和水鈴梨編【1.始まり(前編)】
『ん。ぁん。ぁ紅音ちゃぁんぁ』
「お姉ちゃん、これなんだかわかる?」
その日妹の部屋に呼ばれた
一瞬で思考が停止し、さぁと顔面が蒼白するのが手に取るようにわかる。
投影機から壁に投射されたのは、ベッドの上で想い人の名前を呟き乱れる自分の姿。
どうしてこんな映像が存在するのか当惑する鈴梨の前で可憐な少女は微笑む。
「実は
「は、え……? 監視、カメラ……? え? どう、して……?」
「どうして? そんなのお姉ちゃんの事を脅迫するために決まってるじゃん」
そんなこともわからないなんてお姉ちゃんは相変わらずお馬鹿さんだね、と。
たおやかな。それこそ天使のような笑顔を浮かべ言い放つ芽依に、鈴梨は言葉を失った。
一体、この妹は何を言っているのだろうか。
脅迫するために監視カメラを設置した?
なんだ。なんだそれは。なんなんだそれは。
そもそもどうして脅迫しようなんて思い至る。
そうあまりにも物騒な言葉に半ばパニック状態に陥る鈴梨を他所に芽依は滔々と語りだす。
「実は芽依ね、レイプ物や調教物、痴漢物なんかの相手を辱しめる内容のエッチな本が大好きなんだ。で、五ヶ月程前遂に我慢出来ずにクラスメイト滅茶苦茶に犯しちゃったんだけど、それが物凄く興奮してね。あれ以来、もう自慰じゃ満足できなくなっちゃって」
まるで理解できなかった。
芽依が語る話の内容も。
強姦の罪をさらりと自白し、あまつさえ笑みを崩さない妹の精神構造も。
脳が現実を受け入れる事を拒絶しているかのように、てんで頭に入ってこない。
「一応今もその子や他の人を使って欲は発散してるんだけど、そろそろ大好きなお姉ちゃんを性奴隷にしたくなっちゃったんだ。まぁつまり脅迫ってのはあれだね。この映像をばら蒔かれたくなかったら、芽依のお願いを聞いてってこと」
芽依が笑う。
それは鈴梨の記憶の中にある物と同じ、純真無垢な笑顔。
昔から見てきた可愛い妹の顔。
「あ、勿論、断ってくれてもいいよ。でもその時は紅音さんに身代わりになってもらうから。あの人なら多分、お姉ちゃんの事を護るために二つ返事で芽依のお人形になってくれるんじゃないかな?」
目の前で芽依が笑う。
それは幾度も目にしてきた人好きのする笑顔。
しかしそこから吐き出されるのは、今までの妹像を根底から破壊する圧倒的な狂気。
「だから、ね。それが嫌ならとりあえず、服を全部脱いで?」
芽依がにっこりと微笑む。
それは小さな頃から見てきた陽光のような暖かい笑顔。
けど、鈴梨にはもう、それは妹の皮を被った化物の顔にしか見えなかった。