「はぅぅぅぅ……」
「やっぱりちょっと緊張する?」
俺の隣にいてくれると誓ってくれた少女が不安気に瞳を揺らしながら、声を漏らす。
無理もない。俺だってメチャクチャ緊張してるんだし。
「はぅ。実は、少し……ううん。すごくドキドキしちゃってます」
そう言いながら胸に当てていた手を強く握り直す。
きっと俺を心配させまいと一人で気を張り直そうとしているのだろう。
「俺だってすごくドキドキしてる」
「あ……」
智花の小さな手を俺の手で優しく包み込んでやる。
君の強い決意の中に俺の気持ちも混ぜて欲しい。そんな意味も込めて、彼女が固く握りしめている手の力を少しだけ緩めさせてもらい、俺の指を絡めていく。
少しだけ大胆な手の握り方だけど、恋人同士なんだしいいよな。
「はぅぅ……私の手、強く握っちゃってたから汗かいちゃってますよ」
「俺だって同じだ。嫌じゃなかったらこうやって握らせてくれた方が俺も安心できる」
困り顔の少女も照れながら俺の手を握り返してくれた。
ほんの少しだけ俺に身を寄せてくれて、手だけでなく肩もわずかに触れ合う。
「……智花と恋人になったら、毎日がもっともっと楽しくなるんだろうな」
「ふぁう……わ、私も幸せすぎてどうにかなってしまいそうです」
俺の部屋で智花とお互いの気持ちを伝え合い、今後についてを考え得る限りの中でしっかりと相談もした。
今だってここまで来るまでにたくさんの問題と直面したのだ。これからだって色々悩むこともあるし、俺が置かれている立場上、彼女にたくさん窮屈な思いをさせてしまうかもしれない。
「……それでも、私は昴さんのお側にいさせて欲しいですっ。昴さんが許して下さる限り、ずっと……いつまでも」
「俺も同じだ。もちろん智花に愛想を尽かされないよう努力はするけど、それでもダメだったら、俺は所詮そこまでの人間だったと諦める」
「もぅ……そんなこと言わないで下さいよ。私だって昴さんにふさわしい彼女になれるようにがんばらないと。って思ってるんですから」
彼女の健気な願いに対して、うっかり弱気な言葉を返してしまうと、後悔する間もなくすぐにフォローされてしまった。
ほんと智花に支えられっぱなしだよな。
これからは俺もちゃんとこの子のことを支えてあげられるようにならないとな。
優しく微笑みかけながら「行くよ」と声を掛けると、俺と同じく心の準備が整ったのだろう、彼女も微笑みを返しながら頷いてくれた。
それじゃあ、始めるとしますか。
握り合った手はそのままで、空いている手を目的の場所ただ一点を目指してゆっくりと伸ばしていく。
俺と智花が恋人同士で初めてする共同作業の開始だ――
「すみません。お待たせしました」
正直一瞬どうやって入ろうか悩んだのだが、別にここは湊家でも学校でもない自分の家なのだ。
わざわざ改まってノックをする必要もない。智花ならともかく、俺がそれをするのはどこかわざとらしい気がするし。
結局、一声かけてからドアノブに手を掛け、ガチャリと音を立てながらドアを開くという方法に落ち着いた。
「お母さん、七夕さん。ちゃんと昴さんとしっかりお話してきました」
俺の声に続くように智花もリビングの母親たちの姿を確認すると同時に少しだけ上擦った声で二人に声を掛ける。
俺たちの登場に気づいた母親たちは会話を中断するとすぐに温かな微笑みを向け俺たちを迎え入れてくれた。
二人の様子から察するにどうやら俺たち同様に、母親同士でもしっかりと俺たちのことについて相談してくれていたのだろう。
一時的に二人から解放された後でも、俺の部屋で終始緊張しっぱなしだった俺たちと違い、母親たちの方はずっと和やかな雰囲気だったのだが伺える。
今もこうして緊張した面持ちの俺たちを安心させるように優しく微笑みかけるような視線を送ってくれて………………あれ?
