「……。眠い」
芽依は欠伸を噛み殺し、指で涙を拭い取る。
深夜過ぎに寝て早朝の五時に起きた芽依の身体は完全に寝不足だった。
それも寝る前も起きた後もずっとセックスをしていたせいで、疲労感が凄い。
やろうと思えば魔法でどうとでもなるが、魔力が勿体無いのでそれをするつもりはなかった。
「皆、元気だな~」
そのため芽依は今、木陰から体育の授業を見守っていた。
もっともそれは体育というよりも、ただの昼休みの光景にも見えるが。
きっと体育の授業で、皆が皆好き勝手に身体を動かしているのはうちのクラスくらいだろう。
「そういうお前は何かやらないのか?」
「あ、三室先生。どうしたの?」
「別に、私も暇なだけだ。流石に職員室でまったりしてる訳にはいかないからな」
それは、まぁそうだろう。
好きに運動させてるだけでもあれなのに、その上職員室に戻ったりしたら職務怠慢も甚だしい。
芽依自身はどこで誰が職務を放棄してようと気にしないが、社会でそれが認められる訳がない。
芽依は改めて思った。社会って面倒臭いなぁ、と。
「で、お前はあいつらと一緒に遊ばないのか?」
「ん。好きでもない人と遊んでもつまらないからいいや」
「ふっ。つまらないか。ま、その気持ちわかるがな」
「ふ~ん」
芽依は生返事をしながら朱実の顔を興味深そうに見つめる。
意外にもそれは邪な感情からの行為ではない。ただ純粋に興味を持っての行動だ。
「なんだ、私の顔に何か付いているか?」
「ん~ん。ただ前々から思ってたけど、三室先生って芽依に似てるな~って」
「そうか? まぁだが確かに似てるところはあるかもしれないな」
「やっぱり? 芽依と同じで三室先生もいつもつまらなそうだもんね」
授業をしている時も、お昼を食べている時も、こうやって会話してる今現在も。
芽依の目に映る朱実はいつも無表情で、何に対しても無関心だ。
冷めた瞳で世界を見るその様は、まんま自分と同じだと芽依は思っている。
「そうか、つまらなそうか。ま、確かに。そういうところはあるかもな」
「……ねぇ三室先生」
「なんだ?」
「三室先生って好きな人居る?」
「いきなりだな。まぁ居るぞ、長いこと逢ってないがな」
「なんで? 喧嘩でもしたの?」
「いや、そういうわけではない。そもそもあの娘と逢ったのは一度だけだ」
一目惚れというやつだろうか。
朱実は自嘲気味に笑みを浮かべると、芽依の頭に手を置いた。
「お前が同じだと思う私からアドバイスをしてやる」
「?」
「好きな相手は絶対に手放すなよ。後悔するからな。何より余計に世界がつまらなくなる」
「……」
「さて、そろそろ時間だな。おいお前ら! 集まれ! 授業を終えるぞ!」
ぱんぱんと手を叩き、朱実は生徒を集合させる。
忽ち集まり列を作るクラスメイト達。
芽依もまたその列に並びながら、朱実の言葉を反芻させる。
ーー絶対に手放すなよ。
何を当たり前のことを、と芽依は思った。
言われるまでもないことだ。
むしろ好きな人が居ない人生など考えられない。
あの気持ち良いのが無くなるなど考えたくない。
好きな人は……お姉ちゃんや紅音お姉ちゃんは、絶対に逃がさない。
一生一緒だ。何をしようと、どんな手を使ってでも、永遠に。
だって愛する者と共にあれない人生など、何の価値もないのだから。