それもセックスを終えたのが8時過ぎだったので学園に着いた現在は既に九時半を回っていて、名門校の生徒にはあるまじき大遅刻である。芽依は露程も気にしていないが。
「はい。色々あって遅れちゃいました」
「そうか。別に私に迷惑がかからなければ問題ない。さっさと席につけ」
「わかりました」
先生にぺこりと頭を下げ、窓際の一番後ろの自分の席へと移動する。
授業中での登校のためクラスメイトからの好奇の目が凄いけど、芽依は徹底的に無視する。
序でに少し離れた席から浴びせられる物凄い敵意の視線も無視して、窓の外へ視線を向ける。
「紅音お姉ちゃん、大丈夫かな?」
澄み渡った快晴を眺めながら考えるのは、紅音のこと。
彼女は三時間にも及ぶ性行為が終わると共に、昨日同様気絶するよう眠ってしまったのだ。
流石に腹部をぷっくら膨らませ、股から白濁液を垂れ流す彼女をそのままにするのもどうかと思い必死に起こそうとはしたのだが、全然起きなかったため泣く泣くそのままの状態で放置してきたのだ。
魔力が残っていれば魔法でどうにでもできたのだが、流石に小学生の身では魔法抜きで一回りも二回りも大きな彼女を部屋まで運んだりすることはできなかったのである。
「紅音お姉ちゃん結構サボり癖があるから、その点は心配いらないと思うけど……」
不良ではないのだけど、彼女は兎に角自由奔放で頻繁に学校を休んでいると姉が言っていた。
そのため学校を休んだところで不審がられることはないだろうが、それでも心配だ。
特に何が心配かというと、彼女の両親が帰宅しないかどうかだ。事前に聞いた情報では紅音の両親が旅行から帰ってくるのは夜だということだが、早めに切り上げて帰ってくることも考えられる。
もしも、もしもだ。紅音が起きるより早く両親が帰宅してあの姿を見られたら、もう色々アウトだ。
「ん~。やっぱり芽依も休んじゃえばよかったかなぁ」
正直な話、教科書を斜め読みしただけで満点が取れる芽依にとって学校は必要無いものだ。
特に二年生に上がってからはそんな思いが顕著で、学校に来ても授業は受けていない。
なんとなく来ては、ただただぼーっと過ごし時間が過ぎ去るのを待っているだけだ。
それでも学校をやめずしっかり通学してるのは、わざわざ自分を名門校に入れるために引っ越してきた家族に対して思うところがあるからだ。けど今日ぐらいは素直に休めばよかったと芽依は後悔する。
「ん。時間か。それじゃ算数の授業はここまでだ。次は魔導の授業だから準備しておけよ」
授業の終わりを報せる鐘の音が鳴り響くと先生はそれだけを言い残し、教材を片付けて教室から出ていく。
すると途端にそれを待ってましたと言わんばかりに教室内が一気に賑やかになる。
わいわいがやがや話に花を咲かせるクラスメイト達の様子を尻目に、芽依は溜め息ひとつ。
「あらっ。遅刻した分際で溜め息とは良いご身分ですね」
「……」
「ふんっ。挙げ句に無視とは相変わらずお高くとまってますわね」
「はぁ。芽依に何か用?」
面倒くさ、そんな心境を露骨に表面に出しながら芽依は振り返る。
対して相手は肩で切り揃えた銀髪を手で払い、鼻で笑う。
「はんっ。わたくしが貴方に用などあるわけないですわ。自意識過剰も程々にした方がいいですわよ?」
「ふ~ん。なら、早く席に戻って次の授業の予習でもしてた方がいいと思うよ、芽依は」
「むかっ。それは暗に自分には予習など必要ないけど、わたくしには必要だと言ってるのかしら?」
「はぁ」
本当に面倒臭い人だと芽依は心のなかでごちる。
この高飛車なクラスメイトの名は、
何故だか芽依を目の敵にしていて、ことあるごとに突っかかってくるクラスメイトだ。
因みに先程敵意の籠った視線を向けていたのも結香である。
「そもそも授業を真面目に受ける気がない貴方に、学校に通う意味はあるのですか ?」
「……」
「それどころか貴方、教科書すら持ってきてませんよね?」
「捨てたのはそっちのくせに」
「言いがかりはよしてほしいですわ。貴方が勝手に無くしただけでしょう?」
何が言いがかりか。
結香は知らないことだが、芽依は10分以内に起きた過去の出来事を視ることができる。
その力を利用してばっちり結香が教科書をゴミ箱に捨ててるのを目撃したのだ。
もっともそれを回収しなかった芽依も芽依であるが。兎も角教科書が無いのは結香が原因なのだ。
「本当、どうして貴方みたいのがこの場に居るのかしら」
「そんなの入学したからに決まってると思うけど…… 」
「はっ。そういうことを言ってるのではありませんわ。貴方みたいな不真面目な生徒がどうしてこの由緒正しい名門校に通っているのかと……いえはっきり申し上げましょうか。貴方みたいなのはこの学校に相応しくないと、わたくしはそう言っているんですわ」
それを言うなら人の物を捨てて嫌がらせするような人物こそ相応しくないのでは?
そんな誰もが思うであろう当たり前の疑問を芽依は呑み込み、窓の外へ視線を向け直す。
これ以上話しても無駄だと、そう判断したのだ。が、この対応が結香の癇にさわったようで、
「ッ! だからどうして貴方はすぐにそうやって人のことを無視するんですの!」
結香は勢いよく机の上に両手を叩き付け、声をあらげた。
しんっ! と痛ましいまでの静寂が教室に落ち、先程よりも多くの視線が突き刺さる。
別に居心地が悪いとは思わない。好きでもない相手にどう思われようと、芽依は一向に気にしないのだから。
(この人は毎日毎日、なにをそんなに怒ってるんだろ)
ただ、この情緒不安定なクラスメイトだけは別だ。
嫌われるのは構わないが、こうも来る日も来る日も突っかかってこられては正直辟易とする。
しかも今日は一段と虫の居所が悪いのか、いつもより怒り方が激しい。
折角大好きな人との情事で良かった気分が台無しだ。
「そろそろ次の授業の時間だぞ……ん? なんだ、またやってるのかお前達」
と、戻ってきた先生が呆れたような視線を芽依達に浴びせる。
「全員席につけ。後少しで授業が始まるぞ」
「……」
「おい樋沼、お前もだ。さっさと戻れ。私に迷惑をかけるな」
「……わかりましたわ」
結香は何かを言いたそうにしながらも、大人しく席へ戻った。
漸く鬱陶しいのから解放された芽依は嘆息を溢し、
(とりあえず帰ったら紅音お姉ちゃんで気分転換しよ)
このじくじくした不快感を払拭するため帰宅したら即紅音の家に行くことを決意した。