なんか違和感が……。
二人とも間違いなく笑顔なんだけど、気のせいかその笑顔に何故か徐々に優しさ以外のものが含まれ始めてきているような?
「あらあらー。いいわね」
「うふふ。良かったわね智花」
いや、俺たちはまだ答えについて一言も話してないのだが……。
祝福してくれるのは嬉しいのだが、せめて俺たちからはっきりと報告させて頂くまで待って欲しい。――ん? ……いや違う!?
二人の視線が俺たちの顔から離れ少し下の方に向けられている……?
何気なく二人の視線を追ってみたら、俺たちの手がお互いの指を一本一本しっかりと絡め合わせるように握り合っていたままということにようやく気づく。
そう。俺たちは言葉よりも先に行動で自分たちが出した答えを二人に示してしまったのだ。
「す、すすすみませんっ!! 花織さんの前で智花にとんでもない粗相をっ」
「違うのお母さんっ。昴さんは私を安心させるためにしてくださっただけで、これは、その……」
母親の返事を待たずに先走ってしまったことに必死に頭を下げる。
同時に握り合っていた手もすぐに離したのだが、
「昴くん。そんなに急に離しちゃったら智花ちゃんがかわいそうよ」
「えぇ。私たちのことなんか気にしなくて構いませんのに」
母親の目の前で大切な娘の手を握るという不作法を何故か許されてしまっていた……というか、逆に手を離さない方が良かったまである言い方だった。
とはいえ、俺も智花も二人の目の前でまた手を繋ぎなおす勇気なんてなかったが。
それを残念そうにしている二人に促されながら再び俺と智花は椅子に腰を下ろし、家族面談を再開されるのだった。
「それで、ちゃんと昴くんの正直な気持ちを智花ちゃんに伝えてあげることはできた?」
まったく……普段は鈍いくせにどうしてこういう時だけ……。
素直になれず、心の中で捻くれてしまったが、感謝せざるにはいられなかった。
おそらく俺が話しやすいようにと振ってくれたのだし、ありがたくそれに乗らせてもらう。
「あぁ。正直智花に聞かせていい話かどうかは悩んだけど、聞いてもらったおかげで色んなことを……大切なことをたくさん思い出せたよ」
「どうして昴さんの学校のバスケ部が休部になってしまったのか聞いてすごく驚きました。気づかない内に私やみんなが昴さんにたくさんご迷惑をお掛けしてしまっていたことも……」
そんなことないよ。と優しく少女の頭を撫でながら言葉を遮る。
智花たちが俺に迷惑を掛けたと反省する理由なんてどこにもないんだ。
仮にあったとしたって、俺はそれ以上に大切なことを彼女たちに教えてもらったのだから。
「俺は、俺の心を救ってくれて、今までもずっと俺の心を支えてくれた智花の好意を許されるのならば受け止めたい。もちろん二人が俺たちの交際は認められないというのなら、それに従います」
俺の言葉に母親たちが一瞬驚きを見せたが、すぐに俺の話にまだ続きがあると察したのだろう。
母さんが小さく頷きながら送ってきた優しい視線に背中を抑えるようにして、話を続ける。
「……だけど、できるのなら、せめて俺たちが今こうしてお互いに抱いている気持ちが本当なのかどうか確かめさせて下さい」
反対されたら大人しく身を引く。というのはあまりにも弱々しい決意だと捉えられかねないが、それでもこれが俺たちの心からの本音だ。
今の俺たちには全てを背負う覚悟も責任を果たすことすらできない立場だということは理解している。
だからこそ俺も智花も二度と大切な物を失うわけにも失わせるわけにもいかない。
相手以外の大切な物を裏切って手に入れた幸せなんて、俺も智花も望んでなんかいない。
でも、俺たちはお互いが好きだという気持ちだって本気だ。
言いたいことを言い切ることができたからだろうか? 驚くくらい心の中が晴れやかになっている気がした。
「お母さん。七夕さん。私、昴さんとお付き合いしたいですっ」
そんな気分の中、少女が俺への好意を真っ直ぐに伝えてくれている言葉が耳に入り、思わず笑みが零れそうになり、必死にそれを抑える。
胸の中のつっかえが無くなった状態で、好きな相手にそんなこと言われてしまったら、嬉しすぎてもう他のことなんてもうどうでもいいくらい些細なことに感じられた。
――おっと、いくらなんでもさすがに気を緩ませすぎだよな。
さりげなく緩ませた気を引き締め直すが、おそらく母さんにも花織さんにも気づかれてしまっただろう。
母さんたちがどんな判断を下しても受け入れられるだけの心の余裕ができたとはいえ、今は俺と智花の将来に関わる大事なターニングポイントだ。
少しでも好評価を貰えるように誠意ある態度を見せなければ。
俺たちの覚悟を聞いた二人からの判断を待っていると、最初に母さんが表情を綻ばせながら口を開く。
「うふふ。もちろん私は歓迎しちゃうわよ。智花ちゃん、とってもいい子だもん。娘に欲しいくらいよ」
「ふぁう……」
母さんからのべた褒めに恥ずかしそうに俯く智花。
まあほぼ朝だけとはいえども、この一年間ほぼ毎日のように顔を合わせていたのだ。
今更母さん相手に智花の素晴らしさを説く必要などない。
……さて、母さんの方からは好意的な返事をもらえたが、花織さんの方はどうなるだろうか?
もちろんこうなることを考えてというわけでは断じてないが。日頃から粗相のない対応を心掛けてはいたものの、そもそも俺と花織さん自体は、智花と母さんほど付き合いが深いわけではない。
智花が花織さんにどれくらい俺の話をしていたかは、初対面時の花織さんの反応から察するに少々誇張が過ぎるのでは。という気もするが、決して悪いものではないはずだ。
しかし、娘のコーチとしては及第点だとしても、恋人として――となると全くの未知数だ。
「ふふ。今まで散々智花のことを焚き付けておきながら、今更ダメなんて言わないわよ。昴さん、どうか智花のことくれぐれもよろしくお願いいたしますね」
それはそれはとても丁寧に深々と頭を下げられながら、お願いされてしまった。
「良かったわね、昴くん。智花ちゃんとのお付き合い認めて下さるそうよ」
「うぇっ!? ――あぁ、と。……あ、ありがとうございますっ。俺たちを信じてくれた二人の裏切るようなことは絶対にしませんっ!!」
正直ここまですんなりと認められるどころか、予想外過ぎる返事を頂き反応が遅れてしまった。
母さんに促されて大慌てで返事をさせてもらったのだが……本当にいいのだろうか? という感覚がどこか拭い切れずにいた。
それは智花の方も同じようで、
「……お母さん、本当にいいの?」
いまいち実感が湧かない様子で、半信半疑に花織さんに聞き返してしまっていた。
「あら? 二人は嬉しくないの?」
母親たちはどこか呆然としている俺たちの様子に不思議そうに首を傾げている。
そんなことはない。嬉しいに決まっている。
「いえ、正直、反対されないまでも、やっぱり何かしらの制限というか制約というか、そういうものもあると思っていたもので……」
「あぁ、そういうことですか。私も七夕さんと少しお話してみましたけど、二人に任せて大丈夫そうかな? と思いましたので」
あの、いくらなんでもそれは俺を過大評価しすぎなのでは……。
いや、きっと日頃からお淑やかな立ち振る舞いができるよう育てている少女なら、男女の交際でもしっかりと分別を弁えた行動ができると信じているのだろう。
ならば、俺は彼女の判断をベースに自分の行動を決めればいい。
もしかしたら恋人関係になったことで少しだけ智花の甘え癖の頻度が増えるかもしれないが、別にそれ以上の行為を俺が求めなければいいだけだ。
智花の可愛らしいおねだりが増えてくれるなら、むしろ望むところだ。
今まで以上にいっぱい可愛がってやろう。
そんな幸せな未来を想像していたところで、母親たちからトンデモナイ発言が飛び出してきた。
「あ、そうだわ。昴くん、智花ちゃん。二人がいくら付き合ってるからっていきなり子供を作ろうとしちゃダメよ?」
「あぁ。そうですね。できれば昴さんには、まだ作らないまでも、作る行為自体ももう少し二人がお互いを理解し合えるまでは控えて頂ければありがたいです」
「――ぶっ!?」
「ふぁっ!? そ、そそそんなことしないもんっ!?」
当たり前だ。いくらなんでも智花にそんなことできるわけがない。
俺たち以上に過激な想像をしていた母親たちに俺と頬を真っ赤に染め上げた少女が全力で否定する。
「本当に? 今回のことだって智花の方から昴さんを誘っちゃったんでしょ?」
「はあうっ!? あ、あああれはっ!? そ、そんなつもりじゃ……はぅぅぅぅぅぅぅ」
……もしかしたら抱いてやる行為自体を控えるべきなのだろうか?
確かに今回の事の発端は、いつの間にか俺が彼女を抱きしめることに抵抗がなくなってしまったのが原因だし。
改めて考えてみると、ほんと俺、交際を認められる前だというのに、智花にトンデモナイことしちゃってたんだな。
とりあえず、智花に助け船を出すつもりで花織さんに声を掛けさせてもらう。
「あの……信用できないかもしれませんが、俺も智花も、間違ってもその、せ、性行為なんてしませんので……」
「昴くん。それは智花ちゃんにも花織さんにも失礼でしょ」
なんかよくわからない横槍が飛んできたが無視する。
「さすがに子作りはダメですけど、昴さんの方からも智花の体で気になる場所がありましたら、触れてあげてくださいね」
「なっ!?」
「ふぇぇっ!?」
あろうことか花織さんの口からお触りOKという、出してはいけない許可が下りてしまったが、もちろん智花にそんなことできるわけがない。
「良かったわね昴くん。あ、でも智花ちゃんのイヤなことはしちゃダメよ? それにちゃんと優しく触ってあげてね」
「まぁ、この子はちょっと発育が芳しくないから、昴さんにはしばらく物足りない想いをさせてしまうかもしれませんが」
「ちょっ!? ひどいよっお母さんっ!?」
………………果たしてこの場合、いったい俺は誰に何を言えばいいのだろうか?
現在ついに両母親公認となった恋人の智花へのフォローか?
いや、ダメだ。俺が彼女の体のことについて口を出すのはフォローではなくただのセクハラ行為だ。
女性らしい体として出るところはほんの少しだけ出てきてるのがわかるけど、例えそれを伝えたところでただ無駄に彼女を辱めるだけだ。
母さんや花織さんの言わんとしてることも確かに分かる。
智花に絶対に手を出さない。なんて言ってしまえばそれは俺は自分で恋人だと認めた彼女を異性として扱わないと言ってるようものだ。
だからといって、そんな簡単に触れてしまっていいという軽い存在ではないのだ。
「エッチなことして智花ちゃんに嫌われるのが怖い?」
母さんの確信を突いた一言に思わず体がびくりと揺れた。
あぁ、そうだよ。あれこれうだうだ考えたところで、結局のところそこだよ。
怖いに決まってるだろ。
あの時、偶然とはいえお互いに異性の部位に触れ合ってしまった時の彼女の怯えた表情が忘れられないに決まっている。
仮に俺が自分の意志で智花の胸に触れた時に、またあんな表情をさせてしまったらと考えただけでも、全身が凍りつくような恐怖に襲われる。
俺はもう二度と理不尽な理由で智花に拒絶なんてされたくない。
「智花はどう? もし昴さんが智花の胸やお尻を触らせて欲しいって言ってきたら触らせてあげられる?」
「ふぇぇ!? そ、それは……」
知りたいけど、知りたくないことだった。
もしそれで智花が触られてもいいと言ってしまったら俺は彼女に手を出してしまうのだろうか?
例え彼女が本心ではイヤだと思っていても、俺のためだと思って必死に嫌悪感を抑えて込んでまで俺を受け入れようとして……。
そして、俺はそのことにすら気づけず欲望のままに彼女を穢してしまうのではないのだろうか?
智花が葛藤の末に答えを口に出そうとした瞬間それを遮るように花織さんが言葉を発した。
「ふふ。そういうことも二人でいっぱい話し合ったり悩みあったりしなさい。そうやっていく内に二人がもっと仲良くなれるから」
もしかしたら二人は俺と智花の性的な知識や意識のずれを自覚させようとしてくれているのだろうか?
なんとなくだけど不意にそんな気がしてきた。
一般的に性欲旺盛な男子高校生と背伸びしたい盛りの中学に上がり立ての少女とでは、互いの知識も関心だってきっと大きな違いがある。
それを俺たちに気づかせようとしてくれているのか?
「でも、キスくらいはできるようにならないとね。二人は恋人同士なんだから」
……だからといって、いちいち茶化すような感じの言われ方は御免被りたいのだが……。
確かに神妙な面持ちでそんな話をされたら俺も智花も委縮して、きっと思ったことを言い出せなかったろうけど。
それに、花織さんには言いづらいのだが、キスはついさっき……本当に申し訳ありませんでした。
こればっかりはまだもう少し後で話させてもらおうと思っていたのだが、
「はぅっ……き、キスは、その……さっき二人きりの時に……」
嘘を付けない純粋な少女が暴露してしまいましたとさ。
案の定途端に二人が色めき立ち始め、異常なまでな食いつき方をしてきたのだった。
「あらっ。そうなの。ふふ、昴くんもやるときはやるのね」
「ちょっと意外ですね。でも、昴さんの方から積極的になって頂けたなんて、良かったわね。智花」
なぜか俺の方から智花にキスをしたことになってしまっている。
「ち、ちがうのっ。わ、私が勝手に昴さんに私の初めてを押し付けるつもりでしてしまって……そしたら、実は昴さんも初めてで……」
すかさずキスをしたのは自分からだと訂正する智花。
きっと彼女なりに俺を庇い矛先を自分に向けようとしてくれたのだろう。
ありがとう、智花。でもそれ、きっと逆効果だ。
「えぇっ。智花の方からしちゃったの? ダメよ、こういう時は昴さんの方からして頂かないと。その方が責任感じて大切にしようと思って下さるでしょう」
「昴くんも、ちゃんと昴くんの方からしてあげないとダメでしょ。智花ちゃんが好きだっていう気持ちを伝えてあげなきゃね」
ダメだ。これ以上この二人に不要な情報を提供するのはいけない。
俺と智花はこの二人に交際を認めてもらえた。
その事実があるだけで十分なんだ。
これ以上は俺と智花の精神衛生上よろしくない。
早々にこの話題を終わらせて、俺たちの次の目標について話題を移さねば。
「は、はい。その……私が先走ってしまって昴さんの初めて奪ってしまったのに、昴さん笑って許して下さって、私が初めてで良かったと言って下さって……昴さんの方からも二回してくれました」
智花さん、お願いですからこれ以上この二人に燃料を投下するのは止めてください。
さすがにもう火種となるようなネタは打ち止めだと思うが。
根掘り葉掘り聞かれようにも、もう掘れる根も葉もない。
「――ったく、なんで二人の方が喜んでるんだよ。逆に俺たちの方が冷めちまうじゃねぇか」
「あはは。……でも、お母さんも、七夕さんも私たちのこと認めてくれて、喜んでくれてすごく嬉しいです」
「ま、それはな。これからもこうやって智花と一緒にいられることに関しては感謝してるけどさ」
「あ……。えへへ、はいっ」
こっそり二人の死角となるテーブルの下で再び智花と手を繋ぎ直したが、気づかれていないようだ。
そのまま俺たち以上に興奮してしまった母親たちの様子に呆れた溜め息を履きながら、二人が落ち着くのを待つのだった。